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日本原子力研究開発機構(JAEA)の東海再処理施設は、平成18年3月、日本原燃(株)六ヶ所再処理工場のアクティブ試験開始に伴い、約30年におよぶ電気事業者との契約に基づく再処理業務を終了し、研究開発を主体とする運営に移行した。この施設は、昭和52年のホット運転以来、「ふげん」MOX燃料20トンを含む1,123トンの
使用済燃料の再処理(平成18年6月)を行っている(
図1参照)。
再処理は使用済核燃料の中から、未燃焼
ウランや炉内の
核反応により生成したプルトニウムを核分裂生成物(FP)と分離し、回収することを目的としたプロセスである。したがって、再処理施設では高濃度の放射性物質を取り扱う。FPの99%以上は高レベル放射性廃液およびそれを固化処理した
ガラス固化体に含まれる。以下では再処理施設から発生する放射性廃棄物(
表1参照)と廃棄物処理概念(
図2参照)について述べる。
1.気体廃棄物
再処理施設から発生する気体廃棄物は、溶解槽、廃液貯槽等の槽類換気系排気の他、燃料剪断装置、セル換気系、建家換気系からの排気に含まれるものである。この内、最も放射能レベルの高いものは使用済燃料剪断時の剪断オフガスおよび溶解時の溶解オフガスであり、ヨウ素(
ヨウ素129等)、
希ガス(クリプトン85等)が含まれている。剪断工程では、燃料棒内にたまっていたガス状FPが放出され、また溶解工程では溶解時に残っていたガス状FPや硝酸との溶解反応により揮発性化合物となったFPが放出される。
「剪断オフガス」は焼結フィルターや高性能エアフィルター(HEPA)でろ過後、アルカリ液等で洗浄し、さらにHEPAフィルターとヨウ素除去に効果のある銀吸着剤で処理を行っている。「溶解オフガス」は窒素酸化物を凝縮器と酸吸収塔で除去した後、剪断オフガスと同様にアルカリ洗浄塔、フィルター類で処理する。これらの処理済廃気は規制値以下であることを放射線モニタで確認した後、排気塔から大気に放出される。東海再処理施設からの気体放射性廃棄物の年間放出量を放射性気体廃棄物の放出実績(1977年度〜1996年度)を
表2に示す。また、最近の実績を
図3に示す。放出放射能量は国が定める法令や保安規定に定める年間最大放出基準値を十分下回っている。
2.液体廃棄物
採用している溶媒抽出法は主として湿式法(PUREX法)であることから、液体廃棄物量が多く、また使用済燃料中のFPの大部分が含まれることになる。廃液は抽出工程における廃液が主となるが、廃ガス処理、
蒸発処理、
除染および分析などに伴う廃液も多い。これらのうち高放射性濃縮廃液については、高放射性廃液貯槽に保管廃棄するか、ガラス固化することとしている。低放射性濃縮廃液、スラッジおよび廃溶媒については、所定の方法で貯槽に保管廃棄するか、アスファルト固化又はプラスチック固化することとしている。極低レベル廃液は放射能測定を行って安全を確認した後放出される。
(A)高放射性廃液
高放射性廃液とは、分離第一サイクル(共除染工程)から排出される水相抽出残液ならびにこの廃液の蒸発濃縮廃液の総称であり、燃料中の非揮発性FPについては、その99.9%以上、ウランおよびプルトニウムについては再処理回収率によって変動するが、おそ0.1〜0.2%、ウランおよびプルトニウム以外の
アクチノイドについては、その99%以上が含まれており、また腐食生成物(Fe、Ni、Cr等)、抽出溶媒の分解生成物(リン酸イオン等)、再処理プロセスで発生するNa、Fe等が含まれている。
分離第一サイクル(共除染工程)から排出される水相抽出残液は、ケミカルフローシートにより異なるが、発生時点ではおよそ5〜8立方メートル/MTHM(metric ton of heavy metal)であるが、ホルマリン溶液等を添加して廃液中の硝酸を分解、濃度を調整しながら蒸発缶で段階的に0.5立方メートル程度に蒸発濃縮した後、十分な遮蔽を施したセルに設置したステンレス鋼製の高レベル廃液貯槽に貯蔵される。この貯槽には、FPの崩壊熱を除去するための水冷却装置、水の放射線分解による水素の除去のための掃気システム、不溶物の沈澱防止のための攪拌設備が設置されている。これらの高レベル廃液は最も開発の進んでいるホウケイ酸ガラスで固化される。
(B)中/低レベル廃液
中/低レベル廃液は硝酸ナトリウムが主成分でありFP核種のほか
半減期の長い核種(TRU核種)が含まれる。したがって、原子力発電所から発生する廃液とは核種組成が異なった廃液である。東海再処理施設において発生する中/低レベル廃液は、放射能レベルで3.7E2〜3.7 E7 Bq/mlと広範囲にわたっている。東海再処理施設では、FP除去効率に優れた蒸発缶を多用し、これに凝集沈澱処理を組み合わせたプロセスを併用し、濃縮廃液を固化処理するとともに、環境に放出する放出放射能を著しく低減させている。
中レベル廃液としては、分離第二サイクル、ウランおよびプルトニウム精製工程、高レベル廃液蒸発缶の凝縮液等があり、これらは酸回収蒸発缶で蒸発濃縮され、濃縮液は高レベル廃液蒸発缶へ送られる。蒸発缶の気相は酸回収精留塔へ送られ硝酸として回収される。精留塔の気相は凝縮された後、低レベル廃液として廃棄物処理場へ送られる。
低レベル廃液には、オフガス洗浄廃液、酸回収凝縮液等の他、分析所、除染所、各技術開発施設の廃液等がある。これらの廃液は廃棄物処理場へ送られた後、低レベル用第一蒸発缶で蒸発濃縮される。極低レベル廃液および第一蒸発缶の凝縮液については、低レベル廃液第二蒸発缶または第三蒸発缶で蒸発処理あるいは凝集沈澱処理装置で化学処理される。第一、第二蒸発缶の凝縮液ならびに化学処理済廃液は中和処理工程で中和し、活性炭吸着塔で油分を除去した後、放出廃液貯槽へ送られる。放出廃貯槽内の廃液はサンプルを採取し、放出基準値を満足することを確認したのち、バッチ式に海洋に放出される。低レベル第一、第二、第三蒸発缶濃縮液は低レベル濃縮廃液貯槽等に貯蔵され、化学処理工程のスラッジ分はスラッジ貯槽に貯蔵される。このように主工程から発生する低レベル濃縮廃液および化学処理スラッジはアスファルト又はプラスチックと混合し、脱水して安定な固化体としてドラム缶詰めし、施設内保管が行われている。
平成9年(1997年)3月11日に発生したアスファルト固化施設の火災・爆発事故のため、再処理施設の操業は一時中断したが、平成12年(2000年)度に操業が再開されている。現在アクティブ試験中の六ヶ所再処理施設においては、固化処理法としてアスファルト固化以外の方法(廃液を乾燥粉体とした後例えばセメント固化する)がとられることとなっている。
(C)廃溶媒
抽出分離工程からかなり(60立方メートル/MTHM)の使用済抽出溶媒(20〜30%TBP−炭化水素〔ドデカン=希釈剤〕)が発生する。通常の廃液とは異なり再処理特有の液体廃棄物である。廃溶媒の処理法として、焼却処理が行われたが、TBPの熱分解生成物であるリン酸によって高温下の焼却炉材の腐食が甚だしいのでTBP濃度の低いものを除き焼却処理は行われなくなった。現在、中/低レベル廃液と同様、アスファルト固化又はプラスチック固化されている。また、真空蒸留法、リン酸を抽出媒体として希釈剤から分離する方法および廃溶媒の固化処理法等いくつかの技術開発が進められている。
(D)海洋に放出する低レベル放射性液体廃棄物の放出
モニタリング
放出前のモニタリングでは、迅速に放射能の定量ができる全α放射能、全β放射能、
3H、γ線放出核種(137Csなど)を対象にしている。さらに、
89Sr、
90Sr、
129I、Pu(α)(
238Pu、
239Puおよび
240Puの合計値)に係る核種ごとの放出量は、月ごとの排出量の割合に応じて調整したコンポジション試料を用い、放射化分析を行い把握している。これまでのモニタリング結果から、東海再処理施設からの放出放射能量は、1980年代に廃液工程の改良による低減が図られた。
東海再処理施設保安規定に定める処理済廃液の放出基準および1年間の最大放出量を
表3に示す。また、液体廃棄物の放出モニタリング対象核種および分析法を
表4に示す。
海外の施設と比較するため、電気出力換算した燃料処理量(GWa)で規格化した。海洋放出廃液の実放出放射能量(Bq/年)および電気出力に換算した燃料処理量(GWa)を
図4に示す。放出放射能量は、運転状況に依存して放出される
3Hを除き、いずれの核種も海外の施設に比べて3〜5桁低い量である。さらに、海外再処理施設イギリスのSellafeld施設およびフランスのLa Hague施設との規格化放出量の比較結果を
図5に示す。
また、海洋放出廃液に起因する周辺住民の
実効線量を
図6に示す。これまでの最大値は、0.2μSv/年であり、法令に定める周辺監視区域外の実効線量である年間1mSv/年および3か月250μSvを大きく下回っている。
3.固体廃棄物
再処理施設から多種多様の放射性固体廃棄物が発生する。処理工程から直接発生するものには、燃料集合体部材である端末(エンドピース)や被覆管(ハル)などの放射能レベルの高い固体廃棄物、さらには
雑固体廃棄物と総称されているフィルター、ゴム手袋、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、紙、布類、金属工具、装置部品(フランジ、配管類)などがある。これらの雑固体廃棄物は可燃性、難燃性、不燃性に分類される。これらの廃棄物は定常運転時以外に故障、補修の際に発生する不特定のものも含まれる。
東海事業所の再処理施設を含む低レベル放射性固体廃棄物の発生量(200Lドラム缶換算)を
図7に示す。
(A)エンドピース、ハル等
これらの放射能は放射化生成物から由来するもので、放射能レベルもかなり高い。一定期間貯蔵し放射能の減衰を待ちコンクリート固化される。しかし、体積が増えること、特に被覆管はFPやTRUにも汚染されているので、貯蔵、処分の観点から圧縮または溶融などの減容処理技術の開発が進められている。東海再処理施設ではエンドピース、ハルとその他の高レベル固体廃棄物(高線量のフィルター、スタラー、ポンプ等の廃棄物)の発生割合は約5:1である。これらの廃棄物の表面線量率は高いもので1,000R/h以上のものもある。これらの廃棄物は湿式または乾式の高レベル廃棄物貯蔵施設で貯蔵される。
(B)雑固体廃棄物
不燃性固体廃棄物はコンクリート固化し、可燃性固体廃棄物は焼却処理し、焼却灰はコンクリート固化しているのが一般的である。東海再処理施設では可燃性、難燃性、不燃性の雑固体廃棄物は、発生したエリアに応じてβγ、TRU、U系に区分して管理している。βγ系(U系も含む)の可燃性廃棄物はβγ焼却炉で処理し、その他のものについてはドラム缶、コンテナ等に収納し、低レベル固体廃棄物貯蔵場に保管している。エアフィルター類については比較的定常的に発生するが、その他の廃棄物は作業量や補修および改造工事が多くなると発生量が増加する。
(C)その他
再処理施設からは上記の他、廃イオン交換樹脂、
廃銀吸着剤等定常的な運転廃棄物が発生するが、その量はあまり多くない。
(前回更新:1998年03月)
<図/表>
<関連タイトル>
東海再処理工場 (04-07-03-06)
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
東海再処理施設における放射性気体廃棄物管理状況(1977年度〜2002年度) (12-04-01-01)
東海再処理施設における放射性液体廃棄物管理状況(1977年度〜2002年度) (12-04-01-02)
東海再処理施設における放射性固体廃棄物管理状況(1977年度〜2002年度) (12-04-01-03)
<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)
(2)天沼、阪田(監修):放射性廃棄物処理処分に関する研究開発、産業出版・テクノプロジェクト(1983)、p.190
(3)動燃事業団:再処理特集「放射性液体廃棄物」、動燃技報、No.55、p.33(1985)
(4)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック 1988年版(1988)、p.54
(5)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成7年版、大蔵省印刷局(1996年7月)
(6)動燃事業団:ざ・さいくる、No.30(1988)
(7)原子力安全委員会委員長談話:日本原燃株式会社再処理事業所における火災・爆発に対する考慮等について(平成9年7月14日)
(8)(財)原子力環境整備センター:再処理廃棄物の処理・貯蔵・処分技術の現状、原環センタートピックス、No.25(1993)
(9)(財)原子力環境整備センター:TRU廃棄物の処理の現状、原環センタートピックス、No.34(1995)
(10)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画(1997年7月)
(11)JAEAホームページ:
http://www.jaea.go.jp
(12)サイクル機構東海:未来につなぐ美しい環境と安心、環境・安全レポート2004
(13)日本原子力学会誌:原子力開発機構東海再処理施設 再処理技術の高度化のための研究開発へ移行、Vol.48、No.6、p.379(2006)
(14)水谷朋子、宮河直人、武石稔:東海再処理施設における液体廃棄物の放出モニタリングについて、サイクル機構技報、No.28、p.21-25(2005年9月)
(15)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成9年版、大蔵省印刷局(1998年10月)