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<概要>
 日本原子力産業協会(旧、日本原子力産業会議)は、わが国における原子力産業の実態を把握し、各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的として、原子力産業実態調査を実施している。2005年度の電気事業における原子力関係支出高は前年度から5.0%減の1兆6,866億円となり、1995〜1998年度と同レベルとなった。運転維持費、核燃料費、建設費などの各費目が総支出高の中で占める割合は例年どおりほとんど変化がなかった。原子力発電所「運転維持費」(53%)は、対前年度実績比4.8%減の8,937億円となった。鉱工業全体の原子力関係売上高は、対前年度比3.3%増の1兆3,613億円となり、2001年度からの低下傾向に歯止めがかかったが、過去10年間の推移で見ると、1995、1996年度の67%の水準となっている。原子力関係の業務に携わった鉱工業および電気事業の従事者数(事務系を含む)は、前年度比2.1%減の44,873人となった。電気事業の従事者数が前年度から122人増えて、10,570人になり、2000年度以降増加し続けているのに対して鉱工業では従事者数が減少しているため、従事者数全体は2003年度から連続して減少している。
<更新年月>
2007年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.2005(平成17)年度の原子力産業実体調査(第47回)の内容
・目的:わが国における原子力産業の実体を把握し、各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供する。
・調査対象:株式会社、有限会社等、営利を目的とする企業で、原子力機材の研究・生産・利用支出、売上、従事者を有すると思われる企業のすべてを対象としている。
・調査事項:電気事業は主に支出高、従事者数、支出見込み、鉱工業は主に売上高、受注残高、支出高、従事者数、支出見込み、商社は主に取扱高よりなる。なお実態調査を補足するため、鉱工業に対してアンケート調査も併せて行った。
・調査時点:支出高、売上高、取扱高については2005(平成17)年度(2005年4月1日〜2006年3月31日)の1年間の実績であり、受注残高、従事者および各種見込みについては2006年3月31日現在の数字をまとめたものである。決算期が異なる場合は各社の2005会計年度を対象とした。

2.一般概況
 2005年度のわが国の実質経済成長率(GDP)は、前年度の2.0%を上回る2.4%となった。これは個人消費の伸びや設備投資の増加など、内需の回復が主な原因となっている。このような経済状況の下、最終エネルギー消費量は2004年度実績で16,024PJ(ペタジュール:10の15乗ジュール)となり、対前年度実績比0.9%増、1990年(京都議定書基準年)に比べて、15.3%の増加である。
 電気事業用総発電電力量は2005年度、9,691億kWhとなり、前年度比2.4%増となった。原子力発電による発電電力量は、3,048億kWhで対前年度比7.9%増、2003年度の落ち込みから2004年度に続いて回復し、ほぼ例年並みの発電量となった。設備利用率、71.9%、発電シェア、31.4%となり、前年度実績、各々68.9%、29.8%に比較して増加した。
 政府関係の動きでは、原子力委員会が2004年度から審議してきた「原子力政策大綱」が2005年10月、国の原子力政策の基本方針として閣議決定され、使用済燃料全量の国内再処理、2050年からの高速増殖炉実用化などの方針が盛り込まれた。2005年度に営業運転を開始した原子力発電所は東通1号機(2005年12月)および志賀2号機(2006年3月)であった。
 主な原子力関連指標の動向を表1に、原子力産業の財・サービス・フローチャートを図1に示す。

3.2005年度原子力産業実態調査の主な特徴
(1)電気事業の原子力関係支出動向
 電気事業の2005年度原子力関係支出は、対前年度比5.0%減の1兆6.868億円となり、1995〜1998年度と同レベルの支出高となった(図2および図3)。2003年度に低下したため、2004年度に大きく増加した核燃料費は、概ね5,000億円の水準に戻った。
 支出総額の中で最も額の大きいのが、運転維持費(全体の53%、図2)で、2005年度は対前年度比4.8%減の8,937となった。2000年度および2001年度で総額が一時的に1兆円台に跳ね上がっていたのを除けばほぼ例年並みの結果となった。原子力発電所の保修・点検関連費である修繕費は対前年度比3.8%減の3,709億円になった。修繕費は2002年度と2003年度に3,100億円〜3,500億円に落ち込んだ以外では、概ね3,700億円〜3,900億円で推移している。運転維持費を発電電力量(kWh)当たりでみると、2005年度は2.93円/kWhになり、2000年度から2004年度の3円台から2円台に戻った(図4)。
 建設費は2,541億円(3.3%減)となり、2003、2004年度に続いて、ほぼ2500億円水準となった。ただし、内訳の中に含まれる原子力設備の機械装置費は前年度から8.7%増加した(1,433億円)。これは東通1号機、志賀2号機の完成や既存の原子力発電所の大型機器取替によると考えられる(図5)。
 2005年度末の原子力関係従事者数は10,570人で前年度比122人(1.2%)の増加であった。このうち、技術系の従事者数は8,789人(前年度比1.7%増)で、年率1〜2%の増員で推移している。部門別では、運転保守部門および調査・計画・管理部門において各々、前年度比3.5%、6.7%の増員、設計・建設工事部門では前年度比17.8%の減員となった。ただし、1、2年後の見込みでは島根3号機、大間原子力発電所、敦賀3、4号機、東京電力の東通1号機など、着工あるいは建設準備開始の発電所があり、2010年度には36.8%増となる見込みである(表2)。
(2)鉱工業の動向
 国内においては原子炉の新規建設需要が当面滞るため、本格的リプレース需要が来る2030年まで、原子炉メーカーは「保全」に対応した体制をとっている。一方、アジア地域や米国などで予想される原子力発電所建設時代の到来を予測して、欧米のメーカーとの原子力事業部門の統合あるいは提携など、グローバルな展開が図られている。
 政策面の動向では、原子力大綱により高速増殖炉サイクル路線の堅持と2050年頃の高速増殖炉実用化という開発目標が決まり、原子力産業として戦略的に対応できる環境となった。原子力施設等について進捗した事項としては、日本原燃の六ヶ所再処理工場が2006年3月からアクティブ試験を開始したこと、MOX燃料加工工場の事業認可が申請されたこと、使用済み燃料中間貯蔵施設について、青森県とむつ市および東京電力と日本原電との間で立地協力に関する協定書が調印され、電力側は2005年11月にむつ市に「リサイクル燃料貯蔵株式会社」を設立し、ボーリング調査を開始したこと、等がある。プルサーマルについては、玄海3号機と伊方3号機における計画について原子力安全・保安院(注:原子力安全・保安院は原子力安全委員会とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、事務局の原子力規制庁がその役割を継承している。)が原子炉設置許可変更を許可したほか、島根2号機の事前了解願いの地元への提出、浜岡4号機について、プルサーマル計画の許可申請がなされる等の進展があった。
 鉱工業全体の原子力関係売上高は対前年度比3.3%増の1兆3,613億円となり、2001年度から連続していた減少傾向に歯止めがかかった。ただし、未だ、1995年度、96年度実績の67%にとどまっている。今回の増加は、各種試験機器の製造や保守メンテナンスにおける売上げを含めた「その他製造」部門が牽引したもので、売上高全体の33.2%を占めている(図6)。
 「燃料サイクル」部門は、25.7%増の2,954億円となり前年度まで3回続いた低下傾向に歯止めをかけた。「建設・土木」部門では、対前年度比75.2%の大幅増加になったが、前年度の落込みを回復した形で例年並みになったといえる。「原子炉機材」部門では、対前年度比19%減で、ピーク時期の1995年度の半分以下の3,410億円となった。
 売上高を納入先別に見ると、電気事業向けの割合が70.2%であり(9,561億円)、二番目に割合の大きい納入先は鉱工業向け、17.3%である(2,351億円)。その他、政府向け6.1%、国公私立大学等向け、3.6%、輸出向け2.8%となっている。
 輸出の売上高は381億円で前年度比15.1%の増加であり、2001年度以降徐々に増加している。厳しい原子炉市場にあっても技術力を蓄えてきたメーカーから調達するという海外企業のニーズが高まってきていると思われる。
 鉱工業の原子力関係の売上高を業種別で見ると、建設業(全体の約27%)、電気機器製造業(同、23%)原子力専業(同、19%)、造船造機業(同、14%)の順になっている。原子力関係の受注残高はこの10年ほどは低減傾向にあり、2005年度末における残高は前年度より6.4%減の1兆6,966億円となった。部門別では「発変電機器」部門のみ漸増、「燃料サイクル」部門が横這い、その他は減少となっている(図7)。
 鉱工業の次年度以降の売上見通しについては、2006年度には2005年度実績の97.7%で売上高は減少する見込みである。しかし、2007年度には103.9%と増加に転じ、2010年度には116.0%(1兆5,797億円)に達すると見込まれている。
 業種別に見ると、「電気機器製造業」では2006年度に前年度の94%となる見込みであるが、2年後に113.0%、5年後125.0%(3,920億円)と増加に転じる。「造船造機業」では、1、2、5年後、各々、105.0%、122.5%および147.5%(2,898億円)と着実に増加する見込みである。「建設業」については、1、2、5年後の見通しが、2005年度の98.2%、105.7%、113.8%(4,175億円)である。「原子力専業」では、同様に各々、100.8%、110%、108.5%(2,793億円)である。
 鉱工業による原子力関係の支出高は2005年度は1兆3,038億円(対前年度比6.5%増)となり、2001年度以降の低下傾向が増加に転じた。部門別では「燃料サイクル」部門が15.3%増の3,560億円となったほか、「原子炉機材」部門以外では対前年度比が増加となっている(図8)。
 2005年度の研究支出高(原子力機関への出資金および海外技術導入費を除く)は前年度実績から12.3%減の303億3,600万円であった。前年度に7年ぶりに増加に転じたが、再び減少となり、1997年度レベルの半分以下で推移している。今後、日本型次世代軽水炉開発のためのフィージビリティスタディに着手すべきという資源エネルギー庁の方針が実施に移される中で、研究支出の増加が期待される。部門別では、前年度に比較して「原子力機材」、「燃料サイクル」両部門が各々、18.1%、44.0%減少、「RI・放射線機器/照射サービス」、「建設・土木」両部門が各々、3.3%、33.1%増加した(図9)。
 鉱工業の生産設備投資高(図10)は4年ぶりに増加し、対前年度比6.8%増の1,201億円8,700万円となり、2005年度増加に転じた。2001年度実績に比較すると、未だ4割程度であるが今後の動向が注目される。部門別では、全体の78.4%占める「燃料サイクル」部門が対前年度比7.3%増の942億4,200万円になったのを始め、「建設・土木」「RI・放射線機器/照射サービス」部門でも各々、46.3%、11.4%の増加となった。その他の部門では減少した。
 2005年度の原子力関係従事者は前年度実績から1,082人減少し(3.1%)、34,303人となった。2006年度以降は2005年度実績に対して約1%の伸び率が見込まれている。このうち、事務系職員、工員などを除いた技術系従事者数は対前年度比2.8%減の25,125人であり、今後、25,000人レベルで推移すると見込まれている。技術系従事者を部門別で見ると、サービス部門が最も多くの割合を占め(8,700人、34.6%)、で2001年度から続いていた増加傾向が減少に転じた。2006年度以降、1%未満の微増で、ほぼ8,700人のレベルで推移すると見込まれている。設計部門は4.0%減の4,382人となり、2003年度、2004年度に続いて減少となった。しかし、次年度以降は増加に転じると見込まれている。建設土木・工事部門でも次年度以降、減少傾向に歯止めがかかることが見込まれている。
 電気事業と鉱工業を合わせた民間企業の原子力関係従事者数は、44,873人(対前年度実績比2.1%減)となった(図11)。電気事業の従事者数が前年度から122人増えて、10,570人になるなど、2000年度以降、増加し続けているのに対して、その約3倍の従事者を抱える鉱工業では従事者数が減少しているため、民間企業全体の従事者数は2003年度から連続して減少となった。

4.商社の取扱動向
 2005年度の商社による原子力関係取扱高は前年度より29.3%減少し、2,537億円となった。国内取扱高のうち93.8%が電気事業向けで、対前年度比16.4%減の1,781億円であった。輸入取扱高でも電気事業向けが72.0%を占めており、約2億円であった。
<図/表>
表1 主な原子力関連指標の動向
表1  主な原子力関連指標の動向
表2 電気事業の原子力関係従事者の実績と見込み
表2  電気事業の原子力関係従事者の実績と見込み
図1 原子力産業の財・サービス・フローチャート
図1  原子力産業の財・サービス・フローチャート
図2 電気事業の2005年度原子力関係支出内訳
図2  電気事業の2005年度原子力関係支出内訳
図3 電気事業の費目別原子力関係支出高の推移
図3  電気事業の費目別原子力関係支出高の推移
図4 電気事業:運転維持費の内訳
図4  電気事業:運転維持費の内訳
図5 電気事業:建設費の内訳
図5  電気事業:建設費の内訳
図6 鉱工業の部門別売上高の推移
図6  鉱工業の部門別売上高の推移
図7 鉱工業の部門別原子力関係受注残高の推移
図7  鉱工業の部門別原子力関係受注残高の推移
図8 鉱工業の部門別支出高の推移
図8  鉱工業の部門別支出高の推移
図9 鉱工業の研究支出高の推移
図9  鉱工業の研究支出高の推移
図10 鉱工業の生産設備投資高の推移
図10  鉱工業の生産設備投資高の推移
図11 民間企業の原子力関係従事者数の実績と見込み
図11  民間企業の原子力関係従事者数の実績と見込み

<関連タイトル>
平成17年度電力供給計画 (01-09-05-22)
原子力産業実態調査報告(平成11年度) (10-05-03-04)
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原子力産業実態調査報告(平成15年度) (10-05-03-08)
原子力産業実態調査報告(平成16年度) (10-05-03-10)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:2005年度 第47回原子力産業実態調査報告(2007年3月)
(2)(社)日本原子力産業協会ホームページ:http://www.jaif.or.jp/
(3)日刊工業新聞社:2005年度原子力産業実態調査報告、原子力eye、Vol.53、No.5、2(2007年5月)
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