<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 日本の新エネルギー
<小項目> 新エネルギー技術開発
<タイトル>
電池電力貯蔵技術の研究開発 (01-05-02-08)

<概要>
 昼夜間隔差の大きい電力需要の負荷平準化を図るため、ムーンライト計画として新型電池電力貯蔵技術と分散型電池電力貯蔵技術の研究開発が進められ、その後ニューサンシャインに引き継がれた。新型電池電力貯蔵の技術開発では、各種の電力貯蔵用新型二次電池が開発され、これらのうち60kWモジュールのナトリウム・硫黄電池および亜鉛・臭素電池を用いた1,000kWパイロットプラントの運転試験により、当初の開発目標がほぼ達成された。分散型電池電力貯蔵技術の研究開発では、1992年度から10年計画で高能率未来型電池の研究とこの電池の導入方策等を検討するトータルシステムの研究が行われた。未来型のリチウム・イオン電池では、定置型の2kWh級モジュールで122〜128Wh/kg、移動体用の3kWh級モジュールで150〜155Wh/kgと開発目標値のエネルギー密度を達成している。
<更新年月>
2006年06月   

<本文>
1.電力貯蔵と二次電池
 電力は貯蔵が困難なため常に需要に合わせて供給されている。需要の昼夜間隔差はきわめて大きく、夏期1日における夜間電力需要は、昼間の電力最大需要に対し約40%に過ぎない。電力設備全体の有効利用の指標である年負荷率(=平均電力/最大電力)が55〜58%程度であるので、現在は原子力発電、石炭火力発電などがベース用電源の電力を供給し、石油火力発電、揚水発電および天然ガスガスタービン発電が需要変動(負荷変動)に対応している。
 日本の電源構成では、原子力発電や石炭火力発電などのベース用電源の占める割合が年々高まっている。発電設備の効率的運用を図るためには、電力需要の少ない夜間の余剰電力を貯蔵し、それを昼間に供給する電力貯蔵システムによる負荷平準化が必要でなる(図1参照)。
 電力貯蔵システムの一つとして従来から揚水発電があるが、揚水発電に適する包蔵水力の未開発分は少なく、また環境面からも新規立地は困難である。超電導磁気エネルギー貯蔵(SMES)、圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)、超電導フライホイール電力貯蔵などの方式は魅力的ではあるが開発要素が大きいので、早期実用化が可能な電池電力貯蔵システムが期待されている。なお、この電力貯蔵システムには充電式電池(二次電池)が適している。
 日本では、ムーンライト計画の一つ「新型電池電力貯蔵システムの開発」が1980年度から始まり、ナトリウム・硫黄電池、亜鉛・塩素電池、亜鉛・臭素電池、レドックス・フロー電池などの新型二次電池が開発された。1992年度からの10年計画では、ニューサンシャイン計画の一環としてNEDO(新エネルギ−産業技術総合開発機構)による「分散型電池電力貯蔵技術開発」が行われている。この計画では、軽量でエネルギ−密度が高く、メモリ−効果が少なくて高速充電が可能なことから、将来もっとも有望な二次電池としてリチウム・イオン電池が選択された(単にリチウム電池と呼ぶこともある)。家庭などの分散型電池電力貯蔵用と電気自動車用(移動体用)の大型リチウム電池の開発が本格化している。平成10年度の評価では、2〜3kWhモジュールで鉛電池の3〜4倍のエネルギー密度、95Wh%を超す高い変換効率、400W/kgを上回る高出力が立証され、世界トップの技術レベルに達している。なお、本文中の記述にでてくる各種の電池あるいは電力貯蔵方式については、4の用語解説を参照されたい。
2.新型電池電力貯蔵技術の開発と成果
 高いエネルギー密度とエネルギー変換効率をもち、寿命が長くて安全で信頼性の高い新型二次電池の開発プロジェクトおよび、この新型二次電池を用いた新型電池電力貯蔵システムの開発プロジェクトが、1980年度から1991年度にかけてム−ンライト計画の一環として進められた。このプロジェクトの目標は、(a)大容量で高性能の電力貯蔵用新型二次電池の開発、(b)交流系である商用電力系統との連結のための交直変換技術の開発、(c)運転制御技術、保護技術などのシステム技術の開発の3つである。
 新型電池電力貯蔵システムの構成を図2に示す。ム−ンライト計画で開発・試験された新型電池の特性を表1に示す。これらの電池型式は、エネルギー密度が高いこと、資源供給上の制約が少ないこと、大容量化が見込めることなどの見地から選ばれたものである。 これら新型二次電池のうちナトリウム・硫黄電池と亜鉛・臭素電池については、60kWモジュールを用いた1,000kWパイロットプラントの系統連携運転試験が行われた。基準充放電時間(8時間充電、8時間放電)、総合エネルギー効率70%以上、充放電サイクル1,500回以上(耐用年数約10年)など当初の開発目標がほぼ達成された。比較的大型の電池を必要とする電力貯蔵設備としては、一次変電所二次側(数百MW級)、配電用変電所(数10MW級)、自然エネルギーなどを利用した間欠発電端(数MW級)などがある。
3.分散型電池電力貯蔵技術の開発と成果
 日本では昼夜間の電力需要格差が拡大傾向にあり、これを改善し、かつ地球環境を保全しつつ電力の安定供給確保を図っていく方策として、負荷平準化(load leveling)技術がある(図1)。これまでの揚水発電などの負荷平準化技術は電力供給側(電力会社)が設置・運転してきた。今後は、家庭用電池電力貯蔵装置や電気自動車用電池が普及すれば、夜間に電力貯蔵でき、大きな負荷平準化効果が期待できる。とくに電気自動車は地域環境・地球環境保全の視点から米国、欧州においても積極的に研究開発が進められている。
 現在二次電池として利用されている鉛蓄電池等では、エネルギー変換効率、エネルギー密度が低いばかりでなく、保守管理に手間がかかる等技術的にも課題がある。このため、家庭用や電気自動車用の電力貯蔵装置では、高いエネルギー密度とエネルギー変換効率をもち、寿命が長く安全で信頼性の高い二次電池が求められている。
 近年、携帯電話やノ−ト型パソコンなど電子機器からの需要増加から、民間での二次電池研究開発が急速に進んでいる。とくに1990年代初頭に日本で商品化されたリチウム・イオン電池は、エネルギ−密度が大きく高速充電が可能で、放電持続時間が長く、メモリ−効果が小さく、使用温度範囲が広いなど将来性も高いことから、自動車用および電力貯蔵用の高性能未来電池としても有望視されてきた。
 これらの状況が考慮され、国家プロジェクトとして1992年度から10年の開発期間で分散型電池電力貯蔵技術の研究開発を実施している。この計画では高能率未来型電池として「リチウム・イオン二次電池の研究開発」およびこの電池の導入方策等を検討する「トータルシステムの研究」を行ってきた。1995年以降の約10年間で性能が2倍、容量単価が二分の一以下で民生ポータブル機器、ハイブリッド自動車への応用も進んでいる。
 分散型電池電力貯蔵技術が期待される活用例を図3に、研究開発全体スケジュ−ルを図4に示す。この開発プロジェクトの第1期(1992年〜1996年)では要素の研究開発、第2期(1997年〜2001年)では大型化、信頼性向上の研究が進められた。各研究開発のステップ毎に、第一次、第二次の中間評価(第1次基本計画の変更、1995年)、研究の最終年度2002年には最終評価がそれぞれなされた。目標やサイクル寿命は概ね達成し、小型携帯電話、ハイブリッド電気自動車や人工衛星用等に採用され始めるなど実用化を見通せるレベルに近づいたと評価された。一方、実用化のためにはコストダウンと安全性の確保が課題であるとしている。
 またこの国家的プロジェクト(1992年〜2001年)後も、リチウム・イオン電池を用いた定置型(家庭用電気機器)用および移動体(電気自動車)用しての長期中容量電池システムの実用化と普及(2002年〜2005年)が、さらに、夜間に電力貯蔵できる家庭用および電気自動車(EV)の超寿命(LL)大型電池システムの実用化と普及(2006年〜2010年)が期待されている(図5参照)。すなわち、新エネルギー等導入拡大の鍵である蓄電池等(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、キャパシタ等)の技術開発を抜本的に強化し、太陽光発電・風力発電に併置し、天候に左右されない発電を実現し、ハイブリッド自動車の高性能化、電気自動車の飛躍的な普及への貢献である。
(1)リチウム・イオン電池を用いた高能率未来型電池の開発
 本プロジェクトでは定置型用の2kWh級モジュ−ルと移動体用の3kWh級モジュ−ルの電池の開発を行なっている。リチウム・イオン電池を用いた高能率電池の開発目標を表2に、種々の電池のエネルギ−密度と目標性能を図6に示す。
 定置型用の2kWh級モジュ−ル電池では、開発目標の重量エネルギ−密度120Wh/kgに対し122〜128Wh/kg、移動体用の3kWh級モジュ−ル電池では、開発目標の重量エネルギ−密度150Wh/kgに対し150〜155Wh/kgを達成している。これらの数値は鉛電池の3〜5倍に相当し、米国におけるUSABC(United States Advanced Battery Consortium)プロジェクトにおける電気自動車用電池の目標値も満足している。また、充電・放電時におけるエネルギ−変換効率では開発目標値(定置型用で90%以上、移動体用で85%以上)を十分に上回る95%以上を達成している。
 分散型電池電力貯蔵システムに用いるリチウム・イオン電池については、単電池と組電池の大容量化、エネルギー密度、寿命性能、エネルギー変換効率等のより一層の向上を図る必要がある。このため、正極、負極、電解質等の電池構成材料の開発研究のほか、安全性、信頼性の向上研究を行なっている。またリチウム・イオン電池の有効利用のための専用の充電装置と残存容量計の開発、組電池システムの運転研究も行っている。
 リチウム・イオン電池の構造例を図7に示す。現在実用化されているリチウム・イオン電池の代表例として、正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素を用いたリチウム・イオン電池の充電・放電の原理を図8に示す。
(2)トータルシステムの研究
 リチウム・イオン電池を用いた分散型電池電力貯蔵システムの所要性能、最適容量、環境安全性(廃棄物処理)、経済性、導入効果等、またリサイクルを含めた有効利用等について総合的な研究が行なわれている。ここで開発されるリチウム・イオン電池は、鉛蓄電池に比べエネルギー密度で3〜5倍、サイクル寿命で約7倍と極めて高い性能であり、この電池を使用した分散型電池電力貯蔵システムの応用分野の発展性が期待できる。なお、これら新規システムの導入分野や導入効果などの検討、一般消費者利用を考慮した安全性の確認と安全対策指針の整備、社会的インフラの整備、および資源有効利用の観点から、リサイクルを含めた導入方策を確立する必要がある。
4.用語解説
 メモリ−効果(memory effect):二次電池において電力量を使いきらないうちに充電すると残存電力量が蓄積して記憶され、使用する際電力供給が途中で停まってしまう現象。メモリ−効果はニッケル・水素電池では少なく、リチウム電池では殆どない。
 亜鉛・臭素電池(bromine zinc battery):正極が臭素、負極が亜鉛、電解質が臭化亜鉛 溶液で構成されている。電極液タンクからの正極液と負極液をそれぞれセパレ−タで遮断された電極セルへ循環させる循環型(フロー型)電池。亜鉛・塩素電池(zinc chlorine battery)は正極に塩素を用いたもの。電力貯蔵用としては開発段階にある。
 ナトリウム・硫黄電池(sodium sulfur battery):NaS電池ともいう。正極が溶融硫黄、負極が溶融ナトリウム、電解質がベ−タアルミナで構成されている。動作温度が350℃で完全密閉構造となっている。電力貯蔵用としての試験運転を経験した。当初フォ−ドモ−タ(株)が電気自動車用として開発した。
 レドックス・フロ−電池(REDOX・flow battery):正極も負極もバナジウム(V)で、バナジウムを希硫酸に溶解した電解液で構成されている循環型電池。運転時には電解液が電池セルと電解液タンクの間を循環する。すなわち、還元(REDuction)・酸化(OXidation)反応する物質が循環(Flow)する過程でバナジウムの価数が増減して、充電・放電が行なわれる。長寿命で環境にやさしいことから電力貯蔵用として近年注目されている。
 リチウム電池(lithium battery):リチウム二次電池ともいう。最近では分類上、負極 に金属リチウムまたはリチウム合金を使用した電池の類をこう呼んでいる。
 リチウム・イオン電池(lithium ion battery):正極にリチウム含有複合酸化物(コバ ルト酸リチウムなど)、負極に黒鉛系材料、多孔質セパレ−タおよび有機電解質で構成されている。単にリチウム電池とも呼ばれる。1990年代初頭に日本で商品化され、その後携帯電話用を中心に急に普及し、2001年現在売上総額は二次電池のうちで最も高い。軽量でエネルギ−密度が大きく、高速充電が可能で放電持続時間が長く、自然放電もメモリ−効果も小さく、使用温度範囲が広い。電池モジュ−ルにして電気自動車用(とくに米国で)として、また電力貯蔵用としても期待されている。
 超電導エネルギ−電力貯蔵(SMES:Superconducting Magnetic Energy Storage System ):超電導コイルに直流電流を流して発生した磁界を磁器エネルギ−として電力を貯蔵する。貯蔵効率(90%)は高く応答が早い。大容量向き。
 超電導フライホィ−ル電力貯蔵:フライホィ−ル軸を超電導磁気で浮上させてフライホィ−ル回転の運動エネルギ−として電力を貯蔵する。
 圧縮空気電力貯蔵(CAES:Compressed Air Energy Storage):電力で蓄えた高圧空気をガスタ−ビンに供給し燃料を燃焼させて発電する。熱システムなので起動・停止に時間がかかる。
<図/表>
表1 ムーンライト計画で開発・試験された電力貯蔵用新型電池の特性
表2 リチウム・イオン電池を用いた高能率未来型電池の開発目標
図1 電力負荷平準化のコンセプト
図2 新型電池電力貯蔵システムの構成
図3 分散型電池電力貯蔵の活用例
図4 分散型電池電力貯蔵技術の研究開発全体スケジュール
図5 リチウム・イオン電池電力貯蔵技術開発スケジュール
図6 種々の電池のエネルギー密度と性能目標
図7 リチウム・イオン二次電池の構造例
図8 リチウム・イオン二次電池充電・放電の原理

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
サンシャイン/ニューサンシャイン計画 (01-05-02-01)
ムーンライト計画 (01-05-02-06)
省エネルギー政策の基本理念 (01-09-08-01)

<参考文献>
(1) 資源エネルギー庁(監修):1999/2000 資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)、p.718−721
(2) 資源エネルギー庁(監修):1997/1998 資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1997年2月)、p.736−739
(3) 高橋賢一:分散型電池電力貯蔵技術開発、エネルギー、32(11),p.37−41(1999年)
(4) 産業技術総合研究所ホームページ
(5) 新エネルギー・産業技術総合開発機構ホームページ(http://www.nedo.go.jp/
(6) 秋田 調、岩堀 徹:発電技術の将来展望、電力貯蔵、火力原子力発電(2001.10)p.142?148
(7) 産業技術審議会評価部会・分散型電池電力貯蔵技術評価委員会:ニュ−サンシャイン計画「分散型電池電力貯蔵技術中間モニタリング評価報告書、平成12年12月
(8) 電力中央研究所:電力貯蔵用リチウム電池の実用化に向けて、電中研ニュ−スNo.348(2001.8.8)
(9)株式会社 ベイサン:Li−ion電池の話、http://www.baysun.net/lithium/lithium.html
(10)住友電気工業:電力貯蔵用レドックス・フロ−電池
(11)電池工業会ホームページ(http://www.baj.or.jp/
(12)新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所技術評価委員会「分散型電池電力貯蔵技術開発」事業評価報告書(平成15年2月) 
(13)資源エネルギー庁:新エネルギー部会中間報告(案)(平成18年5月11日)
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