<本文>
1.省エネルギー対策の今後の方向
2000年7月21日に開催された総合エネルギー調査会(現・総合資源エネルギー調査会)総合部会において、「今後のエネルギー政策の検討のための論点整理」がまとめられたことを受け、省エネルギー部会において、同年7月31日の第1回会合から9回にわたる審議が行われた。この会合では、最近のエネルギー需要の増加要因を分析し課題を抽出するとともに、現行長期需給見通しにおける省エネルギー対策について、その後の進捗状況も踏まえ、新たに2010年度を展望した効果の評価を行った。その結果、約5000万klの省エネルギー量が、2001年3月6日に開催された総合部会および需給部会の合同部会におけるエネルギー需給の「基準ケース」に織込まれることとなった。この「基準ケース」では、2010年度におけるエネルギー起源の炭酸ガス排出量が現行第1期需給見通しの対策ケースに比べ、炭素換算にして約2000万トン(うち需要側で約600万トン)増加することが明らかにされ、合同部会からは、これを1990年度レベルに安定化させる目標を達成するための今後の「政策の検討の方向」が示された。こうした結果を踏まえ、省エネルギー部会において、さらに審議を重ね、2001年6月、報告書「今後の省エネルギー対策のあり方」がまとめられた。
2.今後の省エネルギー対策の検討に当たっての基本的考え方
(1)現行省エネルギー対策の着実な実施の重要性
1998年の長期需給見通しにおける省エネルギー対策については、「技術的、経済的に実現可能なぎりぎりの範囲のものとして積み上げた対策」と位置付けられている。省エネルギーの総量は、最大限の努力無くして達成し得ないものであり、まずは現行対策の効果が着実に発揮されるよう、引き続き対策の実施および効果のフォローアップを行う必要がある。更には必要に応じ、より実効性を高めるための追加対策の実施を図る必要がある。
(2)新たな対策に当たって重視した視点
これに加え、総合部会および需給部会における「基準ケース」において示された、約2000万トン(炭素換算)の二酸化炭素排出量削減を念頭に置いた「目標ケース」の策定に当たり、需要面からの更なる対策を以下の視点を重視しつつ検討した。
・継続性を持った省エネルギー対策の視点
今後行っていく省エネルギー対策は、石油危機時のような緊急避難的なものではなく、国民生活にとっても企業活動にとっても長期将来に亘り継続可能なものであることが必要である。
したがって、できる限り効用を変えずにエネルギー効率の改善を図る(エネルギーの無駄を無くす)という従来からの省エネルギーの基本的考え方を踏襲し、できる限り国民等に対する負担、副作用が少なく、市場に悪影響を及ぼさないことを、必要な対策を検討する際の前提とした。また、対象間の公平性の観点から、特定の対象を著しく歪ませないことも重要である。
・国民の省エネ行動を支援する視点
従来実施されてきた省エネルギー対策は、実効性等の観点から、産業以外の民生および運輸部門についてもトップランナー規制を始め、主として企業の取組に着目した対策に重点が置かれてきた。既に述べたように、現行対策は、「技術的・経済的に実現可能なぎりぎりの範囲のもの」として積み上げられたものであり、従来型省エネルギー対策は、次第に限界に近づきつつある。一方、昨今のエネルギー需要動向を見ると、国民一人一人が原因者である家庭部門の需要の伸びが企業部門に比べより高くなっており、更なる対策においては、国民一人一人から省エネルギーのための協力を引き出していくことが不可欠である。したがって、従来からの視点に加え、国民の省エネ行動をより確実性・実効性をもって引き出していくための環境作りを行うことを対策の新たな視点として取り入れた。
・課題への的確な対応と他政策との連携に関わる視点
具体的な対策の検討に当たっては、総合部会および需給部会において示された検討の方向を踏まえ、引き続きエネルギーの増加傾向にある民生部門(業務用および家庭用)および乗用車を中心に、省エネルギー部会の審議において行われた分析結果等に基づき、抽出された課題に対し的確に対応した。また、住宅政策や交通政策等ほかの政策との連携を図ることに留意した。
(3)今後の評価等
今回検討した新たな省エネルギー対策については、対象となる省エネ機器等の導入時期、機器効率に関する基準、普及量等に関し、現時点において全てを確定することは困難である。また、現行の省エネルギー対策および今回検討した追加対策についても、今後その実施が予定されているものや当面効果のフォローアップが必要なものも多いことから、新規対策も含め、対策の効果の見極めが行える段階において改めて評価を行う必要がある。評価の結果、対策の一層の強化等をその時点の必要に応じ、できる限り弾力的、機動的に実施していくことが望まれる。このため、今回の検討においては、当面の対策に加え、将来必要に応じ講ずべき対策の方向を併せて示した。
3.今後の省エネルギー対策の具体的方向
表1に省エネルギー対策とその期待される効果を示した。また、
図1に
最終エネルギー消費と実質GDPの推移を示した。
2005年2月に
京都議定書が発効したことを受け、地球温暖化対策推進大綱の評価・見直し作業の成果として、同大綱を引き継ぐ「京都議定書目標達成計画」が策定された(2005年4月閣議決定)。そのベースとなった省エネルギー対策強化策とその実施状況を、
表2に示す。
3.1 部門別対策の方向
(1)産業部門
産業部門合計2050万klの削減効果が期待されている。産業部門のエネルギー需要は、石油危機以降、省エネルギー設備や技術の導入が積極的に図られ、また、産業構造の変化により、最新時点においても概ね石油危機当時の水準に留まっている。また、1990年代を通じても微増傾向で推移している。一方、依然として産業用需要が総需要の5割近くを占めている現状を踏まえ、一層の努力が必要であるとの考えに基づき、現行長期需給見通しにおける対策においては、地球温暖化防止対策に係る自主行動計画の実現を前提に、原油換算で2000万klに上る最も大きな対策量が見込まれている。
その後、産業界において本自主行動計画達成に向けた努力が進められる一方、省エネルギー法の改正による自主管理の強化が行われたが、これらの対策の成否は、将来における需給の基準ケース自体の根幹に大きく影響することとなり、まずはこれらの対策をフォローアップしつつ、その的確な遂行に努めることが重要である。
(2)民生部門
民生部門の省エネルギー対策効果は1860万klである。民生部門のエネルギー需要は、石油危機以降も一貫して増加している。このうち家庭部門においては、機器の効率化が進む一方で、新たな機器の普及や、より快適な生活を求める国民のニーズにより、機器の保有台数の増加や使用時間、使用条件の変化が需要の増加要因となっている。このため、新たな機器に着目した対策や機器のエネルギー需要を適切に管理することが必要である。また、業務部門においては、産業構造の変化によるオフィスビルや商業施設の床面積の増大が需要の主たる増加要因となっている。しかし、エネルギーコストが生産コストに直結する産業部門に比べ、
エネルギー原単位の管理意識が必ずしも高くないことから、需要の適切な管理により、さらにエネルギーの効率的利用が図られることが期待できる。民生部門の需要特性と以上の需要動向を踏まえれば、今後実施していく省エネルギー対策として、使用機器の効率改善に着目した対策、住宅・建築物の断熱性能の向上等に着目した対策、更にはエネルギー需要自体を管理していく対策の各対策を併せて講じていくことが適当である。
(3)運輸部門
運輸部門の省エネルギー対策効果は、1690万klが予定されている。運輸部門のエネルギー需要も石油危機以降一貫して増加してきたが、特に自家用乗用車の伸びが著しく、1990年代の運輸部門におけるエネルギー需要増加要因の約8割を占めている。したがって、運輸部門の省エネルギー対策を検討するに当たっては、需要増の大半を占める自家用乗用車対策に重点を置くことが適当である。
・自動車の単体対策として、トップランナー方式による燃費効率の改善対策が講じられている。当初想定よりも多くの省エネ量が評価されている。したがって、今後単体としての効果をより引き出すためには、トップランナー適合車が早期に市場に出るような環境作りが必要である。
・国民の選択に働きかけ、無理なく省エネ行動を取れるようにすることが重要である。
・さらに、交通・物流の円滑化および自動車交通量の管理対策によって、エネルギー原単位の良い輸送手段への代替化等も重要な対策である。
3.2 部門横断的対策の方向
(1)技術開発およびその成果の普及
技術開発の省エネルギー対策効果:100万kl。
技術開発は、それによるブレークスルーによって大幅なエネルギー効率の改善が図られる可能性の高い対策であることから、引き続き推進していくことが重要である。
(2)ライフスタイルの変更に向けた対策
ライフスタイルの変更に向けた対策については、従来から政府は情報提供や広報活動等を実施している。しかしながら、家庭部門において引き続きエネルギー需要が増加傾向にある状況に鑑みれば、国民の行動をより実効性をもってエネルギーの効率的利用に結びつけていくことが必要である。
このほか、重要なものとして、以下のものがある。
(3)分散型電源
(4)公的部門の先導的役割
4.国際的な協力の推進
今回検討された省エネルギー対策は、今後わが国が国内において取り組んで行くべき需要面の対策をとりまとめたものであるが、エネルギーの安定供給や地球環境問題の克服は、わが国だけの問題に留まらず、まさに地球レベルで取り組んでいく問題である。そのような中で、わが国では石油危機以降産業部門を中心に省エネルギー対策が進展し、世界的に見ても相対的に高いエネルギー効率が達成されている。更にわが国がトップランナー方式による機器効率の改善を始め、相当の省エネルギー対策に取り組んでいることを、広く諸外国に発信し、わが国の努力に対する理解を深めるとともに、日本における成果を国際的なレベルに広げていくことも重要である。また、特に今後エネルギー需要の高い伸びが見込まれる開発途上国への国際協力のあり方については、省エネルギー部会、新エネルギー部会合同の「国際協力小委員会」を設置し、別途専門家による審議を行い、報告書がまとめられている。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
<関連タイトル>
石油危機と日本 (01-02-03-04)
<参考文献>
(1)省エネルギー総覧編集委員会(編):省エネルギー総覧2004/2005、通産資料出版会(2003年12月)
(2)資源エネルギー庁(編):エネルギー2004、エネルギーフォーラム(2004年1月)、p.243
(3)資源エネルギー年鑑編集委員会(編):2003/2004 資源エネルギー年鑑、通産資料出版会(2003年1月)
(4)総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会:省エネルギー部会報告書−今後の省エネルギー対策のあり方について−(2001年6月)
(5)総合資源エネルギー調査会:省エネルギー部会(第9回)配布資料1-4、省エネルギー部会で検討された省エネルギー対策強化策の実施状況(2006年5月11日)、
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g60607h05j.pdf
(6)資源エネルギー庁:エネルギー白書2006、第211-2-1