<本文>
1.省エネルギー技術とムーンライト計画
ムーンライト計画は、通商産業省工業技術院(現独立行政法人産業技術総合研究所)が1978年から1993年度まで行った省エネルギー技術の研究開発に対するニックネームである。同じく工業技術院が進めていた
新エネルギーの研究開発計画をサンシャイン計画と呼んだのに対し、利用されずに環境に捨てられている排熱等を、たとえわずかであっても有効に利用しようとする気持ちを込めた省エネルギー技術の開発計画に与えられたニックネームであった。
ムーンライト計画が発足した時はちょうど第一次石油危機後であり、世界の繁栄をエネルギー面から支えてきた豊富で低廉な石油の価格が高騰するとともに、石油そのものの有限性に対する危惧も高まっていた。
エネルギーは、経済、社会の維持・発展のための最も基本的な要素であり、日本は、世界有数のエネルギー消費国でありながら、国内エネルギー資源は乏しい。このために、石油代替エネルギーの開発および石油の安定確保というエネルギー資源確保という従来のエネルギー政策に加えて、エネルギーの利用面においても省エネルギー型産業構造への移行を目指して、産業、民生、運輸の各部門の特性に応じた省エネルギーを推進することが必要になった。
ムーンライト計画では、エネルギー転換効率の向上、未利用エネルギーの回収・利用、エネルギー利用効率の向上等エネルギーの有効利用を図る技術の研究開発を行うことを目的とし、大型省エネルギー技術開発、先導的・基盤的省エネルギー技術開発、民間の省エネルギー技術研究開発の助成、国際研究協力事業、省エネルギー技術の総合的効果把握手法の確立調査および省エネルギー標準化等の各種の施策が強力に推進された。
サンシャイン計画、ムーンライト計画および地球環境技術研究開発の体制を一体化した「ニューサンシャイン計画(エネルギー・環境領域総合技術開発推進計画)」が1993年に発足し、持続的成長とエネルギー・環境問題の同時解決を目指した革新的技術開発を開始した(
図1参照)。
2.省エネルギー技術開発
民間企業独自では行うことが困難な大型の省エネルギー技術研究開発テーマについて、国立研究所、産業界、大学など各分野の力を結集して研究開発を行うものであり、燃料電池発電技術、ヒートポンプ技術、超電導電力応用技術およびセラミックガスタービンなどのプロジェクトを推進し、また終了プロジェクトとして、廃熱利用技術システム、電磁流体発電、高効率ガスタービンおよび汎用スターリングエンジンのプロジェクトがある。先導的・基盤的省エネルギー技術研究開発は、国立試験研究所において、将来の省エネルギー技術の芽となる技術の発掘に努めるとともに産業界の基盤技術となる省エネルギー技術について研究開発を行う。
ムーンライト計画における省エネルギー大型技術開発の主要成果を
表1-1および
表1-2に示す。
3.その他の活動と技術のコストダウン
国際研究協力事業では、内外の研究開発の実情や関連技術の動向を的確に把握し、必要に応じて数か国による国際協力を行っている。例えば、IEA(International Energy Agency:
国際エネルギー機関)等の主催する省エネルギー技術研究協力等に積極的に取り組んでいる。
省エネルギー技術の総合的効果把握手法の確立調査では、省エネルギー技術開発を効率的に推進するため、省エネルギー可能量、経済性、環境へのインパクト等を定量的に分析し、中長期の省エネルギー技術開発課題を発掘するとともに、研究開発の最適手順を確立するための調査を行なっている。これに関連して、経済産業省の産業技術審議会評価部会は、ムーンライト計画の中の、特に「リン酸型燃料電池発電技術研究開発」の追跡調査を実施し、2000年5月に報告書を提出している。これはムーンライト計画プロジェクトの終了後に、その研究開発活動や成果が産業、社会に及ぼした効果について調査し、総合的な評価によって、プロジェクトが社会に与えた影響を明らかにするとともに、今後のプロジェクト企画、運営、フォローアップ体制の改善に資することを目的としてまとめられた。具体的な評価項目を以下に示す。
1)波及効果に対する評価
技術的波及効果、研究開発向上効果、経済効果、国民生活・社会レベルの向上効果、政策へのフィードバック効果、
2)現在の視点からのプロジェクト評価
国家プロジェクトとしての妥当性、目標設定、プロジェクト実施方法、プロジェクト終了時の評価の妥当性、プロジェクト終了後のフォローアップ方法
省エネルギー標準化では、省エネルギー推進の観点から日本工業規格(JIS)を制定または改正することにより省エネルギーの促進を図った。
これまでサンシャイン計画およびムーンライト計画において開発が進められてきた各種新エネルギー技術、省エネルギー技術のうち、特に
太陽電池および燃料電池については近年の技術開発の飛躍的な進展により、技術開発によるコストダウンと需要の増大とが相互に促進し合う「良循環」の見通しが得られる段階に至りつつある。
太陽電池についてのコストダウンと需要拡大との良循環のイメージを
図2に示す。太陽電池の製造コストは1974年の約2万円/Wから1997年時点では約440円/Wまで下がった。実際の生産規模の約3倍にあたる100MW/年の工場規模を仮定すると、現状では約140円/Wであり、2010年には100円/W前後まで下がることを目指している。発電コストは現在の50円/kWhから25円/kWh程度まで大幅に低下する。これにより需要が離島・遠隔地から公共・農漁業分野、民生・業務自家発電、電気事業へと拡大していくため、生産規模拡大により一層のコストダウンが期待され、「良循環」の構図が描かれる。この2つの技術のコストダウンの展望について
図3に示す。ニューサンシャイン計画の加速的推進により、2000年初頭にはいずれの発電コストも20円/kWh程度まで低下した。
ニューサンシャイン計画では、太陽電池、燃料電池などをすでに実施してきている研究開発課題の加速的推進と合わせて、中長期的に顕著な効果が期待される革新的な技術開発課題として、サンシャイン計画、ムーンライト計画などの研究開発成果を糾合した、
(1)広域エネルギー利用ネットワークシステム技術(エコ・エネルギー都市システム)
(2)水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術(WE-NET:World Energy NETwork)
(3)経済・環境両立型燃焼システム技術(希薄燃焼脱硝触媒技術)
に
着手した。
4.省エネルギー政策の変遷とムーンライト計画
戦後復興期以降2000年代までの長期にわたる産業技術政策の変遷は
図4にまとめられている。この図からムーンライト計画、サンシャイン計画およびニューサンシャイン計画の相互関係と各計画が実施された時代における体制、法律、制度、技術関連の動向等が分かる。省エネ関連の政策的変遷をまとめたものが
図5である。法制度としては、1979年に「エネルギーの仕様の合理化に関する法律」(省エネ法)が制定・施行され、各事業者が取り組むべき内容とそれを支援する施策が定められた。省エネ法は1993年に改正され、省エネルギーに関する基本方針の策定、エネルギー管理指定向上に係る定期報告の義務付け等が追加された。また、同年、「エネルギー等の使用の合理化及び再生資源の利用に関する事業活動の促進に関する臨時措置法」(省エネ・リサイクル支援法)が10年間の時限立法として施行された。
省エネ法については、1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の結果を受けて、1998年に改正され、1999年4月に施行された。この改正により、自動車の燃費基準および電気機器の省エネ基準へのトップランナー方式の導入等が実施された。さらに、2002年6月に省エネ法が改正され、2003年に施行された。これにより、大規模オフィスビルの大規模工場に準ずるエネルギー管理の義務付け等が実施された。技術開発面では、ムーンライト計画は1993年に、新エネルギー関連技術開発に関する「サンシャイン計画」と統合され、「ニューサンシャイン計画」のもとで引き続き、省エネ技術の研究開発が行われることになった。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等の関係機関を通じて技術開発が行われている。
<図/表>
<関連タイトル>
新エネルギーと省エネルギーの技術開発 (01-09-07-02)
電池電力貯蔵技術の研究開発 (01-05-02-08)
燃料電池発電技術の研究開発 (01-05-02-09)
汎用スターリングエンジン (01-05-02-10)
スーパーヒートポンプ技術の研究開発 (01-05-02-11)
スーパーヒートポンプによるエネルギー集積システム (01-05-02-12)
日本の産業部門における省エネルギー対策 (01-06-03-02)
日本の民生部門における省エネルギー対策 (01-06-03-03)
日本の運輸部門における省エネルギー対策 (01-06-03-04)
サンシャイン/ニューサンシャイン計画 (01-05-02-01)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監修):1999/2000資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)、p641-653
(2)資源エネルギー庁(編):新エネルギー便覧 平成10年度版、通商産業調査会(1999年3月)、p217-229
(3) 経済産業省ホームページ:(大型省エネルギー技術研究開発制度(ムーンライト計画)追跡評価報告書
(4) 資源エネルギー庁ホームページ:など。
(5) NEDOホームページ:など。