<本文>
1.平成12年度調査内容
この調査は、わが国における原子力産業の実態を把握し、その問題点の分析を通じて産業としての健全な発展に資するとともに、併せて各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的としている。
・調査対象は、株式会社、有限会社等、営利を目的とする企業で、原子力機材の研究・生産支出、売上、従事者を有すると思われる企業のすべてを対象としている。
・調査事項については、電気事業は主に支出高、従事者数、支出見込み、鉱工業は主に売上高、受注残高、支出高、従事者数、支出見込み、商社は主に取扱高よりなる。なお実態調査を補足するため、鉱工業に対してアンケート調査も併せて行った。
・調査時点
支出高、売上高、取扱高については平成12(2000)年度(2000年4月1日〜2001年3月31日)の1年間の実績であり、受注残高、従事者および各種見込みについては2001年3月31日現在の数字をまとめたものである。決算期が異なる場合は各社の2000会計年度を対象とした。
表1 に、原子力関連指標の動向を示した。
2.電気事業の支出動向
(1)原子力関係支出高
2000年度の電気事業の原子力関係総支出高は前年度に比べて1,340億円、率にして7% 増の2兆197億円となり、二年連続の増加となり、1958年の集計開始以来はじめて2兆円を超えた。費目別では、全支出のほぼ半分を占める運転維持費(2000年度の構成比51%)が前年度から増加したほか、前年度に5年ぶりの増加を示した建設費(同21%)は、今年度も対前年度微増で、引き続き堅調を維持した。一方、1995年度から増加傾向にあった核燃料費(同23%)は5年ぶりに対前年度比減少となった。また、1995年度から減少傾向にあった試験研究開発費(同3%)は、今年度は一転して41%の大幅増加となった(
図1 、
図2 )。なお、電気事業の原子力関係設備減価償却費ならびに核燃料減損額はともに前年度に引き続き減少した。
(2)運転維持費
運転中の発電プラントの増加に伴い、これまで着実な伸びを続けてきた運転維持費は、2000年度は対前年度比15%、金額にして1,385億円増の1兆503億円となり、はじめて1兆円を超えた。全支出に占める割合も51%となった。昨年度は建設費の大幅増加のために6年ぶりに50%台を下回ったが、再び50%を超えた。
運転維持費の推移を項目別にみると、発電プラント基数の増加に伴い、運転や保守点検要員が増加し、人件費はなだらかに増加している。一方、1994年度まで増加が著しかった修繕費は、プラント基数の増加にも係らず近年はほぼ横ばいで推移しており、電力会社の保守経費削減への努力が伺える。これらに対して、
放射性廃棄物等処理・処分費や原子力発電施設
解体費、各種引当金などが含まれている「その他」の経費は、1996年度以降増加傾向を示している。特に2000年度は対前年度比35%、金額にして1,271億円の大幅な増加を示したが、これは2000年度から原子力発電環境整備機構(
NUMO)への拠出金に充当する
特定放射性廃棄物処分費が新たに発生したことや、原子力発電施設
解体引当金の省令改正に伴い、原子力発電施設解体費が増加したことによるものと考えられる(
図3 )。
高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた枠組みを定めた「
特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が2000年6月に公布され、これを受けて同年10月に処分事業の主体となるNUMOが電力会社(発電用原子炉設置者)によって設立された。同法により電力会社は、使用済み燃料の
再処理によって取り出された特定放射性廃棄物(再処理後の残存物固化体)の最終処分業務に必要な費用をNUMOに毎年拠出金として支払うことになっており、2000年度は約1,024億円(サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)を除く)が支払われている。
原子力発電施設解体準備金制度は、原子力発電施設の解体費用(
除染、密閉管理、機器・建屋の解体、放射性廃棄物の処理等)の支出に備えるため、費用の総見積額を原子力発電施設の発電実績に応じて引当金として積み立てる制度であり、1989年5月の「原子力発電施設解体引当金に関する省令」によって定められている。具体的には原子力発電施設の解体に必要な費用を、施設の運転開始から停止までに見込まれる想定総発電電力量で割った額に、毎年の実際の発電電力量を乗じたものを積み立てるもので、累積発電電力量が想定総発電電力量に達した時点で、所要の額が全額積み立てられる仕組みとなっている。従来の制度では、原子力発電施設の解体によって生じる放射性廃棄物の処理処分費用については費用の見積りが困難であったために対象費用から除外されていたが、1999年5月の総合エネルギー調査会原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会)中間報告(商業用原子力発電施設解体廃棄物の処理処分に向けて)で費用の合理的見積りが示されたことから、2000年度税制改正において、解体放射性廃棄物処理処分費用についても本準備金制度の対象費用とすることになった。また、同時に近年の原子力発電施設の運転実績等を踏まえ、同税制改正において、解体準備金の積立限度額計算の基礎となる累積発電量割合の見直しを行ったことに伴い、解体引当金に関する省令についても一部改正が行われた。
(3) 核燃料費
核燃料費は、運転基数にあわせて増加を続けてきたが、1997年度にはじめて4,000億円を突破してからは概ね微増の安定した動きを示している。2000年度は5年ぶりの減少となり、対前年度比6%減の4,558億円、全支出に占める割合は23%であった。核燃料費のうち原料の輸入等に充当された外貨支払高は対前年度比21%減の856億円で、核燃料費全体の19%を占めた。なお、核燃料費には海外に委託している再処理費用(外貨支払)と六ケ所再処理工場への前払金支出が含まれている。
(4) 運転コスト
原子力発電電力量(核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の「
ふげん」を除く)は3,213億kWhで、前年度より54億kWh増加した。また、原子力発電設備容量(同)は、新規発電所の運転開始がなかったことから前年度と同じ4,491万7,000kWであった。
原子力発電所の運転に係わる経費である核燃料費と運転維持費を発電電力量当りでみると、2000年度は、核燃料費が1.42円/kWh、運転維持費が3.27円/kWhとなり、核燃料費が前年度より下降した一方で運転維持費が上昇した。また、設備容量当りでみると、核燃料費が1万148円/kW、運転維持費が2万3,383円/kWで、同じく運転維持費が前年度より上昇した(
図4 、
表2 )。運転コストはここ10年間、年度ごとのバラツキはあるものの、発電電力量当りでも設備容量当りでも、高い
設備利用率や運転保守技術の向上などによる抑制効果に支えられて減少傾向を示してきた。しかし2000年度は特定放射性廃棄物処分費が新たに運転維持費に加わるなど、運転維持費が大きく増加したことが運転コスト上昇につながった。
なお、特定放射性廃棄物処分費の2000年度積立額1,024億円は、発電電力量1kWh当りでは0.32円である。
(5) 建設費
昨年度に5年ぶりの増加となった建設費は、今回調査では対前年度微増の4,274億円となり、引き続き4,000億円台を維持した。1990年代はそれ以前に
着工された原子力発電所が次々に完成する一方、前半に新規に着工された発電所は柏崎刈羽6・7号機(1991、92年着工/2000年末現在:営業運転中)の2基にとどまった。その結果、1990年代初めから半ばにかけては建設中のプラント基数が大幅に減少し、電気事業の建設費支出に大きい影響を与えることになった。しかし、1990年代後半には、女川3号機(1996年9月着工/2000年末現在の工事進捗率:94.5%)、東通1号機(同1998年12月/21.6%)、浜岡5号機(同1999年3月/35.9%)、志賀2号機(同1999年8月/8.4%)が相次いで着工され、建設中の基数も増加に転したことから、1998年度まで減少傾向にあった建設費は1999年度には増加に転じた。建設費の推移の内訳をみると建設費中最大の項目である機械装置は1999年度に回復し、2000年度は再び対前年度微減となったものの2,000億円台を維持している。一方、建屋・構築物は機械装置より一足早い1997年度から回復し、2000年度は対前年度比58%増の579億円となった(
図5 )。現在建設中の発電プラントは、1996年に着工された女川3号機が2002年1月の営業運転開始を目指して2000年末現在の工事進捗率が94.5%に達している一方で、残りのプラントの着工は1998〜99年であり、進捗率も8〜36%に留まっている。こうした建設中プラントの進捗状況の偏りが影響していると考えられ、今後建設初期段階のプラントの工事進捗率が進むにつれて、機械装置の支出も徐々に増加するものと見込まれる。
(6) 試験研究開発費
準備費のうち、試験研究開発費は506億円となり対前年度比41%の大幅な増加となり、1995年度から続いていた減少傾向に歯止めがかかった。「その他」の経費も対前年度比32%増の357億円となった。
(7) 今後の支出見込み
2000年度末に経済産業省から発表された各電力会社の電力供給計画をとりまとめた2001年度の電力供給計画では、2010年度までに13基・1,693万7,000kWが営業運転を開始する計画となっている。このほか、中国電力の上関1、2号機(
ABWR、各137万kW)など7基が開発計画にあがっている(
表3 )。
これに対して、2000年度現在の電気事業の支出見込みは総支出高でみると1年後(2001年度)が2000年度(実績)比0.99倍の1兆9,799億円、2年後(2002年度)が同0.99倍の1兆9,908億円、そして5年後(2005年度)が1.04倍の2兆885億円となっており、ほぼ現状が維持されると想定されている。内訳では、新規発電プラントの建設の進捗状況に左右される建設費は、1年後に9%、2年後に12%、それぞれ2000年度実績より減少する見込みになっているが、5年後には2000年度比9%増の4,666億円となる。一方、既存のプラントの運転に関係の深い核燃料費と運転維持費は、1〜5年後の間はほぼ横ばいで推移すると見込まれている。また、試験研究開発費のほか、広報や立地地点調査費などが含まれる準備費は、5年後に2.53倍の1,894億円と、大幅な増加が見込まれている。
3.鉱工業の売上動向
前回調査(1999年度)において、鉱工業の原子力関係売上高は対前年度比12%増の1兆6,792億円を記録したが、2000年度は2%減の1兆6,385億円となった。また、鉱工業間の中間取引的な売上(鉱工業向け売上高のうち、核燃料サイクル機器以外の部分)を除いた、エンドユーザーである電気事業や政府など最終需要者への売上高(最終需要相当額)は1兆4,458億円となり、前年度の1兆5,374億円より6%の減少となった。納入先別内訳では、昨年度に引き続き電気事業と鉱工業向けが伸びたものの、それ以外は大きく落ち込むなど、まだら模様になっている。部門別内訳では、燃料サイクル部門と建設・土木部門が伸びた一方、原子炉機材部門や発変電機器部門は減少した。特に、今まで着実な伸びを見せていたRI・放射線機器/サービス部門の売上高は半減した。最大の納入先である電気事業の支出見込みや原子力発電開発計画をみると、新規プラントの建設が計画通り進んだとしても、今後は過去のような右肩上がりの発注増は見込めないため、鉱工業の売上が増加基調となるかは不透明である。
・納入先
2000年度の売上高を納入先別にみると最も売上が大きいのは電気事業向けで、対前年度比6%増の1兆1,720億円、全売上高に占めるシェアは71%であった。鉱工業の売上における電気事業への納入比率は、総売上高の減少にあわせて1993年度の79%を最高に5年連続でシェアが低下し1998年度には65%となったが、1999年度より再び上昇に転じている(
図6 )。
4.アンケート調査
アンケートは、操業率、売り上げ見通し、輸出について行われた。
操業率は、売上高加重平均52.3%で前年度より大きく下がっている。売り上げ見通しでは、66%の企業が80〜120%と見込んでいる。主要業種では、横ばいという見通しである。
<図/表>
<関連タイトル>
平成12年度電力供給計画 (01-09-05-16)
原子力産業実態調査報告(平成10年度) (10-05-03-03)
原子力産業実態調査報告(平成11年度) (10-05-03-04)
<参考文献>
(1) 日本原子力産業会議(編集発行):2000年度 原子力産業実態調査報告(第42回調査)、(2002年1月)