<本文>
1.閉鎖系としての地球環境と気候変動問題
地球全体で増え続けている人口が、エネルギーを含む有限資源をリサイクルしないで永久に消費し続けることは不可能である。人間の生活する地球が基本的に有限閉鎖系であり、生活を営む上で消費する物質、エネルギーが系外から供給されず、物資も基本的には地球の有限閉鎖系にとどまることが大きな原因である。
地球環境問題に関わる近年の国際的な動向を
表1にまとめた。外交政治ベースで国境を越える環境問題に人間の関心がもたれたのは、1972年にストックホルムで開催された「人間環境開発会議」が最初であるといわれている。同時期は、他国の工業地帯を起源とする亜硫酸ガス等の汚染物質による
酸性雨、およびそれに伴う魚類減少が注目されていた。そこで、深刻化する酸性雨問題を国際討議の舞台に引き出すことが会議の目的のひとつであった。その後、発ガン率を増加させる可能性のあるオゾン層減少に着目した、地球環境問題としての対応がなされた。冷蔵庫冷媒やクーラー、半導体の製造などに幅広く使われていたフロン類はオゾン層を破壊することから、現在、国際的に生産が中止されている。
地球環境問題は、1980年代後半の温暖化問題への意識の高まりから再び注目を浴びることとなる。気候変動に伴う
地球温暖化の問題は、ある地域での人間活動が、国境はもちろん、地球規模でその影響を及ぼすことに特徴がある。影響は、人間活動の結果である二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロンなどのいわゆる
温室効果ガスの大気中濃度増加によってもたらされるとされている。最も寄与が大きいのが二酸化炭素であり、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料の燃焼や、森林伐採に伴う固定炭素の放出によって、大気中に排出される炭素量が過大となり、炭素収支がバランスしていないことが報告されている。その結果、大気中二酸化炭素濃度は上昇を続けていることが科学的に明らかになってきている。メタン、亜酸化窒素などの温暖化に対する寄与はCO
2と比較して相対的には少ないものの、農業、エネルギーなどの部門における人間活動に伴う排出がある。オゾン層減少対策として開発された代替フロンのオゾン層破壊効果は相対的に小さいが、フロン類と同様に温暖化効果を有しているのが難点である。
2.政治問題化した地球環境問題−気候変動枠組条約と締約国会議
国際的な取り組みとして、各国の政策に最も影響を与えていると思われるのが、気候変動枠組条約と締約国会議である。地球規模の問題の解決には国際的な取り組みが不可欠であり、1992年にブラジルで行われた国連環境開発会議[環境と開発に関する国際会議、地球サミット](UNCED:United Nations Conference on Environment and Development)では気候変動に関する枠組条約が調印された。条約では世界各国に対して温暖化防止行動計画の策定を要望し、締約国会議も定期的に開催されている。
1997年の第3回締約国会議(京都会議)では、既に生産が原則禁止となっているフロン類以外の温室効果ガスの排出量に制約を加えることを盛り込んだ「京都議定書」が採択された。2010年を中心とした前後5年間で、先進国や旧ソ連東欧地域(これらの地域は、気候変動枠組条約附属書Iに含まれる諸国という意味で、附属書I諸国と呼ばれることも多い)の温室効果ガスの排出を1990年と比較して一定割合にまで抑制する目標を定めた。
京都議定書は、温室効果ガスの削減の基本原則を定めたものなので、その後数回の締約国会議を経て、2001年にモロッコで開催された第7回締約国会議(マラケシュ会議)で、京都議定書の運用をより詳細に定めた「マラケシュ合意」が採択された、しかし、この合意には、温室効果ガス排出量が世界最大であるアメリカが議論に参加せず、今後急激な温室効果ガス排出増が見込まれる途上地域に対する義務がないなど、今後解決すべき課題も多い。
なお、わが国は2002年6月に京都議定書を締結した。2005年2月2日現在、140か国及び欧州共同体が締結している。2005年2月16日ロシアの締結により、議定書は発効した。
<図/表>
<関連タイトル>
気候変動とエネルギー選択 (01-08-05-30)
地球の温暖化問題 (01-08-05-01)
温室効果ガス (01-08-05-02)
原子力潜水艦による海洋汚染 (01-08-01-20)
環境問題に関する国際会議(国際的取組み) (01-08-04-07)
地球サミット(UNCED) (01-08-04-08)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) (01-08-05-07)
京都議定書(1997年) (01-08-05-16)
<参考文献>
(1) IPCCホームページ:
http://www.ipcc.ch
(2) 地球産業文化研究所ホームページ:IPCC情報、
2001年11月15日
(3) 地球環境戦略研究機関ホームページ:IPCC/TSUの活動概要、2001年11月15日
(4) 黒沢厚志:地球環境問題の統合評価−炭素排出権取引と原子力フェイズアウトの影響、季報エネルギー総合工学、第22巻、第1号、(1999年4月)
(5) 茅陽一監修、環境年表2004/2005、オーム社(2003年11月)
(6) 外務省ホームページ: