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京大炉(KUR)は、わが国の大学が所有する唯一のMW級の研究用
原子炉であり、一般研究、材料照射、放射性同位元素生産、開発研究および教育訓練を目的として設置された(
表1、
図1、
図2および
図3参照)。1962年3月に原子炉の設置が承認され、63年に原子炉建家の完成に続いて原子炉本体、冷却系統設備、計測制御系統設備、実験設備等の据付工事を行い、1964年6月25日初臨界に到達した。同年8月17日には最大熱出力1MWでの運転に成功し、利用運転を開始した。その後、1968年に出力上昇を行い、同年7月16日に最大熱出力5MWを達成、性能向上をはかった。炉心は93%濃縮ウランを2006年2月まで使用し、運転を休止し設置変更申請等の手続きや燃料製造を行い2008年より20%低濃縮ウラン・シリサイド板状燃料に切り替える予定である。出力も医療照射時以外の通常利用は1MWとし、連続運転から各日運転に変更の計画である。
1.原子炉の構造
原子炉は93%濃縮ウラン板状燃料(MTR型燃料)を用いた軽水減速・軽水冷却のスイミングプール系タンク型
熱中性子炉であり、最大熱出力は5MW、最大熱中性子束は8×10
13n/cm
2・s(炉心内平均熱中性子束は3.2×10
13n/cm
2・s)である。
原子炉の炉心部は、6行9列の格子板上に
燃料要素20数体を並べて構成し、その周囲を燃料要素と同じ外形寸法を持つ黒鉛反射体で取り囲む。原子炉の出力は、ホウ素入りステンレス鋼製の粗調整棒4本と微調整棒1本を炉心内に挿入して制御する。炉心で発生する熱は、炉心タンク水を強制循環することにより除去し、
熱交換器を介して2次冷却水に移し、冷却塔から大気中に放熱する。これにより、1次冷却水の温度は常に55℃以下に保たれる。また1次冷却水の圧力は大気圧程度である。
原子炉の炉心部は、直径約2m、深さ約8mのアルミニウム製炉心タンクに水を張り、その底部に据え付けられている。炉心タンクの周囲は厚さ約2mのコンクリートが取り巻き、炉心から発せられる
放射能を
遮へいしている。原子炉建家は、直径約28m、高さ約25mの円筒形であり、コンクリート壁と溶接鉄板により気密が保たれ、かつ、フィルタを介して排風機により建家内の気圧が外気よりも少し低くなるように保たれているので、予期しない場所からの空気の漏洩がないようになっている。
2.運転パターン
京大炉(KUR)の標準的な運転パターンは、5MWの出力で火曜日から金曜日まで約75時間の連続運転であるが、短時間の運転や、5MW以下の低出力の運転も行うことができ、利用者の要求に柔軟に対応できる原子炉である。なお、原子炉は
定期検査や保守等のために一定期間停止する必要があり、年間の運転時間は約1800時間。1964年6月の臨界以後、66610時間を超え、積算出力も2億9335万kWh以上となっている(2003年5月末現在)。
図4にKURの年間運転時間の推移(2006年3月末現在)を示す。
3.実験設備
原子炉に付属する実験設備には、重水熱中性子設備および黒鉛設備のほかに、実験孔4本、照射孔4本、圧気輸送管(気送照射孔)3本、水圧輸送管(水力照射孔)、傾斜照射孔、貫通孔各1本、および炉心内で長期間の照射を行う長期照射設備がある。重水熱中性子設備は、炉心に接して直径約2.2mの重水タンクを設けたものであり、国際原子力機関により世界唯一の熱中性子標準場として認定されている。また、黒鉛設備には、わが国最初の冷中性子源が設置されており、冷中性子ビームの導管を用いた実験や極冷中性子の実験も行われている。このほかにも各実験孔、照射孔等に、低温照射設備、オンライン同位体分離装置、中性子回折装置、中性子チョッパー、中性子導管、中性子ラジオグラフィ装置など様々な実験装置が付設されている。
原子炉室に接してホットラボラトリを設置しており、
放射性物質の
照射後試験、化学処理、放射化分析等を行うこともできる。
4.利用状況
これらの設備は、所員自身の行う研究のみならず、全国大学の共同利用研究施設として、物理学、化学、生物学、工学、農学等、広範囲にわたる実験研究のために利用されている。これらの共同利用研究は、採択件数にして年間百数十件にのぼり、2004年度から2006年度では367件(2001年度〜2003年度では420件)である。
また、このような実験研究への利用のみならず、1974年には原子炉の使用目的に医療照射を追加し、重水熱中性子設備を利用して脳腫瘍の試験的治療を行い、医学利用への道も開いた。1991年より本格的な医療運転を開始し1995年までに合計61例の臨床が行われた。そして、1995年11月から1996年3月にかけて、この中性子捕捉療法(NCT)の高度化を主目的に、(1)設備の安全性の向上、(2)熱中性子から熱外中性子までの利用を可能とする性能向上、そして、(3)5MW連続運転中の医療照射を可能とする等の使い勝手の向上、の3点に関して改修が行われ、熱中性子単独照射、熱−熱外中性子混合照射、熱外中性子単独照射の3つの照射モードが患部に応じて使い分けられている。2001年12月には世界初の口腔癌に対するNCTが熱外中性子照射により行われ、2002年6月には脳腫瘍に対する非開頭の熱外中性子照射が開始された。改修後、2003年7月末現在で、脳腫瘍33例(うち非開頭13例)、悪性黒色種5例、腔癌10例のNCT医療照射が行われている。
なお、運転休止に伴い2006年度から2年間の予定で、韓国原子力研究所の研究炉(
HANARO)を利用するプロジェクト研究(12件)を開始すると共に、日本原子力研究開発機構のJRR-4を利用した中性子捕捉療法の共同利用研究(4件)もプロジェクト研究の一環として開始している。
5.今後の計画
研究用原子炉の燃料に関しては、1978年以来、国際的な
核(兵器)不拡散政策に沿って、京大炉(KUR)の燃料を高濃縮ウランから低濃縮ウランに切り替えた場合の原子炉の性能や安全性への影響について研究を続けてきた。その結果、1991年には、低濃縮ウラン・シリサイド板状燃料2体の使用が国から認可された。炉心は 93%濃縮ウランを2006年2月まで使用し、運転を休止し設置変更申請等の手続きや燃料製造を行い2008年より20%低濃縮ウラン・シリサイド板状燃料に切り替える計画である。出力も医療照射時以外の通常利用は1MWとし、連続運転から各日運転に変更の計画である。
京大炉(KUR)は、1964年の初臨界以来42年にわたって安全かつ安定に運転してきた。この間、経年変化の認められる部分は、計画的に改修・更新してきたが、最も重要な炉心タンクについては、1991年8月および1992年3月の2度に分けて綿密な
非破壊検査を実施し、その健全性を確認した。2004年度に実施した10年毎および運転開始後30年を経過した原子炉に対する定期的評価をもとに策定された保全計画に従って、健全性評価や改修を実施し、安全確保と実験利用の多様化・高度化に対応するために必要な整備を行い、運転継続する計画である。
原子炉実験所長(代谷誠治)の挨拶(ホームページ、2007年4月)の中に、「KURについては、米国籍の研究用原子炉使用済燃料の引取期限延長を米国が発表したことから、燃料の濃縮度低減化作業に伴って2006年度から2年弱の運転休止期間が生じることは避けられませんが、現行の医療照射や放射化分析などの社会に役立つ研究の継続性に配慮し、地元、大学本部、文部科学省等のご理解を得て、運転再開後は10年間程度運転を継続する予定です」とある。
所在地:
京都大学原子炉実験所
〒590-0494
大阪府泉南郡熊取町朝代西2丁目
TEL.0724-51-2300
FAX.0724-51-2600
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
<関連タイトル>
わが国の試験研究用および開発中の原子炉一覧(2003年12月) (03-04-01-02)
立教大炉(RUR) (03-04-03-01)
近畿大炉(UTR-KINKI) (03-04-03-02)
武蔵工大炉(MITRR) (03-04-03-03)
東京大炉(弥生) (03-04-03-06)
京都大学原子炉実験所 (10-04-05-03)
<参考文献>
(1)京都大学原子炉実験所:京大研究炉(KUR)実験設備・照射設備利用の手引き(第11版)(1998年4月)
(2)京都大学原子炉実験所:原子炉実験所とは、所長ごあいさつ、
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/index/kur.html
(3)京都大学原子炉実験所:京都大学研究用原子炉、
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/facility/KUR/kur.html
(4)京都大学原子炉実験所:共同利用研究
(5)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成15年版、資料編 試験研究用炉一覧、財務省印刷局(2003年12月)、p.243
(6)京都大学原子炉実験所:原子炉実験所だより、No.68(2005.6)、
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/JRS/dayori/dayori68.pdf
(7)京都大学原子炉実験所:研究炉部、KUR年間運転時間の推移(2006年3月末現在)