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<概要>
 地球温暖化問題に国際的に協力して対応するために気候変動国連枠組条約が締結され、二酸化炭素を中心とした温室効果ガスの排出削減に関する当面の数値目標を定めた京都議定書が採択された。しかし、主要排出国の米国が離脱するなど、京都議定書に基づく排出削減の国際協力体制は困難になるとともに、京都議定書以降の将来枠組みに関する交渉も難航している。そこで、議定書プロセスを補完する取り組みとして、G20対話プロセスやアジア太平洋パートナーシップ(APP)の取り組みも始められている。日本では、2005年に京都議定書目標達成計画が策定され所要の対策が図られたが、削減目標の達成を一層確実なものとするため、2008年に改定京都議定書目標達成計画が策定され、取り組みの強化が図られている。
<更新年月>
2009年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は1988年の設立以後、約20年にわたって気候変動の原因や影響に関する科学的知見の整理を行い、気候システムの変化の状況とその原因、影響等に関して検討評価してきた。IPCCの評価結果を受けて、気候変動を緩和するとともに、気候変動に適応するための国際的な協力体制の構築、および各国の国内対策が進められてきている。以下にその概要をまとめる。
1.国際的対応策
 地球温暖化問題への政策的取り組みは1980年代半ばから始まっており、1985年には地球温暖化に関して初めての世界会議が、オーストリアのフィラハで開催され、地球温暖化に関する科学的知見が整理された。温暖化に関する知見が集まるにつれて、地球温暖化防止のための政策について検討する必要が認識されるようになり、1987年11月、イタリアのべラジオ会議で地球温暖化防止策について初めて行政レベルの検討が行われた。その後、各国の政府や各種国際機関の主催により、トロント会合(カナダ)など様々な会議が開かれている。
 IPCCの設立後、1989年2月にオランダのノールトヴェイクで「大気汚染と気候変動に関する関係閣僚会議」が開催され、温室効果ガス排出の安定化や気候変動に関する枠組み条約の採択に関する合意等を内容とするノールトヴェイク宣言が採択された。また、同年7月のヒューストンサミット(米国)では、気候変動に関する枠組み条約を1992年までに策定することを確認し、さらに、11月にジュネーブで開催された第2回世界気候会議には137か国が参加して地球温暖化を巡る一連の議論・問題を総括し、地球温暖化防止に協力して取り組むべきとの閣僚宣言が出された。これを受けて、国際連合は気候変動枠組条約交渉会議を設置し、その後約1年半にわたる条約交渉を経て、1992年5月に「気候変動に関する国連枠組条約(UNFCCC)」が採択され、1994年3月に発効した。
 気候変動国連枠組条約は、その最終目的を「気候系に危険な人為的影響を与えることを防止する水準において、大気中の温室効果ガスの濃度の安定化を達成する」と規定するとともに、条約の目的の達成および条約の規定の実施に当たって、a)共通だが差異のある責任に基づく気候の保護、b)特別の状況への配慮、c)予防的対策の実施、d)持続的開発を推進する権利・責務、e)開放的な国際経済システムの推進・協力、の原則を指針とすることとした。
 また、各国共通の10項目の責務が定められ、さらに先進国の責務として、温室効果ガス排出の抑制、吸収源の保護・増進に関する国家政策および対応措置の採択、温室効果ガスの排出削減を目指した政策・措置および排出と吸収の予測について締約国会議への通報および見直し、環境上適切な技術およびノウハウの移転が明記された。
 気候変動国連枠組条約の成立後、第1回の締約国会議(COP-1)が1995年にベルリンで開催され、排出削減の数値目標をCOP-3までに取り決めることなどを定めたベルリンマンデートを採択した。その後、ベルリンマンデートに関するアドホックグループ(AGBM)の会合が重ねられ、1996年7月のCOP-2(ジュネーブ)を経て、1997年12月に京都で開催されたCOP-3(温暖化防止京都会議)においていわゆる京都議定書が採択されるに至った。
 京都議定書の詳細に関しては、ATOMICAデータ「京都議定書(1997年) (01-08-04-15)」に解説されている。京都議定書では、枠組み条約の附属書I国(OECD諸国および市場経済移行諸国)を対象として、二酸化炭素(CO2)を中心とした6種類の温室効果ガスの排出抑制に関する数値目標を定めたほか、先進国間の共同実施排出権取引、発展途上国との間のクリーン開発メカニズム(いわゆる京都メカニズム)など、排出削減を合理的かつ容易にする柔軟性措置の導入が合意された。その後、COP-4からCOP-6に至る会合の中で京都メカニズムの制度設計、途上国参加問題、条約上の課題(影響への対処、資金メカニズム、遵守問題など)の検討が行われていたが、2001年3月に主要な排出国である米国が議定書からの離脱を表明し、発効が危ぶまれる事態となった。そこで、同年にマラケシュ(モロッコ)で開催されたCOP-7においては、懸案となっていた上記事項に関して関係国が合意に達し、日本が2002年に批准し、ロシアも2004年に批准して発効要件が満たされ、2005年に発効に至った。
 京都議定書では発展途上諸国は削減義務をまったく課されていない。また、主要排出国である米国が離脱し、オーストラリアは批准できず、また、一旦は批准したカナダも2007年に京都議定書の目標達成を断念したことを表明した。したがって、京都議定書が世界全体の排出量を減らす効果はきわめて限定的なものとなった。米国エネルギー省の試算によれば、EU、日本等の議定書批准国が削減目標を達成したとしても、削減量は1990年の世界全体の排出量のわずか2%に過ぎない(図1)。また、気候変動国連枠組条約の締約国会議では第1約束期間以降の将来枠組みに関する議論も始まっているが、途上国の削減努力に関する規定などを巡って激しい意見対立があり、交渉は難航している。
 上記のとおり、気候変動国連枠組条約による地球温暖化対策の国際的協力体制(いわゆる議定書プロセス)が先進国と発展途上国の対立などで厳しさを増す中で、異なる枠組みの下で実効性のある排出削減の枠組みを模索する動きも出てきている。
 主要国首脳会議(G8)は2005年のグレンイーグルズ(英国)の会合で「気候変動、クリーンエネルギー及び持続可能な開発に関するグレンイーグルズ行動計画」を合意し、主要排出国間の協力を通じてセクター別のエネルギー効率の向上などを進める取り組みとともに、G8に主要な発展途上国を加えた主要20カ国(G20)がエネルギーと気候変動問題とを議論する対話プロセスを開始した。先進国を中心に構成されたG8は2003年度のCO2排出量が世界全体の45%相当であるが、中国、インド等も参加するG20では78%相当に達する。この対話プロセスは毎年行われており、議定書プロセスを補完する役割を担っている。
 また、議定書プロセスを補完する別の取り組みとして、米国は2005年7月に「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」の実施を提唱した。APPには、日本、米国、オーストラリア、韓国、中国、インドの6カ国の政府・民間企業が参加し、技術開発・普及・移転を通じてエネルギー需要の増加、エネルギー安全保障の確保、気候変動問題への対応を協力して行うことが目的となっている。APPの6カ国が世界全体に占める割合はGDPで55%(2003年、以下同じ)、一次エネルギー消費量で48%、CO2排出量で51%であり、特に人口大国で今後の経済発展の著しい中国とインドを含むことから、その実効性は高いと期待されている。2006年1月の第1回閣僚会議以降、分野ごとに官民共同のタスクフォースを設置して行動計画を策定し、具体的な協力活動を行っている。
 こうした、短期的な取り組みと並行して、より長期を展望して温暖化対策のあり方を検討する動きも近年活発化してきた。例えば、2007年2月に欧州理事会(European Council)は、地球の表面気温上昇を産業革命前に比べて2℃以内に抑制するため、2020年までにEUの温室効果ガス排出量を1990年比で20%、国際合意如何では30%削減し、さらに2050年までに世界全体の排出量を1990年比で50%削減を目指して取り組みを行う旨の合意をしたと発表した。これに歩調を合わせて、EU内の幾つかの国では2050年に60〜80%程度の大幅な削減を目指すことが発表されている。
 一方、日本では、現在時点で自然の吸収量の約2倍とされる温室効果ガスの人為的排出量を、早期に自然の吸収量以下に抑制する(つまり半減する)ことによって、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を図るべきとの観点から「美しい星50」、さらにそれを深化させた「クールアース50」の構想を示し、2008年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で報告している。そのなかで、長期的には世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに現状比で半減させるため、革新的技術の開発と普及を進めて低炭素社会への移行を目指し、また、短期的には京都議定書以降の国際的な温暖化対策の枠組みとして、主要排出国がすべて参加し得る柔軟で多様性のある枠組みを構築するとともに、セクター別のアプローチを採用して公平かつ効率的に排出削減を行うことを提案している。
2.日本における対応策
 地球温暖化については、1989年6月に開催された関係閣僚会議申し合わせ事項の中でも個別問題の中の重要な柱の一つとされ、1990年10月の第4回関係閣僚会議において「地球温暖化防止行動計画」が策定された。この行動計画を着実にフォローアップしていくため、関係各省庁が行った対策の実施状況および日本の二酸化炭素排出総量等が、毎年度、地球環境保全に関する関係閣僚会議に報告された。また、1992年6月にリオデジャネイロで開催された国連環境会議(地球サミット)において、地球温暖化防止行動計画の達成を国際公約として発表した。
 その後、1997年の京都議定書の採択によって、わが国は2010年の前後5年間にわたる年平均の温室効果ガス排出量を1990年比で6%削減することが義務づけられた。そこで、COP-3の直後に、京都議定書の目標達成に向けて具体的かつ実効ある対策を総合的に推進するため、地球温暖化対策推進本部が内閣に設置され、1998年6月には、2010年に向けて緊急に講ずべき対策を取りまとめた「地球温暖化対策推進大綱」を決定した。また、同年10月には「地球温暖化対策の推進に関する法律(地球温暖化対策推進法)」が制定された。
 さらに、2005年の京都議定書発効に伴い、地球温暖化対策推進法の改正法が施行され、地球温暖化対策を総合的かつ計画的に推進するための機関として、地球温暖化対策推進本部が改めて内閣に設置された。そして、同法の規定に基づき、地球温暖化対策推進大綱、地球温暖化防止行動計画、地球温暖化対策に関する基本方針を引き継ぐ形で「京都議定書目標達成計画」が2005年4月に策定された。この計画は2006年7月に一部改定された後、議定書目標の達成を一層確実なものとするため、2008年3月に全面改訂された。改定された計画の概要を図2に示した。
 こうした京都議定書の目標達成に向けた取り組みに加え、上記のように、より長期を展望した目標設定の試みも行われており、「クールアース50」に示されるような低炭素社会のあり方と、その構築に向けた道筋を示すための検討も引き続き進められている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
図1 京都議定書による二酸化炭素の削減効果
図1  京都議定書による二酸化炭素の削減効果
図2 京都議定書目標達成計画(平成20年3月改定)の概要
図2  京都議定書目標達成計画(平成20年3月改定)の概要

<関連タイトル>
二酸化炭素放出量の推計 (01-08-05-12)
温室効果ガス (01-08-05-02)
二酸化炭素の放出抑制対策 (01-08-05-37)
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
京都議定書(1997年) (01-08-05-16)

<参考文献>
(1)首相官邸:地球温暖化対策推進本部ホームページ、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/index.html
(2)環境省ホームページ:平成20年版環境・循環型社会白書、http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/pdf.html
(3)外務省ホームページ:地球温暖化問題に係る新提案「クールアース50」、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/coolearth50/index.html
(4)Council of the European Union: Council Conclusions on Climate Change, 2785th Environment Council Meeting, Brussels, 20 February 2007,
(5)経済産業省産業技術環境局:気候変動問題に関する将来枠組みについて(平成18年6月29日)
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