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<概要>
 原子力発電所定期検査(廃止措置中のものを除く)は、一定間隔で原子炉を停止して原子炉及びその附属設備、蒸気タービン本体及びその附属設備など発電の用に供する電気工作物の健全性を確認し、事故・故障の未然防止と拡大防止を図り、発電所が安定・安全運転し、安定した電気の供給を行うことを目的に実施するものである。国の定期検査制度は、発電の用に供する電気工作物(特定電気工作物)について事業者が原子炉を停止して行う定期事業者検査において、公共の安全確保の面から特に重要な設備・機器(特定重要電気工作物)についての検査を国(原子力安全・保安院)又は(独)原子力安全基盤機構が立会い又は記録確認等により実施するものとなっている。この検査は電気事業法第54条の規程に基づき事業者に実施を義務づけ、定期検査の間隔は、定期検査が終了した日以降13ヶ月を超えない時期、18ヶ月を超えない時期、24ヶ月を超えない時期の3つの間隔について国が告示する。
<更新年月>
2011年10月   

<本文>
1.定期検査の目的
 原子力発電所(廃止措置中のものを除く)の定期検査は、一定間隔で原子炉を停止して原子炉及びその附属設備、蒸気タービン本体及びその附属設備など発電の用に供する電気工作物のうち、公共の安全確保の面から特に重要な設備・機器(以下「特定重要電気工作物」という)について健全性を確認し、事故・故障の未然防止と拡大防止策を図り、発電所が安定・安全運転し、安定した電気の供給を行うことを目的に実施するもので内容は以下のとおりである。
(1)健全性の確認
 ・主要設備の運転性能や設定値等の機能の確認
 ・分解点検や漏えい検査による設備の健全性の確認
(2)機能の維持
 ・燃料など消耗品の定期的交換
 ・劣化に対する処置
 ・異常の早期発見と処置
(3)信頼性の向上
 ・他の発電所で発生した事故・故障の類似箇所の点検・処置
 ・最新技術を導入した設備・機器への取替
 この検査は電気事業法第54条の規程に基づき事業者に実施を義務づけ、特定重要電気工作物が工事認可申請及び電気事業法第39条第1項の経済産業省令で定める技術基準など、また、原子炉等規制法に基づく原子炉設置許可内容に適合して維持、運用されていることを確認するものである。
2.検査制度
 現行の検査制度は、平成15年10月に改革された検査制度を引き続き改善し、平成21年1月に保全プログラムに基づく新たな検査制度を導入したものである(図1及び図2参照)。
 平成15年10月の改革では、従来、事業者が原子炉(以下「プラント」という)の停止中(定期検査期間中)に任意で行ってきた自主点検を定期事業者検査として法的に位置付けた。定期事業者検査に関し、経済産業省の定める技術基準への適合性の確認を義務付け、その実施体制・検査方法等について、(独)原子力安全基盤機構(以下「JNES」という)が審査(定期安全管理審査)し、その結果に基づき国(原子力安全・保安院、以下「NISA」という)が総合的に評定を行うこととした。定期検査は、電気事業法第54条で定めた特定重要電気工作物を対象として、事業者が行う定期事業者検査にNISA(又はJNES)が立会い又は記録確認等により確認する検査と位置づけられた。
 平成21年1月の改善では、従来の一律的な検査を見直して、事業者がプラントごとの特性を踏まえ保全活動の実施体制、保全の対象となる機器・構築物の範囲、保全活動の実施計画を具体的に記載したプログラム(保全プログラム)を基礎とする検査の導入が行なわれた。具体的には、高経年化が進む中、プラントごとの特性を踏まえて事業者の個別機器の点検や補修等に係る保全活動の充実を求め(保全計画書の事前届け出とレビューを義務づける)、プラントごとの保守管理活動を保全計画の策定等を通じて充実強化し(適用可能な新技術を用いた運転中検査を義務づける)、一律の検査からプラント毎の特性に応じたきめ細かい検査に移行すること(検査の間隔について、科学的・合理的根拠に基づく間隔として設定することが可能)などが新たに追加された。定期検査の間隔については、電気事業法施行規則第91条で定められ、定期検査が終了した日以降、従来の13ヶ月を超えない時期から、13ヶ月を超えない時期、18ヶ月を超えない時期、24ヶ月を超えない時期の3つの間隔について選択できることとなった(ただし、24ヶ月を超えない時期については施行から5年後に導入される)。なお、特定重要電気工作物のうち、発電所又は発電設備の設置の工事の後、定期検査を受けていないものにあっては、その運転が開始された日以降13ヶ月を超えない時期とされた。
 また、定期事業者検査(定期安全管理審査)の期間について、これまで定期検査期間において行われていたものが、運転中も含め定期検査開始から次の定期検査開始日の前日までの期間となった。事業者はプラントを停止して行う定期事業者検査を定期検査期間に実施する。
3.定期検査の実施計画
 プラントの運転期間(定期検査間隔)の設定は、事業者が希望する期間について (1)原子炉等規制法による保安規定変更申請(原子炉運転期間の変更)及び(2)電気事業法による保安規定変更届(保全計画の変更、技術評価書を添付)を取り纏め、定期検査の実施3ヶ月前に国に提出して以下の認可及び告示を受ける必要がある。
 (1)の保安規定の変更申請については、事業者は原子炉等規制法に基づき、定期事業者検査等の対象機器・系統のそれぞれの機器を評価し、設定した点検間隔の中で、最短の点検間隔を基礎として、これに燃料交換の間隔の評価を考慮した定期検査間隔を設定し、保安規定の変更認可として申請する。国は、定期検査等を通じて保全計画が科学的根拠をもって合理性があることなどを審査し、妥当と判断すれば、18ヶ月を超えない時期、24ヶ月を超えない時期を、実質的なプラントの定期検査間隔として認可する。
 (2)の保安規定の変更届(保全計画の変更)については、事業者は個々の点検項目について、機器の点検間隔の評価を行い、プラントの定期検査間隔の設定に際しては、電気事業法に基づき定期検査毎に点検を行う重要な機器について、点検及び検査の間隔を13ヶ月以上として問題がないか技術評価した結果を保安規定変更届に添付し届出する。国は届出された保全計画の妥当性を確認し、当該プラントの定期検査間隔を「13ヶ月を超えない時期」、「18ヶ月を超えない時期」、「24ヶ月を超えない時期」のいずれかに区分し、事業者に告示する。
 事業者は、定期検査の実施時期の策定に当たって、供給計画に基づく発電電気量の確保、電気の需給バランス、燃料の燃焼度などを考慮する。また、定期検査期間の策定では、プラント停止、燃料交換、プラント起動など標準的な作業を考慮した期間に加えて、定期検査及び定期事業者検査の実施項目、長期保全計画に基づく特別な点検工事や大規模改造計画の有無、国内外のトラブルや運転経験の水平展開なども考慮する。
 なお、定期検査にあたっては、過去の作業実績の分析評価、工法の改善、要員の技能向上、点検検査工具の改良開発、設備の改善などを行い、また、事前に資材の調達、要員の確保を図るとともに、具体的に詳細工程を作り工程管理を綿密に行うなど期間の短縮に努めている。
 さらに、放射線管理面から作業性(環境)、点検項目の自動化、遠隔化などの改善も図られている。
4.定期検査の対象設備、検査内容及び期間
 定期検査の対象となる特定重要電気工作物は、電気事業法施工規則第89条及び第90条に以下のように定められ、同規則第90条の二に検査の内容(項目)が定められている(表1BWRの定期検査項目を、表2PWRの定期検査項目を示す)。
 ・蒸気タービン本体及びその附属設備
 ・原子炉本体
 ・原子炉冷却系統設備
 ・計測制御系統設備
 ・燃料設備
 ・放射線管理設備
 ・廃棄設備
 ・原子炉格納施設
 ・非常用予備発電装置
 ・発電所
 定期検査の項目について、原子炉本体に係る原子炉冷却材圧力バウンダリー及び主要構造物の供用期間中検査(非破壊検査)、原子炉圧力容器本体の漏えい検査、燃料検査、原子炉の停止余裕確認検査などはBWR、PWRに共通した検査であるが、原子炉冷却系統設備、計測制御系統設備などに係る検査については炉型の違いにより検査項目に違いがある。
 BWRの系統概略図を図3に、定期検査の工程(参考)を図4に示す。またPWRの系統概略図を図5に、定期検査の工程(参考)を図6に示す。
 定期検査の期間について、国内の実績(平均実績)を見ると、過去においては3〜4ヶ月程度であったが、ここ数年は5〜6ヶ月程度に増加してきている。定期検査における主な検査項目について、NISA、JNESによる立会検査、記録確認検査等の検査区分についてBWRの場合の例を表3に示す。
5.定期事業者検査(定期安全管理審査)
 事業者は発電の用に供する電気工作物(以下「特定電気工作物」という)について定期に事業者検査を行い、電気事業法第39条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合していることを確認し、結果を記録し保存しなければならない(電気事業法第55条)となっている。また、事業者は定期事業者検査の実施に係る体制(検査の実施に係る組織、検査の方法、工程管理、協力事業者の管理、記録の管理、教育訓練)について、特定電気工作物の安全管理を旨とした審査(定期安全管理審査)を受け、実施状況について適切な時期に抜き打ち又は事前通告により確認される。
 定期事業者検査の対象となる特定電気工作物は、電気事業法施行規則第94条第1項一の二及び第2項により以下のように定められている。
 ・蒸気タービン本体及びその附属設備
 ・原子炉本体
 ・原子炉冷却系統設備
 ・計測制御系統設備
 ・燃料設備
 ・放射線管理設備
 ・廃棄設備
 ・原子炉格納施設
 ・排気塔
 ・補助ボイラー
 ・非常用予備発電装置
 定期検査期間に行われる定期事業者検査の内容は以下のとおり。
 1)分解点検及び手入れ
   機械品の経年劣化に関する健全性を把握するため、定期的にそれらを分解して目視等により部品単位を検査するとともに、摺動部などの手入れやパッキン類などの消耗品の交換を行う。
 2)供用期間中検査
 機器や配管等の溶接部を中心に、経年劣化に関する健全性を計画的に確認するため供用期間中検査計画を策定し、各種非破壊検査を実施する。
 3)構成・特性試験
  電気計装品(電子部品等により構成されるプロセス監視計器等)は出力校正・特性試験等を実施してその健全性を確認するとともに、経時的なドリフト等の調整を行う。
 4)機能試験
  プラントの基本設計や詳細設計の段階において、系統あるいは機器に要求した機能・性能が運転に入ってからも確保されていることを確認する。
(前回更新:2003年9月)
<図/表>
表1 BWRの定期検査項目
表1  BWRの定期検査項目
表2 PWRの定期検査項目
表2  PWRの定期検査項目
表3 主な定期検査項目の検査区分(BWRの場合)
表3  主な定期検査項目の検査区分(BWRの場合)
図1 新たな検査制度
図1  新たな検査制度
図2 定期検査制度の概要
図2  定期検査制度の概要
図3 沸騰水型原子力発電所の系統概略
図3  沸騰水型原子力発電所の系統概略
図4 沸騰水型原子力発電所の定期検査工程(参考)
図4  沸騰水型原子力発電所の定期検査工程(参考)
図5 加圧水型原子力発電所の系統概略
図5  加圧水型原子力発電所の系統概略
図6 加圧水型原子力発電所の定期検査工程(参考)
図6  加圧水型原子力発電所の定期検査工程(参考)

<関連タイトル>
沸騰水型原子炉(BWR) (02-01-01-01)
加圧水型原子炉(PWR) (02-01-01-02)
原子力発電所のタービン・発電機と付属設備 (02-02-02-06)
原子力発電所の保守体制と作業管理 (02-02-03-09)
電気事業法(原子力安全規制関係)(平成24年改正前まで) (10-07-01-08)
原子力発電所の定期安全管理審査の概要 (11-03-01-31)

<参考文献>
(1)火力原子力発電技術協会:原子力発電所の定期点検の概要、1990年10月
(2)火力原子力発電技術協会:火力・原子力発電所における関連諸法規とその適用、1993年5月
(3)火力原子力発電技術協会:原子力発電所の定期点検の手引き、1992年12月
(4)火力原子力発電技術協会:やさしい原子力発電、1990年6月
(5)原子力安全研究協会:軽水炉発電所のあらまし(改定第3版)、平成20年9月
(6)電気事業連合会:「原子力・エネルギー図面集」2011年版(2011年1月)、

(7)原子力安全委員会:平成21年版 原子力安全白書、第3編 原子力安全確保のための諸活動、第1章 原子力施設等に対する安全規制体制、第1節 実用発電用原子炉施設
(8)「電気事業法」(昭和三十九年七月十一日法律第百七十号)最終改正:平成二三年四月二七日法律第二七号
(9)「電気事業法施行規則」(平成七年十月十八日通商産業省令第七十七号)最終改正:平成二三年三月三一日経済産業省令第一四号
(10)「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和三十二年六月十日法律第百六十六号)最終改正:平成二一年七月三日法律第六九号
(11)原子力安全・保安院 原子力発電検査課:「新検査制度の運用開始について」平成21年3月9日
(12)原子力安全・保安院 原子力発電検査課 石垣 宏毅:新検査制度の概要とその運用状況、原子力の安全規制の最適化に関する研究会発表会〜新検査制度の定着と今後の課題〜(平成22年1月26日)、http://www.jsme.or.jp/pes/Research/A-TS08-08/1.pdf
(13)電気事業連合会ホームページ :電気の情報広場、原子力発電所の定期検査、

(14)原子力安全基盤機構:日本における原子力安全規制の概要、

(15)原子力委員会:「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」、「研究開発段階にある発電の用に供する原子炉の設置、運転等に関する規則」及び「電気事業法施行規則」の一部を改正する省令案の概要、平成20年6月26日、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2008/siryo29/siryo29-1-2.pdf
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