<本文>
1.通常運転時の燃料の健全性
軽水炉に較べて、FBRの燃料は高速中性子による
照射を受け、かつ高温状態で使用される。燃料最高温度は軽水炉で約1,800 ℃に対し、FBRでは約2,300 ℃と高い。また
燃料被覆管は
冷却材である金属ナトリウムと接しているので、万一被覆管が破損した場合には燃料とナトリウムの相互反応も起こり得る。また中性子束も1桁高く、約20万MWD/Tという高
燃焼度を目標としている( 軽水炉は約5万MWD/T )。このようにFBRの燃料は厳しい使用条件の下におかれている。このため、FBR燃料の健全性を確保するため各国とも精力的に研究開発が進められている。
わが国でも、高速実験炉「常陽」によって新材料被覆管を含めた照射試験が繰り返されており、400W/cmの高線出力によって集合体平均最大燃焼度94,000MWD/T 、燃料ペレット130,000MWD/Tまでの
照射後試験データが明らかにされている。酸化物燃料MOXの高燃焼度挙動については、燃焼度が進むにつれて燃料融点が10,000MWD/T あたり約7 ℃降下することが確認されている。また
燃料ピン外径増加は被覆管の
スウェリングおよび照射クリープに左右されるのでこれらのデータが集積されてきている。高燃焼度に伴う燃料破損時の
FP( 核分裂生成 )ガスの放出挙動についても
燃料要素の変形、組織変化、内圧等の解析と共に評価されている。
燃料は原子炉の運転中所定の性能を発揮し、信頼性と安全性が保証されなければならない。加えて経済性の理由から高燃焼度を達成して長寿命化されることが要求されている。燃料の設計で重要なことは、通常のプラント運転状態では燃料最高温度がその融点を超えないこと、および被覆管が破損しないことを基準として適切な裕度をもって健全性を保証することである。燃料設計に当たって考慮される主要な因子を燃料ピンと被覆管について
図1 に関係づけて示す。
図2 には
燃料集合体の構造例を示す。
これらの各因子の影響を調べ、改善するために原子炉による各種の照射試験が行われ解析評価されている。燃料の長寿命化は被覆管強度に依存しているので、燃焼に伴い被覆管の破損に至る挙動解析は重要で、日本では燃料挙動解析コードCEDAR が開発されている。
図3 にCEDAR コードによる燃料組織変化解析結果を示す。通常運転時のみならず、異常な過渡変化挙動、過出力時の溶融燃料の取扱い、短時間被覆管変形等の挙動追跡は重要であり、1995年3月現在過渡状態の解析機能を改良中である。
FBR燃料の高性能化、長寿命化については実験炉より
原型炉、
実証炉、実用炉と進むに当たり
図4 に示す燃料材料開発の目標が立てられている。被覆管材料について改良SUS316鋼より改良オーステナイト鋼、高強度フェライト鋼により耐スウェリング性の良い材料が期待されている。
2.事故時の燃料挙動
原子炉の事故時に、安全棒の
スクラムに失敗するとか、配管が破断して冷却機能を喪失するとかの事象が組み合わされると、燃料は溶融し被覆管は破損するという事態を避けられない。従って燃料の過渡的な挙動については、炉心の核・熱流力・動特性の立場から十分解析評価しておかねばならない。
(1) ワイヤスペーサー損傷による燃料ピンの接触
ピン接触については7 本のヒーター・バンドルを用いて2本、3本、7本のピンが 53mmにわたって線接触した場合のピン表面温度分布を測定し、この結果から、燃料ピンの損傷を招く温度上昇は生じないことが分かっている。
(2)
FPガス放出
燃焼度が10万MWD/T 、内圧70気圧という燃料ピンの被覆管が破損してFPガスがジエット状に噴出されるという想定で、隣接する燃料ピンへの影響を調べるために水中可視化した実験が行われた。ガスジエット衝突面の熱伝導率の低下は小さく、FPガス放出によって燃料集合体が損なわれることはない結果となった。
(3) 集合体流路閉塞
燃料集合体の流路に何らかの原因で異物がはさまって流路が閉塞されることを想定すると、局所的に燃料の高温部ができ、燃料が損傷することが考えられる。このため最大91本ピンバンドル試験体により局所流路閉塞試験を行ったが、中心部閉塞で80% 以上が閉塞しないと局所沸騰は起こらないことが分かった。
フランスのカダラッシュ原子力研究所と動燃(現日本原子力研究開発機構)との国際協力では、カブリ炉を使ってピン単体が溶融した場合の試験、またスカラベ炉を使った燃料集合体入口近傍で大規模な閉塞が生じた場合の燃料破損試験を行い隣接する集合体への伝播挙動を解析評価している。いずれの場合にも隣接する集合体には影響なく、局所的事象に止まり、炉心全体に波及しないことが確認された。
(4) 燃料破損限界試験
正常な運転状態における燃料挙動については多くのデータが照射後試験で蓄積されていて破損にいたることはなかった。
アメリカのアルゴンヌ国立研究所ではアイダホフォールズのEBR−IIを使って、過出力状態での燃料挙動試験(TOP試験) や破損限界まで苛酷な照射運転を続けるRBCB(Run Beyond Cladding Breach) 試験が行われている。わが国でも実験炉「常陽」でこの種の試験が行われている。
(5) 溶融燃料・ナトリウム相互作用(FSI)
燃料が破損、溶融すると、溶融燃料とナトリウムが直接反応する溶融燃料・ナトリウム相互作用(FSI) が発生することが想定される。FSI 時に発生する圧力は炉心への機械的負荷となる。そして同時に発生するナトリウム蒸気泡は炉出力に影響を与える可能性がある。また飛散した溶融物質(デブリ)は炉心の流路閉塞の原因と成りかねない。このためFSI 試験が行われナトリウム中に放出される燃料デブリの粒径も観測されたが流路閉塞を起こすような大きさにならぬことが明らかにされた。
<図/表>
<関連タイトル>
高速増殖炉のプラント構成 (03-01-02-02)
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の燃料設計 (03-01-02-06)
ナトリウムの特性 (03-01-02-08)
高速増殖炉の安全対策 (03-01-03-06)
高速増殖炉想定事故の安全評価 (03-01-03-07)
高速増殖炉におけるシビアアクシデントの研究 (06-01-02-08)
<参考文献>
(1)動力炉の実用化を目指して( FBRの研究開発 ) 、第5 章燃料材料開発、第7章 全研究、平成2年3月、動力炉・核燃料開発事業団。
(2)柴原 挌:高速増殖炉工学基礎講座、第3 章燃料工学( その1 )、原子力工業、 Vol.35、No.6、1989。
(3)柴原 挌:高速増殖炉工学基礎講座、第3 章燃料工学( その2 )、原子力工業、 Vol.25、No.7、1989。
(4)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状 平成6年、平成7年2月