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<概要>
 原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器、配管のうち、特にATR 特有の圧力管集合体などの設計には、燃料装荷、強い放射線照射の酷しい使用条件下で原子炉寿命期間中その健全性を確保できる見通しを得るまで、大きな研究開発努力が払われた。また漏洩検出装置、供用期間中検査(ISI)装置の研究開発が続けられている。運転開始後定期的にISIおよび圧力管材料の照射後試験が行われており、設計の妥当性が確認されている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 「ふげん」原子炉冷却系の機器、配管系は全体で冷却材圧力バウンダリを構成している。 図1 にATR「ふげん」原子炉冷却系の系統図を示す。圧力バウンダリは安全上冷却材の漏洩または破損の可能性が極めて少なく、異常な過渡変化時にもその健全性が確保され、万一冷却材の漏洩があった場合も速やかに検出でき、然も脆性破壊的挙動を示さないことが要求される。
 ATRには軽水炉技術の知見、経験を活用できるが、ATR特有の圧力管集合体および配管類の健全性確保のためには新たに研究開発が行われた。特に炉心部の圧力管集合体およびシールプラグは軽水炉の圧力容器に相当する重要機器であり、強い放射線照射の酷しい使用条件下にあるので、その研究開発には照射試験を含む材料特性試験、試作等に多くの努力が払われ、「ふげん」に使用できる圧力管集合体が開発された。
 また圧力管集合体を始め圧力バウンダリの機器、配管に対する供用期間中検査(ISI)装置および出入口配管群の漏洩検出装置の開発が早期に着手されており、さらに性能向上が図られている。
 「ふげん」運転後は定期的にISI、圧力管材料監視試験片の照射後試験が行われ、設計の妥当性が確認され、冷却材圧力バウンダリの健全性は確保されている。
1.圧力管集合体の研究開発
 圧力管集合体は炉心部の圧力管および機械的に接合された上・下部延長管より構成される。 図2 は「ふげん」圧力管集合体構造図を示す。
 圧力管材料には中性子吸収の少ないZr-2.5%Nb 合金が採用されていて、使用温度条件下ではクリープ歪みを生ずるため、従来の圧力容器設計手法の適用外となる。そこで材料試験、照射後試験結果に基づき、全使用期間における累積歪みの制限値を設定し、運転中定期的な圧力管検査によりクリープ歪みを実測、予測との比較をその都度確認することにした。また、破壊が伝播しない温度を超えた領域で使用するので、圧力管の脆性を考慮した健全性評価のために、あらかじめ貫通亀裂または表面欠陥をつけた試験材管に繰り返し内圧を加え、亀裂の進展および不安定破壊発生を調べた。その結果実際の原子炉運転においては脆性破断を生ずる前に予め小さな漏洩が検出される(LBB(Leak Before Break)概念)ことが確認された。
 ジルコニウム合金の圧力管本体と上・下部延長管材料のステンレス鋼との溶接は不可能であり、機械的接合(ロールジョイント)法によって接合する必要があった。ロールジョイント部および下部延長管下端のシールプラグを装着する部分の材料は高強度、高硬度で延性、靱性をもち同時に溶接性、耐蝕性も要求され、新たにマルテンサイト系ステンレス鋼が開発された。
 ロールジョイント法の確立を図るため一連の研究開発が行われた。接合部形状寸法および拡管率を含む最適拡管条件を確認し、短尺圧力管により気密性、耐圧性、強度に影響を与えると考えられる因子を変えた試作試験を繰り返し、熱サイクル試験結果は許容基準より著しく低いヘリウムリーク特性と十分な機械的特性をもつロールジョイント法が開発された。ロールジョイント部の高い残留応力を除去することにより、水素遅れ割れの発生が未然に防止できることが確認された。
 圧力管集合体は特殊な材料、構造を採用しており、製作、据付に先立って設計基準を確立、特殊材料についての健全性評価および特殊構造についての試作開発による確認が行われ、原子炉寿命期間を通じてその健全性を確保できる見通しが得られたものと判断されて、製作、据付が行われた。なお圧力管集合体は現地で全数応力除去がおこなわれた。運転開始後の材料の挙動、特性の変化状況はISI検査および監視試験片の照射後試験により継続的に監視されている。
2.シールプラグの研究開発
 シールプラグは圧力管下部延長管下端(開口部)に装着され、冷却材圧力バウンダリを構成する重要な機器である。原子炉運転中は冷却材の漏洩がなく、また燃料交換装置により確実に着脱できなければならない。
 「ふげん」用シールプラグの研究開発には、材料試験、応力解析、機能試験が実施され、数次にわたる試作開発を経て最終設計が行われた。 図3 はシールプラグを圧力管に装着した状態を示す。シール部はシールエレメントにチタン合金を用いた第1シール部とゴム製Uパッキンを用いた第2シール部とからなる。原子炉運転時の原子炉冷却材のシールは、冷却材圧力によりドームが下部延長管内面のシール面に押し拡げられ圧着する、セルフシール構造が採用されている。シールプラグの固定はボールラッチ機構でおこなわれる。 最終設計の妥当性を確認するため、実機条件(200℃、72kg/cm)を模擬した炉外耐久試験が実施された。試験体5体、最長15,000時間の試験により、シール性能、腐食性、シールエレメントの外径変化が調べられ、シールプラグからの漏洩率は許容値より遙かに低く、最大でも2.5cc/h 、最小は検出限界以下であり、その機能、健全性が確認された。
 「ふげん」では224体のシールプラグが装着されており、第9回定検までシールプラグ取替体数は1,269 体に達している。冷却材の漏洩はシールリーク系により常時監視されており、これまで漏洩率は許容値300cc/h に比べ殆どゼロである。取り出したシールプラグは分解点検されたが、主要部にはクラッド、腐食、変形の異常は認められていない。現在までシールプラグは分解・点検後シールエレメントを交換し、次期装着用に整備されているが、シールエレメントは材料特性、機能に全く問題がなく再使用が考慮されている。
3.検査技術の研究開発および健全性評価
(1) 圧力管集合体
 圧力管検査の研究開発は早期に着手され、最初の検査装置は「ふげん」の運転前の検査に使用された。重量20トンの大型装置のためプラント停止期間延長や被曝増大の問題があるので、新たに、燃料交換装置により圧力管集合体内に挿入され検査を行うことができる小型検査装置の開発が開始され、重量約1/100 の3種の検査装置が製作された。本装置は原子炉内の冷却水を抜く必要がなく、遠隔操作で圧力管本体の超音波探傷、寸法測定、上部・下部ロールジョイント部の超音波探傷および管内表面肉眼検査を短期間に行うことができる。検査機能は較正機構内蔵のため高く、深さ0.05mm、長さ5mm の人工欠陥検出が可能で、内径測定は±20μm の精度である。
 「ふげん」圧力管集合体の超音波探傷検査ではこれまで欠陥は一切認められず、内径および長さのクリープ特性と中性子照射量の関係が設計評価式による予測と良い一致を示すことが確認された。 図4 は周方向クリープ特性と照射量との関係を示す。
 圧力管の照射挙動は、「ふげん」の運転開始時から炉心内に特別設けられた高い中性子束条件下で加速照射された圧力管監視試験片の照射後試験結果より、予測することができる。試験の結果材料特性は設計範囲を満足し、その健全性が確認されている。
 また圧力管からの冷却材漏洩は、管の外層を流れる炭酸ガスの湿分によって1/10,000cc/secオーダーの検出感度で常時監視されており、これまで湿分の上昇は認められていない。
(2) 入口管・出口管
 圧力管集合体に接続する配管群を構成する入口管・出口管は、小口径、薄肉のため外表面検査が規定されているに過ぎず、「ふげん」では当初滲透探傷試験を実施していたが、応力腐食割れSCC)の早期発見のため配管表面のクラックの検出が必要となり、小口径配管用超音波探傷技術の研究開発と検査装置の自動化が進められた。
 配管に取付けるためのクランプ装置、配管の周方向および軸方向へ自動走査する駆動装置を備えた軽量、可搬型のISI装置が開発され、検査員の被曝低減、検査期間の短縮を達成することができた。
 検査困難な入口管ノズル溶接部に対しては、圧力管下部延長管内側から挿入、検査するISIロボットの開発が進められている。
 多数の入口・出口管群を対象とした早期漏洩検出法の開発が進められ、アコースティック・エミッション(AE)およびマイクロホンを使用する両方法について、模擬漏洩試験による漏洩音特性および「ふげん」の環境雑音特性が明らかになり、検出機能の評価が行われている。
<図/表>
図1 「ふげん」原子炉冷却系系統図(1/2ループ)
図1  「ふげん」原子炉冷却系系統図(1/2ループ)
図2 「ふげん」圧力管構造図
図2  「ふげん」圧力管構造図
図3 「ふげん」シールプラグの圧力管装着図
図3  「ふげん」シールプラグの圧力管装着図
図4 「ふげん」圧力管の周方向クリープ特性と中性子照射量との関係
図4  「ふげん」圧力管の周方向クリープ特性と中性子照射量との関係

<関連タイトル>
新型転換炉の原子炉本体 (03-02-02-05)
新型転換炉の冷却システム (03-02-02-07)
新型転換炉の供用期間中検査技術開発 (03-02-04-04)
原型炉「ふげん」 (03-04-02-09)
新型転換炉の安全研究の概要 (06-01-03-01)

<参考文献>
(1)「ふげん」の開発実績と「実証炉」の設計 1979.11 動力炉・核燃料開発事業団
(2)動燃技報 No.69 1989.3 動力炉・核燃料開発事業団
(3)動燃技報 No.73 1990.3 動力炉・核燃料開発事業団
(4)新型転換炉原型炉「ふげん」技術成果の概要 1991.8 動力炉・核燃料開発事業団
(5)新型転換炉技術成果報告会予稿集 1991.12 動力炉・核燃料開発事業団
(6)動燃技報 No.80 1991.12 動力炉・核燃料開発事業団
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