<本文>
原子力のエネルギー利用や放射性物質を利用した医療や工業、原子力に関連した研究開発などにおいて発生する廃棄物のうち、放射性物質を含むものを放射性廃棄物という。この廃棄物中には人体や環境に影響を与える放射性物質が含まれていることから、この廃棄物の処分に関する措置は原子炉等規制法、
放射線障害防止法等の規制を受け安全性確保の上から適切に行う必要があり、一般廃棄物や産業廃棄物の処分で求められる有害物質や重金属等による化学的毒性に対する措置と異なったものとなる。
放射性廃棄物は、発生施設内で濃縮や減容、固形化等の処理を行った後、処分場に移送し、最終的に陸地に埋設処分を行って人間の生活環境から隔離することにしている。
1.各種廃棄物の発生
われわれの日常生活において、家庭やオフィスから、生ごみ、粗大ごみ、し尿などの一般廃棄物が、また、事業活動に伴い、廃材、汚泥、廃油、廃プラスチックなどの産業廃棄物が発生する。
原子力分野での事業活動においては、
原子力発電所、核燃料サイクル施設(燃料製造、再処理等)および原子力の研究開発などを行う
原子力施設から、その運転・保守等の活動によって気体状、液体状および固体状の廃棄物が発生する。このうち、放射性物質で汚れたもの、放射性物質を含むもの(例えば、施設からの排気、洗浄水などの排液、作業に使った衣服、紙くず、布きれ、工具、廃機器・資材、フイルター、スラッジ等)を「放射性廃棄物」という。また、
放射性医薬品を用いて医療診断、治療、検査等を行う病院、診療所、衛生検査所や放射性医薬品メーカー等からも同様に放射性廃棄物が発生する。これらの放射性廃棄物の発生量は、一般廃棄物や産業廃棄物の非放射性廃棄物に比べて極めて少ない。
表1に廃棄物の区分、
表2に日本で発生する廃棄物の量を示す。
このような放射性廃棄物を一般廃棄物や産業廃棄物などの非放射性廃棄物と区分する理由は、廃棄物中に含まれる放射性物質が人体や環境に有害な影響を与えないように固有の対策を必要とするからである。
2.放射性廃棄物の特徴
放射性廃棄物の特徴は、廃棄物中に含まれる放射性物質の
核種が固有のエネルギーをもった放射線を放出し(
放射能を持っている)、核種によっては、長期間、放射線を出し続けることである。この放射能は時間の経過とともに核種固有の
半減期で減衰するが、人為的に熱や薬品によって放射線のエネルギーや半減期を変えることができない。また、放射線は、距離を置くことや
遮へい壁等で遮ることで、その力を弱めることができるなどの特徴がある。放射線は放射線障害など人体や環境に有害な影響を与えることから、この廃棄物の処理、処分に当たっては、特徴を考慮し、人体や環境への影響が十分小さくなるように、「放射能の減衰を待つ」、「生活環境から遠ざける」、「放射線を遮へいする」といった措置がとられる。
3.放射性廃棄物の区分
放射性廃棄物は、発生源によって廃棄物の形態、性状、放射能レベル、含まれる放射性物質の核種濃度等の異なったものが発生する。これらの廃棄物に対しては、その特徴に応じた適切な方法で処理、処分することが安全上必要であり合理的であるので、発生源にとらわれず、処理、処分方法に応じて廃棄物を区分している。
原子力施設等から発生する放射性廃棄物は、形態から気体状、液体状および固体状に分けられ、更に固体状の廃棄物は、廃棄物の取扱性(放射能レベル)によって発熱に対する配慮を必要としない低レベル放射性廃棄物と、それを必要とする高レベル放射性廃棄物(
使用済燃料の再処理施設において発生する)に大別される。原子力発電所で発生する低レベル放射性廃棄物は更に、放射能レベルの比較的高いもの、放射能レベルの比較的低いものおよび放射能レベルの極めて低いものに区分される。また、超ウラン核種を含む放射性廃棄物、ウラン廃棄物、医療機関や研究所等から発生するRI・研究所等廃棄物も低レベル放射性廃棄物の区分に含まれる。
なお、原子力施設等の
廃止措置に伴う解体作業や運転・補修に伴って発生するコンクリートなどの廃材の中には、「放射性廃棄物として扱うもの」以外に、物質に含まれる微量の放射性物質が持つ放射能に起因する線量が、自然界の放射線レベルに比較して十分小さく、人の健康への影響が無視できることから安全上は「放射性廃棄物として扱う必要のないもの」も含まれている。この廃材について放射性廃棄物として扱わないことをクリアランスといい、該当する廃棄物をクリアランスレベル以下の廃棄物(クリアランス相当の廃棄物)と呼んでいる。
表3に放射性廃棄物の区分と発生を示す。
4.放射性廃棄物の発生施設における処理
放射性廃棄物の処理は、原則として発生施設において、廃棄物の形態に応じ適切に行われる(気体状と液体状の廃棄物については処分まで含む)。
気体状の廃棄物については減衰タンク、フイルターを通すなどの処理を行い、液体状の廃棄物については
イオン交換、凝縮沈澱などの処理を行って、放射性物質濃度の低減措置をし、濃度の測定により安全を確認して、大気、海の周辺環境へ放出し処分している。固体状の廃棄物について、低レベル放射性廃棄物は焼却、圧縮などの減容措置を行いドラム缶等に固化処理し、高レベル放射性廃棄物はガラス固化体に処理して、施設内に一時保管、貯蔵する。その後、処分場に移送され最終処分が行われる。
なお、この処理の実施は、発生施設外の1箇所に廃棄物を集めて集中処理(焼却処理、圧縮処理など)する方法もとられている。
図1に原子力発電所の廃棄物処理方法を示す。
5.放射性廃棄物の最終処分
放射性廃棄物の処分場における最終処分は、人間の生活環境に対する放射能の影響を十分小さくすることにより放射線障害の発生を未然に防止することを目的として行われる。廃棄物は処分に適した処理を施した後、放射能レベルの減衰を待ち、安全上問題のないレベル以下になるまでの間、隔離することを基本とし、陸地に埋設処分することで法整備と事業化が進められている。
具体的には、放射性廃棄物を廃棄物の性状、放射能レベル、核種濃度等により適切に区分し、生活圏からの隔離(処分深さ、生活圏との距離)と放射性物質の封じ込め性能等を考慮し、浅地中
トレンチ処分、浅地中ピット処分、余裕深度処分、
地層処分の4つの方法に分類して合理的に行われる。
図2に放射性廃棄物の種類と処分方法を示す。
原子力発電所で発生した低レベル放射性廃棄物のうち、放射能レベルの比較的低い廃棄物については、すでに青森県六ヶ所村にある日本原燃(株)の低レベル放射性廃棄物埋設センターで埋設処分(浅地中ピット処分)が行われている。
図3に低レベル放射性廃棄物埋設センターの概念図を示す。
図4、
図5、
図6に高レベル放射性廃棄物の放射能の減衰、地層処分の概念、地層処分場の概念図を示す。
6.クリアランスレベル以下の廃棄物の処分
上記3.で述べた、原子力施設等の廃止措置に伴う解体作業や運転・補修に伴って発生するコンクリートなどの廃棄物のうち、
放射能濃度がクリアランスレベル以下であることが所要の手続きにより確認された廃棄物は、普通の産業廃棄物と同様に、再生利用や処分が可能となる。この制度を「クリアランス制度」という。
クリアランス制度の整備により、放射性廃棄物として扱う必要のないものを安全かつ合理的に区分し、資源の有効利用を促進することは、わが国が目指す循環型社会形成の考えに沿うものである。
原子力発電所の廃止措置において発生する解体廃棄物のうち、97%以上がこのクリアランスレベル以下の廃棄物(クリアランス相当の廃棄物)に該当する。
図7にクリアランス制度を示す。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
わが国の放射性廃棄物の種類と区分 (05-01-01-04)
日本における放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し (05-01-01-05)
原子力発電所からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-02)
放射性廃棄物の処分の基本的考え方 (05-01-03-01)
放射性廃棄物 (09-01-02-01)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁 放射性廃棄物のHP:
(2)原子力安全・保安院:放射性廃棄物の種類とその処分方法
(3)原子力安全・保安院:放射性廃棄物の安全に関する質問と回答
(4)日本原子力学会 標準委員会 原子燃料サイクル専門部会:放射性廃棄物の用語・呼称検討タスク、放射性廃棄物の用語について(第1次中間報告 解説版)
(5)原子力委員会(編):原子力白書 平成18年版(平成19年3月)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2006/index.htm
(6)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007(2007年2月)、電気事業連合会:
(7)資源エネルギー庁、放射性廃棄物のHP:放射線廃棄物の概要、区分と発生