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<概要>
 各種産業の現場で使用される工業計測器のなかで、放射線応用計測器は、他の方法が適用できない場所で用いられ、その多くは産業にとって不可欠な要として定着している。それらは放射線のもつ際立った特徴が産業界のニーズに上手く適合したものと言えよう。放射線の特性を生かし最も多く用いられているのは、γ線およびβ線の透過減衰計測である。次いで、γ線の散乱反射、中性子の散乱減速利用が独自の地歩を築いている。β線の散乱や蛍光X線発生など目立たないところで活躍しているものもある。中性子の透過・散乱等の利用は、一部が近年脚光を浴びたが、その可能性からみて未だ緒についたばかりであり、今後の開発に期待されるところが大きい。
<更新年月>
2005年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 放射線は、その際立った特徴・性質を利用し、これを検出・測定することによって、他の方法では不可能あるいは困難な種々の工業計測等に応用することができる。すなわち、1)物質を透過する性質、2)透過の際一部は散乱・反射する性質、3)X線や2次電子その他の2次放射線を発生する性質、4)物質中の原子分子をイオン化する性質など、特徴的性質があるため、光や電気などの応用ではできない独自の放射線応用計測の分野が創られてきた。広い意味では、特定成分や元素組成の分析計測もこれに含まれる。しかし、分析機器の多くは試験室で使用され、生産工程等の現場のオンライン制御に組み込まれる工業計器とは使われ方が異なる。ここでは、野外を含む産業の現場で使用される応用計測機器を中心に、原理とその利用法を示し、最近の進歩、動向についても触れる。
2.工業計測に利用される主な原理と特徴
2.1 γ線の強い透過力の利用
 放射線応用計測法を上の観点から見たとき、他の方法には無い際立った特徴の一つは、1)物質透過力の大きいγ線等を選んで用いれば、かなり厚い金属物体を貫通させることができ、2)透過した放射線の強度は物質の厚さ・密度が大きいほど減少し、しかも、3)その性質は物体の温度や圧力、速度、振動等の影響を受けないことにある。
 そこで、γ線透過率の測定によって、例えば、コンベア上を移動している高温度の鋼板の厚さを非接触・非破壊的にかつ迅速に計測できる。また、同じ原理・特徴を利用して、厚い金属壁をもつ高温・高圧容器内にある物体のレベルや、配管中を流れる液体の密度あるいは特定成分濃度などを、外部から連続的に計測することができる。
2.2 β線の弱い透過力の利用
 β線は連続エネルギー分布を持つ電子線であり、電子の物質透過特性もγ線とは異なるが、近似的に少なくとも限られた範囲では、エネルギーごとに定まった吸収係数をもつγ線同様の減衰特性を示す(後述3.1.2参照)。その吸収係数はγ線よりはるかに大きく、元素組成があまり変わらないかぎり密度だけに依存する。この性質は、紙やプラスチック薄膜など薄い物体の質量厚さ(単位面積あたりの質量)を計測するのに適している。
2.3 γ線後方散乱の利用
 計測対象物が非常に大きい場合など、その対象物に対してγ線を貫通させ透過率を計測することができない場合がある。このようなとき、対象物の片側の表面だけに線源と検出器を置き、内部の物体から散乱・反射してくるγ線を計測する後方散乱法が用いられる。γ線の場合、電子との作用(コンプトン効果)による後方散乱の確率は前方散乱に比し小さいが、広い角度範囲の散乱線を測定することで十分実用になる。地表面の土あるいは地下検層における地層の密度測定などに利用されている。
2.4 β線後方散乱の利用
 γ線のコンプトン散乱が密度に依存するのに対して、β線の散乱は特に軽い原子以外では、主として原子核との弾性衝突によって起こり、従ってその確率(原子当り)は原子番号とともに増加する。その結果、β線の後方散乱の度合は、散乱体の原子番号が大きいほど大となる。これを利用して、原子番号が大きく離れている二つの物質の一方が他方の基板上に薄層として存在するときなどに、その層厚さを比較的簡単なβ線測定器で計測することができる。
2.5 蛍光X線の利用
 低エネルギーγ線、X線等を試料に照射し、2次的に発生した特性X線を分光測定する方法、すなわち蛍光X線分析法は、汎用の分析機器として広く用いられている。この方法では、通常、X線管と結晶分光器または冷却式シリコン半導体検出器が使用される。また、RI線源と比例計数管またはシンチレーション検出器およびX線フィルターからなる携帯型簡易分析計も、相当数普及している。
 また、鋼板上の亜鉛あるいは錫メッキの厚さの計測の際、各蛍光X線を選別測定すれば高い精度が得られるので、最近はその製造工程における連続計測管理に、もっぱらこの方法が採用されている。高速応答性が必要なときは、RIに代わって高いX線強度の得られるX線管が用いられている。
2.6 中性子の散乱・減速ほか種々の利用
 中性子は、上記の放射線と異なり物質中の原子核とだけ反応するため、いくつかの特異的な性質がある。なかでも、水素含有物質等により容易に減速できる性質を利用すれば、線源から放出された速中性子(0.5MeV以上)を、熱外〜中速中性子(0.5〜500keV)あるいは熱中性子を含む低速中性子(0.5eV以下)に、エネルギーを変えて用いることができる。これによって、表1に見られるような多彩な応用計測が可能になる。
 このうち、最も早くから実用化したのは、速中性子の多重散乱・減速を利用した水分計である。上に述べたうちの最も単純な部分、すなわち、水素が他の元素に比し特に大きい中性子減速能を持つことに着目したのである。土壌用水分計などに現在も用いられている。同じ原理に基づくものでも、中性子反射材や減速材を効果的に組合せ使用することで、計測性能の著しい向上が可能になっている。
 また、表1中の速中性子の透過・減衰を利用する場合は、測定体積が比較的明確なことなどいくつかの利点があり、わが国において実用化された(後述3.4参照)。
3.工業計測機器における原理応用技法の実例
3.1 透過型厚さ計
 RI応用工業計測機器のなかで、γ線およびβ線の透過を利用した厚さ計は、次のような点で最も代表的なものと見なされる。すなわち、1)高速度で走行する大型のシート状物体の厚さを連続的に、2)非破壊・非接触、3)高速応答(0.1秒以内)で、かつ、4)高精度・高正確度(±0.1〜0.2%)のオンライン計測ができ、5)プロセス自動制御と結びつき、6)プラント操業に不可欠のものとなっている。実際の測定には、表2に示すRI線源が測定対象の厚さに応じて用いられる。
3.1.1 γ線厚さ計
 鉄鋼業において薄板を造る圧延工程には種々の厚さ計が装備され、厚さの制御、厚さの品質保証などで重要な役割を果たしている。通常、鋼板は幅が1〜2m、長さ50〜1000mm、厚さ5〜100mmで圧延後はコイル状に巻き取られる。
 γ線厚さ計は、主に製鉄所の鋼板圧延工程において使用されているが、圧延の初めの工程である赤熱した厚板の圧延段階では137Csの662 keVγ線が、また、かなり圧延の進んだ後の薄板に対しては241Amの60 keVγ線が利用される。一方、γ線検出器には、十分な検出効率と速い応答性を得るため、多くの場合、前者では大型のプラスチックシンチレータ、後者では高感度電離箱が用いられる。それらの線源と検出器とは、一般に図1のように、計測対象物である鋼板に対してかなりの距離を取って配置され、異常時の鋼板との衝突事故を避ける構造となっている。
3.1.2 β線厚さ計
 紙やフィルムの品質制御、検査の重要な要素として厚さがある。β線厚さ計は、紙およびプラスチック薄膜等に用いられるが、上述の趣旨から代表例として、製紙工場における抄紙(紙すき:紙を作るための原料を入れた水槽から引き上げ簀の上に薄く敷いて、紙とすること)工程の直後に使用される場合について述べる。
 製紙工業では、単位面積当りの質量(グラム/平方メートル)を坪量(つぼりょう)と呼び、見掛け厚さに代わって重要な品質管理の対象としてきた。この計測にはβ線透過法が適している。図2(1)のようにβ線源と検出器(電離箱)の間に紙を置いてβ線透過率を測定すると、図2(2)ように、実際上、坪量(BW:Basic Weight)に対して指数関数の減衰曲線が得られる。減衰曲線の勾配はβ線のエネルギーが低いほど急になる。この特性を利用して紙の坪量計測が行われている。図2(3)に典型的な坪量計の構成概念図を示す。実際には、線源部とセンサ部は非常に接近しており、その僅かな間隙を幅広い紙が高速度で走行している。また、紙の全幅にわたる(図では左右方向の)走査計測をするために、大型のO字型のフレームが用いられ、このフレームの上下に取り付けられたモノレールの上をセンサーと線源が同時に左右に移動する仕組みになっている。別のタイプとして、線源と検出器を同じ側に設置し、測定対象物からの散乱線β線数が厚さが増すに従い、増加する性質を利用したものもある(散乱法)。線源としては、90Sr,147Pm,204Tlで線源からのβ線エネルギーの最大は、それぞれ546keV,224keV,764keVである。
3.2 γ線透過型レベル計
 高温高圧容器や密閉されたタンクの内容物(液体や粉粒体)のレベル(これより上は気体)を、内部に何の測定センサも入れず全く外部から計測する方法として、γ線透過法はその特徴を十分に発揮したものと言えよう。γ線源と検出器の配置にはいろいろの方式があるが、図3にその基本形を示す。
 図3(a)は、一定の高さに線源と検出器を置き、内容物のレベルがその高さを超えたか否かでγ線の減衰が著しく変わることを利用した最も単純なオン・オフ型である。 図3(b)のように線源と検出器の高さを変えておくと、γ線の通過する内容物の厚さとともに減衰率が増え測定γ線強度は低下するので、一定範囲のレベルを連続的に計測できる。図3(c)は線源を高さ方向に広範囲に分布させ、レベル測定範囲を拡大したもの、図3(d)は同じ目的で検出器の方を上下に長くしたものである。
 実際に普及しているものでは、単純な形式のものが多いと思われるが、広範囲測定型では、低線量化を指向して(d)の方式が、長いプラスチックシンチレータを用いて新たに開発されるなど、歓迎される傾向にある。線源には137Csまたは60Coが一般的に用いられている。
3.3 γ線密度計
 配管内を流れる流体の密度計測等にはほとんど透過型が使用されるが、それにはすでに述べた厚さ計、レベル計と同種の原理・方法が用いられる。これに対して、土壌や地層など大型不定形の物体を対象とする場合は、散乱型をはじめ種々の方式があり、これらは主として、土木・建設あるいは地下資源探査等の分野で開発されてきた。ここでは、配管以外での密度計測法について概要を述べる。
 この場合、野外において移動して使用するため、可搬型のプローブが用いられることが多い。図4に土壌等を対象とした密度計の基本的な方式を示す。地表からある程度深いところを測定する挿入型(a),(b)と、地面に近い部分を測定する表面型(c),(d)とに分かれ、それぞれに、γ線の後方散乱と透過を利用するものがある。
 透過利用の場合(b),(c)は、いずれも、線源を地中に挿入し、かつ、検出器に対する距離を適切な値に保つことが必要な反面、一定空間の測定で精度が得られやすい。他方、散乱利用の場合(a),(d)は、一つのプローブ内に線源と検出器が装備されているので、操作上の自由度が大きいが、所要の計測性能を得るために考慮すべき条件が多い。
 一般に、図4(a)の後方散乱利用密度計では、測定γ線強度の対象物密度に対する校正曲線が、図5のように、低密度領域で正の勾配、高密度領域で負の勾配をもつ。この原因は、コンプトン散乱確率の増加とγ線の物質内での吸収減衰との競合による。ふつうは、負の勾配の方を利用するが、線源・検出器間距離等によって特性が大きく変わる点に注意して、プローブの条件を決めなければならない。
3.4 中性子水分計
 前述のように(2.6参照)、速中性子の散乱・減速・熱中性子化を利用する水分計が、最も古典的なもので今なお使われている。そのプローブの構成例を図6に示す。γ線密度計(図4)の散乱型と比較すると、非常によく似ているが、基本的にかなり違う点がある。すなわち、中性子検出器は熱中性子に対しては高い検出感度をもつが速中性子には殆ど感じないとの前提で、中性子線源を比例計数管に対しては密接状態で、また、シンチレータに対しては線源からのγ線遮蔽のため少しの距離をおいて使用している。なお、図6図4と同様に土壌を計測対象としたものである。対象が異なる場合、基本的原理は同様に利用できるが、具体的な応用の技術としては、実際の対象に即して検討を要することが多い。
 近年、高速道路やダムの盛り立て工事における土の締め固め管理に、上記のγ線密度計と中性子水分計とを組合せ一体化したものの需要が高まり、種々検討の結果、日本道路公団に採用された水分・密度計の例を図7(a)に示す。水分計にも速中性子透過型をとり、法規制外の252Cf中性子線源(1.1 MBq以下)と60Coγ線源(2.6 MBq以下)を用いて、良好な計測性能(図7(b)参照)を得ている点が注目される。
 巨大なホッパーから落下するコークスを対象として、252Cfの速中性子(平均エネルギー約2MeV)とγ線(平均エネルギー約1MeV)の各透過率を同時に測定する水分・密度計測技術(図8参照)が、わが国で開発・実用化され世界の関係者に大きな影響を与えた。単一の有機シンチレータで検出した中性子とγ線のパルス信号を、その波形の違いにより分離して計測する方法を工業計測器として実用化したことでも意義がある。図8のシステムで、低水分のコークスに対して計測精度が0.17水分%(1標準偏差)という従来法に比べ数倍の画期的な性能が製鉄所の現場において確認された。
 溶鉱炉には、コークスと鉄鉱石が交互に数分おきに装入される。装入された原料の装入形状を知るために、2TBqの137Cs線源を備えた高炉装入物プロファイルメータがある。定期的に計測すると、装入面の内5〜6mを位置の計算精度±10cm、20秒間で計測し、原料の降下状況を観測することができる。
<図/表>
表1 中性子応用計測における種々の原理と利用法
表1  中性子応用計測における種々の原理と利用法
表2 放射線透過型厚さ計に用いられるRI
表2  放射線透過型厚さ計に用いられるRI
図1 鋼板用γ線透過型厚さ計の一般的構成
図1  鋼板用γ線透過型厚さ計の一般的構成
図2 β線透過型厚さ計の代表例としての紙坪量計
図2  β線透過型厚さ計の代表例としての紙坪量計
図3 種々のγ線透過型レベル計
図3  種々のγ線透過型レベル計
図4 可搬型γ線密度計の種々の方式
図4  可搬型γ線密度計の種々の方式
図5 γ線後方散乱利用密度計(挿入型)の典型的出力特性
図5  γ線後方散乱利用密度計(挿入型)の典型的出力特性
図6 中性子散乱・減速利用水分計の構成例
図6  中性子散乱・減速利用水分計の構成例
図7 表面透過型水分・密度計と測定結果例
図7  表面透過型水分・密度計と測定結果例
図8
図8

<関連タイトル>
放射線の分類とその成因 (08-01-01-02)
放射線の吸収エネルギー (08-01-02-01)
放射線の電離作用 (08-01-02-02)
放射線と物質の相互作用 (08-01-02-03)
放射線の写真作用 (08-01-02-04)
放射線の蛍光作用 (08-01-02-05)
RIの分析計測機器への応用原理 (08-04-03-03)

<参考文献>
(1)富永 洋:11.中性子の利用、2.中性子応用計測−水分計および元素分析計、Radioisotopes,46,(9),675-680(1997)
(2)鷲見 哲雄:3.1 放射線応用計測、放射線応用技術ハンドブック(石榑 顕吉ほか編)朝倉書店(1990年11月)p.181-185
(3)白川 芳幸:2. 産業各分野におけるRI等利用例、1. 鉄鋼分野−γ線厚さ計を中心に−、Radioisotopes,46,(6),371-377(1997)
(4)幸 一彦:2. 産業各分野におけるRI等利用例、3. 紙・パルプ産業分野、Radioisotopes,46,(7),464-471(1997)
(5)大野 博教:放射性同位元素装備機器(5),密度計、Radioisotopes,22,(5),271-278(1973)
(6)Shirakawa,Y. et al.: An instream gamma-ray scatter gauge for sintering plant control in the steel industry,Nucl. Geophys.,3,(2),147-156,(1989)
(7)Neutron moisture gauges,Technical Reports Series No.112,p.29 IAEA,Vienna(1970)
(8)ラジオアイソトープによる盛土管理手法の研究報告書、(財)高速道路技術センター(1984)p.8,およびp.39
(9)富永 洋:最近のラジオアイソトープ工業利用開発、日本原子力学会誌、25,(9),676-682(1983)
(10)富永 洋 他:特集、RI放射線計測の応用技術、放射線と産業、No.96(2002),p4-16
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