<本文>
1.はじめに
太陽エネルギーが直接的・間接的に人類に与える恩恵は計り知れないものがある。また、太陽エネルギーは、地域的に偏在せず全地球上に快晴時1kW/m
2程度のエネルギーが注がれ、1時間に地球上に降り注ぐそのエネルギー量は、人類が1年間で消費する全エネルギーに匹敵するほど膨大なものであるとともに、非枯渇性で環境汚染のないクリーンなエネルギー源である。しかしながら、太陽エネルギーの密度は低く、天候・時間に左右されるエネルギー源であるため、従来のエネルギー源に比べて極めて不安定な要素がある。太陽エネルギーを有効に活用するためには、このような特性を十分に認識し、用途に応じた適切な利用技術を開発する必要がある。太陽エネルギーの利用方法には、(a)太陽光発電による電力生産、(b)太陽熱発電による電力生産、(c)太陽熱の直接利用による冷暖房および給湯等の方法(太陽熱利用)がある。その中で、太陽光発電による電力供給は最も有望な方法である。
太陽光発電は、光を受けると直流電力を発生する太陽電池を利用した新しい発電方式である。太陽電池は、光−電気エネルギー変換素子である半導体を使用するため、熱発電システムのように電気を発生させるための装置や付属装置を設置する必要がない。そのため、太陽電池は早くから人工衛星や灯台などの主電源として使用され、その利便性とコスト引き下げの努力の末、現在では電卓、腕時計などの民生用品に利用されるようになった。
太陽電池製造コストは、
石油危機の昭和49年(1974年)当時1W当たり2〜3万円していたが、
表1に示すように、現在500円弱にまで下がってきている。しかし、個人住宅用システムの場合、平成16年度(2004年)では設置コストは平均システム価格で約70万円/kW、発電コスト50円/kWh程度と、一般家庭等での電力料金23円/kWhの2倍程度の水準にあり、設置には費用補助(住宅用は、平成17年度最終年度)を行っているのが現状である(
表2参照)。このため、その実用化に向けて技術開発を通してコスト低減を図り、今後1W当たり140円程度まで引き下げることを目標としている。
太陽電池は、
図1に示すようなメカニズムにより電気を発生する半導体素子で、電気伝導を支配する多数担体(キャリア)が
電子であるn型半導体と、多数担体が正孔であるp型半導体を接合(P−N接合)して作られる。代表的な結晶シリコン太陽電池はシリコンにボロン(
ホウ素)を添加したp型シリコン半導体をベースに、表面にリンを拡散してn型シリコン半導体の層(n層)を作る。このP−N接合部には電界(電位勾配)ができ、太陽光を
照射すると、光量子が原子に衝突して、電子と正孔との対が発生する。この電子と正孔とが内部電界および拡散により相互に逆方向に流れ、電流が発生する。このとき半導体内にできるp領域とn領域を結び外部回路を設けることによってp領域からn領域に向かって流れる電流を取り出す(光起電力効果)。
光エネルギーを直接電気エネルギーに変換する太陽電池の性能の良否はそれらのエネルギー比、すなわち太陽電池の出カ電気エネルギーと入射する太陽エネルギーの比によって示され、この比は太陽電池の性能の指標を与えるものであり、通常「エネルギー変換効率」、単に「変換効率」と呼ばれている。太陽電池の変換効率は着実に向上している(
図2参照)。
太陽電池は材料によって、シリコン半導体と化合物半導体に大きく二分される(
図3参照)。シリコン半導体単結晶は人工衛星に使用され、その後、低コスト大量生産用として多結晶太陽電池が開発された。シリコン半導体は結晶体やインゴットから太陽電池用の厚さ数百ミクロンのセル薄片を切り出すため、シリコン消費量が増大する。このため、厚さ数ミクロンオーダーのアモルファス、薄膜多結晶太陽電池などの薄膜太陽電池が研究開発されている。シリコン半導体の変換効率は20数%程度が限界であることから、更に高い変換効率を目指して化合物半導体の開発も実施されている。日本の太陽電池の年間生産量は1999年から世界1位となっている(
図4参照)。
2.太陽光発電システム
2.1 太陽光発電のシステム構成
太陽光発電システムは、太陽電池を主たる発電装置とした電源システムである。
図5に太陽光発電システムを示す。太陽光発電は、太陽電池アレイから発生する電力がパワーコンディショナを介して電熱機器(負荷)に供給される。パワーコンディショナは太陽電池の出力を制御し、負荷に適した品質に変換する機能を有している。システムをその構成要素で分類すると、独立型システム(商用電力系統から独立)と系統連系型システムに大別される。システムは更に、バックアップ用の蓄電池の有無および負荷の種類(直流または交流)によって詳細に分類される。日本では、商用電力系統の余剰電力を電力系統に逆潮流することでいわばバッテリーとして利用可能なことから、系統連系システムの普及率が8割を占めている。ちなみにIEA参加20か国での平均比率は約6割である。
2.2 太陽光発電システム技術開発への取組み
日本の太陽光発電の技術開発は、「
ニューサンシャイン計画」(1993〜2010年)のもとに結晶系、薄膜系など各種の太陽電池製造技術開発、太陽光発電システム技術開発、国際共同実証研究開発の3項目を実施してきたが、2000年度でその第1フェーズを終了した。そして、2001年度からは、政策的導入目標を強く意識し、研究テーマの「選択と集中化」を図った上で、新たな技術開発事業をスタートさせた(先進太陽技術研究開発)。プロジェクトは太陽光を効率的かつ経済的に電気エネルギーに変換することにより、電力として大規模に供給できる技術を確立すること目標としている(2005年までに年産100MW程度の生産規模でのモジュール製造コストを100円/W以下とする)。太陽光発電システムを本格的に普及させるには、基礎研究の成果を踏まえた太陽電池の技術開発とともに、システム全体とシステムの構成要素である周辺装置の性能・耐久性の向上と材料のリサイクル・リユースなどを推進し、低コスト化を図ることが必要である。太陽光発電システム実用化技術開発の流れを
表3に示す。以下、研究開発の詳細を示す。
(1)太陽光発電システム評価技術(1988〜)
インバータ、蓄電池等の周辺装置の性能を正しく把握するため統一的な試験・評価法の確立。太陽光発電システムの総合効率の向上を図るためシステム評価法と設計手法の確立。
(2)太陽光発電利用システム・周辺技術の研究開発(1980〜)
太陽光発電システムの発電コストを低減するため長寿命・低コストの蓄電池、建材一体型モジュールの開発。
(3)太陽光発電システムの実証研究
離島用電源として、太陽光発電システムと風力発電システムおよび既存電源を連系したマルチハイブリッドシステムの適用可能性の研究。配電系統へ高密度に太陽光発電システムが系統連系した場合の課題の研究。
(4)エネルギー使用合理化シリコン製造プロセス開発
実用化が進んでいる結晶シリコン太陽電池の量産化を図るため、結晶シリコン太陽電池の低コスト化、安定供給を目指して、高純度金属シリコン(99.5%)を出発原料とした高品質かつ低消費エネルギー型の太陽電池用シリコン(SOGシリコン)量産化技術の開発。
(5)即効型高効率太陽電池技術開発(1999〜)
キャスト法による高品質インゴット製造技術の開発、薄型・大面積多結晶基板スライス技術の開発、薄型高品質基板を生かす高効率セル化技術開発。LCA(ライフサイクルアセスメント)手法による総合的環境影響評価の実施。
また、政策的導入目標達成を加速することを目指して2000年度から「太陽光発電システム普及促進技術開発」事業が進められている。年間100MW程度の太陽光発電設備の生産に必要な量産技術などを企業・団体からの提案に基づき共同で研究開発を行うものである。
図6に太陽光発電技術研究開発事業の概要を示す。
2.3 太陽光発電システム導入推進への取組み
太陽光発電の導入推進のため、多数の省庁が各種の補助政策を設定しているが、制度面での主なものとしては太陽光発電システムを電力会社の配電網に連系しやすくするため、
電気事業法の運用面での改正が行われ、電気事業法の規制緩和(1990年)、余剰電力買い取り制度の整備(1992年)、系統連系技術要件ガイドラインの整備(1991年〜1993年)が実施された。
一方、資金面での補助策の主なものとしては太陽光発電フィールドテスト事業(1992年〜)、住宅用太陽光発電システム(住宅向けルーフトップ用)に対する補助金制度(1994年〜)が実施されている。また企業、民間団体でもこれらの補助制度とは別に独自の普及に取組む動きも活発化している。ちなみに平成18年度(2006年)
新エネルギー関係予算額は、総額1,381億円であり、対前年度比は82億円の減額である。
また、平成9年(1997年)以降、住宅用太陽光発電システムの普及促進に向け、独自の助成制度を創設する自治体が増えている。平成13年4月現在、130の自治体が補助、融資、利子補給などの助成を実施している。長野16自治体、愛知15自治体、福井9自治体、東京、神奈川、静岡、三重、滋賀、広島、山口、鹿児島がそれぞれ5自治体を有しており、助成制度を有する自治体が多い愛知、長野、静岡、神奈川などの都道府県が住宅用太陽光発電システム設置件数の上位を占める傾向にある。
2.4 日本における太陽光発電導入実績
日本における導入実績は、2004年度末現在で約1,132MW(住宅用、電力関係、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)分が主)、世界第一位、世界導入実績の44%を占めている(
図7参照)。このうちNEDOは、平成4年度(1992年)から実施している「公共施設等用太陽光発電フィールドテスト事業」および、平成10年度(1998年)から実施している「産業等用太陽光発電フィールドテスト事業」で、1992〜2004年度にかけて累積容量34,641kWを設置し、実際の負荷で運転データの収集・分析、設置ノウハウを蓄積するとともに、需要家の意識向上に寄与している。
なお、太陽光発電システムのより一層の普及拡大のため、通産省(現、経済産業省)では、1994年度から、個人住宅を対象に太陽光発電システムの設置に対して、設置費用の一部の補助を行っている。同制度により、1994〜1996年度に3590件、13,312kWの導入がなされ、その後、1997年度〜2004度にシステムの導入基盤整備事業として213,410件(782MW)が導入された。モニター事業による設置と導入基盤整備事業による設置を合わせると217,000件である。
表2に住宅用太陽光発電設置補助事業、
表4に住宅用太陽光発電システム設置件数、
表5にNEDOによる研究開発のための太陽光発電システム導入例を示す。RPS法認定太陽光発電システムからの電気供給量は、約2億kWh(平成15年度)から約3.5億kWh(平成16年度)へと増加している。
3.海外の現状
太陽光発電は、海外においても広範な研究開発が行われているとともに、実用化をめざした普及導入プログラムも開始されているが、現在では、日本、米国、ドイツが抜きんでた実績を示している(
図7参照)。
また、海外の主な太陽光発電システムプロジェクトを
表6に示す。
発展途上国の太陽光発電システムは先進国からの技術援助・国際協力がほとんどであり、アフリカ地域には水の真水化、ポンプなどの援助が多く、ついでアジア・太平洋地域では村落電化システム(ポンプ、照明、診療所電源等)が多くなっている。日本からはタイ、中国、モンゴル、キリバスなどの村落電化等に協力している。
<図/表>
<関連タイトル>
太陽熱発電システム (01-05-01-02)
太陽電池の原理 (01-05-01-03)
新エネルギーの導入と動向 (01-05-01-09)
サンシャイン/ニューサンシャイン計画 (01-05-02-01)
新エネルギー開発における国際協力 (01-09-07-03)
<参考文献>
(1) 小川健一郎:太陽光、風力発電、わが国の計画と普及策、エネルギー(2002.6)p.43?47
(2) 新国禎倖:住宅用太陽光発電システム導入の現状と将来展望、エネルギー(2001.6)p.65?69
(3) 資源エネルギー庁(監修):1997/1998資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1997年2月)p.672−678
(4) 太陽光発電協会:JPEAホームページ、
http://www.jpea.gr.jp/
(5) 資源エネルギー庁(編):エネルギー2002、(株)エネルギーフォーラム(2001)p.129
(6) 新エネルギー財団:新エネルギー財団HP、太陽光発電のページ
(7) 善岡卓夫、橋本洋助:太陽光発電と将来現状と将来見通し、エネルギーレビュー(2000.6)p.18?20
(8) 松本 紘:宇宙太陽発電の世界、OHM、オーム社(2002.1)p.61?65
(9) (株)工業調査会:新エネルギー大事典、2002年2月
(10)新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDOホームページ、太陽光エネルギー
(11)中部経済産業局 エネルギー対策課ホームページ:新エネルギー政策について
(12)太陽光発電技術研究組合:PVTECホームページ、
http://www.pvtec.or.jp/