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<概要>
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、これまで文部科学省所轄の研究機構(大学共同利用機関)として活動してきたが、2004年4月、大学共同利用機関法人として改組された。KEKは、加速器研究施設及び共通研究施設の直属施設を置き、素粒子原子核研究所および物質構造科学研究所を一体的に運営し、巨大な加速器と呼ばれる装置群を使って基礎科学の研究を進めている。2001年から茨城県東海村に「大強度陽子加速器」を日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同で建設に着手し、2008年度中に第1期工事を完成させ、ビーム供給を開始する予定である。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.はじめに
 高エネルギー加速器研究機構(KEK:Kou Enerugii Butsurigaku Kenkyusho、英文名 High Energy Accelerator Research Organization)は、2004年(平成16年)4月に、それまでの文部科学省所轄の大学共同利用機関から、国立大学法人法により設置される大学共同利用機関法人に改組された。粒子加速器を用いて宇宙・素粒子・原子核・物質・生命の謎を解き明かす加速器科学を推進するとともに、国内外の研究者に対して研究の場を提供することを目的としている。
 上記の目的を達成するために、つくばキャンパスに大学共同利用機関としての素粒子原子核研究所および物質構造科学研究所、並びにこれら研究所と同等な重要組織としての加速器研究施設および共通基盤研究施設を設置し、運営している。さらに、大強度陽子加速器(J−PARC:Japan Proton Accelerator Research Complex)と称する世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成する加速器と、それを利用する実験施設で構成される最先端科学の研究施設をJAEAと共同で建設中である。2001年度(平成13年度)に建設に着手し、2008年度(平成20年度)中に第1期工事を完成させ、ビームを供給する予定である。この施設は、茨城県東海村にあるJAEA東海研究開発センター原子力科学研究所の敷地内に在る。
 以上の研究活動の他に大学院教育として、総合研究大学院大学との連携・協力の下に、高エネルギー加速器科学研究科に属する3つの専攻(加速器科学、物質構造科学、素粒子・原子核)に係る博士課程の教育を行い、また、大学共同利用機関として、全国の大学の学部・大学院学生に教育・研究の場を提供している。
 KEKの組織には、役員として機構長、監事および理事が設置され、機構長は大学共同利用機関法人を代表し、その業務を総理する。また、重要事項を審議決定するために機構長および理事で構成する役員会、経営に関する重要事項を審議するための経営協議会および教育研究に関する重要事項を審議するための外部学識経験者を含む教育研究評議会が設置されている。図1にKEKの組織、図2につくばキャンパスの施設全体のマップを示す。
 次にKEKの主な沿革を示す。
1954年(昭和29年) 原子核研究所設立準備委員会発足
1955年(同 30年) 東京大学原子核研究所設立
1964年(同 39年) 素粒子研究所準備室設置
1971年(同 46年) 高エネルギー物理学研究所設立
1997年(平成9年) 「高エネルギー加速器研究機構」設置
1999年(同 11年) 総合研究大学院大学素粒子原子核専攻を設置
2001年(同 13年) 大強度陽子加速器建設開始
2004年(同 16年) 大学共同利用機関法人「高エネルギー加速器研究機構」発足
2.研究活動
(1)素粒子原子核研究所
 素粒子物理学、原子核物理学の研究を実験、理論の両面から幅広く行う。ビーム衝突型加速器、大強度陽子加速器の作る多様なビームを用いた物理学研究と実験装置や手法の開発、応用を含む関連物理学の総合的研究を進める。
(2)物質構造科学研究所
 構造生物学研究センターと構造物性学研究センターが設置されている。加速器を用いて物質の根源・構造・機能を解明するための研究機関である。電子加速器から発生する放射光陽子加速器が生み出す中性子やミュオンなどの粒子を利用し、原子レベルから高分子、生体分子レベルにいたる幅広いスケールの物質構造と機能を、総合的に研究している。また、ビーム生成、利用技術などの開発研究を通して、幅広い物質科学の発展に貢献している。
(3)加速器研究施設
 高エネルギー加速器に関する研究を行うとともに、大型加速器施設の運転維持業務を行う。大型加速器施設としては、共同利用実験に活躍している電子・陽電子線形加速器、Bファクトリのほかに、高エネルギー将来計画「リニアコライダ(衝突型線形加速器)」の加速器技術の開発を行っている先端加速器試験装置(ATF)がある。現在、JAEAと共同で、大強度陽子加速器施設の建設を進めている。リニアコライダ計画に関する基盤技術の確立を目指した加速器の設計および要素技術の開発、生体物質・原子分子研究用の卓上シンクロトロン(静電シンクロトロン)および応用技術の開発のような特色ある加速器技術の開発も進めている。
(4)共通基盤研究施設
 大型加速器を用いた多様な研究計画の円滑な遂行のための高度な技術支援を実施している。そのために必要な放射線防護、環境保全、コンピューター、超伝導・低温技術、精密加工技術等に関する基盤的研究を行うとともに、先端的な関連分野の開発研究を行っている。また、これらに関連する高度な基盤技術を用いて放射線・環境安全管理、コンピューターやネットワークの管理運用、液体ヘリウム等の供給、機械工作などの支援業務を行っている。これらの開発研究および支援業務を行うため、放射線科学センター、計算科学センター、超伝導低温工学センター、機械工学センターの4つのセンターが設置され、機構の研究支援の大きな柱となっている。
(5)大強度陽子加速器計画推進部J−PARC
 J−PARCはJAEAとKEKが共同で建設、運営を行う施設である。大強度陽子加速器を用いた科学技術の総合的展開を図るために、JAEAの中性子科学研究計画と、KEKの大型ハドロン計画という各々が提案していた2つの計画を共同プロジェクトに統合したものである。J−PARCの加速器は、リニアック、3GeVシンクロトロン、50GeVシンクロトロンで構成される。3GeV陽子ビームを利用するのが中性子源とミュオン源のある物質・生命科学実験施設である。50GeVシンクロトロンからの陽子ビームは原子核素粒子実験施設(ハドロン実験施設)、ニュートリノ実験施設の2つの実験施設へ供給される。第2期計画の一つとして建設を予定している核変換実験施設はリニアックから分岐した陽子ビームを利用する。図3にJ−PARC施設配置図を示す。
(前回更新:2004年6月)
<図/表>
図1 高エネルギー加速器研究機構組織図
図1  高エネルギー加速器研究機構組織図
図2 高エネルギー加速器研究機構施設全体マップ
図2  高エネルギー加速器研究機構施設全体マップ
図3 J−PARC施設配置図
図3  J−PARC施設配置図

<関連タイトル>
SPring−8(大型放射光施設) (08-01-03-17)

<参考文献>
(1)KEK 高エネルギー加速器研究機構:http://www.kek.jp/ja/index.html
(2)KEK 高エネルギー加速器研究機構:KEKについて、組織
(3)KEK 高エネルギー加速器研究機構:施設案内・マップ
(4)J−PARC:J−PARC施設配置図
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