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<概要>
 燃料電池は燃料のもつ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電装置である。発電効率が高く、汚染物質の環境放出や騒音も少なく、設備の大量生産が可能であり、石油代替効果も高い。燃料電池には、アルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型、およびダイレクト・メタノール型がある。ムーンライト計画ではリン酸型燃料電池の開発と1,000kW発電プラントの実証試験が終了し、総容量17.25MWのリン酸型発電設備が稼働している。溶融炭酸塩型の研究では1,000kW溶融炭酸塩型燃料電池発電設備の運転研究が進められている。また、固体電解質型および固体高分子型の燃料電池の研究開発も行われている。実用化に向けての技術的課題は、熱効率の向上、長寿命化、性能の向上、信頼性の向上、運転・保守の容易性、燃料供給スタンドの整備などである。経済的課題は、白金触媒使用量の低減、発電コストの低減である。近年では固体高分子型の技術発展が素晴らしく、小型軽量で構造も簡単で作動温度も低いことから、分散定置型電源、可搬型電源、燃料電池自動車など幅広い利用が期待されている。
<更新年月>
2006年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.燃料電池の特徴と原理
 燃料電池(Fuel Cell)の発電原理を図1に示す。原理は水の電気分解の逆の反応過程である。すなわち、電解質を挟んだ一方の電極(燃料極)に水素を、もう一方の電極(酸化剤極)に酸素を供給し、電気化学的反応を行わせて水と電気を産生する。
 燃料電池の歴史開発の歴史を表1に示す。1801年英国のデーヴィ卿が燃料電池の可能性を示唆し、1839年英国のグローブ卿が世界最初の燃料電池実験に成功した。1960年代に入って米国が宇宙船用電源として開発を始めた。
 燃料電池の特徴は、(a)天然ガス、メタノール、水素など多様な燃料が利用できる、(b)直接発電のため発電効率が高い(40〜60%)、(c)排熱を利用すれば高いエネルギー効率(総合効率80%程度)が達成できる、(d)大気汚染物質・騒音・振動などが少ないので環境特性・騒音特性に優れている、(e)電池内の反応が速いので急激な負荷変化にも応答できる、(f)出力規模を自由に選定できるので、火力発電所の代替から、病院や離島などの定置型、可搬型、自動車用まで、幅広い用途に対応できる。なお、技術的経済的課題のほか燃料供給のためのインフラ整備が必要である。
 実際の電池では、電池反応を効率よく行うためには、反応にあずかる燃料(気体)、イオン電導にあずかる電解質(液体)、電子電導にあずかる電極(固体)、これらの気体、液体、固体の3相間の接触面を数多く形成する必要があり(図2参照)、このため多孔質電極を用いて反応面積を大きくしている。また、低温作動型では白金など活性の高い触媒を用いて酸化および還元反応を促進している。
2.燃料電池の種類
 燃料電池の種類(電解質の種類で分類)と特徴を表2に示す。
(1)アルカリ型燃料電池(AFC:Alkaline Fuel Cells、図3参照)
 電解質に水酸化カリウムを用いている。触媒にはニッケル合金も使用できる。アルカリ水溶液により酸化剤極での反応がリン酸水溶液より活発なので、高い電流密度と電圧が得やすく効率も高い。100℃以下で作動する低温型で、電池構成材料の選択範囲も広い。
(2)リン酸型燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cells、図4参照)
 正極・負極の電極とその間にあるイオン導電性の高いリン酸電解質層から構成される。電解液はシリコンカーバイトやテフロンなどのマトリックスに含侵されている。水素は炭素の多孔質構造の電極に供給され、電極内を拡散した水素は白金合金の触媒作用でイオン化され電解質を通って酸化剤極側に達する。酸化剤極から供給された酸素は水素イオンと外部回路の電子と結合して水となる。ビル用電源に既に利用されている。
(3)溶融炭酸塩型電池(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cells、図5参照)
 炭酸リチウムや炭酸カリウムなどの溶融塩を電解質として用いている。触媒は不要で、一酸化炭素を含む燃料も利用できる。作動温度は650〜750℃と高く、発電効率は45%以上である。大型発電装置では、天然ガス燃料で約60%程度、石炭ガス燃料で50〜55%程度と非常に高い発電効率を実現できる。大規模電源向きである。
(4)固体電解質型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cells、図6参照)
 電解質に酸化ジルコニウムを使用する。作動温度は800℃以上であり、発電効率は50%以上である。一酸化炭素を含む燃料でもよく、触媒は不要である。排熱利用の複合発電に適用でき、将来65%程度の高効率が期待できる。石炭ガスの利用が期待されている。
(5)固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cells、図7参照)
 水素イオンが関与する固体高分子型は、燃料極での反応はリン酸型と同じで、電解質にはスルフォン基をもつ高分子イオン交換膜を用いている。膜材料と同じ高分子材料を含む溶液を燃料極に塗布または混合して反応面積の3次元化を図り、三相界面を増大させている。また、燃料極と空気極(酸化剤極)ともにカーボンに白金合金をコーティングした電極触媒が使用されている。排熱温度は約120℃と低く小型軽量で構造が簡単である。
 なお、固体高分子型はPEM(Proton Exchange Membrane:陽子交換膜型)とも表記されるが、日本ではPEFCの表記に統一されている。
(6)ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cells)
 燃料として安価なメタノールを直接用い発電する。改質器および一酸化炭素除去装置は必要としないので、装置が簡単で信頼性が高い。近年開発された燃料電池である。
3.研究開発の状況
(1)海外
 1960年代初頭から宇宙船用として開発し、世界の実用燃料電池第1号を製作したのは米国である。有人人工衛星ジェミニ5号(1965年)に搭載したのはGE社製の固体高分子型であり、この技術はカナダのバラード(Ballard Power Systems)社に引き継がれている。UTC社製のアポロ用燃料電池(アポロ7号、1967年)とIFC社製のスペースシャトル用燃料電池はアルカリ型である。宇宙船では水素は移動用燃料として多量搭載しており、電池の廃液(水)は飲料水として利用できることが、燃料電池の選ばれた理由である。
 TARGET計画(1971年〜1973年)、GRI計画(1984年〜1986年)、DOE計画(1989年〜1990年)、燃料電池パス開発計画(1994年〜)などを通じて、リン酸型燃料電池の基礎技術を確立したのも米国である。1970年代からは日米メーカーの協力のもとでコジェネレーション用燃料電池の開発が進められている。
 固体高分子型電池スタック開発で先導的役割を果したのはカナダのバラード社で、ドイツのSiemens社、米国のInternational Fuel Cells社、Energy Partners社、Allied Signal社、Plug Power社、およびH Power社も固体高分子型を開発中である。
 なお、最近では2年ごと(偶数年)に米国で「Fuel Cell Seminar」が開催され、燃料電池に関する総括的討議と世界の燃料電池開発の現状が報告されている。
(2)日本
 ムーンライト計画で1981〜1986年(昭和56〜61年)にわたり、リン酸型燃料電池の開発を実施した。1986年からは1,000kWプラントの試験運転を行い、1990年(平成2年)には実証試験を終了し、リン酸型についての基本的技術をほぼ確立した。1987年からはMW級の溶融炭酸塩型プラントの開発も推進している。
 ムーンライト計画は、1993年度にはニューサンシャイン計画へと発展し「燃料電池発電技術の研究開発」として推進した。各種燃料電池に対する開発目標を表3に示す。家庭向きコジェネレーション用の固体高分子型燃料電池の実証運転試験である「定置型PEFCミレニアム事業」が、2000年〜2004年の5か年計画で日本ガス協会によって行われた。
 実用化に向けての技術的課題は、熱効率の向上、触媒機能の低下・劣化の解決と長寿命化、燃料改質装置の性能向上、信頼性の向上、運転・保守の容易性、無人化運転などである。経済的課題は、白金触媒使用量の低減、電極機材やセパレータ板の安価な製造法の確立と設備費の低減、副生ガス・余剰水素の有効利用、利用形態の把握による発電コスト低下などである。
4.導入実績
(1)定置型燃料電池
 リン酸型の導入量は、約3.7万kW(1998年度末現在)であり、生産総容量、台数とも世界的にみても日本が最高である。国内導入事例は、国のプロジェクト、電力会社・ガス会社のデモンストレーション用が大部分を占めており、商用レベルには至っていない。このため、従来より、財政上、税制上および金融上の措置を講じるなどの導入促進が図られている。その一環として1992年度から1996年度まで「燃料電池発電フィールドテスト事業」に対する補助が行われ普及促進の素地形成がなされてきた(24か所、設置の合計28台、総容量4,250kW)。現在では、電気出力50kW〜200kW級がビルや離島など50か所以上に設置されている。リン酸型からは200℃程度の排熱が得られるので、照明とともに給湯や暖房にも利用している
 固体高分子型は自動車需要を中心とした急速な発展とコスト低下によって、燃料電池として本命視されている。自動車用(図8参照)以外にも、家庭向きコジェネレーション(図9参照)、可搬型電源(野外での投光用、燃料はブタン)など幅広い分野で実用化に向けた開発が進められている。
 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2000年度から2004年度までの5か年計画の燃料電池普及基盤整備事業と、高効率燃料電池システム実用化等技術開発事業を発足させた。この事業では住宅用など定置型電源は(社)日本ガス協会が、自動車用電源は(財)日本自動車研究所が担当している。経済産業省の燃料電池実用化戦略研究会では、燃料電池自動車の今後の導入は2010年で約5万台(2000年時点の全保有台数に占める割合:0.07%)、2020年で約500万台(同:6.9%)を目標とし、定置型燃料電池の導入は2010年で約210万kW、2020年で約1,000万kWの累積導入量(ストック)を目標としている(表4参照)。
 また、電力会社とガス会社は共同で「リン酸型燃料電池技術共同研究組合」を1991年から発足させ、電力会社は定置型(オンサイト)5,000kW級を、ガス会社は定置型(ビル対象)1,000kW級を開発中で、五井火力(千葉)では11,000kW(670kW、18基)が稼働中である。
 1997年度からは次世代リン酸型燃料電池を対象としたフィールドテスト事業を実施している。溶融炭酸塩型についてはメーカーが共同で「溶融炭酸塩型燃料電池発電システム技術研究組合」を発足させ、1993年度までに外部改質加圧型100kW級スタック(電極面積約1平方メートル)を開発した。その後250kW外部改質型スタックを評価するために、中部電力川越発電所構内に外部改質型1,000kW級大型発電プラントを設置して、1999年7月から2000年1月まで運転試験を行った(表5参照)。1kW級定置用燃料電池については、2005年に市販導入を開始し、2008年度からの本格的普及を目指した開発競争が続いている。
 米国におけるリン酸型燃料電池の開発は、ガス事業用燃料電池と電気事業用の二本立てである。リン酸型のプラント基礎技術は確立済みで、200kW級プラントの商用化が着手されている。しかし大容量のものは需要が停滞していることから、導入が低迷している。ヨーロッパでは、スウェーデン、ドイツ、イタリア、スイス、スペインなどにおいて、日米のプラントを試験導入している。
(2)燃料電池自動車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicles、燃料電池車ともいう)
 燃料電池自動車は燃料電池で走行する電気自動車である。自動車用燃料電池の主な候補は近年改良が進んだ固体高分子型である。この10年間に出力密度が飛躍的に向上し、米国DOEの(エネルギー省)新世代自動車共同開発計画(PNSG:Partnership for a New Generation of Vehicles)の目標である1,000W/リットルを1996年に達成している。
 (財)日本自動車研究所が実施している2000年度からの5か年計画では、システム性能試験、部品試験、安全性試験などを進めている。燃料電池自動車用の燃料は、将来水素が主流になると思われるが、橋渡し役としてはメタノールやガソリンも改質して使用される。一方、ダイムラー・クライスラー社が開発したダイレクトメタノール型燃料電池のように直接燃料を用いる燃料電池開発の努力も続けられている。
 1999年4月には、市場導入の施策と有効性への啓発、水素供給スタンドの建設のため、政府、自動車メーカー、燃料供給会社などが参画したカリフォルニア燃料電池開発計画(California Fuel Cell Partnership)が発足し、2000年〜2003年に約70台燃料電池自動車の走行試験を行なっている。ドイツではバイエルン州の主導によりミュンヘン空港内の車を水素燃料電池自動車にする計画を発足させ、1999年から運用開始している。当面シャトルバスとBMW乗用車のみだが、2000年にはダイムラー・クライスラー社の燃料電池自動車Necar4も参加した。
 2001年6月現在世界の自動車企業の発表では、ホンダ、トヨタ・GM、日産・ルノー・プジョー・シトロエン、マツダ・フォード、ダイムラー・クライスラー、FIAT、BMW、VWなどが独自にあるいは共同で開発を進めている。燃料電池自動車の開発を一番早く(1994年)表明したのはダイムラー・クライスラーで、メタノール改質バラード社製燃料電池を搭載したNecar5を開発した。日本では全自動車メーカーが燃料電池自動車の開発を実施している(表6参照)。ホンダは世界で初めて米環境保護局(EPA)およびカリフォルニア州大気資源局(CARB)から販売許可を得たFCX−V4を米国で試験走行を行った。2002年から、国内の公道走行試験などを実施し世界に先駆けて市販を開始した。すなわち、ホンダとトヨタが2002年12月にリース販売を、その後2003年12月にダイムラー・クライスラーが、2004年3月に日産がリース販売を開始した。なお、2002年12月には、経済産業省を含め、世界に先駆けて試験的に販売された燃料電池自動車を政府全体で5台導入した。2003年12月現在、政府全体で8台導入している。
[用語解説]
 改質:reforming。燃料電池において、天然ガス、メタノール、石炭ガス化ガスなどから水素を採りだす装置。通常脱硫器とCO変換器で構成されている。
<図/表>
表1 燃料電池開発の歴史
表1  燃料電池開発の歴史
表2 代表的な燃料電池の種類と特徴
表2  代表的な燃料電池の種類と特徴
表3 燃料電池発電技術の開発目標
表3  燃料電池発電技術の開発目標
表4 燃料電池自動車と定置用燃料電池の導入目標
表4  燃料電池自動車と定置用燃料電池の導入目標
表5 燃料電池発電技術の展開
表5  燃料電池発電技術の展開
表6 日本における燃料電池自動車開発年表
表6  日本における燃料電池自動車開発年表
図1 燃料電池の発電原理
図1  燃料電池の発電原理
図2 リン酸燃料電池の電極における電気化学反応
図2  リン酸燃料電池の電極における電気化学反応
図3 アルカリ型燃料電池の電池セル構造
図3  アルカリ型燃料電池の電池セル構造
図4 リン酸型燃料電池の電池セル構造
図4  リン酸型燃料電池の電池セル構造
図5 溶融炭酸塩型燃料電池の作動原理
図5  溶融炭酸塩型燃料電池の作動原理
図6 固体電解質型燃料電池の基本構造
図6  固体電解質型燃料電池の基本構造
図7 固体高分子型燃料電池の基本構造
図7  固体高分子型燃料電池の基本構造
図8 燃料電池自動車のしくみ
図8  燃料電池自動車のしくみ
図9 家庭用燃料電池システムのしくみ
図9  家庭用燃料電池システムのしくみ

<参考文献>
(1)渡辺隆夫、保坂 実、吉田行男、池松正樹:発電技術の将来展望、燃料電池、火力原子力発電(2001.10)、p.124
(2)燃料電池実用化戦略研究会事務局:燃料電池自動車および定値用燃料電池の導入目標に関する試算(2001.1.22)
(3)(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):海外における新エネルギー開発の動向(燃料電池)(1998)
(4)(財)新エネルギー財団(NEF):メタノールを燃料とした燃料電池発電設備、http://www.nef.or.jp/award/kako/h11/00syo12.htm
(5)(社)日本ガス協会(JGA):燃料電池、http://www.gas.or.jp/fuelcell/
(6)日本石油連盟(PAJ):石油とエコ?燃料電池について?
(7)日本電動車両協会(JEVA):燃料電池の基礎知識
(8)穴水(株):燃料電池の歴史、http://www1.ttcn.ne.jp/?anamizu/fc6.htm
(9)本間琢也:燃料電池発電の最新開発状況と将来展望、化学工学、66(3)、146-147(2002)
(10)Honda,Toyota race to put first fuel cell cars on U.S.,Japanese roads,Hydrogen & Fuel Cell Letter-Aug.2002,
(11)(財)日本自動車研究所:平成15年度燃料電池自動車に関する調査報告書(平成16年3月)
(12)資源エネルギー庁:新エネルギー部会中間報告骨子(案)(平成18年5月11日)
(13)(社)日本伝熱学会(編):環境と省エネルギーのためのエネルギー新技術系、エヌ・ティー・エス(1996.8)
(14)資源エネルギー庁(監):1999/2000年版 資源エネルギー年鑑、通算資料調査会(1999年1月)、p.681-685
(15)中山稔夫:燃料電池開発の取り組みと展望、エネルギー、33(5)、58(2005.5)
(16)山中唯義(編):CO2・リサイクル対策総覧「技術編」、通算資料調査会(1998年6月)、p.233
(17)燃料電池実用化推進協議会:http://fccj.jp/
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