<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 1998年(平成10年)11月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された気候変動国際連合枠組条約第四回締約国会議(COP 4では、1997年(平成9年)12月のCOP3で採択された京都議定書を具体化させるための「排出権取引の運用規定の策定スケジュール」を盛り込んだ「ブエノスアイレス行動計画」が採択された。
 COP4では京都会議で積み残しとなっていた柔軟性措置(京都メカニズム)の策定スケジュールを期限付きで決定したことが最大の収穫であった。ブエノスアイレス行動計画は、排出権取引について2000年に開催する第6回締約国会議を期限にルール作りを行うことを規定した。他の柔軟性措置である共同実施クリーン開発メカニズムCDM)も排出権取引と並行して行うが、途上国が参加できるCDMを途上国側の意向により先行して議論を進めることになる。柔軟性措置の運用を京都議定書の批准の条件とする国もあり、議定書の発効は早くても取引ルールができあがる2000年以降になる見通しである。
<更新年月>
1999年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.イントロダクション
 1998年(平成10年)11月2日から13日まで、気候変動国際連合枠組条約第四回締約国会議(COP4:The 4th Conference of Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change )がアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された。この会議には、締約国154か国を含む161か国が参加した。COP4は11月14日朝(日本時間では14日夜)の本会議で、1997年(平成9年)12月のCOP3で採択された京都議定書(表1ならびに関係する図1図2および表2表3参照)を具体化させるための「排出権取引の運用規定の策定スケジュール」を盛り込んだ「ブエノスアイレス行動計画」(Buenos Aires Plan of Action,以下「行動計画」という。)を全会一致で採択し閉幕した。
 行動計画では、(1) 先進国が途上国の温暖化防止策を支援し、削減分の一部を自国分に算入できる「クリーン開発メカニズム」(CDM:Clean Development Mechanism)を重視しつつ、温室効果ガスを削減するための国際制度を2000年(平成12年)の第6回会議までを目標に交渉する、(2) 資金制度として世界銀行などが管理する「地球環境ファシリティ」(GEF:Global Environment Facility,地球環境資金制度ともいい、地球環境保護のため開発途上国へ資金を提供する。1991年に発足。)を活用し、途上国が自国の温暖化対策の現状などを条約事務局に報告する仕組みを整えるための交渉を進める、(3)温暖化で水没が懸念されたり、化石燃料の消費減少で経済状況が悪化すると主張する産油国への保証問題、削減目標が達成できなかった場合の罰則規定の強化などについて専門家会合などで検討する、ことなど6項目についての今後のスケジュールや期限が明記された。
 行動計画の要旨を、 表4-1表4-2 および 表4-3 に示す。
 COP4では、目標達成のための国際的協力に基づく対策(排出権取引など)の原則やルールの検討など「京都議定書の早期発効および実施のための課題」、技術移転の具体的進め方など「枠組条約の実施上の課題」の他、「途上国の取組強化」などについて解決が期待されていた。最大の焦点であった途上国の参加などには全く触れられず結論は先送りにされる格好となり、先進国と途上国の対立が深まり京都議定書の発効が遅れる可能性も懸念される。
 しかし、COP3で京都議定書が採択されて以降、実質的な議論がほとんど進んでいなかっただけに、京都メカニズム(Kyoto Mechanisms:京都議定書で規定された排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズムをいう。:表3参照)のスケジュールなどの期限を定めた行動計画が採択されたことは、大きな成果といえる。また、この行動計画の採択により、2000年(平成12年)に開催予定のCOP6が京都議定書の発効に向けた重要会議として位置づけられたといえる。
2.COP4の主要論点および評価
 環境庁(現環境省)の発表資料から、COP4の主要論点と成果、論点毎の概要および評価を以下に示す。また、行動計画の要旨を、表4-1表4-2および表4-3に示す。
(1) 主要な論点
a.京都議定書において導入されたいわゆるメカニズム(排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズム(CDM))の制度の具体化
b.COP3において合意が見送られた途上国の参加問題
c.条約上の課題の検討
(2) 会議の成果
 今回の会議では、今後のタイムフレームを伴う目標およびそのための具体的取組を規定する行動計画(いわゆる「ブエノスアイレス行動計画(Buenos Aires Plan of Action)」)が作成されたことが最大の成果である。この中で、最大の交渉の焦点であったメカニズムについて、その原則、手続き等について、COP6に最終決定を行うことを目標とした作業計画および当面の作業日程が決定された他、資金メカニズム、技術移転等についても具体的作業計画が決定された。また、遵守問題については、COP6における決定を目標として検討作業を進めることが決定された。
(3) 主要論点別概要
a.ブエノスアイレス行動計画
 COP4においては、条約の履行の強化、京都議定書の実効化に加え、政治的モメンタムを維持するために、以下の項目からなる行動計画が採択された。
(a) 資金メカニズム、
(b) 技術開発及び移転
(c) 条約4条8項、9項の実施(気候変動による悪影響及び対応策による影響への対処)
(d) 共同実施活動(AIJ)
(e) メカニズム
(f) 京都議定書の締約国会議への準備
b.メカニズム
 「ブエノスアイレス行動計画」の中で、メカニズムについての原則、手続き、指針等につき、COP6に最終決定を行うことを目的とした作業計画を決定した。その他、各国からの提案の提出、ワークショップの開催、報告書の作成等に関する今後の当面の作業日程も合意された。
c.途上国の自発的約束
(a) 議長国であるアルゼンチンから非附属書(1)国(途上国)の自発的約束に関する議
題が提案されたが、途上国側は、議論は時期尚早であるとして強く反対した。
(b) 結果、本件は議題から削除することとなったが、アルゼンチン主催の下、先進国、
途上国別に関心のある国が集まり、意見交換を行った。意見交換の内容は、今後の協議の取り進め方で、これを非公式協議の開催と位置づけるのかは明らかでないが、今後、先進国および途上国双方の参加による協議の場が確立されるための足がかりが形成されたものと評価できる。なお、CDMについては、中南米諸国およびアフリカ諸国が独自の動きを示すなど、従来のG77+中国(途上国グループ)の一枚岩がくずれる徴候が出てきたことは注目される。
d.条約上の課題
(a) 条約4条8項、9項の実施(気候変動による悪影響および対応策による影響への対処)については、COP5およびCOP6での決定に向けて、各国からの提案の提出およびワークショップの開催等、検討のための具体的な作業日程が決まった。
(b) 資金メカニズムについては、途上国による更なる取組に配慮した追加的ガイドライ
ンが設定された。
e.吸収源(シンク)
 吸収源(sink:温室効果ガス、エーロゾルまたは温室効果ガスの前駆物質を大気中から除去する作用、活動または仕組みで、温室効果ガス削減算定時に森林等による二酸化炭素の吸収分を算定できるとするもの)については、1998年6月にボン(ドイツ)での補助機関会合で決まった今後の作業計画をベースとして、それをさらに発展させた今後の作業計画について合意した。
f.遵守問題
 遵守問題に関するSBSTA/SBIの共同作業グループを設立することが決定した。[注]SBSTA/SBI:Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice/Subsidiary Body for Implementation,作業グループとしての補助機関会合をいう。
 COP6での決定を目標に、今後、作業グループを中心とした検討が進められることとなった。
(4) 評価
a.COP4において、京都会議後の国際的取組についてのタイムフレームを伴う共通
目標を設定し、今後実施すべき作業を具体化することができたことは、今後の交渉のモメンタムの維持、強化に大きく資することになったと評価できる。
b.また、今回の会議では、東京での閣僚レベル非公式会合の成果が、メカニズムにお
ける議論をはじめとして、様々な場で交渉の進展に反映され、最終的に「ブエノスアイレス行動計画」という大きな成果として結実した。先進国と途上国の対立が顕在化したにも拘わらず、今回の会議で何らかの成果をまとめようとする積極的かつ協力的姿勢が先進国、途上国の双方から見られ、これが今回の会議の成功に大きく貢献した。
c.さらに今回の会議では、会議初日およびハイレベル・セグメント(後者は真鍋環境庁(現環境省)長官が出席)において、わが国の地球温暖化対策に関する国内努力や国際協力の現状についての演説を行ったのをはじめとして、いくつかのセッションにおいて、わが国の考え方についての説明を行うとともに、わが国の取組ぶりをアピールするため英文資料を配布し、わが国の考え方に対する理解を求めた。その結果、わが国の地球温暖化への取組ぶりと考え方に対する各国の理解を深めることができた。
3.会議の進展阻む先進国と途上国間の利害関係
 COP4で議論が詰めきれなかった事項も多く、行動計画を採択するまで会議そのものはスムーズに進行したわけではなかった。今回の会合でもっとも注目された途上国の参加問題も公式的には進展が見られなかった。初日の議題採択の段階で中国、インドなどに反発され、議題進行を優先させるため取り下げざるを得なくなった。
 その後、アルゼンチン主催による非公式協議が持たれたが、先進国、途上国の両者が別々に会議を開催しただけで、合同の会合は開催できなかった。また、米国、日本など非EU先進国とEUの争点対立となっている排出権取引などの「上限規制」についても「お互い意見を出し合った」だけにとどまり、実質的な議論は先送りになった。具体的な議論は2000年以降に持ち越されたといえる。
 それでも、今回のCOP4で「ある程度温暖化対策の道筋が見えてきた」(金融関係者)という指摘も少なくない。これまで重要な争点に南北の対立があげられてきたが、今回の会合ではさらに温暖化問題の大部分が先進国と途上国間の利害関係に根ざしていることが改めて浮き彫りにされた。これは「EUと米国、日本など先進国間の排出権取引を巡る上限問題は京都議定書への批准を前提にした条件闘争であり、少なくとも2000年までに話合いで歩み寄る可能性はある。今後は、先進国が妥協しながら、いかに途上国を説得できるかが温暖化対策の重要課題であることがはっきりした」(同)といえる。
4.途上国の新しい動き
 上記の先進国と途上国間の利害関係がクローズアップしたなかでも、途上国側に変化の兆しが見えてきたことも、今後の温暖化交渉の方向性を示唆している。途上国の参加問題では、アルゼンチンが新しい動きを見せた。途上国が自発的な規制目標ををもつという提案は会議の冒頭で議題からはずされたが、同国は1999年に開催予定の締約国会議(COP5)で自国の目標を出すと表明した。これは、途上国グループからの自発的参加の動きといえる。メカニズムに関する議論でも中南米などが中国やインドと対立する意見を出し始め、一枚岩とされてきた途上国側の内部で認識の差が顕在化してきている。
 このような変化は、途上国側内で排出権取引やCDMの活用が自国に利益をもたらすことにつながると判断した結果であって,今後、途上国が複数のグループに再編される可能性も十分に考えられる。先進国にとっては、この変化を生かして自発的参加を表明する国との交渉を通じて組み入れていくことは有効な対策と考えられる。米国上院が京都議定書の批准の条件として「途上国の意義ある参加」を掲げているが、このような取組みが解決の糸口になる可能性もあり、二酸化炭素(CO2)の最大排出国である米国の批准を促すことにもつながってくる。
 また、途上国の参加は単に温暖化対策を巡る政治的駆け引きだけの問題ではない。これまで途上国グループは、「温暖化問題は先進国の問題であって、われわれに義務を負わせる前にまず先進国が取り組むべきである」と主張してきた。しかし、2010年には途上国からの温暖化ガスの排出量が先進国を上回ると見られている。温暖化対策は途上国が加わらないと解決しない。途上国も気候変動が自らの脅威になることを予感して、条約の利点を探り始めた。この流れを促進するためには、先進国が自らの削減義務を誠実に果たすとともに、環境と発展が両立する援助の仕組みを構築する必要がある。
<図/表>
表1 京都議定書(1997年12月)の概要
表1  京都議定書(1997年12月)の概要
表2 先進工業国(条約の附属書1締約国)の排出削減目標のポイント
表2  先進工業国(条約の附属書1締約国)の排出削減目標のポイント
表3 目標達成の国際的仕組み
表3  目標達成の国際的仕組み
表4-1 ブエノスアイレス行動計画の要旨
表4-1  ブエノスアイレス行動計画の要旨
表4-2 ブエノスアイレス行動計画の要旨
表4-2  ブエノスアイレス行動計画の要旨
表4-3 ブエノスアイレス行動計画の要旨
表4-3  ブエノスアイレス行動計画の要旨
図1 京都会議で決められた主要国の温室効果ガス排出削減目標
図1  京都会議で決められた主要国の温室効果ガス排出削減目標
図2 京都議定書によって期待される二酸化炭素削減効果(先進工業国分)
図2  京都議定書によって期待される二酸化炭素削減効果(先進工業国分)

<関連タイトル>
地球温暖化防止京都会議(1997年のCOP3) (01-08-05-15)
地球の温暖化問題 (01-08-05-01)

<参考文献>
(1)西宮 昌ほか:日本の排出量削減の技術的オプション、特集「地球環境問題への新たな取組み」、原子力eye,Vol.45,No.2、日刊工業新聞社(1999年2月)p11-31
(2) 通商産業省(編):第8章「地球環境問題への対応」、エネルギー ’98 、電力新報社(1998年10月)p215-233
(3)朝倉一雄:COP4の会議概要と今後の展望、動力(ENERGY)第48巻、第251号、(社)日本動力協会(1999年3月)p1-8
(4)並木育朗:COP4ブエノスアイレス会議に参加して−地球温暖化対策への原子力の役割をアピール−、日本原子力文化振興財団月報、1998年11・12月号、日本原子力文化振興財団(1998年11月)p4-5
(5) 環境庁地球環境部(企画編集):パンフレット「京都議定書と私たちの挑戦」、環境庁(1998年5月)
(6)外務省ホームページ「国連・地球規模問題」 (1999年2月アクセス)
(7) 環境庁ホームページ「地球温暖化防止京都会議とその成果」 (1999年2月アクセス)
(8) EICネットのホームページ「98.11.16 国連気候変動枠組条約第4回締約国会議(COP4)について/概要と評価 」 http://www.eic.or.jp/index.html(1999年2月アクセス)
(9) 朝日新聞東京本社(編集発行):社説、温暖化防止「ブエノスアイレスの宿題」、朝日新聞(1998年11月15日、40481号、12版)p5
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ