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<概要>
 国連気候変動枠組条約第5回締約国会議(The 5th Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change,COP 5)は、ボン(ドイツ)で1999年10から11月にかけて開催された。COP5は、京都会議(COP3)やブエノスアイレス会議(COP4)で提示された京都メカニズム、シンク(吸収源)、遵守制度、途上国問題等の地球環境問題で利害対立が明確になり、重要課題を一気に決定できずにCOP6へ持ち越された。
 第6回締約国会議(COP6)はハーグ(オランダ)で2000年11月に開催された。COP6は、上述のCOP4で提示された課題についての国際的合意を目指して議論が行われたが、地球環境問題における利害対立の構図は根深く、先進国と発展途上国、また、先進国内でも意見が収斂せず、会議は中断された。COP6の再開会合はボンで2001年7月に開催され、「ブエノスアイレス行動計画の実施の中核要素」が一部修正のうえ合意された(ボン合意)。
 第7回締約国会議(COP7)はマラケシュ(モロッコ)で2001年10月から11月にかけて開催された。上記の「ボン合意」を法文化する文書が採択され、また、京都議定書を実施してゆくうえで必要な京都メカニズム、吸収源、遵守制度に関する運用ルール(マラケシュ合意)が採択された。今後、各国で議定書批准が促進される見通しである。
<更新年月>
2002年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.COP5
 1999年10月25日から〜11月5日にかけてドイツのボンで開催され、参加者総数は約4000名である。京都会議(COP3)やブエノスアイレス会議(COP4)で提示された重要課題を一気に決定することを目的として開催された。しかし、先進国間での排出権取引(*8)、共同実施(*5)、クリーン開発メカニズムCDM)(*5)などの具体的方法をめぐって先進国と途上国、米国とEU(European Union:欧州連合)が、また、交渉の進展に反対するアラブ産油国と他の締約国が対立し、各国の批准に至らなかった。このように、ボン会議では利害対立が改めて浮き彫りとなった。COPでの国際交渉における構図を 図1 に示す。
 原子力に関しては、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、ドイツ、イタリア、アイルランド、ギリシャがCDM(*5)等における原子力技術の移転に反対した。また、フランス代表のヴォワネ環境大臣(緑の党出身)は「非CO2(二酸化炭素を放出しないこと)だけがクリーンな開発ではない」と述べ、暗に原子力への反対姿勢を表したものであると見る意見もあった。しかし、英国の反対により、このような意見はEUの統一見解にはならなかった。
 ボン会議の成果は、(1)2000年11月に開催予定のCOP6で決議するという道すじを明らかにしたこと、(2)途上国にも積極的に温暖化対策に取り組む気運が生まれたこと、(3)開催国ドイツのシュレーダー首相が「リオ+10年」(地球サミットから10年目)の節目に当たる2002年を京都議定書の発効目標年にしたことである。
 ボン会議での主な決定事項・内容は次のとおりである。
(1)COP6の日程決定:2000年11月13〜24日にハーグ(オランダ)での開催を決定した。(2)京都メカニズム:京都メカニズム(*4)の内容の詳細については討論されたが決定に至らなかった。補完性(*9)に関して欧州連合が上限を提案していること、排出権取引(*8)、共同実施(*2)、クリーン開発メカニズム(CDM)(*5)という3種類の京都メカニズムの獲得排出削減量の代替可能性についての議論がなされた。CDMに関しては途上国にもそのメリットが認識されつつあることが確認された。(3)シンク(吸収源)(*6):決議遅延案に対し日本は反対したが、逆に森林等の吸収源の拡大による抜け穴を憂慮するNGOからは批判される結果となった。具体的には2000年5月のIPCC(International Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)特別報告を待って議論する。(4)遵守制度:具体的議論が開始された。罰則を与えるかに関しては、日本(法的拘束力を持たせない形式を主張)とその他の国の間で考え方に違いがある。(5)共同実施活動(AIJ):他国と共同で温室効果ガス排出抑制対策を行うパイロットフェーズ(試験的期間)が延期され、炭素クレジットへの移行の話にまで議論が発展しなかった。(6) 能力育成:途上国の気候変動対応における能力育成を図る必要があるとして、新たな提案がなされた。(7)悪影響への対処:産油国であるサウジアラビアが、経済補償がなければ他議題の通過を妨害する姿勢を示した。先進国としては、小島嶼国(*7)など悪影響が進行中であると思われる途上国に対する支援の強化について積極的姿勢をみせることで、今後の交渉を有利にすすめようとする意図がうかがえた。
2.COP6とCOP6再開会合
 2000年11月13日から〜11月25日にかけてオランダのハーグで開催された。参加者総数は約7000名(事務局含む)であり、内訳は182か国、323の国際機関・NGO、および443のメディアとなっている。日本政府からは、環境、外務、農林水産、通産などの省庁等から約70名が参加した。
 第1週の事務レベル会合では閣僚級交渉に備え、複数案併記を含む合意文書パッケージ素案が作成された。第2週は、「途上国問題」、「京都メカニズム」、「吸収源」、「政策措置・遵守等」の3グループに分かれて閣僚級を交えた交渉が行われた。各国主張を折衷した議長ノートも示され交渉は継続したが最終合意には至らず、2001年7月のボン(ドイツ)で開催予定のCOP6再開会合に持ち越した。
 COP6再開会合(議長:プロンク・オランダ環境住宅国土計画大臣)は2001年7月16日から28日までボン(ドイツ)で開催され、COP6に引き続き、COP3で採択された「京都議定書」に係る運用上のルールに関して議論が行われた。その結果、「ブエノスアイレス行動計画(1998年のCOP4で採択)の実施のための中核的要素」が一部修正のうえ合意され、京都議定書のいわゆる中核的要素(途上国問題、森林吸収源、京都メカニズム、遵守制度)に関する基本的合意(ボン合意)が得られた。しかし、詳細なルールに関しては途上国問題について合意が得られたものの、他の主要問題(吸収源、京都メカニズム、遵守)に関しては、第7回締約国会議(COP7)で引き続き協議することとなった。
 次回COP7はマラケシュ(モロッコ)で2001年10月から11月にかけて開催する。
(1) プロンク議長ノートとその要点
 2000年11月23日夜に配布されたプロンク議長ノートでは、日米等のアンブレラグループ(*1)、EU、途上国の主張の折衷案が示された。議長ノートは、途上国問題、京都メカニズム、吸収源、政策措置・遵守等の4つの課題に関する議論をコンパクトにまとめており、今後の交渉でもその内容に注意することになっている。 表1-1表1-2表1-3 および 表1-4 に議長ノートの主な内容を示す。
 会議の論点は、途上国問題、京都メカニズム、吸収源、遵守と政策措置の4点に集約されていた。そのうち、「途上国問題」では、地球環境ファシリティへの追加資金や新規基金制度の設置といった提案がなされた。「京都メカニズム」については、排出権取引には実質的に上限を設けず、共同実施については特に議論とならなかった模様であるが、CDMについては、原子力利用を控える、再生可能、エネルギー効率向上を優先するといった原則が示された。最後まで交渉を続けていたと思われるのが「吸収源」であり、日米加等によるアンブレラグループとEU(European Union:欧州連合)の対立が最も大きく報道されている。国内削減分の森林面積変化による吸収と土地管理等の人為的活動の算定方法は、今後交渉の焦点のひとつとなるだろう。さらに、「遵守と政策措置」に関しては、削減割当量不遵守に対するペナルティ賦課、遵守委員会と執行理事会、促進理事会といった制度提案が注目される。
(2) 原子力の扱い
 クリーン開発メカニズム(CDM)(*5)によって途上国の温暖化防止施策を支援する際、原子力エネルギーを含めるかどうかが、COP6の大きな争点となった。
 ゴア米副大統領は、ハーグ会議に出席する米国の環境団体に書簡を送り、途上国支援に「環境汚染のリスクのある原子力エネルギーの利用は加えるべきではない」と、アピールした。この問題は、1989年の「アルシュ・サミット」でも各国の争点となり、同サミットでは開催国のフランスが「温暖化抑制策に原子力エネルギー利用を加えるよう」強く主張、これが認められた経緯がある。
 しかし、COP6では多くの国が途上国支援に原子力を入れることに反対、プロンク議長提案でも「自然再生エネルギー事業を優先し、原子力エネルギー利用は避ける」ことが明示された。日本政府は「クリーン開発メカニズム事業内容には、一切条件を設定しない」ことを求め、「原子力エネルギー活用にも道を残したい」(通産省環境立地局(当時))としている。
 2001年7月のCOP6再開会合でのボン合意では、「共同実施(JI)とCDMにおいて原子力施設に関するプロジェクトを控える」こととなった。
 原子力をJIおよびCDMから除外しようとする動きはかなり前からあった。その支持者は「環境にやさしい」という姿勢を見せたい欧州諸国や原水爆実験などの経験から反原子力色の強い島嶼(とうしょ)国であった。これに対して、日本をはじめとしてアンブレラグループ(欧州以外の先進諸国)は、特定の技術を温暖化防止交渉において否定すべきではないとして、反対していた。また、これから原子力を用いていく中国やインドなどのいくつかの発展途上国も、同様に反対していた。
 ボン会議の目的は、欧州、アンブレラ、途上国の三つのグループに分かれて、京都議定書運用則についての包括的な合意をすることで、議長は三者の主張をある程度織り込んだ妥協案を示し、それに極力変更しないように各国に要請した。この妥協案で、原子力によるJIとCDMを認めないという文言が盛り込まれており、日本を含むアンブレラ諸国はそれに対する巻き返し交渉の余地をあたえられないままに、合意採択に至った。
3.COP7
 第7回締約国会議(COP7:議長エルヤズギ・モロッコ国土整備・都市計画・住宅・環境大臣)は、2001年10月29日から11月10日までハーグ(オランダ)で開催された。会議では、2001年7月のCOP6再開会合で達成された「ブエノスアイレス行動計画の実施のための中核的要素」に関する合意(ボン合意)に基づく法的文書(吸収源、京都メカニズム、遵守、京都議定書第5・7・8条[排出量および政策措置の報告、審査等]、政策措置に関する決定)が採択された。これにより、京都議定書の実施に係るルールが決定し、先進諸国等の京都議定書批准が促進される見通しが得られることになった。また、途上国支援のための3つの基金(国連気候変動枠組条約に基づく基金:特別気候変動基金および最貧国基金、京都議定書に基づく基金:京都議定書適応基金)が設立された。
 最大の焦点は京都メカニズムに関するルール策定で、わが国は、京都メカニズムを十分利用できることが、地球規模での効果的かつ持続可能な温暖化対策に繋がるとの主張を行ったところ、種々議論を経て、一定の制約はあるものの、柔軟かつ幅広い利用が可能なルールになった。ボン会合で争点となった遵守制度(排出削減義務の不遵守の場合の対応)については、ボン合意に基づき、法的拘束力のある措置を課し得る制度にするかどうかについて、京都議定書発効後の議定書締約国会合(COP/moP)第1回会合において措置されることとなった。
 会期中にIPCC第三次報告書(TAR:Third Assessment Report)に関するワークショップを開催し、TARに含まれる気候変動対策の効果等の情報の検討を行い、SB16(国連気候変動枠組条約第16回補助機関会合)に報告することとなった。CDM理事会及び技術移転専門家グループの設立とメンバー選出、並びに第1回会合が行われ、CDM理事会には岡松荘三郎(財)地球環境産業技術研究機構顧問がメンバーに選出された。
 2003年9月に開催予定の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット)の前に、COP7が同じアフリカ大陸で初めて開催されることもあって、両共同議長(ロック・スイス大臣及びムーサ南ア大臣)が、サミットへ向けたCOPからのメッセージを発出した。また、COP8は2002年10月23日から11月1日に開催することが決定された。
 COP事務局から、2002年1月17日に、SB16がドイツのボンで、2002年6月3日から14日まで、COP8がインドのニューデリーでそれぞれ開催されることが発表された。

[用語説明(50音順)](*1) アンブレラグループ:欧州連合(EU)以外の西側先進国と旧ソ連を中心とするグループ。(*2) 共同実施:削減目標のある先進国や旧ソ連東欧地域国の間で,排出削減または吸収源のプロジェクトを実施し、投資国が自国の数値目標達成のために削減量をクレジットとして獲得できる仕組み。(*3) 京都議定書:1997年の第3回気候変動枠組条約締約国会議で採択された議定書。温暖化ガスの削減目標,柔軟性措置等に関する基本方針が示されている。(*4) 京都メカニズム:京都議定書で示された先進国や旧ソ連東欧地域国に対する温暖化ガス削減目標を達成するための柔軟性措置の総称。排出権取引、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)を指す。(*5) クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism):削減目標のある先進国や旧ソ連東欧地域国が投資国となり、それ以外の途上国の間で、排出削減または吸収源のプロジェクトを実施し、投資国が自国の数値目標達成のために削減量をクレジットとして獲得できる仕組み。世界全体として温暖化ガス排出量の総量を拘束するものではないという批判もある。(*6) シンク(吸収源):森林等、二酸化炭素などの温暖化ガスを吸収するもの。吸収量推定は、化石燃料燃焼に伴う二酸化炭素発生量推定と比較して、不確実性が大きい。(*7) 島嶼(とうしょ)国:温暖化で、海面上昇による国土消滅の潜在的影響のある国々。(*8) 排出権取引:京都議定書で示された各国の削減目標達成のため、排出量を取引する制度。京都メカニズムのひとつ。(*9) 補完性:京都議定書の削減目標達成に対し、国内対策を主とし、海外での対策や炭素クレジットの購入は従とすべきであるとする概念。排出量取引と共同実施については補完的であるべきことが京都議定書に明記されている。
<図/表>
表1-1 プロンク議長ノートの主な内容(1/4)
表1-1  プロンク議長ノートの主な内容(1/4)
表1-2 プロンク議長ノートの主な内容(2/4)
表1-2  プロンク議長ノートの主な内容(2/4)
表1-3 プロンク議長ノートの主な内容(3/4)
表1-3  プロンク議長ノートの主な内容(3/4)
表1-4 プロンク議長ノートの主な内容(4/4)
表1-4  プロンク議長ノートの主な内容(4/4)
図1 COPの国際交渉における構図
図1  COPの国際交渉における構図

<関連タイトル>
地球環境問題(序論) (01-08-01-01)
地球サミット(UNCED) (01-08-04-08)
大気汚染防止への原子力の寄与 原子力発電、放射線利用 (01-08-04-09)
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
ブエノスアイレス行動計画(1998年のCOP4決定) (01-08-05-19)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) (01-08-05-07)
IPCC第三次評価報告書(2001年) (01-08-05-08)
京都議定書(1997年) (01-08-05-16)
気候変動に関する国際連合枠組条約 (13-04-01-11)

<参考文献>
(1) 資源エネルギー庁(編):エネルギー2002、(株)エネルギーフォーラム(2001年12月10日)p.37-43
(2) COP6再開会合日本政府代表団、杉山大志、定森一郎ほか:特集「地球温暖化防止を巡る課題」、原子力eye(平成13年10月号)、第47巻第10号(通巻559号)、日刊工業出版プロダクション(2001年10月1日)p.13-35
(3) COP7日本政府代表団、杉山大志、井上雅太郎ほか:特集「エネルギー問題と地球温暖化防止」、原子力eye(平成14年2月号)、第48巻第2号(通巻563号)、日刊工業出版プロダクション(2002年2月1日)p.12-38
(4) 環境庁地球環境部(編集):気候変動に関する国際連合枠組条約(和文および英文)、気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書(和文および英文)、京都議定書と私たちの挑戦、大蔵省印刷局(1998年5月15日)p.151-243
(5) 環境省ホームページ:気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)再開会合について(http://www.env.go.jp/earth/cop6-sai/index.html)2002年2月
(6) 環境省ホームページ:気候変動枠組条約第7回締約国会議(COP7)についてhttp://www.env.go.jp/earth/cop7/(2002年2月)
(7) COP6公式ホームページ、各種文書(http://www.unfccc.int/)、2000
(8) 地球産業文化研究所ホームページ:国連気候変動枠組条約(COP5)概要報告2002年2月
(9) 杉山大志:COP5報告、エネルギー・資源、エネルギー・資源学会、Vol.21,No.2,p.86-89(2000年3月)
(10)小出重行:延長戦にもつれ込んだCOP6の現状と課題、エネルギーレビュー 2001年1月号、(株)エネルギーレビューセンター、p.46-49(2000年12月)
(11)電力新報社:COP6決裂でどうなる日本の選択肢−プロンク議長の調停案を検証する−、エネルギーフォーラム2001年1月号、p.98-100
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