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<概要>
 原子力発電所における自主点検記録の不正問題等が、平成14年8月に明らかになり、これら不正が行われた背景には、電気事業者の安全確保活動の一環として行ってきた自主点検の位置付けが不明確であったことなどが挙げられている。このような問題の再発防止と国民の信頼回復を図るため、平成15年10月に電気事業法が一部改正され、定期事業者検査制度が定められ、また、定期安全管理審査も制度化された。 定期安全管理審査は、電力会社が実施する定期事業者検査の実施体制を独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が審査し、原子力安全・保安院(NISA)がその審査結果に基づいて総合的な評定を行うものである。
<更新年月>
2008年05月   

<本文>
1.検査制度見直し(平成15年10月)の概要
 平成14年8月に原子力発電所の自主点検記録の不正問題等を受けて、再発防止と国際的な水準の安全規制を実現するため、原子力安全規制の改革がなされた。平成14年12月に電気事業法及び原子炉等規制法の改正(平成14年法律第178号)並びに独立行政法人原子力安全基盤機構法(平成14年法律第179号)が成立し、関連する政省令を改正し、平成15年10月には、新たな原子力安全規制として、検査のあり方が以下のように見直された。
(1)保安活動に関する品質保証ルール及び保守管理ルールの明確化
・品質保証、保守管理に係る事項が新たに法令要求に加わり、保安規定に記載するとともに、国の保安検査官が保安検査において保安規定の遵守状況をチェック、
(2)電力の自主点検を定期事業者検査として法定検査に格上げし、健全性評価制度を導入するとともに、記録保存義務を付加、
(3)定期事業者検査の実施体制を審査する定期安全管理審査制度を新たに導入、
(4)定期検査、使用前検査について、設備の健全性を確認することに加えて、健全性確認までのプロセスも検査対象に追加、
(5)保安検査の充実
・保安規定の逐条の遵守確認でなく、保安活動の行為に着目して、品質保証の観点からチェック、さらに
(6)検査官の体制強化を図るため、独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)を設置し、定期検査、使用前検査の一部を国に代わって実施するとともに、定期安全管理審査を実施する。
2.定期事業者検査制度
 従来の制度では、電力会社の自主点検について、その位置付け、点検結果の国への報告の要否についてのルールが法令上明確に定められておらず、電力会社の自主的な判断に委ねられていた。このような自主点検を法的に義務付けたのが、定期事業者検査制度で、制度の概要を表1及び図1に示す。定期事業者検査制度では、電力会社は原子力施設内の発電設備を定期的に検査し、あらかじめ定めた検査項目について基準に適合しているかどうかを確認するとともに、その結果を記録・保存するよう義務付けられている。
3.定期安全管理審査
 定期安全管理審査は、電力会社が行う定期事業者検査の実施体制やその検査が適切であるかを審査するものである。審査の概要を表2及び図2に示す。審査には二種類あり、電力会社が実施する定期事業者検査の基本的体制について審査する文書審査と、立会いや記録の確認によって検査項目から抜打ち的に審査を行う実地審査がある。審査の結果は、審査を実施したJNESからNISAに通知され、NISAはその審査結果に基づき評定を行う。このとき、評定の段階に応じて、次回の定期安全管理審査の実施項目を増減させるなどの工夫(インセンティブ規制)を行い、定期事業者検査の信頼性・透明性を確保するとともに、電気事業者の安全確保の取組みを促すことにしている。
4.定期安全管理審査の特徴(抜打ち的手法、インセンティブ規制)
 抜打ち的手法は上記に示した実地審査において用いられる手法である。実地審査は、電力会社の定期事業者検査項目の中から適宜サンプリングを行い、その実施状況を立会いや記録の確認により行うこととしている。サンプリングは、定期事業者検査項目の中おおよそ10%程度の項目を取り上げ、この際の審査対象項目については、事前に電力会社に知らせず、審査当日に通告して審査を行う。これにより、電力会社に緊張感を持たせつつ、より効果的かつ効率的な審査が行われる。ここで、実地審査における「おおよそ10%程度の項目を取り上げる」とは、審査項目数の増減を意味する。JNESが行った審査の結果はNISAに通知されて評定が行われ、前回審査の評定の良し悪しに基づいて次回審査の項目数を増減することとしている。これをインセンティブ規制と呼んでいる。評定結果は、良い評定から順にA・B・Cの三段階方式で決められるが、インセンティブ規制の概要は図3のようになる。ちなみに、平成18年度の審査実績(カッコ内は平成17年度)は、39(30)件の申請のうち、A段階は5(2)件、B段階は33(23)件、C段階は1(5)件の判定となっている。
5.新検査制度の運用状況
 電力各社において、制度見直し後の定期検査を多数回経験し、定期検査、定期事業者検査、定期安全管理審査に関するPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルが回り始め、改善方策が抽出されてきている。また、保安検査に関しても、新制度のもとでの各社の保安規定が認可されて以降、複数回の検査を経験しており、品質保証の観点からの保安検査について、PDCAサイクルが回り始めている。
 主な良好事例として、(1)全般として検査官、審査官と品質保証上の議論ができ、作業や検査の品質向上につながっている、(2)検査官に対する説明責任を果たす過程で、長年の実績に基づき当然のこととして行ってきた行為に対し、根拠の確認などを再度熟慮する良い機会になっている、(3)JNESの検査官は、土日・祝日の検査立会いも柔軟に行ってもらっており、定検工程への影響は出ていない。
 他方、改善が必要な主な事例として、(1)検査要領の面:保安活動のプロセスを対象に検査が行われるため要領書の細部にわたる説明を求められ、また検査の抜打ち実施に伴う検査対応が急遽発生するなど、現場での検査対応業務が大幅に増大している、(2)検査立会いに伴う手待ちの面:国の検査官が立会いできる期間が限定されており、定検工程の変更が発生すると、国の検査官の日程調整によって定検日数が大きく延びるおそれがある、(3)検査の重複の面:保安検査と定期安全管理審査において、品質保証や保守管理の分野で検査対象が重複せざるを得ない面があり、実際の検査においても重複が発生している。同様に、定期検査と定期安全管理審査において、設備の健全性を見るか保守管理体制を見るかの違いはあるものの、保守管理を対象に検査する点で重複せざるを得ない面があり、実際の検査においても両者で同じ説明が求められるケースが多い。(4)検査官ごとのばらつきの面:検査官によって、確認範囲や判断基準が異なる事例が発生しており、対応に苦慮している。
 これらに対して、平成17年1月に検査制度運用改善プロジェクトチームが設置された。同チームは新しい検査制度のねらいを、(1)事業者の自主保安活動を促進、(2)科学的合理性、客観性、公平性に基づいた規制を実現、(3)規制機関による検査は監査型へ移行し、抜打ち手法などによって事業者の自主保安活動に緊張感を付与、(4)これらの活動を、透明性を持って進め、安全確保に関する関係者の活動について国民への説明責任を果たすこととしており、これらを達成するための障害となっている事項を認識し、関係者で共有した上で運用改善で問題解決できる事項についてはスピード感を持って解決することとしている。運用改善のレベルでは問題解決できない事項が認識された場合には、制度改善のための活動につながるよう、問題提起する。また、新しい検査制度のねらいが達成される範囲において、事業者のコストミニマムが阻害されている事項については、関係者が合理的と認める解決策を見出し、問題解決を図ることとしている。新検査制度は概ね円滑に運営され、ほぼ当初予定通りの成果を挙げており、導入初期に見られた現場における混乱は相当程度沈静化してきているものと認識されつつある。
<図/表>
表1 定期事業者検査の概要
表1  定期事業者検査の概要
表2 定期安全管理審査の概要
表2  定期安全管理審査の概要
図1 定期事業者検査制度フロー(出典 JNES)
図1  定期事業者検査制度フロー(出典 JNES)
図2 定期安全管理審査業務フロー(出典 JNES)
図2  定期安全管理審査業務フロー(出典 JNES)
図3 インセンティブ規制の仕組み(出典 JNES)
図3  インセンティブ規制の仕組み(出典 JNES)

<関連タイトル>
原子力発電所の品質保証活動 (02-02-02-04)
原子力発電所の定期検査 (02-02-03-07)
日本における原子力発電設備の維持基準 (02-02-03-15)
原子力施設の検査制度の改正(平成15年改正の概要) (02-02-03-17)
原子炉等規制法(平成24年改正前) (10-07-01-04)
電気事業法(原子力安全規制関係)(平成24年改正前まで) (10-07-01-08)

<参考文献>
(1)原子力保安・保安院ホームページ:定期事業者検査、定期安全管理審査、定期安全管理審査制度と定期事業者検査制度
(2)原子力安全・保安院、「原子力発電所における新しい検査制度定着に向けた取り組みの概要」、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会検査の在り方に関する検討会(第13回)配布資料3(平成17年11月15日)、
(3)(独)原子力安全基盤機構ホームページ:原子力施設運転管理年報 平成18年版(17年度実績)、平成19年版(18年度実績)
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