<大項目> 原子力発電
<中項目> 原子力発電所の立地・建設・運転・保守
<小項目> 安全設計思想
<タイトル>
事故の発生防止 (02-02-05-02)

<概要>
 原子力発電所では、基本的に異常な事態や事故が起きたとしても、放射性物質が外部に漏れ出ないように閉じ込める仕組みとなっている。構造上では、1.燃料ペレット、2.被覆管、3.原子炉圧力容器、4.格納容器、5.原子炉建屋、の順で放射能を閉じ込める5重の障壁がある。その上で、原子力発電所は事故防止のために多重防護の考え方により設計、管理されている。事故の発生防止のために厳重な品質管理や原子炉が固有の安全性を有するような設計、余裕のある設計と共に誤操作等を防止する設計を採用している。また、運転期間中も機器・系統を定期的に検査することで事故や異常の発生を防止している。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている多重防護設計基準や安全設計等については、福島第一原発事故における技術的知見を踏まえ、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。
<更新年月>
2010年08月   

<本文>
 原子力発電所などの原子力施設は事故防止のために多重防護(深層防護とも言う)の考え方により設計、管理されている。これは、1.事故(または異常)の発生を防止する設計や材料の選定、入念な品質管理による製作、機器の監視・検査などによって事故の発生を防止すること。2.仮に事故や故障が生じても安全防護設備を備えるなどによりそれが拡大しないよう配慮し、これらが高い信頼性で起動され、有効に機能することにより事故の拡大防止を図ること。3.万一の拡大防止機能の故障などにより重大な事故に至った場合でも、非常用炉心冷却系(ECCS)などによる炉心冷却と共に格納容器スプレーを作動させ、周辺への放射性物質の放出の影響を最小限にとどめ得るよう格納容器等の設備を備えることにより事故の影響を緩和すること、からなっている。このような安全設計の基本的考え方を表1に示す。事故の発生防止には次のような考慮がなされている。
1.設計における安全上の配慮
 原子炉の安全設計上の配慮には、原子炉の特性が自己制御性により異常発生に至らない固有の安全性を有するように設計を行うことと、異常発生の原因を極力少なくするよう設計管理することがある。
1.1 原子炉の自己制御性(固有の安全性)
 原子炉の出力は制御棒の抜き差しなどにより制御されるが、出力上昇が速くて制御棒による制御が追従できないような状態が生じても、原子炉の特性を適正に設計すれば、核分裂連鎖反応を自然に制御することができる。これを原子炉の自己制御性と呼び、設計に採り入れられている(図1参照)。このような効果を制御棒等の制御効果と組み合わせることにより、出力を任意の高さに安定に維持することができる。その代表的なものには次の各効果がある。
(1)ドップラー効果
 原子炉の炉心を構成する燃料には、軽水炉の場合、濃縮度が2〜4%の低濃縮ウラン(U)が用いられており、燃料ウランの大部分は核分裂を起こしにくい238Uである。原子炉の出力が上昇して、温度が上がり過ぎるとウラン原子の熱運動が激しくなり、238Uは235Uの核分裂に必要な中性子をより多く吸収するようになり、中性子数を減少させて出力が低下するように働く。これをドップラー効果と呼ぶ。
(2)減速材温度効果
 核分裂で発生した速度の速い中性子は、水などの減速材に衝突して減速され、速度の遅い中性子(熱中性子)となって235Uを分裂させる。原子炉の出力が上昇して減速材の温度が高くなると、その密度が低下するために衝突が減って中性子の減速が少なくなる。このため出力は低下することになる。これを減速材温度効果と呼ぶ。
(3)ボイド効果
 軽水炉のうち、沸騰水型原子炉BWR)は核分裂で発生した熱で炉心の水を沸騰させ、発生した蒸気でタービン発電機を動かす。原子炉内部で常に発生している蒸気(ボイド)は、出力が上昇すると増加し、これにより減速材密度がやはり低下するため、核分裂の連鎖反応が抑制されて出力が低下するように働く。これをボイド効果と呼ぶ。
1.2 安全設計と管理
 原子炉などは運転中に加わる圧力や温度に対して、これを受ける機器が十分耐えられるように余裕のある構造設計をしている。機器の材料にはそれぞれの環境に応じた最適な材料を選定し、重要部分には徹底した品質管理を行っている。その中で、製造工程での不純物検査、寸法検査、溶接検査などを基準に適合するよう入念に行い、品質を保証している。
1.3 誤操作や誤動作を防止する設計
 原子力発電所は、平常の状態では自動運転できるようになっており、運転員が操作を行う必要はほとんどない。運転出力を変える必要があるときなどは、中央制御室の制御盤に原子炉の各部の状況が把握し易いよう一括表示されていて、人間工学的に機器を制御し易いように配置されたスイッチ類を操作する。運転員の誤操作や機器そのものの誤動作が原子力発電所の安全性に大きな影響を与えないように、インターロック・システム(注1)やフェイル・セーフ・システム(注2)の設計を採用している。
2.機器の点検・検査
すべての機器や制御系統は、製造中、設置中はもとより、使用期間中もこれらの性能が劣化しないよう種々の検査により監視し、問題が有れば補修、交換などを行うことで、性能を維持している。このために法律に定めた頻度で原子炉を止めて、機器の分解点検などを行い、膨大な検査を監督官庁の検査当局立ち会いのもとで実施する(施設定期検査)。
(注1)インターロック・システム(interlock system)
 人間が誤った操作を行った場合にも安全が損われないような設計をフール・プルーフ(fool proof)と言うが、運転員が誤って制御棒を引き抜こうとしても引き抜き操作ができないようになっているなど、誤操作を機械的・電気的に受け付けないよう設計されたシステムで、制御系統に多く配置されている。
(注2)フェイル・セーフ・システム(fail-safe system)
 機器や系統の一部に故障が生じた場合、それが波及して事故に発展することのないよう安全側に機能するよう設計されたシステムのことである。たとえば、制御棒駆動機構の電源が何らかの理由で切れた場合でも、水圧や重力で自動的に制御棒が炉心に挿入され、原子炉の運転が停止されるようになっている。
(前回更新:2002年11月)
<図/表>
表1 安全設計の基本的考え方
図1 原子炉の固有の安全性(自己制御性)

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<関連タイトル>
事故の拡大防止 (02-02-05-03)
単一故障基準 (02-02-05-04)
事故(BWRの場合) (02-03-13-02)
多重防護の考え方による事故防止 (11-01-01-06)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(1990年6月)
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂版)、原子力安全研究協会(1992年10月)
(3)原子力図面集 2001-2001年版、原子力文化振興財団(2001年10月)
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