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1.スターリングエンジンの原理と特長
スターリングエンジンは、ヘリウムガスなどの作動ガスをシリンダー内に充填し、外部から加熱することによってガスを膨張させ、仕事をさせる機関であり、1816年に英国のロバート・スターリングにより発明された。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンがシリンダー内で燃料を燃焼させることから内燃機関と呼ばれるのに対し、スターリングエンジンはシリンダー外で燃料を燃焼させるために外燃機関と呼ばれる。
図1は、スターリングエンジンの動作原理を示したものである。
スターリングエンジンは、発明後長い間注目されずにきたが、下記のような特長を有することから、1973年の石油ショック以降、国内および国外において研究開発が精力的に進められることとなった。
(1)高効率
スターリングエンジンのサイクル効率は、理想的に作動すれば、熱力学上最高効率を示すカルノーサイクルの効率に一致する。したがって、実際のエンジンにおいても他の熱機関に比べて高い効率を達成することが可能である。
(2)低公害
内燃機関にみられる急速な爆発過程や弁機構がなく、シリンダー内の圧力変化も滑らかなため、エンジン自体の振動や騒音レベルが低い。また、外部加熱システムを用いるため、燃焼制御による排気ガスの清浄化が容易である。
(3)燃料および熱源の多様化
蒸気機関と同様に一種の外燃機関であるため、石油系燃料、天然ガスをはじめ、石炭、廃棄物などの固形燃料はもちろん、工場排熱、太陽熱等の使用も可能であり、熱源の多様化にすぐれている。
2.汎用スターリングエンジンの研究開発
これらの特長を有するスターリングエンジンは、
図2に示すように、民生部門から産業部門に至るまで幅広い分野への適用性を秘めている。わが国では、通商産業省工業技術院(現独立行政法人産業技術総合研究所)が進めたムーンライト計画において、1982年(昭和57年)から1987年(昭和62年)までの間、
表1に示す開発目標の下に、汎用スターリングエンジンの技術的可能性をふまえ、かつその特長である高効率、低公害を最大に活用できる家庭用3kWヒートポンプエンジン、業務用30kW級ヒートポンプエンジンおよび産業用30kW級発電用エンジンの3分野について、実用化の目途をつけるための研究開発が進められた。
図3にヒートポンプシステムの外観を、また、
表2にこの計画で実施された研究開発の内容を示す。
この研究開発の成果として、スターリングエンジンの採用により、以下の効果が期待できることが明らかになった。
(1)石油代替効果
石油以外の天然ガス、石炭等の多種の燃料に対応可能であり、広い用途分野において石油代替化を促進できる。
(2)省エネルギー効果
従来の家庭用および業務用冷暖房動力源として開発されたガスエンジンヒートポンプのエンジンの効率は、25〜32%程度に過ぎないが、スターリングエンジンの効率目標は、32〜37%以上であり、さらに、排熱を利用すれば効率は飛躍的に向上することが期待できる。また、建設や工事用の小型動力源としても利用可能であり、省エネルギー化に著しく貢献できる。
(3)環境保全効果
騒音や振動を低減させる上で極めて有利であり、NO
xなどの発生を抑制することも可能である。特に、住宅、病院等の閑静さが要求される地域や夜間工場において使用できる最適な熱機関である。
(4)技術的波及効果
多種定置用小型原動機、自動車用エンジン、舶用小型エンジン、さらに、工場内の副生ガス、その他各種熱源を利用した小型エンジンとして応用が可能であり、石油系燃料に依存するエンジンにとって代われば、大幅な石油代替化を推進することになる。また、高温・高圧下での長時間シール技術、高性能熱交換器の加工技術等は他の産業分野において活用できる。
3.汎用スターリングエンジン開発の評価
1997年6月、(旧)通商産業省は大臣の諮問機関である産業技術審議会に評価部会を設置し、1998年1月には「研究プロジェクト評価に係る基本的な評価項目、評価基準」が同評価部会によって示された。2001年1月以降の省庁の再編、国立試験研究機関の独立行政法人化、大学の改革等に対応するため、研究開発の評価は、産業構造審議会産業技術分科会に引き継がれた。このような背景のもとで経済産業省は「国家プロジェクトの運営・管理状況分析調査」を実施している。
同調査の報告書Iは汎用スターリングエンジンの研究開発についても目標設定、開発対象、開発組織と運営、達成手段、リーダーシップ等の観点から評価している。成果としては、特許147件(国立研究所21件、民間受託先126件)、実用新案45件(同4件、41件)の他、ノウハウの蓄積と人的ネットワークの構築が挙げられている。
<図/表>
<関連タイトル>
省エネルギー政策の基本理念 (01-09-08-01)
ムーンライト計画 (01-05-02-06)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁(監修):1997/1998資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1997年2月)、p779-785
(2)資源エネルギー庁(監修):1999/2000資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1999年1月)、p760-765
(3)経済産業省ホームページ:技術評価、報告書、12年度の委託調査報告書一覧、国家プロジェクトの運営・管理状況分析調査I