がんの新しい放射線治療法の1つとして重粒子線照射法が開発されつつある。重粒子線による照射はがんの治療効果が高く、かつ正常組織の障害を少なくできる利点がある。がん治療に用いられる重粒子イオンは、ヘリウム(He)、炭素(C)、ネオン(Ne)、シリコン(Si)、アルゴン(Ar)などである。重粒子線は、身体組織の中に入ってから、そのエネルギーの大きさに応じたある深さに達したところで、最大のエネルギーを組織に与えて止まる性質がある。この性質を利用して、重粒子線照射治療法は、X線照射治療法に比べて、正常組織には少ない線量しか与えずに任意の深さにあるがん組織(細胞)に集中的に線量を与えてがん細胞を殺し、かつ、副作用としての正常組織への障害を低く抑えることができる。日本では放射線医学総合研究所が「重粒子線がん治療装置HIMAC」を世界で初めて1993年に完成させ、1994年6月から多数の臨床試験を実施し、少ない副作用と優れた治療効果が確認されている。1997年3月には重粒子医科学センター病院が開設され、本格的な臨床試験の場として運営されている。