<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子力に関する基礎事項
<タイトル>
原子炉材料の基礎(1) (03-06-01-09)

<概要>
 原子炉を構成する材料の中で、原子燃料近くの炉心部分にある材料は、強い放射線を受ける。高エネルギーの中性子γ線などが材料の特性に影響を与えうるが、特に、あるレベル以上の照射量の中性子による材料特性への影響は大きい。ここでは、原子炉の炉心材料について、特に中性子照射の環境と照射損傷による材料へのさまざまな影響を概説する。照射損傷の基本事項、結晶構造、物理的性質、機械的性質、化学的性質に及ぼす照射損傷の影響に関する重要事項を述べる。
<更新年月>
2006年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子炉環境
1)中性子照射
 原子炉で使用される材料は、原子炉の炉心部分と炉心外の周辺部では大きく異なり、また、原子炉の炉型によっても違ってくる。炉心の内部では冷却材のほかに中性子およびγ線等の強い放射線が存在するが、炉心外では冷却材のみである。中性子は炉心材料を構成する原子に衝突し、原子をはじき飛ばし、いわゆる格子間原子と空孔の対(フレンケル対またはフレンケル・ペア)を生成する。これが照射によって生ずる基本的欠陥である。中性子は材料中の原子と衝突し、エネルギーを失うので、中性子のエネルギーは次第に減少し、原子炉の中心の燃料部分から離れるほど中性子のエネルギーは低くなる。そして、はじき出しのエネルギー(変位エネルギー、displacement energy = 25〜60eV)以下になるとはじき出しを起こすことなく、約1000秒経過すると陽子に転換する。このようにして、燃料周辺部分の材料は照射損傷により材料の諸特性が変化する。例えば、機械的性質に対する照射損傷のしきい値はほぼ1022n/m2中性子エネルギー、(En>29fJ)である。しかし、ヤング率や電気抵抗などの特性に及ぼす影響はこれ以下の照射量でも検出される。
 原子炉を長時間運転している間(20〜40年)に炉心部分の材料が受ける照射量の最大値は、熱中性子炉の場合、場所に依存するが、およそ(1022−1026)n/m2(En>29fJ)である。高速炉では最大値がこれより約1桁大きく、およそ(1022−1027)n/m2(En>29fJ)となる。
 中性子は、炉心内で原子核分裂反応によって発生する。そのエネルギーはほぼ0.025eV−10MeVの範囲にわたっており、中性子束密度は(1017−1018)n/m2sec(En>29fJ)のオーダーである。
 中性子と材料原子との衝突によって生じる基本的欠陥は前述のように格子間原子と空孔であるが、そのほか、基本的欠陥が集まったクラスターあるいは転位などが生成する。空孔クラスターは大きくなるとボイドと呼ばれる。
2)冷却材
 原子炉の炉心材料は、軽水炉(Light Water Reactor =LWR:BWR & PWR)では軽水に、重水炉では重水にさらされる。改良型ガス冷却炉(Advanced Gas-Cooled Reactor = AGR)などの炭酸ガス冷却炉では炭酸ガスにさらされる。高温ガス冷却炉(High Temperature Gas-Cooled Reactor = HTGR)ではヘリウムガスに、ナトリウム冷却型高速炉では液体ナトリウムに、ガス冷却型高速炉ではヘリウムガスにさらされることになる。したがって、これらの雰囲気の下での材料特性の変化に関する情報が必要である。
3)温度と圧力
 水冷却炉の場合、沸騰水型冷却炉(Boiling Water-Cooled Reactor = BWR)では、290℃、7MPa、加圧水型軽水炉(Pressurized Water-Cooled Reactor = PWR)では、290℃、15MPaの軽水にさらされる。重水炉では炉心材料は290℃、7MPaの重水にさらされる。炭酸ガス冷却炉では300℃、1MPaの炭酸ガスであり、高温ガス冷却炉では、850-950℃(将来は1000℃まで)、4MPaのヘリウムである。ナトリウム冷却型高速炉では500℃、1MPaの液体ナトリウムである。ガス冷却型高速炉では、850℃、4MPaのヘリウムガスを想定している。
2.照射損傷の効果
1)基本的事項
 原子炉材料は炉心部では、高エネルギーの中性子環境下で用いられるので、材料中に多くの格子間原子や空孔などの格子欠陥が生成される。これによって材料の規則正しい結晶構造が乱される。一方、現実の材料は不完全結晶部分があるので、逆に、中性子照射によって部分的に結晶部分が生成されることもある。また、照射によって結晶部分の生成欠陥が格子位置にもどり、欠陥の回復が起こることもある。要するに、照射損傷の基本的効果としては、格子欠陥による結晶部分の乱れの生成である。
2)結晶構造
 照射損傷の最初の過程は主として中性子による結晶格子の原子のはじき出しである。その結果、空孔と格子間原子を生じ、照射が進む(原子炉運転時間の経過)とともに格子間原子のクラスターや空孔のクラスター(ボイド)が生成する。ボイド等は電子顕微鏡によって観察できる。各種点欠陥集合体の原子モデルと電子顕微鏡写真の例を図1に示す。
 原子のはじき出しによって結晶格子の構造が破壊され、乱される結果、格子の形状がゆがみ、格子ひずみを生じ、局部的に残留弾性応力を生成する。格子ひずみはX線回折などによって検出できる。ひずみが広い範囲にわたって生じると外形の寸法変化として測定できる場合もある。
3)物理的性質
 原子のはじき出しが材料の表面近くで生じると材料中の原子が表面から外部へ飛び出す場合がある。これをスパッタリングという。スパッタリングによる分を除くと、照射損傷による材料の質量変化は無視できる程度である。一方、照射が進むと寸法は次第に増加し、いわゆるボイドスエリングを生じ、体積が膨張する。したがって、見かけ密度は減少する。照射量が小さい場合、金属材料では、密度変化は無視できるが、黒鉛・セラミックス材料では、無視できないほど大きい。この現象は照射温度に依存し、照射温度が高いほど体積変化(膨張)またはスエリングは大きい。照射量が大きい場合、金属・黒鉛・セラミックスに限らず、すべての材料の体積は膨張し、ボイドスエリングを生じる。これは外形の変化として現れるので、寸法を測定することによって検出できる。質量はほとんど変化しないので、ボイドスエリングの結果密度が減少する。
 一般的に言えば、照射欠陥の生成により転位の運動に対する抵抗が増加するため、ヤング率は増加する(図2)。金属材料では、実用上は無視できる程度であるが、炭素・セラミックス材料では、増加率が大きく、実用上無視できない。例えば、材料の種類、照射条件によっては10%以上あるいは100%以上増加する場合もある。(図3
 照射欠陥の生成は、電気伝導に対する抵抗を増加させ、電気比抵抗の増加をもたらす。電気比抵抗は材料の種類を問わず、照射欠陥に敏感な特性である(図4)。
 熱伝導は金属と黒鉛・セラミックスではその機構が異なる。金属では電子伝導が主であるが、黒鉛・セラミックスでは熱エネルギーのキャリアとしてはフォノン(音響量子)と電子があり、フォノンによる伝導が主体である。
 一般に、熱伝導も電気伝導と同じように照射欠陥による抵抗を受けて小さくなり、したがって、熱伝導率は照射量の増加と共に減少する(図5)。
 結晶の熱膨張は格子振動が調和振動からずれているために起こることが知られている。黒鉛・セラミックスのように非結晶部分や気孔を含んでいる材料の場合、問題はより複雑になってくる。照射欠陥に対しては金属材料では、大きな熱膨張の変化は見られないが、黒鉛・セラミックス材料では、気孔が熱膨張を吸収することもあり、材料と照射条件に依存して熱膨張係数は増加あるいは減少する(図6)。
4)機械的性質
 材料の応力—ひずみ関係は照射欠陥によって影響を受ける。材料の変形は一般に結晶転位の運動によって起こると理解される。結晶中に生成した照射欠陥はこの転位の運動に対する抵抗力を増加させる。したがって、ヤング率、降伏強さは照射量の増加に伴い増加する傾向にある(図7)。引張り強さも増加する。照射によって起こる金属材料のヤング率の増加は数%以下である。降伏強さ、硬さは照射により大きく増加する。一方、黒鉛材料ではヤング率の照射による増加は金属材料よりも顕著であり、発生応力の評価に直接影響するので実用上重要である(図3)。
 圧力容器用低合金鋼等のように延性—脆性遷移特性を示す金属材料では、中性子照射によりその延性—脆性遷移温度が上昇し、いわゆる照射脆化を起こす(図8)。圧力容器の照射脆化は原子炉の運転時間の経過とともに進行するので、定期的に脆化の程度を監視することが必要であり、実際に行われている。
5)化学的性質
 材料自身が照射によって変化する場合と炉心材料に接している冷却材等の環境が照射によって変化する場合がある。照射欠陥の濃度が増加するにつれて拡散促進、析出促進、溶解度変化等が起こることが知られている。
 ジルコニウム合金では、水との反応から水素が生成し、その水素の一部分がジルコニウムに吸収される。PWRでは長期間運転後にはこの水素がジルコニウムの溶解度を超える場合もあると言われている。
 黒鉛材料では、ヘリウムガス冷却型高温ガス炉と炭酸ガス冷却型AGRとでは、状況が異なっている。高温ガス炉では、化学反応への影響としてはγ線の影響があり得るが、酸化反応速度への影響は酸化重量減の特性への影響に比べて小さいとされている。放射線酸化の影響はヘリウム中の不純物(酸素、水素、炭酸ガス等)の量に依存する。
<図/表>
図1 点欠陥集合体(ボイド)の原子モデルと電子顕微鏡写真
図2 中性子照射した銅単結晶のヤング率と対数減衰率の変化
図3 ギルソナイトコークス系黒鉛(IM2-24)のヤング率に及ぼす照射効果
図4 1K近くで重陽子照射した金、銀、銅の電気抵抗変化
図5 黒鉛およびC/Cコンポジットの熱伝導率の温度依存性に及ぼす中性子照射の影響
図6 POCO黒鉛(POCO社製:AXM、AXF−Q1)の寸法変化ΔL/L0と、熱膨張係数α
図7 圧力容器鋼の応力—ひずみ曲線に及ぼす照射効果
図8 圧力容器鋼(A302B)のV−ノッチシャルピー遷移曲線の中性子照射による変化

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<関連タイトル>
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
原子炉・核融合炉材料の照射損傷 (03-06-01-05)
原子炉材料の基礎(2) (03-06-01-10)

<参考文献>
参考文献
(1)金属学会(編):原子力材料(1989)
(2)今井久ほか:JAERI-M8848,JAERI-M9146,(1980)
(3)長谷川正義・三島良績(編):原子炉材料ハンドブック、日刊工業新聞社(1977年10月)
(4)石森富太郎(編):原子炉工学講座 4、燃・材料、培風館(1974年2月)
(5)石野栞:照射損傷、東京大学出版会(1979年7月)
(6)炭素材料学会(編):改訂 炭素材料入門(1984)
(7)奥達雄、石原正博:構造設計法概論、三恵社(2003年2月)
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