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<概要>
 独立行政法人放射線医学総合研究所(以下「放医研」)は、放射線に関する人体への影響、障害の予防、治療並びに医学利用に関する研究開発を総合的に行うわが国唯一の中核的研究機関であり、病院を持っている。前身は科学技術庁の付属機関として昭和32年(1957年)7月に設立された放射線医学総合研究所で、その目的とした放射線による人体の障害の予防、診断および治療、並びに放射線の利用に関する技術者の養成訓練などの業務を引き継ぎながら、平成13年(2001年)4月より文部科学省が管轄する独立行政法人として新たに再発足した。現在は、文部科学大臣が定めた第2期中期計画に基づいて、平成18年(2006年)4月1日より平成23年(2011年)3月31日までの5ヵ年に実施すべき業務等を中期計画として策定し、目標達成を図っている。
<更新年月>
2007年01月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 原子力は、わが国の重要なエネルギー源として、また放射線は病気の診断や治療などの医療のほか工業、農業、そして日常生活にも広く利用され国民生活の質の向上に役立っている。したがって、放射線は私たちにとって身近なものであり、放射線被ばくの人体への影響を知ることは重要な課題である。
 独立行政法人放射線医学総合研究所は、昭和32年(1957年)7月に科学技術庁付属の研究機関として設立された放射線医学総合研究所が独立行政法人通則法(共通の法律事項)と独立行政法人放射線医学総合研究所法とに基づいて、文部科学省が管轄する独立行政法人として平成13年(2001年)4月より再出発したものである。平成18年度より非公務員型法人とされている。
 独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研、National Institute of Radiological Sciences;NIRS)は、放射線の人体への影響、放射線による人体の障害の予防、診断および治療並びに放射線の医学利用に関する研究開発を総合的に行うことを目的としたわが国唯一の研究機関であり、約100床の病院を持っていることが特徴的である。現在は、文部科学大臣から指示された「独立行政法人放射線医学総合研究所が達成すべき業務運営に関する目標」に沿って、放医研が平成18年4月1日より5ヵ年で実施すべき業務に関し「独立法人放射線医学総合研究所中期計画」を策定し、よって効率的・計画的に目標の達成を図っている。
2.組織
 放医研の組織は、 図1に示す通り理事会(米倉義晴理事長(任期:2006年4月〜2011年3月))のもと、企画部、総務部、情報業務室、基盤技術センター、重粒子医科学センター、分子イメージング研究センター、放射線防護研究センター、緊急被ばく医療センター等で構成されている。
 平成18年(2006年)12月1日現在、常勤役員4名、任期の定めの無い職員数352名(事務職 119名、研究職 145名、医療職 75名、技術職 13名)、任期制職員411名である。
3.主な活動の概要
 放医研は、研究活動の基盤となる基礎的研究を実施するとともに、社会の要請に応じた研究を進めている。社会の要請に応えるものとして、国際的には、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際放射線防護委員会(ICRP)、世界保健機関(WHO)等を通しての貢献があり、また国際原子力機関(IAEA)の協力センターとしても活躍している。国内的には、身体的負担が少なく治療後の生活の質を高く保てる放射線診療に関する研究開発による健康福祉行政への、また緊急医療体制の確保や環境放射能調査などの放射線安全行政への貢献など広範にわたる研究活動を行っている。図2に放射線防護研究センター、図3に重粒子医科学センターの組織図を示す。
 重粒子医科学センターの中には病院があり、そこでは研究の成果を生かした放射線診療が行われている。中でも特徴的なことは、国の対がん10ヵ年戦略の一環として建設されたHIMACを用いての重粒子線がん治療であり、1994年に開始された臨床試験によって本治療法の安全性と有効性が明らかとなり、2003年11月からは高度先進医療として認められている。これまでにすでに3000人を超える患者の治療が行われている。また、放医研では電話による医療相談の受付を行っている。
 研修による放射線にかかわる人材の養成では、看護婦や緊急医療に関する研修、医学物理の普及のための研修、さらには千葉大学を始めとする多くの大学と連携大学院を組織しての若手研究者の育成にも力を注いでおり、高校生に対してもサイエンスキャンプなどを開催している。
 平成18年(2006年)4月に策定された中期計画から主要な研究計画をあげれば以下である。
(1)放射線に関するライフサイエンス研究
A.重粒子線がん治療研究
 生活の質(QOL)の維持が可能で治療効果が高く、その成果が国際的に注目されている重粒子線がん治療法の普及や治療成績の更なる向上に向けて、以下の課題を設け研究を実施する。
  1)重粒子線がん治療の高度化に関する臨床研究
  2)次世代重粒子線照射システムの開発研究
  3)放射線がん治療・診断法の高度化・標準化に関する研究
B.放射線治療に資する放射線生体影響研究
 重粒子線を中心とした放射線がん治療法の有効性をさらに高め、安全性の検証を理論的に行うとともに、革新的な放射線治療法の開発を目指し、ゲノム解析技術等を活用したライフサイエンス研究を行う。下記が課題となる。
  1)放射線治療に資するがん制御遺伝子解析研究
  2)放射線治療効果の向上に関する生物学的研究
  3)網羅的遺伝子発現解析法の診断・治療への応用に関する研究
C.分子イメージング研究
 腫瘍の性質の評価を含めた早期診断、精神・神経疾患の発症前診断・薬効評価等を可能とする分子イメージング研究に関し、世界最高水準のPET(陽電子放射断層撮影法)基盤技術を基に病態研究や治療評価法について、下記の課題を挙げ、効果的に研究開発を推進する。
  1)腫瘍イメージング研究
  2)精神・神経疾患イメージング研究
  3)分子プローブ・放射薬剤合成技術の研究開発
  4)次世代分子イメージング技術の研究開発
(2)放射線安全・緊急被ばく医療研究
A.放射線安全研究
 国民の放射線安全の確保に貢献し、国民の安心を支える役割を果たすための研究を推進する。科学的合理性と社会的合理性のギャップを埋める融合領域の総合科学である規制科学の考え方を導入してリスクコミュニケーションに資し、近年子供の健康リスクに関しての関心の高まりの中、放射線影響を受けやすいと考えられている胎児・小児の放射線感受性に関して研究開発を推進する。具体的には以下の課題を掲げている。
 1)放射線安全と放射線防護に関する規制科学研究
 2)低線量放射線影響年齢依存性研究
 3)放射線規制の根拠となる低線量放射線の生体影響機構研究
 4)放射線安全・規制ニーズに対応する環境放射線影響研究
B.緊急被ばく医療研究
 放医研はJCO臨界事故等の被ばく事故対応に関し貴重な経験を持っている。原子力防災対策の実効性向上を目的として、緊急時における対応および治療方針等の判断を的確に行うための線量評価、障害低減化(体内除染等)、および治療技術に関する研究等の緊急被ばく医療に関する研究を行う。特に、三次被ばく医療機関として、他の医療組織では対応困難な高線量被ばく患者の治療に関する研究に重点をおく。
  1)高線量被ばくの診断および治療に関する研究
  2)放射線計測による線量評価に関する研究およびその応用
4.広報
  独立行政法人放射線医学総合研究所(企画部広報室)
  〒263−8555 千葉市稲毛区穴川 4−9−1
  電話  043−206−3026   ファックス  043−256−4062
  ホームページ  
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
図1 放射線医学総合研究所組織図
図1  放射線医学総合研究所組織図
図2 放射線防護研究センター組織図
図2  放射線防護研究センター組織図
図3 重粒子医科学センター組織図
図3  重粒子医科学センター組織図

<関連タイトル>
環境の放射線防護研究 (06-03-05-05)
X線診断 (08-02-01-01)
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
PETの原理と応用 (08-02-01-04)
核磁気共鳴イメージング(MRI)の原理と応用 (08-02-01-05)
放射線の細胞への影響 (09-02-02-07)
放射線影響を左右する細胞死−アポトーシス (09-02-02-21)
環境の放射線防護における新しい動き (09-02-08-08)
緊急被ばく医療 (09-03-03-03)
緊急被ばく医療研究センター (10-06-01-13)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(編):パンフレット、放射線医学総合研究所要覧、(2006年11月)
(2)放射線医学総合研究所:
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