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<概要>
 核融合炉工学の中心課題のひとつは、14MeV中性子場に耐える材料を開発することである。そのために必要な中性子照射試験施設を国際協力で実現しようとしているのがIFMIF計画である。主な目的は、(1)ブランケット構造材料が耐用期間に受ける中性子照射量(例えば、〜15MW年/m2)までの材料特性データの取得、(2)現在進めている核分裂炉などで取得した照射データを核融合炉に適用するための相関則の確立、(3)トリチウム増殖材、中性子増倍材及び接合材を含むブランケット機能の照射下での確証等である。IFMIFは10年近い建設期間と20年以上の長期に及ぶ運転が求められるため、国際的な協力体制が不可欠であるとして1995年より5年間の概念設計においてD−Liストリッピング方式の加速器中性子源の基本概念が固まり、2000年から3年間は要素技術の確証試験を進めた。次の段階である工学実証・工学設計活動は、幅広い活動(BA)の一環としてIFMIFの建設に向けての工学設計と主要機器の工学実証活動(IFMIF/EVEDA、Engineering Verification and Engineering Activities)として、日欧間で実施されることになった。原型加速器の実証試験を実施するため、国際核融合エネルギー研究センター(青森県六ヶ所村)にIFMIF/EVEDA開発試験棟が2010年3月に竣工した。また、2010年12月には、日本原子力研究開発機構に設置されるリチウムテストループに係わる許認可取得が報告された。
<更新年月>
2011年08月   

<本文>
1.計画の意義と目標
1.1 計画の意義と経緯
 重水素−トリチウム反応(D-T反応)による核融合エネルギーを実用化するには、積算で10〜15MW年/m2を超える14MeV中性子負荷に耐えるブランケット構造材料が必要である。材料開発を進めるには実際の使用環境を模擬した強力な中性子源が不可欠である。現在、世界のどこにもこのような中性子源は存在せず、ITERが稼動した場合でも積算中性子負荷は0.3MW年/m2にとどまる。そのため国際協力による中性子照射試験施設実現への気運が高まり、国際エネルギー機関IEA)の活動の下で国際核融合材料照射施設(IFMIF:International Fusion Materials Irradiation Facility)に、重陽子−リチウム(D-Li)ストリッピング反応による加速器型中性子源方式が採択された。図1に各種中性子源の特徴を重要因子である弾き出し損傷量とヘリウムガス生成量とを用いて比較する(参考文献3)。これまで1995年から5年かけて概念設計をまとめるとともに、2000年以後は重要な構成要素である大電流重陽子加速器系、高速液体Liターゲット系、計測キャプセルを収容するテストセル系等の様々な技術開発(KEP:Key Element technology Phase)を進めてきた(参考文献2)。最近は次段階に予定する工学実証・工学設計活動(EVEDA:Engineering Validation and Engineering Design Activity)への各極の参加判断を検討するための基本資料となる総合設計報告書(CDR: Comprehensive Design Report)を2004年1月に完成した(参考文献1)。
 2004年5月より4回に及ぶピアレビュー会合、また、同年9月に開催された第19回執行小委員会、技術会合、ターゲット技術会合等を経て、同年11月にはIFMIF計画ピアレビュー報告書が完成した。さらに、2005年5月には東京において第20回執行小委員会及び技術会合が、さらに2005年11月〜12月にはサンタバーバラにおいて第21回執行小委員会と関連会合が開催され、IFMIF建設に向けた検討が進められた。
1.2 計画目標
 IFMIFの最大の目標は、核融合炉の材料がそれぞれの耐用期間中に受ける中性子照射損傷に耐えることの実証に資するデータを得ることにある。その場合、照射試験に必要な中性子の強度と照射体積を十分確保するとともに、14MeV中性子の特徴であるカスケード型の弾き出し損傷と核変換によるヘリウム等のガス原子生成に伴う相乗効果を精確に模擬することが不可欠である。計画では主として発電実証プラントに使用されるブランケット・第一壁構造材料やブランケット材料(トリチウム増殖材及び中性子増倍材)の中性子照射による材料特性挙動評価と炉設計用データベースの構築が行われる。これに加えて、IFMIFが利用できるまでの代替照射手段として核分裂炉等によって取得される膨大な照射データを核融合炉に適用するための相関則の確立や、ブランケット構造モジュールの照射下での機能挙動を確認する役割などを担う。
1.3 幅広いアプローチ計画の実施
 国際熱核融合実験炉計画(ITER)については、2005年6月、サイトがカダラッシュ(フランス)に決定し、また、同年9月にはITER計画推進検討会において「幅広いアプローチ(BA)」プロジェクトの内容が定められた。2006年11月、ITER協定の署名が行われるとともに、BAサイトが青森県六ヶ所村に決定した。BA協定の署名は2007年2月に行われた。ITER協定、BA協定締結の国会承認は2007年5月である。これ以降、IFMIF計画はBA活動の一環としてIFMIFの建設に向けての工学設計と主要機器の工学実証活動(IFMIF/EVEDA、Engineering Verification and Engineering Activities)が日欧間で実施されることになった。なお、IFMIF/EVEDAの他に、BA活動では国際核融合エネルギーセンター(青森県六ヶ所村)、サテライトトカマク(茨城県那珂市)の両計画が推進されている。図2にBA協定の主要な枠組みとIFMIF/EVEDAの概略を示す。また、図3にIFMIF/EVEDAの事業スケジュールを示す。
 以下に、IFMIFについての総合設計報告書に基づき、その概要を示す。
2.基本仕様
 IFMIFの基本的要求仕様は、出力約40MeV、125mAの重陽子加速器2台から発生する合計10MWのビームと液体Liとを反応させ、1018n/m2/sを越える強度の中性子を発生させ、照射損傷速度50dpa/年の照射域体積100cm3、20dpa/年で500cm3を70%の施設稼働率で確保することで、これにより2〜3年程度で最大およそ150dpaの照射量となる。(dpaについては本文末の補注を参照。)表1に主要な要求性能を、図4にIFMIFの照射試験対象領域を示す。照射試験では微小試験片技術を用いて照射体積の有効利用を図るとともに、試料内の温度制御は10℃以内に中性子束の偏差は10%以内とすることなどが要求される。
 加速器に特有の一時的なビーム停止については1〜2分以内での再起動等が求められる。ターゲット系Liループの起動は12時間以内に行う一方、停止は3日程度かけて徐々に行う。定期保守点検ではループを2日間運転し崩壊熱除去後、照射用キャプセルやターゲットアセンブリを遠隔操作で交換する。照射中にビームが完全停止した時は、高温状態のままでは照射損傷が回復してしまうため直ちに試料の冷却が行われる。
 安全面ではLi漏洩に対処するため、ループをアルゴン雰囲気とし飛散を防護する対策を施す。換気系は放射化リスクに応じた区域分けを行い負圧管理する。施設運転時の電力は50MVA、冷却水は加速器系が27MW、ターゲット系その他で13MWの容量を要する。トリチウム処理は透過膜とゲッター材を用いたアルゴン排気系、酸化触媒と分離膜を用いた空気排気系にて行われる。
3.主要構成要素
 図5にIFMIFの鳥瞰図と主要構成を示す。この中の3つの主要構成要素(テストセル施設、液体Liターゲットループ、重陽子線形加速器)について以下に解説する。
3.1 テストセル施設
 テストセルは核融合炉材料のための種々の照射環境を提供する場所である。温度と中性子フルエンスのような重要な照射パラメータが材料に応じて適切に設定できるような工夫がなされている。照射用の装置には垂直型テストアセンブリ(VTA)と垂直型照射チューブ(VIT)がある。VTAは試料の照射部であるテストモジュールと遮蔽体プラグが一体となったものである。主に照射後試験用のキャプセルとトリチウムその場放出実験などを行うキャプセルとがあり、比較的低いエネルギー領域の中性子スペクトルについても核融合炉環境との近似が上がるよう、減速材/反射体を組み込むようにしている。表2に要求仕様の一覧を示す。
3.2 液体Liターゲットループ
 ターゲットは10MWのビーム入熱を受け止めるため、26cm幅、2.5cm厚で最大流速20m/sの液体Liを流す。Liは比重が水の半分ほどで水と激しく反応するほか、酸素、窒素とも反応するためアルゴンガス雰囲気で管理される。ビームの入射窓は使用できないため自由表面とし、真空差動排気により0.001Paの真空度に維持する。減圧下での液体金属ループ運転となるため電磁ポンプによるキャビテーション(液体金属中での空洞発生)を防ぐよう、ループ配管の高さは9mとしている。ターゲットアセンブリは強く放射化するため、定期点検時の保守交換は全て遠隔操作で行う。少量の放射化生成物や不純物が放射化レベルを上げ遠隔操作等を難しくするおそれがあり、また配管腐食を引き起こすため各種ゲッター材を配したトラップからなるLi純化系を用いて厳しい純度管理が行われる。表3に要求仕様の一覧を示す。
3.3 重陽子線形加速器
 加速器は2台の125mA加速モジュールからなる。各加速モジュールは入射器、175MHzの高周波四重極加速器(RFQ)、同じく175MHzのドリフトチューブ型線形加速器(DTL)、高エネルギービーム輸送系(HEBT)及び高周波電力システムから構成される。RFQは100keVの直流ビームを5MeVの連続波(CW)ビームとし、DTLでさらに40MeVまで加速する。HEBTはビームを輸送しながら丸いビームからLiターゲット上で幅20cm/高5cmの矩形状となるように変換する。加速器としては類例のない高安定動作が要求され、目標稼動効率88%を達成するため長寿命のイオン源や高周波源の開発が鍵となる。表4に要求仕様の一覧を示す。
4.IFMIF/EVEDAの実施体制と実施状況
 IFMIF/EVEDA事業は、事業チーム、日欧のホームチームから成る統合事業チームによって実施されている。各ホームチームは加速器施設グループ、試験施設グループ、ターゲット施設グループから成り、日本ホームチームは、実施機関の日本原子力研究開発機構及び共同研究を行う大学等から構成される。欧州ホームチームは実施機関のFusion for Energyを中心として、加速施設、試験施設、ターゲット施設各々について、CEA(フランス)、CIEMAT(スペイン)、INFN(イタリア)、SCK-CEN(ベルギー)、KIT(ドイツ)、EPPL/CRPP(スイス)、ENEA(イタリア)等が分担して担当している。日欧実施機関のコーディネータが各ホームチーム内の調整、とりまとめを行っている。
 IFMIF/EVEDAにおける原型加速器の実証試験を実施するため、国際核融合エネルギー研究センターにIFMIF/EVEDA開発試験棟が2010年3月に竣工した。また、2010年12月には、日本原子力研究開発機構に設置されるリチウムテストループに係わる許認可取得が報告された。
5.コスト評価
 IFMIF計画のコストは、EVEDA、建設、据付け・検査、運転及び廃止の各活動フェーズに細分化して、評価されている。その結果によると、EVEDAの費用は人件費などの共同チーム経費を含めて約86MICF、建設費は約540MICF、据付け等に117MICF、運転費は250mA定格運転時に年間約79MICF、廃止に約50MICF必要となる。計画全体のコストはEVEDAから施設廃止までの約40年間で、総額2620MICF規模となる。(注:1MICF=1MUS$)

[補注]dpa(displacements per atom):高エネルギーの放射線(主に中性子)が物質に入射し、特定原子(標的原子)に衝突して「はじき出し(displacement)」が起こり、これを起点として衝突カスケード(はじき出しの連鎖)が発生した際に、標的原子1個当たりに発生するはじき出しの回数をいう。ここで、はじき出しとは、結晶格子内にある原子が通常の位置から移動することを指す。放射線による照射損傷形成への影響を表す指標として、入射量よりは適切な指標として用いられているが、はじき出しの数は必ずしも損傷量には対応しないので、dpaは損傷の程度を示す目安の尺度と考えられている。
(前回更新:2006年8月)
<図/表>
表1 核融合材料照射源への要求
表1  核融合材料照射源への要求
表2 テストセル系への要求仕様
表2  テストセル系への要求仕様
表3 ターゲット系への要求仕様
表3  ターゲット系への要求仕様
表4 加速器系への要求仕様
表4  加速器系への要求仕様
図1 照射中性子源の特徴
図1  照射中性子源の特徴
図2 BA活動におけるIFMIF/EVEDAの概要
図2  BA活動におけるIFMIF/EVEDAの概要
図3 IFMIF/EVEDAの事業スケジュール
図3  IFMIF/EVEDAの事業スケジュール
図4 IFMIFの照射試験対象領域
図4  IFMIFの照射試験対象領域
図5 IFMIFの鳥瞰図と主要構成
図5  IFMIFの鳥瞰図と主要構成

<関連タイトル>
核融合炉の概念 (07-05-01-02)
核融合炉開発の展望 (07-05-01-04)
核融合炉工学の研究開発課題(6)材料工学 (07-05-02-06)

<参考文献>
(1)IFMIF International Team:IFMIF Comprehensive Design Report(Jan.2004),


(2)IFMIF International Team:IFMIF Key Element Technology Phase Report, JAERI-Tech 2003-005 Mar.2003
(3)松井秀樹:国際核融合材料照射施設(IFMIF)計画の概要、第11回核融合研究開発基本問題検討会(2003年9月29日)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kakuyugo2/siryo/kaihatsu11/siryo11.pdf#page=1
(4)(独)日本原子力研究開発機構 那珂核融合研究所ホームページ:
(5)松井秀喜 他:プラズマ・核融合学会誌、82巻、No.1、2006、3-29
(6)Workshop on Advanced Computational Materials Science:Application to Fusion and Generation IV Fission Reactors, Washington DC, March 31-April 2, 2004, USDOE Office of Science, ORNL/TM-2004/132(June2004):

(7)木村晴之 他:国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動、J.Plasma Fusion Res. Vol.86, 223-230(2010)、
http://www.jspf.or.jp/Journal?PDF_JSPF/jspf2010_04/jspf2010_04-223.pdf
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