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<概要>
 原子炉の構成と分類についてまとめるとともに、原子物理に関する基本的知識をもとに、原子炉内における核分裂反応を概説する。原子炉内の核燃料核分裂によって生成した中性子のエネルギー分布と核分裂連鎖反応を維持する条件について説明する。
<更新年月>
2006年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子炉の構成材料
 原子炉物理の観点から、原子炉の構成とその材料について概説する。原子炉の構成は、ほとんどどの型の原子炉についても共通している。図1に原子炉の概念図を示す。原子炉は基本的に核分裂反応を起こさせる核燃料を含む炉心と、それを取り囲む反射材から構成される。核分裂反応断面積はエネルギーが低いほど大きいので、少ない核燃料物質で核分裂連鎖反応を起こさせるためには、核分裂で生じた平均2MeVという中性子のエネルギーを下げる(減速する)必要がある(核分裂断面積は熱中性子に対する方が高速中性子に対するより2桁以上も大きい)。減速のためには、中性子を質量数が小さく、かつ中性子吸収断面積の小さい核に衝突(弾性散乱)させる。このために使用される物質を減速材という。減速材には主に軽水(H2O)、重水(D2O)、ベリリウム(Be)、黒鉛(C)等が用いられる。また、炉心を取り囲む反射材は、炉心から洩れ出す中性子を炉心に追い返し、臨界量を減らすとともに、炉心内の中性子束分布を平坦化する目的で用いられる。反射材には、原子炉から洩れ出しやすい高いエネルギーの中性子を減速させてから炉心に追い返すため、減速材と同じ材料が用いられる。
 原子炉で発生した熱は、炉心と外部の熱交換器の間を循環する冷却材によって取り除かれる。冷却材としてはこれまでに、軽水、重水、液体金属(ナトリウム、ナトリウム・カリウム合金、鉛、鉛・ビスマス合金)、ある種の有機材料などの液体や、空気、CO2、Heなどの気体が用いられてきた。発電を行うためには炉心で発生した熱を熱交換器で冷却材から水に移して水蒸気を作ることが必要である。ただし、炉心で直接水蒸気を作ることも可能である。
 核燃料と減速材を一様に混合させて用いる原子炉(均質炉)も可能であるが、普通は、燃料と減速材、冷却材を分けて用いる(非均質炉)。これにより特に天然ウランや低濃縮ウランなどを燃料として用いる場合、燃料で発生した中性子を減速材に移し、減速中に中性子が238Uに衝突して共鳴吸収される可能性を減らし、核分裂連鎖反応の維持のために中性子をより有効に利用できる効果がある。
 燃料と冷却材のほかに、原子炉の炉心内には、燃料と冷却材を分離して、核分裂生成物を燃料の内部に閉じ込めるための被覆材、燃料の取り扱いを容易にするための燃料集合体構成材料、燃料の炉心内での位置を定めるためのスペーサーや炉心格子板などを必要とする。これらは一括して構造材と呼ばれる。構造材としては多くの場合、中性子吸収断面積の小さいアルミニウム合金やジルコニウム合金が用いられるが、強度と中性子吸収の兼ね合いからステンレス鋼が用いられることもある。
 さらに原子炉を制御するためには原子炉内の中性子数を増減させなくてはならない。そのためには中性子を吸収しやすい材料(ボロン、カドミウム、ハフニウム等)を含む材料でできた棒を機械的に炉心に出し入れする。これを制御棒という。まれには、炉心の周囲の反射体を移動させる制御方法もある。

2.原子炉の分類
 原子炉は1.で述べたような構成要素から成るが、その機能、構成材料とその配置、使用目的等によっていくつかに分類されている。以下にその典型的な分類法をまとめる。

2.1 核分裂するエネルギーによる分類
 a.高速中性子炉(Fast reactor):核分裂のほとんどを100keV以上の中性子によって起こす原子炉で減速材を用いず、冷却材も質量数の小さな核(気体以外)を使用しない。
 b.中速中性子炉(Intermediate reactor):若干の減速材を用い、主に数eV〜数10eVのエネルギーの中性子で核分裂を起こす原子炉であるが、実用化されている例はない。
 c.熱中性子炉(Thermal reactor):減速材を用い、核分裂のほとんどを熱中性子領域で起こす原子炉で、今日実用化されている原子炉の大部分は熱中性子炉である。

2.2 使用する核燃料による分類
 a.天然ウラン(235U、0.7%):熱中性子炉で減速材は重水、ベリリウム、黒鉛に限られる。
 b.低濃縮ウラン(235U、5%以下):減速材に軽水を用いることができ、また、核分裂生成物の吸収に抗して燃料の寿命を延ばせるので多くの動力炉で採用されている。
 c.中濃縮ウラン(235U、5〜20%):炉心を小さくできるので、それを目的とする場合に用いられる。
 d.高濃縮ウラン(235U、20%以上):高速炉もしくはそれに近い目的の炉に用いられる。
 e.プルトニウム:主にPuの核分裂による炉。核燃料中のPuの割合を富化度という。
 f.ウラン233:親物質をトリウム(Th)とする炉。規模の大きなものはまだない。

2.3 熱除去法による分類
 a.冷却材:軽水、重水、炭酸ガス、ヘリウム、ナトリウム、鉛−ビスマス等。
 b.冷却材(減速材)と燃料の混合物質:水均質炉、溶融塩炉(実用化に至っていない)。
 c.冷却材兼減速材:加圧水炉、沸騰水炉等。

2.4 使用目的による分類
 a.研究試験炉:材料試験炉、中性子源炉(物理、化学研究等のため)、臨界実験装置等。
 b.動力炉:発電炉、船舶推進炉、熱源用、海水脱塩炉、プルトニウム生産炉等。

2.5 燃料と減速材の組み合わせによる分類
 a.均質炉:燃料と減速材を均一に混合して使用する炉。
 b.非均質炉:被覆した棒状または板状の燃料を固体または液体の減速材中に配置する炉。

2.6 原子炉構成のための材料による分類
 a.減速材:軽水炉、重水炉、黒鉛炉、ベリリウム減速炉等。
 b.冷却材:気体冷却炉(CO2、He、空気等)、水冷却炉(軽水、重水)、液体金属冷却炉(液体ナトリウム、鉛−ビスマス合金等)。

3.マックスウエル分布
 原子炉で核分裂により生まれた平均2MeV(1.95x107m/s)という大きなエネルギーの中性子は、原子炉内に減速材がある場合には、主に減速材原子核により繰り返し弾性散乱を受けながら次第に速度を落とし、ついには減速材と熱平衡に達する。すなわち中性子が減速材原子核と衝突しても(平均として)エネルギーを得たり失ったりしなくなる。このような中性子を熱中性子と呼ぶ。体系が無限に大きく、吸収のない場合の中性子のエネルギー分布は気体の熱力学から導かれる次のような分布を示す。これをマックスウェル−ボルツマン分布あるいは単にマックスウェル分布という。
\[ \frac{n(E)}{n}=[\frac{2\pi}{(\pi{kT})^{(\frac{3}{2})}}]\exp(-\frac{E}{kT})E^{(\frac{1}{2})}\tag{1}
\] ここで、\(T\)は絶対温度\((K)\)、\(\frac{n(E)}{n}\)はエネルギー\(E\)にある単位エネルギー区間にそのエネルギーの中性子がある割合、\(k\)はボルツマン定数である。この概形を図2に示す。実際の熱中性子炉における低エネルギーの中性子のスペクトルは、吸収や炉外への洩れによりこの分布とは若干異なってくるが、近似的にはこのマックスウェル分布で表すことができる。

4.臨界と中性子増倍率
 原子炉において核分裂で生まれた平均2.4個の中性子のうちの1個を用いて次の核分裂を引き起こすことができれば、核分裂連鎖反応を恒久的に続けさせることができる。このとき、核分裂連鎖反応が外部から中性子を供給することなしに、時間とともに増えも減りもせず一定に保たれる状態を臨界(critical)という。そこでまず、この臨界の状態を実現させるための条件を調べてみる。それには図3のように核分裂で生まれた中性子の一生を辿ってみることが適当である。
 ある有限の大きさの核燃料物質を含む体系を考える。核分裂で生まれた中性子は体系内で吸収されるか、体系外へ洩れるかのいずれかである。体系中で吸収される割合を\(P_{NL}\)と書く。体系で吸収される中性子は燃料に吸収されるか、燃料以外の材料(減速材や構造材)に吸収されるかのいずれかである。吸収される場合、燃料に吸収される割合を\(P_{aF}\)と書く。中性子が核燃料物質に吸収されたとしても、それは核分裂を起こすばかりでなく、放射捕獲される場合もある。中性子が核燃料物質に吸収されたとき、核分裂を起こす割合を\(P_{f}\)と書く。この順をたどって首尾よく核分裂を起こすと\(\nu\)個の中性子を発生することとなる。以下同じ過程を繰り返す。
 このような過程の一回り、すなわち核分裂で生まれた中性子が再び核分裂を起こして次の中性子を生み出すまでを、生物学の考えを借りて世代という用語で表す。そして世代間の中性子の数の比を\(k\)として次のように定義する。
\[ k=\frac{ある世代の中性子数}{一つ前の世代の中性子数}\tag{2}
\] この\(k\)は増倍率(multiplication factor)と呼ばれ、原子炉物理でもっとも重要な量である。増倍率が1より小さい状態、すなわち\(k<1\)の状態を臨界未満(subcritical)、ちょうど\(k=1\)の状態を臨界(critical)、1より大きい状態、すなわち\(k>1\)の状態を臨界超過(super-critical)という。
 増倍率\(k\)は、さきに定義した3つの量、\(P_{NL}\)、\(P_{aF}\)、\(P_{f}\)および\(\nu\)を用いると、次式で表される。
\[ k=\nu{P_{aF}}・P_{f}・P_{NL}\tag{3} \]
<図/表>
図1 冷却系を含む原子炉システムの概念図
図1  冷却系を含む原子炉システムの概念図
図2 中性子のマックスウェル分布
図2  中性子のマックスウェル分布
図3 核分裂連鎖反応サイクル
図3  核分裂連鎖反応サイクル

<関連タイトル>
原子核と核反応 (03-06-01-03)
原子炉の炉心核設計概論 (03-06-01-04)
原子炉物理の基礎(2)中性子増倍率と転換、増殖 (03-06-04-02)
原子炉物理の基礎(3)中性子のふるまいと拡散方程式の導出 (03-06-04-03)
原子炉物理の基礎(10)原子炉の反応度変化 (03-06-04-10)

<参考文献>
(1)平川直弘:原子炉物理入門、東北大学出版会(2003年12月)
(2)W.マーシャル(編)、住田健二(監訳):原子炉技術の発展[上]、(株)筑摩書房(1986年9月30日)
(3)W.マーシャル(編)、住田健二(監訳):原子炉技術の発展[下]、(株)筑摩書房(1986年10月30日)
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