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<概要>
 日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)は、わが国における原子力産業の実態を把握し、その問題点の分析を通じて産業としての健全な発展に資するとともに、併せて各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的として、原子力産業実態調査報告を実施している。2001年度の電気事業の原子力関係総支出高は2年連続して2兆円を超え、2兆850億円となり、1958年の集計開始以来最高を記録し、3年連続で増加した。運転維持費も1兆130億円となり、2年連続して1兆円を超え、過去最高となった。核燃料費も大幅増となり、5,435億円で、過去最高となった。試験研究開発費は再び減少に転じ、対前年度34%減の335億円となった。総支出高は、今後2、3年間は若干減少するものの、その後増加して5年後には、2兆2,635億円に達すると想定されている。
<更新年月>
2003年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.平成13年度調査内容
 この調査は、わが国における原子力産業の実態を把握し、その問題点の分析を通じて産業としての健全な発展に資するとともに、併せて各分野における関係者の参考となるような基礎資料を提供することを目的としている。
・調査対象は、株式会社、有限会社等、営利を目的とする企業で、原子力機材の研究・生産支出、売上、従事者を有すると思われる企業のすべてを対象としている。
・調査事項については、電気事業は主に支出高、従事者数、支出見込み、鉱工業は主に売上高、受注残高、支出高、従事者数、支出見込み、商社は主に取扱高よりなる。なお実態調査を補足するため、鉱工業に対してアンケート調査も併せて行った。
・調査時点
 支出高、売上高、取扱高については平成13(2001)年度(2001年4月1日〜2002年3月31日)の1年間の実績であり、受注残高、従事者および各種見込みについては2002年3月31日現在の数字をまとめたものである。決算期が異なる場合は各社の2001会計年度を対象とした。
 表1に、原子力関連指標の動向を示した。

2.電気事業の支出動向
(1)原子力関係支出高
 2000年度の電気事業の原子力関係総支出高は前年度に比べて653億円、率にして3%増の2兆850億円となり、1958年の集計開始以来最高を記録するとともに、3年連続で増加した。費目別では、全支出のほぼ半分を占める運転維持費(2001年度の構成比54%)は前年度に引き続き今年度も8%増加した。また、核燃料費(同26%)も対前年度比19%の大幅増となった。一方建設費(同17%)は、対前年度比17%の減少となった。試験研究開発費(同2%)は、1995年度から減少傾向にあったが、前年度、一旦41%増加し、今年度は再び34%の減少となった(図1図2)。なお、電気事業の原子力関係設備減価償却費ならびに核燃料減損額はそれぞれ対前年度比68%、43%の大幅増加となった。
(2)運転維持費
 運転中の発電プラントの増加に伴い、増加傾向にあった運転維持費は、前年度はじめて1兆円を超えたが、2001年度は対前年度比8%増の1兆1,303億円で、過去最高を記録した。全支出に占める割合も54%となり、1970年度調査ではじめて項目として計上されて以来、最高となった。
 運転維持費の推移を項目別にみると、発電プラント基数の増加に伴い、運転や保守点検要員が増加したため、人件費はなだらかに増加している。一方、1994年度まで増加が著しかった修繕費は、プラント基数の増加にも係らず近年はほぼ横ばいで推移しており、電力会社の保守経費削減への努力が伺える。これに対して、放射性廃棄物等処理・処分費や原子力発電施設解体費、各種引当金などが含まれている「その他」の経費は、1996年度以降増加傾向を示している。特に2000年度は対前年度比35%の大幅な増加となり、2001年度も引き続き18%の増加で、5,000億円を突破した。これは2000年度から原子力発電環境整備機構(NUMO)への拠出金に充当する特定放射性廃棄物処分費が新たに発生したことや、原子力発電施設解体引当金の省令改正に伴い、原子力発電施設解体費が増加したことが影響していると考えられる(図3)。
 高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた枠組みを定めた「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が2000年6月に公布され、これを受けて同年10月に処分事業の主体となるNUMOが電力会社(発電用原子炉設置者)によって設立された。同法により電力会社は、使用済み燃料の再処理によって取り出された特定放射性廃棄物(再処理後の残存物固化体)の最終処分業務に必要な費用をNUMOに毎年拠出金として支払うことになっており、2000年度は約1,030億円、2001年度は約704億円が支払われた。
 原子力発電施設解体準備金制度は、原子力発電施設の解体費用(除染、密閉管理、機器・建屋の解体、放射性廃棄物の処理等)の支出に備えるため、費用の総見積額を原子力発電施設の発電実績に応じて引当金として積み立てる制度であり、1989年5月の「原子力発電施設解体引当金に関する省令」によって定められている。具体的には原子力発電施設の解体に必要な費用を、施設の運転開始から停止までに見込まれる想定総発電電力量で割った額に、毎年の実際の発電電力量を乗じたものを積み立てるもので、累積発電電力量が想定総発電電力量に達した時点で、所要の額が全額積み立てられる仕組みとなっている。2000年度税制改正において、解体放射性廃棄物処理処分費用についても本準備金制度の対象費用とすることになった。
(3) 核燃料費
 核燃料費は、運転基数にあわせて増加を続け、1997年度にはじめて4,000億円を突破してからは概ね微増の安定した動きを示していたが、2001年度は対前年度比19%増の5,435億円となり、過去最高となった。なお、核燃料費には海外に委託している再処理費用(外貨支払)と六ケ所再処理工場への前払金支出が含まれている。
(4) 運転コスト
 2001年度の原子力発電電力量(事業用、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の「ふげん」を除く)は3,196億kWhで、前年度より16億kWh減少した。一方、2001年度末現在の原子力発電設備容量(同)は、2001年1月30日に東北電力の女川3号機(BWR、82万5,000kW)が営業運転を開始したことから、前年度より増加して4,574万2,000kWとなった。原子力発電所の運転に係わる経費である核燃料費と運転維持費を発電電力量当りでみると、2001年度は、核燃料費が1.70円/kWh、運転維持費が3.54円/kWhとなり、核燃料費、運転維持費とも前年度より上昇した。また、設備容量当りでみると、核燃料費が1万2,063円/kW、運転維持費が2万5,086円/kWで、同じく両者とも前年度より上昇した(図4表2)。運転コストは1998年度頃までは、年度ごとのバラツキはあるものの、発電電力量当りでも設備容量当りでも、高い設備利用率や運転保守技術の向上などによる抑制効果に支えられて減少傾向を示してきた。しかし1999年度は運転維持費の大幅な増加により上昇に転じた。
 この上昇は、特定放射性廃棄物処分費、原子力発電施設解体費や使用済み燃料再処理引当金が含まれる「その他」経費の顕著な上昇によるものである(図3)。
(5) 建設費
 1999年度から増加傾向を示していた建設費は、今回調査では対前年度比17%減の3,528億円となった。1990年代はそれ以前に着工された原子力発電所が次々に完成する一方、前半に着工された発電所は柏崎刈羽6・7号機(1991、92年着工/現在:営業運転中)の2基にとどまった。そのため、1990年代初めから半ばにかけては建設中のプラント基数が大幅に減少し、電気事業の建設費支出に大きい影響を与えることになった。しかし、1990年代後半には、女川3号機(1996年9月着工/2002年1月30日営業運転開始)、東通1号機(同1998年12月/2001年末現在の工事進捗率:41.2%)、浜岡5号機(同1999年3月/同60.7%)、志賀2号機(同1999年8月/同30.9%)が相次いで着工され、建設中の基数も増加に転したことから、1998年度まで減少傾向にあった建設費は1999年度には増加に転じた。建設費の推移の内訳をみると建設費中最大の項目である機械装置は1999年度に一旦増加回復したものの、2000年度から再び2年続けて減少した。しかし、2001年度は2,180億円を記録、依然として2,000億円を超える規模を維持している。一方、建屋・構築物は機械装置より一足早い1997年度から回復し、2001年度は対前年度比26%増の728億円となった(図5)。こうした建設費目の変動は、発電プラントの進捗状況によるものと考えられる。2001年度は女川3号機が完成した一方で、残りの建設中プラントの工事進捗率(2001年末現在)は30〜40%に留まっている。機械装置の支出が最も高くなる完成間近のプラントがなくなったことが、一時的に機械装置の支出を下げている可能性があり、今後建設初期段階のプラントの工事進捗率が進むにつれて機械装置の支出も再び増加するものと見込まれる。
(6) 試験研究開発費
 準備費のうち、試験研究開発費は335億円となり対前年度比41%の大幅な増加を見せた前年度から一転して減少した。試験研究開発費は、ここ数年は減少傾向にあったが、1995年度から続いていた減少傾向に歯止めがかかった。
(7) 今後の支出見込み
 2001年度末に経済産業省から発表された各電力会社の電力供給計画をとりまとめた2002(平成14)年度の電力供給計画では、2011年度までに運転開始予定の原子力発電所を、138万kW中心に、13基・1,749万7,000kWとしている。このうち、現在建設中の発電所3基は、2005〜2006年に相次いで運転を開始する予定で、これ以降に着工する発電所は2008年頃から順次運転を開始することになる。昨年度末の計画に比べて、多くの計画中の発電所で着工予定時期が1年程度延期されている(表3)。
 これに対して、2001年度現在の電気事業の支出見込みは総支出高でみると1年後(2002年度)が2001年度(実績)比0.98倍の2兆363億円、2年後(2003年度)が同0.93倍の1兆9,186億円、そして5年後(2006年度)が1.09倍の2兆2,635億円となっており、若干減少した後に増加に転じると想定されている。内訳では、新規発電プラントの建設の進捗状況に左右される建設費は、2年後に対2001年度実績比で10%の減少となるが、5年後には同34%増の4,731億円となる。また、試験研究開発費のほか、広報や立地地点調査費などが含まれる準備費は、5年後でそれぞれ2001年度実績比で46%、114%、386%の大幅な増加が見込まれており、5年後には2,291億円となる。

3.鉱工業の売上動向
 2000年度に対前年度比2%微減となった鉱工業の原子力関係売上高は2001年度は対前年度比7%増の1兆7,501億円となった。また、鉱工業間の中間取引的な売上(鉱工業向け売上高のうち、核燃料サイクル機器以外の部分)を除いた、エンドユーザーである電気事業や政府など最終需要者への売上高(最終需要相当額)は1兆5,628億円となり、前年度より8%の増加となった。納入先別内訳では、昨年(1999年)度に引き続き電気事業と鉱工業向けが伸びたものの、それ以外は10〜20%落ち込むなど、まだら模様になっている。部門別内訳では、その他製造部門で対前年度比の減少となった。それ以外の部門ではすべて増加した。特に2000年度に減少した原子炉機材部門や発変電機器部門が今回の調査ではそれぞれ17%、56%の高い伸びを示した。今後は過去のような右肩上がりの発注増は見込めないため、鉱工業の売上が増加基調となるかは不透明である。
・納入先
 2001年度の売上高を納入先別にみると最も売上が大きいのは電気事業向けで、対前年度比11%増の1兆2,967億円、全売上高に占めるシェアは74%であった。鉱工業の売上における電気事業への納入比率は、総売上高の減少にあわせて1993年度の79%を最高に5年連続でシェアが低下し1998年度には65%となったが、1999年度より再び上昇に転じている(図6)。

4.アンケート調査
 アンケートは、操業率、売り上げ見通し、輸出について行われた。
 操業率は、売上高加重平均66.1%で前年度より13.8%大きく下がっている。売り上げ見通しでは、大半の企業が80〜100%と見込んでいる。主要業種では、減少という見通しである。
<図/表>
表1 主な原子力関連指標の動向
表1  主な原子力関連指標の動向
表2 電気事業の核燃料費・運転維持費の推移
表2  電気事業の核燃料費・運転維持費の推移
表3 2002年度の電力供給計画(経済産業省発表)
表3  2002年度の電力供給計画(経済産業省発表)
図1 電気事業の費目別支出高の推移
図1  電気事業の費目別支出高の推移
図2 電気事業の2001年原子力関係支出内訳
図2  電気事業の2001年原子力関係支出内訳
図3 電気事業:運転維持費の内訳
図3  電気事業:運転維持費の内訳
図4 電気事業の発電電力量当りの核燃料費・運転維持費の推移
図4  電気事業の発電電力量当りの核燃料費・運転維持費の推移
図5 電気事業建設費の内訳
図5  電気事業建設費の内訳
図6 鉱工業の納入先別原子力関係売上高の推移
図6  鉱工業の納入先別原子力関係売上高の推移

<関連タイトル>
平成13年度電力供給計画 (01-09-05-17)
原子力産業実態調査報告(平成10年度) (10-05-03-03)
原子力産業実態調査報告(平成11年度) (10-05-03-04)
原子力産業実態調査報告(平成12年度) (10-05-03-05)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編集発行):2001年度 原子力産業実態調査報告(第43回調査)、(2003年2月)
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