<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界の原子力発電
<タイトル>
世界の原子力発電の動向・西欧州(2011年) (01-07-05-20)

<概要>
 欧州各国は、1970年代の石油危機を契機に、石油代替電源として大規模な原子力発電開発を行ってきた。その結果、欧州連合(EU)加盟国の原子力シェアは発電量全体の約3分の1、エネルギー消費全体の15%を賄う。各国は、国境を接するか、海に隔てて隣接しているため、国際的な送電網が発達しており、電力の国際取引も盛んに行われている。
 近年、原子力発電開発は地球温暖化対策としてその重要性が再び注目され、拡大方向にあった。イタリア、スウェーデン、ドイツ等、1979年の米国スリーマイルアイランド発電所事故、1986年のチェルノブイリ発電所事故により、脱原子力政策に踏み切った国々でもエネルギーの安定供給や地球温暖化への対策として、原子力政策の見直しが図られた。しかし、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を受け、イタリアは2011年6月13日の国民投票で原子力新設禁止を可決したほか、スイス及びドイツでも再び脱原子力政策を進めているが、フランス、イギリス等原子力推進国の原子力政策は維持される見通しである。なお、EU9ヵ国内では運転中の原子炉を対象に安全性検証(Stress Test)を実施するほか、自然災害・テロ等の危機管理システムの強化、安全対策の強化が計画されている。
<更新年月>
2011年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 欧州各国は1970年代の石油危機を契機に、石油代替電源として大規模な原子力発電開発を行ってきた。2010年12月時点、西欧州全体では131基・1億3,275万kWの原子力発電設備が運転されている(表1表2参照)。近年、原子力発電は地球温暖化対策として注目され、拡大方向にあった。しかし、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故をうけ、原子力の安全確認、危機管理意識の徹底のほか、将来のエネルギー戦略に影響を与えている。フランスやイギリスの原子力推進政策に変更はない一方、イタリア、スイス、ドイツは再び脱原子力政策を進める考えである。
1.イギリス(原子力発電所立地点;図1参照)
 2011年12月時点、運転中の原子力発電所は18基・合計出力1172.2万kWで、原子力発電による発電電力量は約621.4億kWh(同年6月までは19基・合計出力1195.2万kWで、原子力発電による発電電力量は約569億kWh)、総発電電力量に占める原子力の割合は16.4%(天然ガス:46.3%、石炭:28.5%、水力・再生可能エネルギー:7%)。原子炉の構成は、原子力廃止措置機関(NDA)が所有するマグノックス炉(GCR)3基・合計出力136万kW、ブリティッシュ・エナジー(BE)社が所有するガス炉(AGR)14基・合計出力887.5万kWと国内唯一のPWRサイズウェルB(125.8万kW)である。
 マグノックス炉は、原子力開発初期段階(1950〜60年代)に開発された炭酸ガス冷却炉で、英国原子燃料会社(BNFL)の所有であったが、軽水炉に比べ経済性が低く、老朽化が目立つため、廃止措置機関NDAに移管され、閉鎖プログラムが進行中である(表3参照)。現在、運転延長を続けているGCR炉3基も2012年末までに閉鎖される予定である。
 イギリスは、北海ガス・石油資源の生産の減少、石炭火力発電所の老朽化を踏まえ、2008年11月、気候変動法2008を制定。2050年までに温室効果ガスの排出量を少なくとも1990年レベルの80%減まで削減することを目標に定め、電力の低炭素化政策を推進中である。気候変動・エネルギー省(DECC)が 2010年10月に公表した「エネルギー国家政策声明書(NPS)」では原子力を推進する計画で、福島の事故以降もその姿勢は変わらない。
 建設サイトの事前審査で既存発電所に隣接する8箇所(ブラッドウェル、ハートルプール、ヘイシャム、ヒンクリーポイント、サイズウェル、オールドベリー、ウィルファ、セラフィールド)が、包括的設計審査(GDA)でAREVA・EPRとWestinghouse・AP1000が承認された。建設は海外電力会社の進出により、フランスのEDF、ドイツのE.ONとRWE、スペインのイベルドローラ、国内企業のSSE(Scottish and Southern Energy)に集約される。このうち、EDF Energyは、EPR・4基(出力668万kW)を、ヒンクリーポイントとサイズウェルに隣接するサイトに2基ずつ建設する予定で2011年7月、原子力規制局(ONR)へ原子力サイト許可申請を行った。2030年頃の原子力発電容量は現在の約1.6倍に増加する見通しである。
2.フランス(原子力発電所立地点;図2参照)
 2011年12月時点、58基・合計出力6,588万kWの原子力発電所が運転中である。2010年の原子力発電による発電電力量は4,101億kWh、総発電電力量の74.1%を占める。MOX燃料は全ての90万kW級PWR・20基に装荷済みである。
 フランスの加圧水型軽水炉(PWR)は全て標準化され、150万kW級の標準炉型N4シリーズ、ショーB1、B2号機(PWR、156万kW×2基)が2000年5月と9月に、シボー1、2号機(PWR、156.1万kW×2基)が2002年1月と4月に営業運転を開始した。2015年以降、90万kW級の原子炉(第二世代)が相次いで設計寿命の40年を迎えるため、フランス電力(EDF)は2007年12月から、N4の次世代炉としてフランスとドイツが共同開発した欧州加圧水型炉(EPR)をフラマンヴィル3号機として建設している。EPRはフィンランドのオルキルオト3号機に次いで2番目の着工で、2016年の運転開始を予定している。
3.ドイツ(原子力発電所立地点;図3参照)
 ドイツは2000年6月に政府と電力業界等の間で、原子力発電所の段階的な閉鎖を合意し、原子力法の改正により、原子炉の漸次閉鎖(許認可最長32年)、原子炉新規建設の禁止、使用済燃料再処理の終結が法的に規定され、2002年4月から施行された。以降、シュターデ発電所(PWR、67.2万kW)が2003年11月に、オブリッヒハイム発電所(PWR、35.7万kW)が2005年5月に閉鎖。再生可能エネルギーの拡充と省エネに力を注いだが、電力消費量は微増傾向にあり、代替電源である天然ガス火力は、燃料の約30%をロシアから輸入していることから、経済面及び環境面を考慮して、2010年10月、既存原子炉の運転期間延長法案を成立させた。しかし、福島第一原子力発電所事故以降の2011年5月30日、ドイツは2022年までに国内17基の原子力発電所を段階的に閉鎖することで、連立与党が合意に達した。なお、原子力発電所を運転する16の州政府首相との協議の末、定期点検で停止していた8基882.1万kWの原子炉は前倒しで2011年8月6日に閉鎖している。従って、2011年8月以降は9基・1269.6万kWの原子炉が稼動している。
4.スイス(原子力発電所立地点;図4参照)
 スイスは2010年12月時点、4サイト、5基・340万kWが稼動している。2010年の原子力発電電力量は253億kWh、総発電電力量に占めるシェアは38.0%、平均設備利用率は88.77%と好調である。スイスは独特の国民投票により、1990年に新規原子力発電所の10年間凍結を採択したが、2003年5月に行われた2回目の国民投票では否決。2005年2月には改正原子力法が施行され、原子力オプションの維持、2006年以降10年間の再処理の凍結、放射性廃棄物最終処分場の立地に関する州拒否権の廃止等が盛り込まれ、新規原子力発電所建設の是非は別途国民投票に委ねられた。2011年5月、政府は「2050年エネルギー戦略」を発表。この中で既存原子炉の立替はせず、設計寿命50年を迎えた原子炉から順に閉鎖する、段階的閉鎖を選択した。2034年に全ての発電所の運転が終了する見通しである。
5.スペイン(原子力発電所立地点;図4参照)
 2011年12月時点、8基・772.7万kWが運転中である。2010年の発電電力量は593億kWh、原子力発電のシェアは20.1%。2004年3月の選挙で国民党を破ったサパテロ首相は、原子力発電所の段階的閉鎖や再生可能エネルギーの導入促進策など、脱原子力を政策方針とした。政府は2005年7月に総発電電力量に占める原子力の割合を2011年までに現在約20%から10%〜16.5%へ削減する計画を発表したが、国内消費電力量は年5〜6%の伸びを示し、既存原子炉の出力増強で対応している。2011年2月には原子炉寿命のライセンス更新が可能となったが、福島第一原子力発電所事故後、安全対策を見直す動きが出てきている。
6.ベルギー(原子力発電所立地点;図2参照)
 2011年12月時点、7基・620万kWの原子力発電所が運転中である。2010年の原子力発電量は457億kWhにのぼり、総発電電力量に占めるシェアは51.1%で、フランス、スロバキアに次いで世界第3位である。ベルギーは、原子力発電所の運転期間を40年に定めるとともに、原子力発電所の新規建設を禁止するなどを盛り込んだ「脱原子力法」を2003年1月に成立させた。これにより、2015年に40年目を迎えるドール1号機(PWR、41.2万kW)を皮切りに順次閉鎖され、2025年には最後のチアンジュ3号機(PWR、106.5万kW)が閉鎖される。なお、同法案は新規発電所の建設は禁止しているため、エレクトラベル社は隣国フランスでの新規発電所建設に目を向けている。
7.オランダ(原子力発電所立地点;図2参照)
 2011年12月末時点、ボルセラ原子力発電所(PWR、51万kW)が、オランダで唯一運転中の原子力発電所で、2010年に34億kWhの電力を供給した。ドイツ・シーメンス社製で1973年に運転を開始、稼働率は88.87%と好調である。同発電所は所有・運転しているEPZ社が再生可能エネルギー研究等の資金を拠出することを条件に2033年まで運転を延長する予定である。また、政府は2008年に「長期エネルギー報告書」を策定し、原子力発電所の新規建設を支持。デルタ社はボルセラに160万〜250万kWのAP-1000またはEPRを建設する計画を発表した。この方針は福島第一原子力発電所事故後も変わっていない。
8.スウェーデン(原子力発電所立地点;図4参照)
 2011年12月時点、10基・939.4万kWの原子力発電所が運転中である。2010年の原子力発電電力量は557億kWh、総発電電力量に占める原子力シェアは38.1%となった。スウェーデンは、1980年の国民投票で2010年までに原子力発電所の段階的廃止を打ち出し、1999年11月にバーセベック1号機(BWR、60万kW)、2005年5月に2号機(BWR、61.5万kW)を強制閉鎖した一方、政府は2005年以降、既存原子炉の出力増強を計画している。
9.フィンランド(原子力発電所立地点;図4参照)
 フィンランドでは2011年12月時点、1977年〜1982年に運転を開始した4基・282万kWの原子力発電所が運転中である。2010年の原子力発電電力量は284億kWhで、原子力の割合は28.4%であるが、電力量の約15%をスウェーデンやロシアから輸入している。政府は2000〜2010年にかけて国内電力消費量は約18%伸びると予測し、2005年2月にTVO(テオリスーデン・ボイマー社)にオルキルオト3号機(EPR=欧州型PWR、170万kW)の建設認可を発給、2005年8月から建設が開始された。EPR初号機であり、35年ぶりの新規建設で、運転開始は当初計画より4年遅れの2013年を予定している。また、2010年7月にTVO及びフェンノボイマ社には「原則決定(DIP)」が交付され、2020年営業運転開始に向けた発電所のサイト選定及び炉型選定が許可されている。
10.イタリア(原子力発電所立地点;図4参照)
 チェルノブイリ発電所事故後1987年11月、国民投票によって原子力発電開発の年間の凍結を決定し、1990年までに稼働中の原子炉を全て閉鎖した。電力需給の逼迫を背景に原子力再会に向けた動きがあったが、福島第一原子力発電所事故後の2011年6月に国民投票が実施され、原子力再開法は57%の投票率で90%の反対票が投じられ廃止となった。
<図/表>
表1 西欧州諸国の原子力発電開発の現状
表2 西欧州諸国の原子力発電が総発電電力量に占める割合
表3 英国マグノックス炉の閉鎖計画
図1 イギリスの原子力発電所立地点
図2 フランス、ベネルクス三国の原子力発電所立地点
図3 ドイツの原子力発電所立地点
図4 その他西欧州諸国の原子力発電所立地点

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<関連タイトル>
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
ドイツの原子力発電開発 (14-05-03-03)
スウェーデンの原子力発電開発 (14-05-04-03)
フィンランドの原子力発電開発と原子力政策 (14-05-05-02)
スイスの国民投票 (14-05-09-07)
ベルギーの原子力発電開発 (14-05-10-02)
スペインの原子力発電開発 (14-05-13-02)
イタリアの原子力事情と原子力開発 (14-05-14-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向、2011年版(2011年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑、2012(2011年10月)、欧州
(3) Magnox Limited:
(4)世界原子力協会(WNA)ホームページ:Nuclear share figures(2000-2010)、
http://www.world-nuclear.org/info/nshare.htm 及びWorld Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements(2011.12.1)、
http://www.world-nuclear.org/info/reactors.html
(5)世界原子力協会(WNA)ホームページ:
フランス(http://www.world-nuclear.org/info/inf40.html)、
ドイツ(http://www.world-nuclear.org/info/inf43.html)、
イギリス(http://www.world-nuclear.org/info/inf84.html)、
ベルギー(http://www.world-nuclear.org/info/inf94.html)、
フィンランド(http://www.world-nuclear.org/info/inf76.html)、
スペイン(http://www.world-nuclear.org/info/inf85.html)、
オランダ(http://www.world-nuclear.org/info/inf107.html)、
スイス(http://www.world-nuclear.org/info/inf86.html
(6)IAEA発電炉情報システム(PRIS)ホームページ:

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