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<概要>
 原子力発電所の制御は原子炉制御系、安全保護系(原子炉停止系または原子炉緊急停止系および工学的安全施設作動系)があり、さらにタービン発電機系、補助系を含め総合的に行われる。ここでは、原子炉制御系について記述する。
 原子炉制御系は、出力の制御、出力分布の制御、冷却材減速材)の温度・圧力の制御および減速材の量(原子炉水位)の制御を対象としている。
 原子炉出力を制御する基本的な操作量は反応度である。反応度は制御棒の出し入れによって大きく変わり、また冷却材温度(密度)、燃料温度およびボイド量によっても変化する。
 BWR(沸騰水型原子力発電所)の通常運転における原子炉の出力制御は、制御棒位置および原子炉の再循環流量を調整することによって行われる。また、BWRの出力制御は原子炉優先方式が採用されており、電力系統の負荷要求により先ず原子炉出力が調整され、これにタービン発電機出力が追従する。ABWR(改良型沸騰水型原子力発電所)の制御についても付記する。
<更新年月>
2010年01月   

<本文>
 原子力発電所の制御は原子炉制御系、安全保護系(原子炉停止系または原子炉緊急停止系および工学的安全施設作動系)があり、さらにタービン発電機系、補助系を含め総合的に行われる。安全保護系についてはATOMICAデータ「BWRの工学的安全施設<02-03-04-01>」、「BWRの原子炉保護設備<02-03-07-01>」および「BWRの工学的安全施設作動設備<02-03-07-02>」に解説されているので、ここでは原子炉制御系について記述する。
 原子力発電所の原子炉制御系は、主に原子炉出力制御系、原子炉圧力制御系および原子炉水位制御系からなり、相互に協調して原子炉出力を制御するとともに、原子炉圧力や原子炉水位を安定に維持する。これらの制御は、原子炉の起動から定格出力までの出力上昇、通常運転中における負荷変化、外乱および定格出力から停止までの出力降下に伴う発電所の状態を中央制御室において集中的に監視し、制御機器を操作し調整することによって行われる。主要な計装および制御機器は多重設備とし、さらにフェイル・セイフの機能を持たせるなど信頼性を重視した設計としている。
 BWR(沸騰水型原子力発電所)では電力系統の要求負荷に応じて、まず、原子炉出力を増減し、この結果にタービン発電機の負荷が追従する方式を採用している。以下では標準的な110万kW(1100MWe)級のBWRについて記述し、135万kW(1350MWe)級のABWR(改良型沸騰水型原子力発電所)についても付記する。図1にBWRの原子炉制御系系統図を、図2にABWRの原子炉制御系系統図を示す。
1.原子炉出力制御系
 BWR原子炉の出力制御は、制御棒(中性子吸収材)および制御棒駆動系による方法、ならびに原子炉再循環流量制御系による方法の2方法によって行われる。前者は主として低出力状態で、後者は中間出力から定格出力の間で用いられる。
 原子炉出力の変化(原子炉圧力の変化)は、タービン制御系の圧力調整装置に圧力偏差信号を発生し、この信号が原子炉圧力を一定に保つようにタービンへの蒸気加減弁(またはタービンバイパス弁)開度を調整する設計としており、原子炉出力に応じた蒸気発生量の変化に相当するだけタービン発電機の出力が変わることになる。そのほか、例えば、発電機負荷遮断のように原子炉圧力の急激な増加を生ずる場合には、出力負荷アンバランス検出回路またはタービン速度制御装置からの信号が圧力偏差信号に優先してタービンバイパス弁を開き、その結果、原子炉圧力の上昇は抑えられる。
1.1 制御棒および制御棒駆動系
 110万kW級のBWRでは、炉心内に185本の制御棒が設置され、その各々に制御棒駆動機構と制御棒駆動水圧系が設けられ、水圧によって炉心下部から制御棒の挿入・引き抜きが行われる。原子炉の緊急停止(原子炉スクラム)が必要な場合は、全制御棒が同時に水圧により緊急挿入される。制御棒位置は、起動・停止の他に長期間の燃焼に伴う反応度補償ならびに出力分布の調整のために、中央制御室より手動で遠隔調整される。操作すべき制御棒は選択スイッチで選択されるが、この場合、制御棒は同時に1本しか選択できないようなインターロックが設けられている。制御棒位置の手動調整は操作スイッチで制御棒駆動水圧系の弁類を操作することによって行われ、通常の操作では1回の操作毎に制御棒を1ノッチずつ動かす。制御棒の一連の操作は予め定められたシーケンスに従って行われ、制御棒価値ミニマイザにより引抜き手順が監視される。
 ABWRでは、従来の制御棒駆動機構に代えて電動・水圧駆動式改良型制御棒駆動機構を設置し、制御棒の挿入・引き抜きが電動式となった。複数の制御棒を同時に引き抜くことができ、制御棒操作が自動化された。表1にABWRとBWRの制御棒駆動系の比較を示す。
1.2 再循環流量制御系
  図3にBWRの再循環流量の制御曲線(運転特性)の例を示す。再循環流量の調整による原子炉出力の制御は、再循環流量の変化に応じて炉心内ボイドの体積率が変化し、原子炉出力がほぼ比例的に変わる特性を利用するものである。標準的なBWRでの再循環流量の調整は、再循環ポンプ駆動電動機の電源周波数を変え、再循環ポンプの回転数を変えることにより行われる。再循環流量制御系では、手動によって再循環ポンプの回転数を変えるか、あるいは与えられた負荷偏差信号がなくなるまで再循環ポンプの回転数を自動的に変えることにより、再循環流量を調整する。また、再循環ポンプの吐出側に設置された流量制御弁の弁開度を調整して再循環流量を調整するタイプのBWRでは、電気油圧変換器を通じて油圧駆動流量制御弁の開度を変え、再循環流量を調整する。再循環流量の自動制御範囲は出力の約60%から100%の間である。
 ABWRでは、従来の再循環ポンプ(PLR、2台)に代えてインターナルポンプ(RIP、10台)が設置されており、各ポンプの電源に1台ずつの静止型可変周波数電源(VVVF)が設置されている。従来のBWRと同様、出力変更の要求信号は手動あるいは負荷偏差信号として主制御器に入る。主制御器の出力信号は、炉心流量要求信号として炉心流量信号のフィードバック信号と比較され、炉心流量の要求値に合うようにVVVFの出力を調整し、インターナルポンプの回転速度を変えることによって炉心流量を調整している。表2にABWRとBWRの再循環流量制御系の比較を、図4にABWRの再循環流量制御曲線(運転特性)を示す。ABWRでは安定性の余裕を増す設計の工夫により、安定性制限曲線による運転状態の制限を不要としている。
2.原子炉圧力制御系
 原子炉圧力制御系は、タービン制御系と合わせて原子炉圧力を一定に制御している。図1に示すように、圧力調整機はタービン入口圧力と圧力設定点を比較して圧力偏差信号を発生する。通常BWRでは原子炉の反応度制御の観点から圧力制御優先の方式をとっており、この圧力偏差信号がタービン蒸気加減弁およびタービンバイパス弁を制御する。負荷遮断時のようにタービン回転数が急上昇する場合には、低値優先回路を通じ速度/負荷信号が圧力偏差信号に優先しタービンバイパス弁を制御する。なお、100%容量のタービンバイパス弁を有するBWRでは、電力系統事故による負荷遮断でタービン蒸気加減弁が全閉したときでも、蒸気はタービンバイパス弁を介して復水器にバイパスされ、原子炉を停止することなく所内単独運転に移行する。系統事故の復旧に伴い、速やかに発電系を立ち上げることができる。
 ABWRの圧力調整器では、原子炉のドーム圧力を圧力設定点と比較して制御することにより、従来のBWRより安定した原子炉圧力制御を可能にしている。
3.原子炉水位制御系
 原子炉水位制御系は気水分離器(スチームセパレータ)の性能維持のため原子炉への給水を制御して、あらかじめ定められた範囲に原子炉水位を保つもので、原子炉水位信号、給水流量信号、主蒸気流量信号を用いた3要素制御を行っている。給水流量と主蒸気流量とのミスマッチを検出し、原子炉への流入・流出の差で原子炉水位の変化を予測することにより、より高速で安定な制御が行われる。
<図/表>
表1 ABWRとBWRの制御棒駆動系の比較
表1  ABWRとBWRの制御棒駆動系の比較
表2 ABWRとBWRの再循環流量制御系の比較
表2  ABWRとBWRの再循環流量制御系の比較
図1 BWRの原子炉制御系系統図
図1  BWRの原子炉制御系系統図
図2 ABWRの原子炉制御系系統図
図2  ABWRの原子炉制御系系統図
図3 BWRの再循環流量制御曲線(運転特性)
図3  BWRの再循環流量制御曲線(運転特性)
図4 ABWRの再循環流量制御曲線(運転特性)
図4  ABWRの再循環流量制御曲線(運転特性)

<関連タイトル>
BWRの起動・停止方法 (02-02-03-01)
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)
BWR原子炉容器 (02-03-03-01)
BWRの工学的安全施設 (02-03-04-01)
BWRの原子炉保護設備 (02-03-07-01)
BWRの工学的安全施設作動設備 (02-03-07-02)
改良型BWR(ABWR) (02-08-02-03)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会(編):原子力発電所−全体計画と設備−(改定版)、平成14年6月
(2)原子力安全研究協会(編):軽水炉発電所のあらまし(改訂第3版)、平成20年9月
(3)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、平成2年6月
(4)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧 1995年版、電力新報社(1995年2月)
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