<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 研究炉等
<小項目> わが国の大学等の研究炉
<タイトル>
東京大炉(弥生) (03-04-03-06)

<概要>
 高速中性子源炉「弥生」は、茨城県東海村にある東京大学大学院工学系研究科原子力専攻における最初の研究施設として、1971年4月に初臨界になった。最大熱出力は2kWで、その後40年近く順調に稼働してきた。6ヶ所の運転位置と50以上のコラムや実験孔を持ち、純度の高い(熱中性子及びガンマ線の混入のない)高速中性子が利用できた。全国大学共同利用装置として、遮へい、計測、崩壊熱等の研究の他、各種材料の高速中性子照射に関する基礎研究と学生の原子炉実習に広く用いられてきた。日本の高速増殖炉開発、核融合炉の開発並びに放射線の利用に関する基礎研究にも利用されてきたが、研究方針の変更を理由に「弥生」の運転は平成22年度末を目途に終了する準備を進めてきた。平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震による被災で計画外自動停止したことから、永久停止を決定し、現在は廃止措置中(2012年8月廃止措置計画書認可)である。
<更新年月>
2013年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 「弥生(やよい)」は、高濃縮金属ウラン燃料空気冷却型高速炉(high enriched metallic uranium fueled, air cooled fast reactor)で、わが国の大学では最初の研究用高速炉であり、核分裂で作られる高速中性子を減速せずに利用して、種々の特徴ある研究を行うことができた。このような炉を高速中性子源炉と呼んでいる。これが選ばれた理由は、(1)日本で建設されていない新型炉、(2)日本の原子力研究開発の方向に沿った原子炉であること、すなわち国家プロジェクトの高速増殖炉開発に貢献できること、(3)大学でも運転管理できる適切な規模の原子炉であることであった。なお、大学で高速炉を所有しているのは世界でも東京大学のみである。
 東京大学大学院工学系研究科・附属原子力工学研究施設の建屋及び高速中性子源炉「弥生」が1968年度より3ヶ年計画で始められ、建屋は1970年11月に完成し、「弥生」は1971年4月10日に臨界に達した。その後各種の試験を重ね、1972年3月3日定格出力である2kWに到達して以降、実験研究に供されてきた。平成20年4月、東京大学は日本原子力研究開発機構と連携協力することで一致し、ソフト面とハード面の統合を図りつつ、新たな原子力教育研究活動を本格的に展開することとした。東海村の日本原子力研究開発機構に設置されている大型研究用原子炉や大強度陽子加速器J-PARCなどの共同利用を通して、教育研究との効果的な連携・融合が図られた。設置後40年近くを経過したため、「弥生」の運転は平成22年度末を目途に終了することとして準備を進めてきたところ、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震により計画外自動停止したことから永久停止を決定し、現在は廃止措置中(2012年8月廃止措置計画書認可)である。
1.原子炉の構成
 「弥生」の炉心燃料は円柱状(cylindrical disk)の高濃縮金属ウランであり、その外側を劣化ウラン・ブランケットがとり囲んでおり、さらにこの燃料部が、鉛製の反射体の中に収納されていた。その前後に鉛と重コンクリート製の遮へい体があり、さらに制御棒駆動機構も付属して、全体として0.5m×0.5m×7.3mの炉心集合体を構成していた。この炉心集合体は、移動用通路枠の上に搭載されていて最大16mの範囲で水平移動でき、6ヶ所の運転位置に移動させて原子炉運転を行うことができた。運転位置は重コンクリート遮へい体内に2ヶ所(A,B)、中速中性子柱内に3ヶ所(C-,C,C+)、遮へい体のない位置に1ヶ所(D)あり、実験目的に応じて使い分けられた。中速中性子柱は130トンの鉛の八角柱であり、鉛による中性子の散乱を利用して中速の中性子束が効率よく得られるように設計されていた。なお、中速中性子柱内と遮へい体のない位置で運転が行われる場合は、原子炉建屋の2m厚のコンクリート壁が遮へいの役割を果たしていた。また、中速中性子柱内にターゲットを置いて、隣接する建屋から35MeV電子ライナックのビームを導いて中性子を発生させ、それを原子炉建屋壁を貫通する中性子飛行管(T.O.F)に導いて測定を行うこともできた。
 表1に設計諸元、図1に原子炉室平面図、図2に原子炉室全景を示す。
 燃料交換を必要としない原子炉であるので、使用済み燃料の発生はない。
2.実験利用設備
 「弥生」には、炉心を貫通しているグローリー孔(実験孔の一種)を始めとして、小型の炉ではあるが約50本に及ぶ各種の実験孔があり、照射実験やビーム実験を行うことができた。これらの構造上の特徴以外に、「弥生」で発生する高速中性子はガンマ線の混入が極めて少なく、他の熱中性子炉では行えない実験が可能であった。これらの特徴のため、「弥生」は世界で唯一の汎用高速中性子源炉として、東京大学の原子力関係の教官と大学院生の研究のみならず、全国大学共同利用装置として利用されていた。
 また、1974年度から3ヶ年にわたって核融合炉ブランケット設計基礎実験装置が建設され、核融合炉の炉工学的な研究(材料工学、トリチウム工学、中性子工学、低温工学、電磁構造力学等に関する研究)が行われていた。
3.利用状況
(1)高速中性子遮へいの研究
 まず、日本の高速増殖炉開発のために、高速実験炉「常陽」中性子源モックアップ実験や高速原型炉下部構造遮へい模擬実験が行われた。さらに、高速炉遮へいのための基礎研究として、鉄とナトリウムを供試体に用いた高速中性子透過に関するベンチマーク実験や、キャビティ、ダクト、スリットによる高速中性子ストリーミング(漏洩)に関する実験、劣化ウランや天然ウランの高速中性子透過実験が行われていた。また「弥生」を線源として、炉室直上に高速中性子を放出し、中性子スカイシャイン(大気散乱)に関する実験も行われた。原子力船「むつ」の遮へい改修に関係して、蛇紋岩コンクリートの中性子透過実験やアルベド法の適用性確認のための実験も行われた。
 これらの研究においては、いずれも単に実験結果を得るだけではなく、中性子輸送計算法などの解析手法の開発と精度評価が合わせて行われており、その成果は遮へい研究のみならず、中性子がエネルギーを減じながら一方向に流れるという点で遮へいと共通の物理現象をもつ核融合炉ブランケット内の中性子挙動などの研究の発展にも寄与している。
(2)標準中性子場の開発と利用
 「弥生」には、炉心燃料を貫通するグローリー孔をはじめ中速中性子柱などに、典型的な高速中性子や中速中性子のスペクトル場が存在した。その特性を測定により明らかにして、検出器の校正や照射などの際の標準となる中性子場とする研究が行われた。こうして確立した「弥生」の中性子場は、国際的にも標準中性子場として広く認められていた。高速増殖原型炉「もんじゅ」のフルエンスモニターの校正照射が、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))の依頼により行われた。
(3)高速パルス炉の運転と利用
 「弥生」は本格的なパルス中性子炉ではないが、その可能性の検討のため、出力をパルス状に急上昇させる運転が行われた。即発臨界を超える反応度を炉心に印加することにより、出力を瞬間的に1000MW(定常出力2kWの50万倍)に到達させた。高速炉であるため、パルス出力の半値幅は100マイクロ秒と極めて短い。パルス運転によって高速パルス炉に関する種々の経験が得られるとともに、「弥生」の制御性能と安全性についても実証的理解が深められた。また、このパルス運転を利用して、サイクル機構の再処理工場の臨界警報装置用検出器の作動確認実験が行われた。
(4)高速中性子核分裂崩壊熱の研究
 崩壊熱は原子炉停止後の主な発熱源であり、安全上重要である。高速中性子の核分裂生成物崩壊熱は熱中性子のそれに比べて測定例も少なく、精度も悪かった。これについて「弥生」で一連の精度のよい測定を行った。その結果は改良した理論計算により、JAEAの核データセンターが作成した崩壊生成物データファイルの検証に用いられ、その精度向上に寄与した。
(5)医療用照射の基礎研究と生物照射
 ホウ素化合物を脳腫瘍などの腫瘍細胞に取り込ませ、これに中性子を照射すると、中性子捕促反応の際に出るアルファ粒子の飛程が細胞の大きさと同程度であるため、腫瘍細胞を選択的に破壊することができる。これを「ホウ素中性子捕捉療法」と呼び、正常細胞まで破壊してしまう他の放射線療法に比べて原理的に優れているといわれている。人体に対するカーマ係数は30eV付近で最小となるので、熱外中性子を照射すると、中性子による線量を低く抑えかつ透過距離も大きく治療可能範囲が拡大する。「弥生」を用いて多量の熱外中性子を作る研究が行われた。「弥生」の出力が2kWと小さいため実用になる照射場は得られなかったが、設計研究の結果5MWの原子炉なら熱外中性子治療が可能となることが判明した。この研究の結果、「弥生」に作られた照射場は、犬やネズミを用いた基礎研究や、いろいろなエネルギーをもつ中性子の照射効果を調べるための血液の照射などに用いられた。
(6)核融合炉ブランケット材料のトリチウム回収に関する研究
 酸化リチウムなどのトリチウム増殖材料より、どのようにトリチウムが回収されるかは、核融合炉の燃料サイクル確立のため重要であるので、「弥生」を用いて先駆的研究が行われていた。「弥生」の炉心への接近性の良さを生かして、中性子照射によって生まれるトリチウムの放出挙動と回収のメカニズムが詳しく調べられた。
(7)高温水の高速中性子照射効果
 原子炉冷却水の放射線分解による生成物の高温での発生しきい値を知ることは原子炉水化学といわれ、現在問題になっている配管への放射能蓄積の低減化や応力腐食割れの防止のために重要であり、そのための実験が行われた。
(8)各種材料の高速中性子照射効果
 各種の有機材料、半導体、金属、イオン結晶などの中性子照射効果に関する研究が行われていた。たとえば、高分子材料では、ガンマ線に比して分子の架橋や切断の生じるしきいエネルギーなどが異なる。放射線化学反応の基礎研究のみならず、耐放射性物質や化学線量計の開発といった応用分野についても実験的研究が行われた。
(9)高速中性子ラジオグラフィ
 高速中性子ラジオグラフィによる検査は他の放射線非破壊検査と比較して、厚い物質の検査が可能で、また重元素と軽元素より構成される複合材料に対しても有効な検査方法である。しかし熱中性子ラジオグラフィに比して開発研究が遅れており、「弥生」を用いて高分解画像を得るための実験的研究が進められた。
(10)新放射線計測法の研究
 放射線位置検出器の開発や光ファイバー、レーザー等を用いた新しい放射線計測法の実験的研究が行われた。
(11)原子炉実習
 後継者の育成は原子力利用の進展にとって極めて重要である。東京大学等の学生・大学院生を対象とした原子炉実習には、毎年数十名の参加があり、大型装置を利用した特色のある教育指導を行っていた。東大以外では、「弥生」の共同利用実験に各大学の大学院生が参加した。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
表1 「弥生」設計諸元
図1 「弥生」原子炉室構成平面図
図2 原子炉室全景

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<関連タイトル>
わが国の試験研究用および開発中の原子炉一覧(2003年12月) (03-04-01-02)
立教大炉(RUR) (03-04-03-01)
近畿大炉(UTR-KINKI) (03-04-03-02)
武蔵工大炉(MITRR) (03-04-03-03)
京都大炉(KUR) (03-04-03-05)

<参考文献>
(1)東京大学大学院工学系研究科附属:原子力工学研究施設パンフレット(1999年2月)
(2)岡 芳明:東京大学高速中性子源炉「弥生」について、エネルギーレビュー(1991年4月)
(3)東京大学大学院工学系研究科原子力専攻:http://www.tokai.t.u-tokyo.ac.jp/
(4)(社)日本電気協会新聞部(編);原子力ポケットブック 2012年度版 我が国の試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設一覧表、p.621, 2012年8月
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