<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 武蔵工大炉は研究・教育訓練およびラジオアイソトープの生産を目的として建設された最大熱出力100kWのトリガ2型原子炉で、1963年1月30日初臨界に到達した。1975年に医療用の照射室が増設され、原子炉の使用目的に医療利用が追加変更された。1976年9月に全国国公私立大学共同利用施設になり、生物・医療照射を中心に、放射化分析、核データおよび炉物理特性実験等に使用されてきた。1981年4月大学院修士課程原子力工学専攻が設置された。
 1989年12月原子炉タンク水の漏洩が発生し、以後原子炉の運転を停止してきたが、2003年5月に原子炉施設を廃止する決定がなされた。今後は、原子炉の運転機能の永久停止措置、燃料処分、解体工事、放射性廃棄物の処分等について検討していく予定になっている。
<更新年月>
2004年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 武蔵工大炉(The Musashi Reactor)は研究・教育訓練およびラジオアイソトープの生産を目的として建設された。1960年4月に着工、1962年4月に放射性同位元素実験室および原子炉建屋関係が完成して原子炉本体、冷却設備、計測制御設備、実験設備等の据付工事に移行し、1963年1月30日初臨界になった。1974年2月放射線モニターを更新した後、熱中性子柱実験設備を改造して医療用照射室が1975年3月に完成、76年7月に医療利用が原子炉の使用目的に追加変更された。武蔵工業大学原子力研究所のあゆみを表1に示す。
1.原子炉の構成および実験設備(表2図1図2および図3参照)
 原子炉は20%濃縮ウランの水素化ジルコニウム合金棒をステンレス被覆した燃料要素を用いたTRIGA(Training,Research,Isotope Production,General Atomics)2型熱中性子炉で、原子炉の最大熱出力は100kW、最大熱中性子束は4E12(n/cm2・sec)である。原子炉の炉心部は燃料要素を円柱状に配置したものであり、内径1.98m、深さ6.4mのアルミ製タンク(原子炉タンク)の底近くに置かれている。燃料要素はグリッド板により保持され、炉心全体は水中に浸されており、水は炉心容積の35%を占めている。また、炉心には中央実験管、制御棒用導管3本および気送管の下端が挿入されている。炉心の側面は純水とコンクリートによって遮へいされ、上部は純水で遮へいされている。純水を通して上方より炉心部が観察でき、100kWの出力運転中に燃料領域から発するチェレンコフ光を見ることができる。原子炉タンクに満された純水は、遮へい材であると同時に、冷却材の役割も兼ねている。原子炉本体側面のコンクリート遮へいを通して4本の実験孔が貫いており、熱中性子柱、使用済燃料貯蔵プールと接している。また、熱中性子柱の外側には約1mのコンクリート壁と重コンクリートの移動扉で囲まれた照射室がある。
2.利用状況(図1参照)
 1976年7月原子炉の制御系を更新、9月より生物医療照射を中心とする全国国公私立大学共同利用が開始され、1977年3月脳腫瘍治療のための最初の原子炉治療照射が行われた。1981年4月大学院修士課程原子力工学専攻が設置され、脳腫瘍治療のための中性子場や照射技術の開発、環境問題となる微量有害元素の分析や半導体材料中の微量元素の管理分析、X線では困難な製品の内部を非破壊で検査できる中性子ラジオグラフィ技術の開発等、独自性のある教育研究を行ってきた。さらに、本学院生はもとより他大学の学生実験、運転実習などの教育訓練にも幅広く活用された。
 1989年までに、99例の脳腫瘍治療と9例の皮膚がん治療の医療照射が行われた。
 1985年3月にステンレス被覆の新燃料要素を購入し、それまでに使用してきたアルミ被覆の燃料要素と交換し運転を継続してきた。しかし、1989年12月原子炉タンク水の漏洩が発生し、以後原子炉を運転停止してきた。2003年5月に、当施設の設置者である学校法人五島育英会において原子炉施設を廃止することの決定がなされた。今後は、本決定を受けて、監督官庁の指導のもと、原子炉の運転機能の永久停止措置、燃料処分、解体工事、放射性廃棄物の処分等について検討していく予定になっている。

武蔵工業大学 原子力研究所
〒215-0013 川崎市麻生区王禅寺971
TEL:044-966-6131
FAX:044-955-6071
<図/表>
表1 武蔵工業大学原子力研究所のあゆみ
表1  武蔵工業大学原子力研究所のあゆみ
表2 武蔵工大炉(MITRR)の設計諸元
表2  武蔵工大炉(MITRR)の設計諸元
図1 武蔵工大炉縦断面図
図1  武蔵工大炉縦断面図
図2 武蔵工大炉の炉心構造
図2  武蔵工大炉の炉心構造
図3 武蔵工大炉(TRIGA-Mk2)全景
図3  武蔵工大炉(TRIGA-Mk2)全景

<関連タイトル>
わが国の試験研究用および開発中の原子炉一覧(2003年12月) (03-04-01-02)
立教大炉(RUR) (03-04-03-01)
近畿大炉(UTR-KINKI) (03-04-03-02)
京都大炉(KUR) (03-04-03-05)
東京大炉(弥生) (03-04-03-06)

<参考文献>
(1)原子炉設置変更許可申請書(平成6年9月完本)
(2)武蔵工大大学院工学研究科パンフレット(1997年)
(3)武蔵工大原子力研究所:研究所の現状と未来パンフレット
(4)武蔵工業大学原子炉等共同利用十年史(東京工業大学原子炉工学研究所)
(5)武蔵工大学炉:武蔵工業大学原子力研究所のあゆみ
(6)武蔵工大学炉:武蔵工業大学原子力研究所からのおしらせ
(7)武蔵工大学炉:原子炉の医療利用
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ