<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子力に関する基礎事項
<タイトル>
原子炉材料の基礎(2) (03-06-01-10)

<概要>
 原子炉材料の種類と特徴について、金属材料、炭素材料、セラミック材料の順に説明する。金属材料としては、アルミニウム合金、ジルコニウム合金、ステンレス鋼、低合金鋼ニッケル基・鉄基合金、高融点金属合金について、原子炉材料としての特徴を述べる。炭素材料として、黒鉛材料、断熱用炭素材料、C/Cコンポジットについて高温ガス炉における応用を中心に述べる。セラミック材料は制御材料のほか電気絶縁・熱絶縁材料などとして用いられているものの例を挙げる。また、原子炉の各種構造物に用いられている材料について機能別に概要を述べる。
<更新年月>
2006年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子炉材料の種類と特徴
1)金属材料
(1)アルミニウム合金
 アルミニウムは面心立方晶系の金属で変形しやすく、従って加工しやすい。また融点が低く(660℃)、中性子吸収断面積が小さいので、研究用原子炉の燃料被覆材として使用される。また、研究炉では構造材料として使用されることもある。
(2)ジルコニウム合金
 ジルコニウムは稠密六方晶系に属し、中性子吸収断面積が小さいという特徴を持っているので、通常ジルカロイと呼ばれ、燃料被覆材として合金の形で用いられる。ジルカロイにはBWR用にジルカロイ−2、PWR用にジルカロイ−4などがある(表1)。ジルカロイ−4はジルカロイ−2に比べて鉄を若干増やし、ニッケルを減らすことによって水素吸収による脆化特性を改良した合金である。ジルコニウムは水との酸化反応によって腐食が進み、生成した水素を吸収し、水素化物を形成する。これが燃料被覆材中で半径方向に優先的に並ぶと脆化し、き裂生成の可能性がある。
(3)ステンレス鋼
 圧力容器の内張りや配管等の構成材料として、オーステナイト系ステンレス鋼が用いられる(表2)。これは面心立方系のクロム・ニッケル・鉄合金で、耐食性に優れている。よく使われるのはSUS304であり、高温強度の優れたSUS316は高速炉燃料被覆管に使用される。ステンレス鋼は応力腐食割れが問題であり、材料の観点から割れ感受性を低くするため炭素量を減らしたSUS304L、SUS316Lなどが用いられ、環境的には冷却材(水)中の酸素イオンと塩素イオンのレベルをできるだけ低く抑える努力がなされている(図1)。
 燃料被覆材としてのステンレス鋼は使用時間の経過とともに照射損傷によって材料のスエリングを生じ、体積が膨張し、延性が低下する。500℃以上の温度で10%以上のスエリングを生じる。これは冷却材の流路を狭くし、スムースな流れを阻害することになるので、スエリングの大きくない材料を選定・利用することが大切である(図2)。
(4)低合金鋼
 軽水冷却型原子炉の圧力容器は通常マンガン−モリブデン鋼の焼き入れ・焼き戻し材(A533 Grade B)を用いて製作される(表3)。低合金鋼は照射により降伏強さおよび引張り強さが照射前に比べて上昇する。降伏応力の上昇は延性−脆性遷移温度の上昇、すなわち照射脆化が起こる。同時に破壊靱性も照射により低下する(図3)。照射によるこれらの特性の変化は、材料選定の段階および使用時間の経過に伴って追跡、監視しておく必要がある。
(5)ニッケル基・鉄基合金
 ニッケル基および鉄基合金は、高温強度と耐食性に優れた材料であり、インコネル(ニッケル基)、ハステロイ(ニッケル基)、インコロイ(鉄基)などの合金がある(表4)。軽水炉では耐食性への信頼性を高めるために使用されている。高温ガス炉において高温工学試験研究炉(HTTR)の例では、制御棒被覆管および高温ヘリウムガスの配管材としてハステロイXRというハステロイの高温耐食性を改良した材料が使用されている。
(6)高融点金属・合金
 高融点金属・合金とは通常、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、バナジウム、クロムとそれらの合金である(表5)。これらの金属・合金は融点および高温強度が高く、高温で使用できる可能性のある材料である。タンタルは高速中性子の吸収断面積が比較的大きいので、高速増殖炉の制御材として用いられる。タングステンは、最も融点が高い(3653K)金属であるため、将来の核融合炉のプラズマ閉じ込めに必要な不純物収集のためのダイバータ材として使用される可能性がある。
2)炭素材料
(1)黒鉛材料
  黒鉛単結晶は六方晶系である。原子炉用黒鉛材料は粉砕した石油コークスや、石炭コークスを原料(フィラー材)とし、バインダーと含浸材を成型加工して焼成・黒鉛化してできた一種の複合材料である。複合材料といっても異なる組織・構造の複合体という意味であり、不純物以外は炭素のみからなっている(図4)。最高2600-3000℃近くで最終熱処理を行うので、部分的に黒鉛単結晶からなる、ある大きさの結晶子、結晶性のよくない部分、ほとんどランダムな原子配置の部分および気孔から構成されている。
 原子炉用黒鉛材料は、その成型法によって押出し材、型込め材、等方加圧材(ラバープレス材)、振動加圧材などがある。成型法は最終熱処理後の素材の特性の異方性と強い相関性があり、押出し材がもっとも異方的で、ラバープレス材が最も等方的な特性を示す。型込め材と振動加圧材はそれらの中間の異方性を示すのが普通である。
 黒鉛は中性子の反射・減速特性が優れているので、通常反射材、減速材として使用される。通気性があること、引張り強さが小さく、圧縮強さが大きいのが特長である。大きな引張り力のかかる部分および気密を要する機器には使用できない。しかし、不活性気体中であれば、2000℃以上での強度が金属よりも大きいという特徴がある。高温ガス炉・炭酸ガス冷却炉などでは減速・反射の機能を十分に利用するために、燃料のすぐ近くから圧力容器の近くまで多量の黒鉛材料を用いている。特に、ヘリウム冷却型高温ガス炉では温度が高い(850-950℃以上)ので、金属材料を用いることができないが、黒鉛材料を用いれば十分その役目を果たすことができる。
 黒鉛材料の重要特性は、照射中の熱応力および照射寸法変化に誘起されて発生する内部応力に関連するもので、寸法変化、熱伝導率、熱膨張係数、ヤング率、強度、照射クリープ係数、破壊靱性等である。また、酸化により密度が減少し、その結果ヤング率・強度が低下するので、酸化による特性変化のデータも重要である。
(2)断熱用炭素材料
 黒鉛を製造する過程で、最初粉砕したコークス等を成型し、1000℃前後で焼成する。焼成後の炭素材料は黒鉛結晶部分がほとんどなくて主に乱層構造からなる材料であるが、熱伝導率は比較的小さく、高温強度は十分大きいので、断熱材料として好適である。熱伝導率は焼成温度が高くなるほど大きく、低いほど小さいが、焼成温度が低いと硬く加工性が悪くなり扱い難いという欠点がある。HTTRでは断熱材として炉床部にこのような炭素材料が用いられている。
(3)C/Cコンポジット
 炭素繊維で強化した炭素複合材料である炭素繊維にはピッチ(石油・石炭)系、パン(PAN=ポリアクリロニトリロ)系、レイヨン系などがあり、マトリックスには気・液・固相が用いられ、そのいずれかにより、製造方法が異なっている。特徴は比強度、比弾性率が高温まで大きいことである。高温強度の観点から、高温ガス炉の制御棒被覆管としてC/Cコンポジットを利用することが考えられ、検討されている。これは配管材料としても利用できる可能性を持った素材である。
3)セラミック材料
 燃料は金属ウラン以外実用上すべてセラミックの形で使用されるが、ここでは燃料以外のものについて述べる。一般にセラミック材料は、変形し難いという特徴を持っているほか、熱絶縁性・電気絶縁性を利用して原子炉のいろいろな部分で用いられる。炭化ホウ素(B4C)のように中性子吸収物質を含む(ホウ素Bは熱中性子吸収断面積が大きい)材料は、原子炉の制御材料として利用される。
 セラミック材料の種類としては、ベリリア(BeO)、炭化珪素(SiC)、アルミナ(Al2O3)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)、酸化リチウム(Li2O)、チタン酸リチウム(Li2TiO3)などがある。SiCやAl2O3は高温材料・断熱材・絶縁材として用いられるが、BeOリリウムの特性を利用して中性子の反射材として用いられ、Eu2O3は高速増殖炉の制御材として利用される。一方、Li2O やLi2TiO3は核融合炉のトリチウム増殖のために利用される可能性がある。
2.原子炉の型・構造と構造物の概要
1)原子炉の種類
 原子核の核分裂反応を利用する核分裂炉と核融合反応を利用する核融合炉があるが、後者の炉はまだ実現していない研究開発途上のものである。核分裂炉には熱中性子炉と高速中性子炉がある。熱中性子炉は冷却材あるいは減速材の種類などによって水冷却炉あるいは黒鉛減速炉などと区別される。
 熱中性子炉のうち軽水減速軽水冷却炉(Light Water Reactor = WR)には沸騰水型軽水炉(Boiling Water Reactor = BWR)と加圧水型軽水炉(Pressurized Water Reactor = WR)の2種類がある。重水炉には重水減速加圧重水冷却炉と重水減速沸騰軽水冷却炉がある。ガス冷却炉には、英国で開発された炭酸ガス冷却炉(Gas-Cooled Reactor = GCR,Advanced Gas-Cooled Reactor = AGR)および黒鉛減速ヘリウム冷却高温炉(High Temperature Gas-Cooled Reactor = HTGR)がある。
 高速炉にはナトリウム冷却炉とヘリウムガス冷却炉があり、いずれも開発研究途上のものである。高速炉では高速中性子がそのまま核反応にあずかるので、減速材を必要としない。
 核融合炉としては、現在、国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor = ITER)が国際協力の下で開発途上にある。
2)原子炉の構造と構造物
(1) 燃料棒・燃料体
 軽水炉の燃料被覆管にはジルコニウム合金すなわちジルカロイ−2、ジルカロイ−4などが用いられる。重水炉の圧力管はカランドリアとよばれ、やはりジルコニウム合金からできている。ガス冷却炉では、炭酸ガス冷却型・ヘリウム冷却型ともに燃料棒・燃料ブロックには高純度黒鉛材料が用いられる。高速増殖炉の燃料被覆管にはステンレス鋼(SUS316)あるいはその改良材が用いられる。
(2) 減速・反射体
 軽水炉では、軽水が減速・反射の機能をもっているが、重水炉では減速は重水、冷却は重水と軽水の両方がある。ガス冷却炉では、減速は燃料ブロックがその役割を果たし、反射体ブロックが炉心の周囲に配置され、中性子を炉心部に集める役目を持っている。
(3) 制御棒
 熱中性子炉用制御材料としては、炭化ホウ素、カドミウムなどが用いられ、高速中性子炉ではタンタル、酸化ユーロピウムなどが使われる(表6)。一方、被覆材料としてはステンレス鋼、ニッケル合金、黒鉛材料などが用いられ、高温ガス炉用では将来C/Cコンポジットの利用が考えられている。
(4) 圧力容器
 軽水炉、高温ガス炉、炭酸ガス冷却炉ともに鋼材が使用されている。軽水炉では耐応力腐食割れ性のマンガンーモリブデン鋼(A533B)が主として用いられている。ここでは、照射脆化による延性—脆性遷移温度の上昇、破壊靱性の低下、応力腐食割れが問題となる。高温ガス冷却炉では、HTTRの場合、クロモリ鋼(A387 Grade22 = 2.25Cr-1Mo鋼の焼きならし・焼き戻し材)が使用されている。ここでの問題はリンなどが原因となる結晶粒界の長時間熱脆化と破壊靱性の低下などである。
(5) 格納容器
 原子炉、一次冷却設備およびその関連施設を格納する気密な容器のことである。鋼製、プレストレスコンクリート製、鉄筋コンクリート製などの容器がある。
(6) 遮蔽材
  遮蔽材は原子炉の核分裂反応から生じる中性子、γ線などの放射線を遮断し、減衰させるために必要な材料である。したがってこの材料には、中性子吸収特性がよいこと、中性子反射・減速性能がよいこと、γ線減衰特性がすぐれていることなどが要求される。このような条件を満足する材料としては原子番号が大きく、密度が大きいこと、水素原子を含むこと、ホウ素を含むことなどがあり、実際上の材料としては、水、黒鉛、炭化ホウ素、ホウ素含有鋼材、鉄、鉛、鉄コンクリート、パラフィンなどが用いられる。
<図/表>
表1 主なジルコニウム合金の標準成分と用途
表2 代表的オーステナイトステンレス鋼の組成と特性
表3 圧力容器鋼材の材料規格の概要
表4 原子炉に使用される耐食耐熱合金の化学組成
表5 代表的高融点合金の機械的性質(Mo、Cr、Nb、Ta)
表6 原子炉で使用される主な制御棒材料
図1 ステンレス鋼(SUS304)の高温高圧水による応力腐食割れに及ぼす溶存酸素と塩素イオンの影響
図2 耐スエリング性とクリープ強さを高めるため20%冷間加工したステンレス鋼(SUS316)のボイドスエリング
図3 超厚板鋼板(A533B Cl.1)から採取した10mm厚さのコンパクトテンション(CT)試験片による照射前後の動的引裂き(DT)試験結果
図4 人造黒鉛材料の製造工程

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<関連タイトル>
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
原子炉・核融合炉材料の照射損傷 (03-06-01-05)
原子炉材料の基礎(1) (03-06-01-09)

<参考文献>
参考文献
(1)長谷川正義、三島良績(監修):原子炉材料ハンドブック、日刊工業新聞社(1977)
(2)日本原子力研究所:たゆまざる研究の軌跡(1995)
(3)金属学会(編):原子力材料(1989)
(4)石森富太郎(編):原子炉工学講座4、燃・材料、培風館(1974)
(5)石野栞:照射損傷、東京大学出版会(1979)
(6)炭素材料学会(編):改訂 炭素材料入門(1984)
(7)奥達雄、石原正博:構造設計法概論、三恵社(2003年2月)
(8)東洋炭素株式会社:会社案内(2002)
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