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<概要>
 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、国のエネルギー・環境会議はこれまでのエネルギー・環境政策の抜本的見直しの必要性を唱え、平成24年(2012年)9月14日に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定した。革新的エネルギー・環境戦略では、原発依存度と化石燃料依存度の低減を目指して次の三本の柱を掲げている。(1)第一の柱:原発に依存しない社会の一日も早い実現。(2)第二の柱:グリーンエネルギー革命の実現。(3)第三の柱:エネルギーの安定供給。また、これらの三本柱を実現するために、電力市場の解放、発送電分離、分散型ネットワークの確立などの「電力システム改革」を断行するとともに、省エネルギーや再生可能エネルギーの拡大を推進するなど、「地球温暖化対策」の着実な実施に取り組むことを提唱している。政府は当初この戦略を閣議決定する予定であったが、原発ゼロ方針に対する各界の反発に配慮して決定を見送り、今後のエネルギー・環境政策の遂行に際してはこの戦略を踏まえる旨を決定するに留まった。
<更新年月>
2013年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
(1)経緯
 平成23年3月11日に発生した東京電力の福島第一原子力発電所事故を受けて、政府はこれまでのエネルギー・環境政策の抜本的な見直しが必要との認識の下にその基本的戦略の策定に着手した。この目的のため、平成23年10月21日の閣議決定「国家戦略会議の開催について」に基づいて、国家戦略室の「エネルギー・環境会議」(以下、会議)で長期的なエネルギー・環境戦略と2013年以降の地球温暖化対策について検討することとなった。
 検討は平成23年11月1日の第4回会議から始まり、平成24年9月14日の第14回会議で「革新的エネルギー・環境戦略」が決定された。政府はこの戦略を同年9月19日に閣議決定する予定であったが、特に原発ゼロ方針に対して経済界や労働界、立地自治体から強い反発の声が上がった。そこで、戦略そのものを閣議決定することを見送り、今後のエネルギー・環境政策についてはこの戦略を踏まえて関係自治体や国際社会等と議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って遂行する旨を決定するに留まった。
(2)革新的エネルギー・環境戦略の目的
 革新的エネルギー・環境戦略の概要を表1に示す。この戦略では、グリーンエネルギー利用の最大限の活用によって化石燃料依存度と原発依存度を抑制することを基本方針とし、これまでの広く多様な国民的議論を踏まえたエネルギー戦略の目標として以下に述べる三本の柱を掲げ、これらを実現するために「電力システム改革」を行うとともに温室効果ガスの排出量削減等の「地球温暖化対策」を着実に実施することを目的としている。
2.第一の柱「原発に依存しない社会の一日も早い実現」
 核燃料サイクルの安全、バックエンド等の課題に意欲的に取組み、原発に依存しない社会への道筋を示す。このため、以下の(1)に示す3原則の下に、(2)に示す5政策を進める。表2は、この革新的エネルギー・環境戦略に必要な検討項目を示す。
(1)原発に依存しない社会の実現に向けた3原則
 2030年代の原発稼働ゼロの実現に向けた3原則とは、1)40年運転制限制を厳格に適用すること、2)原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働すること、及び 3)原発の新設・増設を行わないことである。他方、代替電力を確保するため、表2の「グリーン政策大綱」に沿って政策資源を投入し、省エネルギーを加速するとともに、再生可能エネルギーの飛躍的普及を図る。
(2)原発に依存しない社会の実現に向けた5つの政策
 エネルギー・環境会議を中心に、以下の5つの原子力政策を確立する。なお、原子力委員会については、原子力平和利用に果たす役割に留意しつつ、その在り方に関する検討の場を設け、組織の廃止・改編も含めて抜本的に見直す。
1)核燃料サイクル政策:立地地域によるこれまでの協力を重く受け止め、立地地域との約束を尊重することが肝要であり、引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組むとともに、今後、政府が関係自治体や国際社会とコミュニケーションを図りながら、責任を持って政策の議論を行う。当面の方針として、「もんじゅ」については年限を区切った研究計画を策定、実行し、成果を確認の上、研究を終了する。また、バックエンド事業については民間とともに国も責任を持ち、使用済燃料の直接処分の研究、放射性廃棄物の減容、有害度の低減等を目的とした再処理技術、専焼炉等の研究開発を進める。
2)人材や技術の維持・強化:放射線の健康影響、原発の安全管理・廃炉技術、環境除染技術等の分野における人材の育成と技術開発を進め、原子力の平和利用に貢献することが不可欠である。このため、既存の原子力関連事業の人材を散逸させることなく最大限活用するとともに、技術開発や基礎研究への支援を通じて新たな原子力人材の育成を行うこととし、その施策を本年末までに策定する。
3)国際社会との連携:日本の原子力政策は諸外国との密接な協力体制の下で行ってきており、政策の見直しは国際機関や諸外国と緊密に協議、連携して進める。また、原発事故の経験と教訓を世界と共有し、世界の原子力安全の向上に貢献する。
4)立地地域対策の強化:国の新たな要請により影響を受ける立地自治体に十分配慮して措置を講じるとともに、立地自治体の構造転換を促すために、グリーンエネルギー導入支援を含めた施策を優先的・重点的に行う。また、福島第一原発の廃炉、福島県等の除染、同県民の健康管理を国の責任で進める。
5)原子力事業体制と原子力損害賠償制度の検討:これまで国策民営の下で進めてきた事業体制については、官民の責任の所在の明確化を図る。また、原子力損害賠償制度について、今後の制度の在り方について必要な検討を進める。
(3)原発に依存しない社会への道筋の検証
 原発に依存しない社会に向け、グリーンエネルギーの利用状況、国民生活・経済活動への影響、国際的なエネルギー情勢、原子力や原子力行政に対する国民の信頼の度合い、使用済燃料再処理に関する自治体の理解と協力の状況等について、常に情報を開示しながら、検証を重ねて政策を不断に見直していく。
3.第二の柱「グリーンエネルギー革命の実現」
 グリーンエネルギーの導入拡大には、コスト、安定供給、インフラの整備、規制等に課題がある。しかし、その技術開発と利用の拡大は、原発依存からの脱却の推進、広範な地域の活性化につながるとともに、エネルギー安全保障を高め、地球の温暖化防止対策の上でも有効となる。さらに、国民は、エネルギー消費者から分散型電力供給者ともなり、受益者と発電責任者の双方の役割を担う新しい社会の構築につながる。グリーンエネルギーの導入計画は、節電・省エネルギー計画と再生可能エネルギー計画から成る。
(1)節電・省エネルギー計画
 表3は節電・省エネルギー及び再生可能エネルギーの数値目標を示す。図1は節電・省エネルギーの長期的な拡大のイメージを示す。
1)節電:通信機能を備えた次世代型電力量計(スマートメーター)、家庭用エネルギー・マネージメント・システム(HEMS)、ビルディング用エネルギー・マネージメント・システム(BEMS)を利用して節電を進める。
2)省エネルギー:家庭・業務部門における照明や給湯、産業部門における技術革新と成果の利用、住宅・ビルにおける省エネルギー基準の適用、熱利用の効率化、次世代自動車の普及、スマート・コミュニティの実現等により省エネルギーを図る。
(2)再生可能エネルギー利用の推進
 図2に再生可能エネルギーの長期的な拡大のイメージを示す。この計画では、廃棄物発電を含む再生可能エネルギーの開発を進める。その積極的な導入のため、電力の固定価格買取り制度、発電設備等を設置する公共施設への公的投資、地域主導の再生可能エネルギーの導入促進、立地規制の改革と環境影響評価手続きの簡素化、送電網の整備による系統強化と広域運用等による系統安定化、再生可能エネルギー源からの熱利用の拡大、高度技術開発等を促進する。
4.第三の柱「エネルギーの安定確保」
 この戦略では、安全の追求が最優先であることを絶対的な前提としつつ、安定供給、環境適合及び経済性の三点に関する下記(1)〜(3)の技術開発、及び新しいエネルギー源等に関する(4)の技術開発を進める。
(1)火力発電の高度利用
1)LNG火力発電:LNGの輸入ルートを確保し、国内パイプラインを整備して安定供給と低廉化を図るとともに、高効率技術の利用拡大、一層の高効率化に向けた技術開発等を進める。
2)石炭火力発電:諸外国に日本の高い技術力で支援し、二国間オフセット・クレジット制度を併用しつつ地球温暖化対策に貢献する。
3)適切な電源構成:燃料特性、供給安定性、環境負荷、コスト、新増設等を総合的に考慮し、バランスのとれた電源構成を実現する。
4)環境影響評価:設備の新増設や置換の際の環境影響評価の迅速化を進める。
(2)コジェネ(熱電併給)等の熱の高度利用
 図3はコジェネの長期的な拡大のイメージを示す。燃料電池を含むコジェネを最大限に利用するため、設備の導入支援策を強化する。
(3)次世代エネルギー関連技術の開発
 未利用エネルギー、水素ネットワークシステム、二酸化炭素回収・貯留(CCS)等の次世代エネルギー関連技術の開発を進める。
(4)化石燃料の安定的かつ安価な供給の確保
1)エネルギー資源の確保:表2に示す「資源確保戦略」を展開し安価で安定的なエネルギー資源の確保を図る。併せて、同表の「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を進め、海洋エネルギー・鉱物資源の開発強化を図る。
2)エネルギー供給:天然ガスの国内パイプライン等の供給基盤を整備するとともに、石油・ガスの備蓄、供給体制の維持強化を進める。
5.電力システム改革
 上記三本の柱の実現のためにはエネルギーを巡る仕組みを抜本的に変える必要がある。今後は、多様な供給者が再生可能エネルギー発電などに参入し、無数の消費者が自己の選択で省エネルギーに参画した結果として電源構成が決まるような仕組みの構築を目指す。こうした仕組みには誰もが自由に使えるネットワークと競争的な市場が不可欠であり、以下の2点の電力システム改革が必要とされる。
1)電力市場における競争促進:小売市場の全面自由化、卸売の規制の撤廃等を通じて競争を促し、コストダウンを図る。
2)送配電部門の中立化・広域化:発電と送配電を機能的、法的に分離し、あらゆる発電事業者に送配電網を開放する。これにより、広域供給網をつくり再生可能エネルギー等の発電の不安定性の緩和と市場の活性化を図る。
6.地球温暖化対策の着実な実施
 表2に示す地球温暖化対策(第四次環境基本計画、平成24年4月27日)を尊重し、長期的かつ計画的に温室効果ガスの排出量削減に取り組む。
 具体的には、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーによるグリーンエネルギー革命により、エネルギー起源二酸化炭素の排出量を低減するとともに、その他の温室効果ガスの排出量削減に努める。また、日本の高度な環境技術を利用した二国間オフセット・クレジット制度により、日本の排出削減目標の達成を図る。原発稼働の不確実性から温室効果ガスの排出量は2020年では1990年より5〜9%削減の水準になると予想されるが、温室効果ガス全般の排出量削減の抜本的対策を図り2030年時点の国内排出量を1990年比で概ね20%削減することを目指す。
<図/表>
表1 革新的エネルギー・環境戦略の概要
表1  革新的エネルギー・環境戦略の概要
表2 革新的エネルギー・環境戦略関連の主な検討項目
表2  革新的エネルギー・環境戦略関連の主な検討項目
表3 節電・省エネルギー及び再生可能エネルギーの数値目標
表3  節電・省エネルギー及び再生可能エネルギーの数値目標
図1 節電・省エネルギーの拡大イメージ
図1  節電・省エネルギーの拡大イメージ
図2 再生可能エネルギーの拡大イメージ
図2  再生可能エネルギーの拡大イメージ
図3 コジェネ(熱電併給)の拡大イメージ
図3  コジェネ(熱電併給)の拡大イメージ

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新エネルギー技術開発プログラム (01-05-02-24)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) (01-08-05-07)
京都議定書(1997年) (01-08-05-16)
地球温暖化問題への対応策 (01-08-05-36)
二酸化炭素の放出抑制対策 (01-08-05-37)

<参考文献>
(1)革新的エネルギー・環境戦略、エネルギー環境会議、国家戦略室、

(2)革新的エネルギー・環境戦略の進め方について、国家戦略室、内閣府、
http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/meeting/2012/green/121025/item4.pdf
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