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<概要>
 原子力安全委員会は、行政庁が行う原子力の安全性に係る規制の統一的評価及び行政庁による規制のダブルチェックを目的として、1978年(昭和53年)10月に原子力委員会から分離・発足し諸活動を行ってきた。原子力安全委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全確保のための規制に関する政策、核燃料物質及び原子炉に関する安全規制、原子力利用に伴う障害防止の基本及び放射性降下物による障害の防止対策の基本等、規制に関する事項について企画し、審議し、決定することを役割とし、安全審査のほか、指針類の整備、故障・トラブル等の再発防止対策、安全性研究年次計画、予防保全対策などに関する重要事項について調査・審議を行ってきた。その後、東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機として原子力安全規制体制の見直しが行われ2012年9月18日に廃止された。
<更新年月>
2013年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力安全委員会は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制に関する抜本的な見直しが行われた結果、2012年9月18日に廃止され、翌9月19日、新たに原子力安全規制に係る行政を一元的に担う組織として原子力規制委員会が発足した。原子力安全委員会が取り纏めた安全審査に係る指針類等は、一定の経過措置の後に原子力規制委員会によって新たな規制理念に沿った基準、告示等に置き換えられていく予定である。
 ここでは廃止された原子力安全委員会の設置経緯、役割、組織等について記述する。
1.設置の経緯
 1978年(昭和53年)10月4日に原子力基本法などの一部改正法が施行され、原子力の安全の確保のためには安全規制体制を強化することが不可欠な措置であるとの判断のもとに、
(1)原子力の”推進側”と”規制側”の分離及び責任の明確化、
(2)各行政庁(文部科学省、経済産業省、国土交通省)が行う原子力安全規制の統一的評価、
(3)行政庁による規制を外部から審議することによるダブルチェック
を目的とし、原子力委員会の機能のうち安全規制を独立して担当する原子力安全委員会(Nuclear Safety Commission)が総理府直属の合議制の機関として設置された。
 その後、2001年(平成13年)1月に実施された中央省庁再編により、原子力安全行政の体制についても大幅な変更があった。具体的には、エネルギーとしての利用に係る原子力について、規制権限を一元化して責任の所在を明確化するため、従来の実用発電用原子炉に加え、原子力発電に関わる一連の核燃料サイクル施設についても、経済産業省が安全規制の責任を持つこととなり、「原子力安全・保安院」が設立され、体制の強化が図られた。(注:原子力安全・保安院は2012年9月18日に廃止され、翌9月19日に新たに発足した原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁がその役割を継承している。)他方、発電の用に供さない研究開発段階の原子炉や試験研究の用に供する原子炉及び核燃料物質等の使用施設については文部科学省が、船舶に設置される原子炉については国土交通省が、それぞれ安全規制の責任を持つこととなった。
 原子力安全委員会については、省庁再編に先立って、既に2000年(平成12年)4月に、それまで科学技術庁にあった事務局機能を総理府に移管して独立性を高めるとともに、職員の大幅な増員等により機能を強化した。さらに、2001年(平成13年)1月には内閣府へと再編されるとともに、事務局も4課体制になるなど、機能のさらなる強化が図られた。
 省庁再編後の原子力規制体制を図1に示す。
2.原子力安全委員会の役割
 原子力安全委員会は「原子力基本法」及び「原子力委員会及び原子力安全委員会設置法」に基づき設置された審議機関である。原子力の研究、開発及び利用に関する事項のうち、安全の確保に関する事項について企画、審議及び決定する権限を有した。所管事項について必要なときは、内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長に勧告することができるなど、通常の審議機関に比べて強い権限を有し、安全規制の基本的考え方の取り纏め、安全審査に用いる指針、基準の策定、規制調査の実施、原子力事故の原因究明、分析評価等を実施してきた。
 原子力施設の設置段階においては、対象施設に応じ規制行政庁である経済産業省、文部科学省、国土交通省が安全審査を行い(1次審査)、この結果に対して、原子力安全委員会が別の立場から2次審査を行った(ダブルチェック)。さらに、それぞれの行政庁の安全規制を統一的に評価するという役割を担っていた。
 また、JCO事故の反省を踏まえて制定された原子力災害対策特別措置法に基づき、内閣総理大臣等への技術的な助言など、原子力災害時における原子力安全委員会の役割も法律上明確に位置付けられていた。
3.原子力安全委員会の組織
 原子力安全委員会は、原子力委員会及び原子力安全委員会設置法に基づき、両院(国会)の同意を得て内閣総理大臣により任命された5名の委員から構成され、原子炉安全専門審査会、核燃料安全専門審査会、緊急事態応急対策調査委員が置かれた。さらに、2001年(平成13年)1月の省庁再編を機に事務局が設置された。また、必要に応じて専門的な事項について調査審議する専門部会を設置することとされており、2011年には7つの専門部会、1つの調査会、3つの助言組織と1つのプロジェクトチーム、1つの特別委員会(耐震安全性評価)、1つの検討委員会(試験研究炉耐震安全性)が設置されている。2011年(平成23年)2月現在の組織を図2に示す。
4.原子力安全委員会の活動
4.1 安全審査
 事業者が申請を行った原子力施設の設置(変更)許可等に関する規制行政庁の調査審議を経て、主務大臣からの諮問に応じ原子力安全委員会で再度調査審議(ダブルチェック)を行った。原子力安全を確保するための、規制行政庁と原子力安全委員会の役割分担を図3に示す。
 安全審査は、主として次に示す安全上の重要事項を中心に審議が行われた。
(a)既に設置許可等の行われた施設と異なる基本設計の採用
(b)新しい技術上の基準または実験研究データの適用
(c)施設の設置される場所に係る固有の立地条件と施設との関連
 さらに、原子力安全委員会の指示により、設置許可以降の設計及び工事の方法の認可及びこれに続く検査などの段階(後続規制)で所管行政庁が確認すべき重要事項についての報告の審議、及び故障・トラブル等、被ばく管理等の重要事項に関する調査審議が行われた。
4.2 指針類の整備
 原子炉施設の設置等に関する安全性の妥当性を判断する基礎としての「安全審査指針類」、原子力施設等周辺における防災活動等を円滑に実施するための「防災・環境に関する指針類等」を整備しており、これらを合わせて単に「指針類」と呼んでいる。安全審査指針類には安全審査指針を補完するものとして、専門部会報告書や専門審査会内規(専門部会報告書等)が含まれている。
 2001年(平成13年)3月、放射線審議会におけるICRP(International Commission on Radiological Protection:国際放射線防護委員会)新勧告(Pub.60)の取入れに関する審議を踏まえ、安全委員会として実効線量の導入、外部及び内部被ばく線量評価方法の変更などについて指針類への反映を決定した。これに加えて、放射性廃棄物の処分に係る安全基準等の整備では、「クリアランスレベルの再評価」、「原子力施設の運転終了以降に係る安全規制のあり方について」、「研究所等から発生する放射性廃棄物の浅地処分の安全規制に関する基本的考え方」を取り纏め、これを基に法整備が行われた。また、高レベル放射性廃棄物並びに低レベル放射性廃棄物の埋設処分施設に係る指針等の策定に向けて検討が進められた。さらに、耐震設計審査指針について最新知見等を反映し、原子力発電所の地質・地盤に関する安全審査の手引き(2008年(平成20年)6月20日策定)及び活断層等に関する安全審査の手引き(同)の見直しが行われ、平成22年12月20日に発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引きとして整備された。
 「防災・環境に関する指針類等」では、原子力施設等の防災対策について(2008年(平成20年)3月27日改定、昭和55年6月30日制定)、緊急時環境放射線モニタリング指針(2008年(平成20年)3月27日改定、昭和59年6月21日制定)及び環境放射線モニタリング指針(2008年(平成20年)3月27日改定、昭和53年1月31日制定)が整備された。
 整備された指針類を表1-1表1-2及び表1-3に示す。なお、安全規制に関する政策、安全基準の充実強化等の活動については原子力安全委員会決定等として公表されている(表2表3及び表4参照)。
4.3 原子力安全に関する国際協力
 原子力安全に関する国際協力としては、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA:Organization for Economic Co-operation and Development/Nuclear Energy Agency)等の国際機関を通じた多国間協力や二国間原子力平和利用協力協定等に基づく二国間協力等が行われ、その中で規制情報、技術情報の交換、各種研修等の人材交流などが進められた。
(1)多国間協力等
 IAEA及びOECD/NEA等の国際機関が進めている活動に対し、各種会合への出席、専門家派遣等を行うなど原子力安全の向上、確保のための活動に積極的に協力している。IAEAにおける原子力安全確保に係る主要な活動として、国際的原子力安全基準の策定、原子力安全に関する国際条約の策定、安全評価のサービス、原子力安全に関する各種専門家会合等の開催による情報交換等の協力もしている。
 OECD/NEAにおいて原子力安全と安全規制の分野における活動の中心となっているのは、下部組織である原子力施設安全委員会(CSNI:Committee on Safety of Nuclear Installations)、原子力規制活動委員会(CNRA:Committee on Nuclear Regulatory Activities)、放射線防護及び公衆衛生委員会(CRPPH:Committee on Radiation Protection and Public Health)、放射性廃棄物管理委員会(RWMC:Radioactive Waste Management Committee)等である。わが国は積極的にこれらの委員会の活動に参加しており、適宜専門家を派遣し、報告書の取り纏め等各委員会の活動に貢献している。
 この他、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR:United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)に参加し、1996年(平成6年)4月の原子力安全モスクワ・サミット及びそれをフォローした同年11月のアジア原子力安全東京会議では議長国として参加している。2001年(平成13年)には、電離放射線の継世代的影響に関する報告書が、2008年(平成20年)には2006年(平成18年)にUNSCEAR会合で承認された2006年報告書が刊行された。国際原子力規制者会議(INRA:International Nuclear Regulators Association)は、1996年(平成8年)9月にパリで開催されたOECD/NEAの安全規制機関首脳会合において、米国原子力規制委員会委員長からの広範な原子力規制上の課題に関して、規制当局の責任者による意見交換のためのフォーラムを設立することの提案を受け、1997年(平成9年)1月にワシントンで開催された準備会合を経て、同年5月にジャクソン米国原子力規制委員会委員長を議長としてパリで正式に設立された。これまでに、各国の原子力発電を巡る社会情勢の動向、原子力規制の現状と今後の課題、ロシア・東欧諸国及び中国に対する支援方策、各国の原子力安全規制の共通点・相違点等について、意見・情報の交換を行うと共に、1998年(平成10年)のモスクワ・エネルギー・サミット及びG8(Group of Eight:日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシア)サミット(Summit Conference:主要国首脳会議)に向けて、原子力安全規制の重要性を訴える声明を送付するなどの活動を実施してきた。
(2)二国間協力
 わが国は2013年5月現在、米国をはじめ12か国との間で原子力協力のための二国間協力協定を締結しており、これらの下で原子力安全を確保するための専門家の派遣や情報の交換を行っている他、各国との原子力安全に関する協力が行われている。規制情報交換等によって各国の規制活動情報を適切に入手し、わが国の安全規制に反映するとともに、わが国における規制活動について各国の理解を得ること、または相手国の実状を理解し、規制活動について適切な助言を与えるために、これまで米国、フランス、ドイツ、スウェーデン、韓国、英国、中国、イタリア等との間で原子力の規制に関する情報交換等による協力を実施してきた。
6.事故等への対応
(1)JCO臨界事故
 1999年(平成11年)9月30日(木)午前10時35分頃、茨城県東海村の株式会社ジェー・シー・オー(JCO)ウラン加工施設において「臨界事故」が発生した。原子力安全委員会ウラン加工工場臨界事故調査委員会は、10月8日の初会合以来11回の会合を重ね、精カ的に事故原因の徹底的究明や再発防止策の検討を進めた。11月5日には、事故の社会的影響の大きさ等を考慮し、「緊急提言・中間報告」を政府に提出した。その後、より詳細な検討を行い、1999年(平成11年)12月24日、最終的な報告を取り纏めている。
 原子力安全委員会は、1999年(平成11年)11月5日のウラン加工工場臨界事故調査委員会の緊急提言・中間報告の提出を受けて、同年11月11日に「原子力の安全確保に関する当面の施策について」を決定している。
(2)美浜3号機事故
 2004年(平成16年)8月9日の関西電力株式会社美浜発電所3号機における事故では、11名の死傷者が発生した。原子炉運転中に、原子炉建屋の外とはいえ、死傷者が発生したことはわが国初の事態であった。そこで、原子力安全委員会はこの事故から得られる教訓を安全確保活動に十分活かすことを目指し、(1)現行の安全確保活動:諸活動の質の向上・充実強化、(2)将来を見通した活動:安全規制システムの一層の高度化、(3)安全確保の基盤強化、の3項目を基軸として、当面の施策の基本方針を取り纏めた。なお、原子力安全委員会は、この基本方針に基づき、年度ごとに政策目標をどれだけ達成できたかについて評価を行っている。
(3)東京電力・柏崎刈羽原子力発電所7号機及び6号機の健全性評価
 新潟県中越沖地震の影響を受けた柏崎刈羽原子力発電所7号機及び6号機について、経済産業省原子力安全・保安院が実施した施設健全性評価、耐震安全性評価及びプラント全体の機能試験評価について、原子力安全委員会は原子力安全・保安院の判断が妥当であるとの見解を示した。特に、耐震安全性に関して旧耐震指針と新耐震指針による地震動評価の比較を行い、施設自身の設計段階の耐震裕度が十分であったことが確認された。
(前回更新:2010年7月)
<図/表>
表1-1 原子力安全委員会決定等の指針類(1/3)
表1-1  原子力安全委員会決定等の指針類(1/3)
表1-2 原子力安全委員会決定等の指針類(2/3)
表1-2  原子力安全委員会決定等の指針類(2/3)
表1-3 原子力安全委員会決定等の指針類(3/3)
表1-3  原子力安全委員会決定等の指針類(3/3)
表2 主な原子力安全委員会決定等(平成16年以前)
表2  主な原子力安全委員会決定等(平成16年以前)
表3 主な原子力安全委員会決定等(平成17年〜平成21年)
表3  主な原子力安全委員会決定等(平成17年〜平成21年)
表4 主な原子力安全委員会決定等(平成22年以降)
表4  主な原子力安全委員会決定等(平成22年以降)
図1 省庁再編後の原子力規制体制(2001年1月〜)
図1  省庁再編後の原子力規制体制(2001年1月〜)
図2 原子力安全委員会の組織
図2  原子力安全委員会の組織
図3 原子力安全規制における原子力安全委員会の位置付け
図3  原子力安全規制における原子力安全委員会の位置付け

<関連タイトル>
原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について(1990年11月) (10-03-02-11)
日本における原子力行政の新体制(2001年) (10-04-01-01)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
指針の整備 (11-03-01-02)
経済協力開発機構(OECD)原子力機関(NEA) (13-01-01-10)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)

<参考文献>
(1)内閣総理大臣原子力安全室(編):パンフレット「原子力安全委員会−安全確保に向けての積極的な取組み−」(2000年8月)、p.3-4 及び同室提供資料
(2)原子力安全委員会ホームページ:
(3)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成11年版、大蔵省印刷局(2000年9月)
(4)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成12年版、財務省印刷局(2001年4月)
(5)文部法令研究会(監修):文部法令要覧 平成13年版、ぎょうせい(2001年1月)
(6)原子力規制委員会ホームページ:http://www.nsr.go.jp/nra/
(7)日本原子力産業協会国際部:我が国の2国間原子力協力協定の現状(2013年5月7日)、
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2013/bilateral-agreement-memorandum130507.pdf
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