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<概要>
 原子力委員会は、原子力に対する信頼が大きく揺らいでいる現状を踏まえ、原子力政策について、広く関係各方面と議論を重ね意見交換を行い問題の抽出を行ってきた。核燃料サイクルは、原子力政策の中核を成すものであるが国民の理解が難しいことから、その必要性等を判りやすく示すため、「核燃料サイクルについて」と題する冊子を公開した。まず、世界的な視点からのエネルギーの議論とその中での原子力発電に対する認識を確かめ、次いでわが国のエネルギー安全保障の考え方と地球環境維持の観点から見た原子力発電の役割を再考し、さらに核燃料サイクルについて、その意義と課題を捉え直し、最後に、核燃料サイクル政策に対する原子力委員会の姿勢を述べている。さらに、個別の考え方や疑問に対する詳しい説明を参考資料として示している。わが国の将来のエネルギー政策にとって、核燃料サイクルがなぜ重要なのか、そしてなぜ核燃料サイクルなのか、原子力委員会が、引き続き様々な機会を捉えて、立地地域をはじめとする多くの国民と広く議論していく上で、本冊子がその一助となることを期待している。冊子本文の主な概要を示す。
<更新年月>
2003年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力委員会が、「核燃料サイクルのあり方を考える検討会」で提起された意見を踏まえて論点を整理し、公開した冊子「核燃料サイクルについて」(2003年8月)の主な概要を以下に、参考資料の「核燃料サイクルについての疑問と考え方」の項目を表1表2および表3に示す。
1.世界のエネルギー情勢
 世界が持続可能な発展を続けていくためには、環境保全に配慮しつつ、経済成長と生活基盤の根幹となるエネルギーが安定的に供給されることが必要である。将来の人口増加に伴うエネルギー需要増加に対し、地球温暖化の懸念から化石燃料の消費の抑制、省エネルギーに取り組むとともに、化石燃料代替エネルギーの導入が必要である。そのため、再生可能エネルギー、燃料電池などの開発と原子力発電の利用促進を、それぞれの課題を克服しながら現実的な施策として選択していくことが重要である。

2.わが国と原子力
(1)エネルギー安全保障と原子力
 わが国のエネルギー自給率は、原子力を除くとわずか4%に過ぎず、一次エネルギー供給のうち約半分を占める石油は、ほぼ全量輸入で、しかも必ずしも政情の安定していない中東地域が86%と圧倒的である。原子力の利用は、ウラン資源の安定供給、燃料の高エネルギー密度による備蓄性、発電原価約3割の燃料費、技術開発によるウラン資源有効利用拡大の点から、その役割は大きい。
(2)地球温暖化防止と原子力
 わが国は、2008年から2012年の期間に、温室効果ガス排出量を1990年の水準と比較して6%削減することを国際約束している。そのため、最大限の省エネルギー対策に取り組むとともに、化石燃料代替エネルギーの導入促進が必要となる。太陽光発電や風力発電は、現段階では技術的にまだ開発途上にあり発電コストも競争的でないことを考慮すると、少なくともここ当分の間基幹電源とはなりえない。仮に、原子力発電が無かったとすれば、原油輸入量を約3割増加させ、二酸化炭素排出量は約6割増えるとの試算もある。その意味で、原子力は基幹電源の有力な選択肢である。
(3)原子力発電の現状
 わが国では、1966年以来商業規模の原子力発電を行っており、現在では、総発電電力量の約3割が原子力発電によるものである。原子力発電は、多額の初期投資が必要なため、短期的利益を重視した場合には、新設が不利という見方がある。今般の電力自由化において、政府は、原子力発電を優先的に利用するルールの整備や電源立地対策の重点化を行うとともに、バックエンド事業全般にわたるコスト構造、原子力発電の収益性などを分析・評価し2004年末までに、経済的措置などの検討が行われる。

3.核燃料サイクルの考え方
(1)核燃料サイクルの意義
 全てのエネルギー生産には、それに伴い廃棄物が発生することから、それらの有効利用と次世代への負担の軽減ということを考えていくべきである。ウラン燃料を原子力発電に利用した後の使用済燃料の中には、資源として活用できるウランやプルトニウムが90%以上残っている。再処理により分離、回収されたプルトニウムは、ウランと混ぜてMOX燃料に加工され、軽水炉の燃料として使用することができる。この方式を「プルサーマル」と呼び、1960年代から各国で安全に行われており、わが国では、発電所での実証試験、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)「ふげん」で772体の装荷実績がある。核燃料サイクルを導入するという政策選択の意義は、原子炉内で生成されるプルトニウムと核分裂を起こさずに、未利用のまま残っているウランとを利用することにより、資源を有効利用すること、わが国の脆弱なエネルギー供給構造を改善することである。なお、ウランやプルトニウムを回収することで、処分する高レベル放射性廃棄物の放射能量を少なくすることもできる。また、その重量は、直接処分を行う場合の約40%になると試算されており、処分の負担を軽減する効果がある。
(2)核燃料サイクルの課題
(a)核燃料サイクルの経済性
 プルサーマルにより核燃料サイクルを実施した場合の原子力発電コストは、再処理、高レベル放射性廃棄物処分、廃炉などの経費を含めても、火力発電などの他の電源に比べて低くなる。一方、直接処分の場合は再処理費用が不要であることから、発電コストが2〜3%程度低減する。しかしながら、長期的な観点からエネルギー安全保障、エネルギー資源の有効利用、環境適合性及び安全確保など、経済的に見積もり難い要素などを考慮して総合的な観点から政策を選択することが重要である。再処理を含むバックエンド事業は、超長期間に及ぶことから、将来見通しやコストの算定が必ずしも正確に出来ないこと、また、高速増殖炉による核燃料サイクルについても、現在、研究開発段階にあり、実用段階でのコストの算定はまだ困難、電気事業者が原子力発電の新増設を選択しないとすれば、原子力推進と電力自由化が相容れなくなる状況にある。将来想定される費用などに関して十分に情報開示を行いつつ、電力自由化が進む中で、原子力発電及び核燃料サイクルを円滑に進めていくため、関係者は共通の事実認識に立って議論していくことが必要である。
(b)核燃料サイクルの将来展望
 わが国の原子力利用を3つの段階に分けて考えることができる。まず,第一段階として、軽水炉による原子力発電の実用化が行われた。1970年代に導入されて以来、着実な建設と改良を続け、現在では世界最新鋭のABWR(改良型沸騰水型軽水炉)を含め、52基の軽水炉が運転されている。第二段階は、民間事業としての商業用再処理とプルサーマルの実施による軽水炉サイクルの確立である。プルサーマルについては、技術的には実施可能な状態にある。既に、フランス、イギリスにおいて再処理が行われ、わが国では核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)東海再処理施設において研究開発が実施され、さらに商業用として日本原燃(株)六ヶ所再処理工場の建設と同社MOX燃料加工工場の建設準備が進められている。現在は、第二段階の入口にあると言える。現時点では、核燃料サイクルの見通しがはっきりしないので、使用済燃料を数十年程度貯蔵しておき、その時点での社会情勢や技術動向を見て、核燃料サイクルを導入するか、「直接処分」を行うかという選択をすればよいという考えも示されている。軽水炉サイクルは、実用段階に入っており、核燃料サイクルの技術基盤の確立、再処理、プルトニウム燃料製造といったプルトニウムの取り扱い技術の実用規模での習得、練達ならびにレベルの高い人材を確保し、次の段階である高速増殖炉サイクルの速やかな導入に備える意義が考えられる。第三段階は、高速増殖炉の導入による高速増殖炉サイクルの確立である。高速増殖炉サイクルについては、実用発電プラントとしての経済性の追求や技術の実証など、課題が少なくない。そこで、これらの課題の解決への糸口をつけるべく、「もんじゅ」を利用した発電プラントとしての信頼性の実証とナトリウム技術の確立や高速増殖炉サイクル実用化戦略研究などの研究開発が行われている。わが国としては早急に高速増殖炉サイクル実用化の目途をつけ、第二段階の軽水炉サイクルにより得られる経験を組み合わせて、第三段階の高速増殖炉サイクルに移行していくことが、エネルギー安全保障などの観点から有効と考えられる。
(c)核不拡散
 わが国は、「核兵器を持たず、作らず、持ち込まず」の非核三原則を遵守し、原子力基本法に則り、原子力の利用は厳に平和目的に限っている。そのための国際的な担保として、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を締結し、そのもとでIAEAの保障措置を受けるとともに、IAEA追加議定書を締結し、併せて、厳格な核物質防護措置を講じている。この原則を守っていくことにより、プルトニウム利用については、核不拡散上の問題がないものと考えられる。さらに、プルトニウム平和利用に対する国内的及び国際的な懸念を生じさせないよう、原子力委員会は「利用目的のないプルトニウムを持たない」との原則を示し、政府によるプルトニウム管理状況、事業者のプルトニウム利用計画の公表など,プルトニウム利用にかかわる積極的な情報発信を進め、プルトニウム利用の透明性の向上を図ってきている。
(d)核燃料サイクルを巡る最近の国際動向
 核燃料サイクル政策を選択しない国がある一方で、フランス、ロシア及び中国のように高速増殖炉の開発を進めている国や、米国のように核燃料サイクルに再び着目している国もある。フランスは、「スーパーフェニックス」を国内の政治情勢,経済性の観点から廃炉にしたものの、原型炉である「フェニックス」による研究開発は継続している。一方米国は、次世代原子力システムの研究開発のための国際的な枠組み(GIF)を提唱しており、研究開発の重点対象として選ばれた六つの原子炉型式のうち、三つは高速炉である。さらに、2003年1月に「先進燃料サイクル・イニシャテイブ」を取りまとめ、高速炉サイクルの開発を提言している。各国は、エネルギーの安定供給の確保を重要な政策課題としており、各国のエネルギー事情などに応じて、独自のエネルギー政策及び核燃料サイクル政策を立案している。わが国のエネルギー供給構造が極めて脆弱であるといった事情を考えれば、ウラン資源の有効利用に寄与する核燃料サイクルは、わが国において重要かつ妥当な選択と考える。
(3)国民との相互理解のために
 原子力については、1995年の「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故、1999年の東海村ウラン燃料加工工場における臨界事故、2002年の東京電力による検査・点検時における不正など、原子力に対する信頼を大きく失墜させる事故・事件が何度も発生し、原子力に対する信頼回復が大きな課題となっている。信頼回復のためには、市民の目線で、国民の声を良く聞くこと、つまり「公聴」を行うことや、2001年7月に市民参加懇談会を設置し、政策決定プロセスにおける市民参加の拡大を図り、国民との相互理解により信頼関係を確立するための方策を検討している。また、情報公開などさまざまな努力を行ってきている。

4.今後の核燃料サイクル政策について
 原子力委員会では、エネルギーの安定供給と環境保全の観点から、国内において核燃料サイクルを確立することをわが国の長期的な原子力政策の基本と考えている。また、個別具体的な方策については、基本政策に基づきつつも、社会情勢の変化や技術の進展に従って柔軟に対応してきている。例えば、現実の再処理工場の処理能力や使用済燃料の発生量を考慮して、一部の使用済燃料については中間貯蔵後に再処理する方針をとっている。核燃料サイクルについては、経済性などの課題に取り組む必要があるが、基本政策と克服すべき課題とを峻別し、核燃料サイクルを行うか、行わないかの二者択一ではなく、原子力発電から使用済燃料の再処理までを含めて、核燃料サイクル政策を実現していくことの妥当性の確認を行う一方で、実現のためにどのような方策を講じていけばよいか、政策策定のプロセスに、多くの方々の考えを反映させながら柔軟性を持って取り組んでいくこととする。将来においては、わが国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服、地球温暖化対策の確立、国民の価値観の変化などの状況変化を見つつ原子力政策の不断の評価を行い、政策立案に反映していく必要がある。現状では、核燃料サイクルの意義と課題を総合的に評価すると、安全確保、情報公開、国民との相互理解を大前提に、核燃料サイクルを原子力の基本政策として進めていくものと考えている。
<図/表>
表1 核燃料サイクルについての疑問と考え方(原子力の必要性について)
表1  核燃料サイクルについての疑問と考え方(原子力の必要性について)
表2 核燃料サイクルについての疑問と考え方(プルサーマル)
表2  核燃料サイクルについての疑問と考え方(プルサーマル)
表3 核燃料サイクルについての疑問と考え方(高速増殖炉ほか)
表3  核燃料サイクルについての疑問と考え方(高速増殖炉ほか)

<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)総論 (10-01-05-03)
原子力委員会決定(1995年〜1999年) (10-02-02-11)
原子力委員会決定(2000年〜2004年) (10-02-02-12)

<参考文献>
(1)原子力委員会:核燃料サイクルについて(平成15年8月)
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