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1.平成14年度調査内容
この調査は、わが国における原子力産業の実態を把握し、その問題点の分析を通じて産業としての健全な発展に資するとともに、併せて各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的としている。
・調査対象は、株式会社、有限会社等、営利を目的とする企業で、原子力機材の研究・生産・利用支出、売上、従事者を有すると思われる企業のすべてを対象としている。
・調査事項については、電気事業は主に支出高、従事者数、支出見込み、鉱工業は主に売上高、受注残高、支出高、従事者数、支出見込み、商社は主に取扱高よりなる。なお実態調査を補足するため、鉱工業に対してアンケート調査も併せて行った。
・調査時点は、支出高、売上高、取扱高については平成14(2002)年度(2002年4月1日〜2003年3月31日)の1年間の実績であり、受注残高、従事者および各種見込みについては2003年3月31日現在の数字をまとめたものである。決算期が異なる場合は各社の2002会計年度を対象とした。
世界的に
電力自由化が進む中で、原子力発電先進国では原子力への社会的な批判と呼応するかのように、巨額の初期投資を要する
原子力発電所の新設が停滞している。電力需要の大きな伸びが期待できないわが国でも、温暖化対策の上からも不可欠である今後の原子力発電開発計画は不透明な状況に置かれている。
図1に示すように、わが国では1989年度まで連続して原子力発電所の
着工が行われた。しかし、1990年代に入り、新規原子力発電所の着工は間隔があき、最盛期には14基を数えた建設中基数も2003年末ではわずか4基のみ(
商業炉)となった。経済産業省・資源エネルギー庁が2003年3月に公表した「平成15年度電力供給計画」によると、2012年度までに15基、1969万5000kWの原子力発電所が運転を開始すると見込まれている。しかし、前年の計画と比べると、営業運転開始予定が1年先送りされた原子力発電所が11基に達した。各電力会社とも全般的に設備投資を抑える傾向が鮮明になっており、今後の経済情勢等によっては計画がさらにズレ込む可能性も否定できない。こうした中で、石川県珠洲市に建設が計画されていた珠洲原子力発電所(135万kW級2基)について、中部、北陸、関西の電力3社は2003年12月5日、電力需要の伸び悩みや自由化の進展による経営環境の悪化、用地確保等の問題から、珠洲市に対して計画の凍結を申し入れた。また、12月24日には東北電力が、新潟県巻町に計画していた原子力発電所の建設断念を決定した。
原子力産業は、土木、建設、機械、電気、
電子、化学、情報といった、非常に多岐にわたる技術の複合体であり、こうした技術を駆使し、システム設計や
安全設計、製作、施工、試験、運転、保修、検査、品質管理の全般を総合するプラント技術に支えられている。製造業は、モノを直接製造し続けることによって技術を伝承し、人材を育成、維持することができる。さらに、それと相俟って技術の高度化をはかっていくためには、開発から設計、製造、試験、運転を行い改良するだけでなく、そこから生み出される技術システムをステップアップするという過程が必要であり、そのループを絶えず回し続けなければならない。
2000年11月に
原子力委員会が公表した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」は、「わが国の原子力産業は、成熟期に入りつつあり、研究者、技術者及び技能者の人員並びに原子力関連の研究開発支出高は近年減少しており、設計や物作りに関する分野において、今後、人材・技術力を従来通りの規模で維持することは困難になりつつある」と述べている。原子力産業界では、建設市場の縮小から、製造技術・設備の温存が困難な状況になりつつあり、空洞化が懸念されている。とくに、新規建設が大幅に遅れるのにともない、設計、建設、試験などの分野で技術継承が難しくなっているとの指摘がある。
表1に、原子力関連指標の動向を示す。
2. 2002年度原子力産業実態調査の主な特徴
(1)電気事業の原子力関係支出動向
上昇傾向にあった電気事業の原子力関係総支出高は、対前年度比13.5%減の1兆8034億円となった。1990年代半ば以降、1兆6000億円台で推移していた原子力関係支出は1999年度から上昇を始め、2000、2001年度には2兆円を超えたが、2002年度は99年度水準(1兆8858億円)をも下回り、ほぼすべての費目で減少、総支出が2兆円を下回った。
表2に電気事業の費目別原子力関係支出高の推移を示す。
電気事業の費目別原子力関係支出高の推移を費目別にみると、全体のほぼ半分を占め全支出と相関関係にある運転維持費が前年実績から20.8%減の8956億円となり、2000、2001年度と2年続けて記録していた1兆円を下回る結果となった。このほか、核燃料費が5343億円となり、ほぼ前年レベル(5435億円)を維持したのに対し、建設費(3075億円)と試験研究開発費(287億円)はそれぞれ前年度比−14.3%、−12.8%となった。建設費の減少は、着工基数の減少が大きく影響しており、1991年度以降でみても1998年度の2642億円に次ぐ低い水準となった。また、試験研究開発費も、1991年度以降で最も低い水準となり、300億円を下回った。
表3に電気事業の建設費、運転維持費の内訳の推移を示す。建設費も最低水準になった。
(2)鉱工業の売上動向
2002年度の鉱工業の原子力関係売上高は、1991年度以降でみても過去最低の対前年度比14.4%減の1兆4980億円となった。1998年度を境に、ここ数年は増加する傾向にあったが、電気事業向けの売上減少分(2391億円)が、直接影響した格好で、過去10年間で最低水準にある。
売上高を部門別にみると、ほぼすべての部門で減少。とくに中核となる「原子炉機材」の売上高は前年度実績から11.7%減少して4369億円となり、1991年度以降でみても、1998年度(4143億円)と2000年度(4218億円)に次ぐ低い水準となった。順調な伸びを示していた燃料サイクル関係でも、やや鈍化傾向がみられ、前年度と比べて7.1%減の3432億円となり、建設中の燃料サイクル関連施設に対する機器納入がピークを過ぎたことを表している。(
図2)
売上高を業種別にみると、「建設業」、「原子力専業」、「電気機器製造業」、「造船造機業」の4業種で総売上高の84%を占めた。このうち、単独で最大の売上シェアを有する「電気機器製造業」の今後の売上高見込みをみると、1年後にはわずかに増加するものの、2年後には2002年度比18.9%減、5年後には同33.6%減になると予想されている。また、「建設業」と「造船造機業」でも、5年後までに2002年度実績まで回復するとはみられていない。ただ、2002年度の売上が2117億円を記録した「原子力専業」については、わずかながら売上増加が予想されており、5年後には2205億円に増加すると見込まれている。
表4に鉱工業の業種別将来の売上見込み高を示す。
(3)鉱工業の支出動向
1997年度以降5年連続して上昇していた鉱工業の生産設備投資高は、6年ぶりに減少し、前年度比10.6%減の2628億円となった。このうちのほとんど(92.4%)を占めるのが「燃料サイクル」部門で2429億円。同部門における投資動向が過去10年以上にわたって鉱工業の生産設備投資を左右している。これ以外の部門では、「建設・土木」と「RI・放射線機器/照射サービス」の両部門の投資額が前年実績を上回った(
表5)。
原子力関係の鉱工業支出高の見込みについては、1年後(2003年度)に1兆5005億円(対2002年度実績比5.5%減)、2年後(2004年度)で1兆3512億円(同14.9%減)、5年後(2007年度)は1兆2000億円(同24.4%)へと減少すると予想されている。
表6及び
図3に鉱工業の部門別支出高の推移(実績と見込み)を示す。このうち「燃料サイクル」部門は、青森県六ヶ所村の再処理施設の本体建設工事が2002年度末で総合進捗率93%(2003年10月末現在で94%)に達した関係から、これに伴う生産活動の減少により、支出も2002年度の実績である5433億円から1年後に4976億円(8.4%減)、2年後に4269億円(21.4%減)、5年後には2512億円(53.8%減)まで減少する見通し。
これに対して、「原子炉機材」部門の支出はそれほど大きな減少を示さず、5年後でも4240億円(16.8%減)程度でおさまり、支出全体に占めるシェアも「燃料サイクル」部門(20.9%)を抜く(35.3%)とみられている。
原子力関係の鉱工業研究支出高(海外技術導入費および原子力機関への出資金等を除く)は対前年度比12.0%減の306億円となり、1998年度から5年連続して減少したことが明らかになった。1991年度以降でみても、1997年度実績(852億円)の36%という低水準にある。
とくに全体の37.6%を占める「原子炉機材」部門で対前年度比17.9%減の115億円になったことが大きく影響しており、1991年以降で最大を記録した1991年実績(242億円)との比較では半分以下のレベル。減少率が最も大きかったのは「建設・土木」部門で、前年実績から22.3%減少の23億円となった。同部門の研究支出高全体に占める割合は7.6%と小さいが、同部門は1996年度から7年間、一貫して減少傾向にあり、技術開発の意欲低下が伺える。また、研究支出高の2割を占める「燃料サイクル」部門でも対前年度比13.7%減の64億円となっており、200億円を超える金額が研究に充てられた1996、97年度をピークに減少傾向に歯止めがかかっていない。一方、「RI・
放射線利用」部門は2年連続して研究支出が増加、1992年度に記録した126億円に比べるとまだ相当の開きがあるものの、2002年度は37億円までもどした。
表7及び
図4に鉱工業の研究支出高の推移を示す。
2002年度の研究用の設備投資額は21億円で、海外技術導入費を除いた研究支出総額306億円の6.8%を占めた。対前年度比では2.7%の減少。研究支出全体の49.2%を占めた研究人件費(150億円)も対前年度比12.9%の減少。
研究開発の活動状況を示す研究投資率は研究用に投じられた総支出高を売上高で除して算出するが、2002年度は前年度(4.35%)から半減して2.12%になった。ただし、2001年度は海外技術導入費の大幅な増加が投資率を突発的に押し上げたと考えられ、1999年度、2000年度の投資率が2.54%、2.40%だったことを考えると、2002年度は概ね例年並みだったと言えよう。部門別に投資率を見ると、最も比率の高いのがRI・放射線機器/照射サービス部門の4.42%で前年度実績とまったく同率。「原子炉機材」部門と「燃料サイクル」部門がそれぞれ2.63%、1.86%となり、前年度から0.2ポイント率を下げた。
(4)鉱工業の受注残高
鉱工業の今後の売上高を予測する重要な指標である受注残高は2002年度末現在で1兆9672億円。対前年度比では0.1%減となり、ほぼ前年度水準を維持したものの、1998年度から4年続けての減少となった。受注残高の約半分(49.4%)に相当する9716億円を「原子炉機材」部門が占めた。これ以外では、「RI・放射線機器/照射サービス」部門や「建設・土木」部門、「発変電機器」部門で減少したが、「燃料サイクル」部門では、前年度の3795億円から増え4978億円になった。ただ、青森県六ヶ所村の再処理施設本体工事が2003年10月時点で基礎工事と建物建設の作業進捗率がそれぞれ96%と100%とほぼ完了していることに加えて、機器設備工事も92%進捗していることから、「燃料サイクル」部門でも今後、受注残高は減少に向かうと予測される。
表8及び
図5に鉱工業の部門別原子力関係受注残高の推移を示す。
(5)商社の取扱い動向
国内取扱い中心に大幅な拡大商社による原子力関係の取扱い高は5127億円で、対前年度比では35.1%の増加となった。このうちの6割が国内の取扱いで対前年度比67.8%増の3180億円。36.6%を占める輸入取扱い高は1877億円で7.0%の伸び。輸出取扱い高は14.3%増え70億円となった。
(6)原子力技術者の減少
民間の原子力関係従事者(技術系、事務系)については、多数のプラントの運転保守を継続していかなければならないという状況の中で電気事業がほぼ横ばいであるのに対し、プラントメーカー等製造業を含む鉱工業は減少傾向が続いており、2007年度までの予測でも、こうした傾向に変化は見られない(
図6)。鉱工業の技術系従事者に限って見ると、全体ではそれほど大きな増減はみられないものの、部門別ではかなりの温度差がある。
全体のほぼ3割を占める「サービス」部門の技術系従事者(2002年度:8271人)は、今後の見込みでも、8000人台で推移するとみられている。これに対して、次に大きな割合を占める「設計」部門では、2000年度の5136人が2007年度には4807人まで減少すると見込まれている。一方、同じく2000年度に1424人を数えた「原子炉機器製造部門」は2002年度に1059人まで減少。2003年度以降の見込みでも、徐々に減少したあと、2007年度には1000人を割り込み989人になるという厳しい予想が出ている(
表9)。何らかの対策が求められている。
<図/表>
<関連タイトル>
平成14年度電力供給計画 (01-09-05-18)
原子力産業実態調査報告(平成10年度) (10-05-03-03)
原子力産業実態調査報告(平成11年度) (10-05-03-04)
原子力産業実態調査報告(平成12年度) (10-05-03-05)
原子力産業実態調査報告(平成13年度) (10-05-03-06)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編集発行):2002年度 原子力産業実態調査報告(第44回調査)(2004年2月)