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<概要>
 ヒートポンプとは、低温の熱源から熱を汲み上げて高温の熱源にする機器のことである。スーパーヒートポンプ・エネルギー集積システムに用いられる超高性能のヒートポンプ(スーパーヒートポンプと呼ぶ)として、超高性能圧縮式ヒートポンプの研究開発が行われた。超高性能圧縮式ヒートポンプとして、出力温度が現状の冷暖房、給湯用と同程度でCOP値が現状の機器のおよそ2倍の6〜8を目標とした高効率型ヒートポンプ、およびCOP値は現状と同程度ではあるが、出力温度が現状よりはるかに高い150℃〜300℃の高温の熱出力を可能にする高温出力型ヒートポンプを開発した。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 スーパーヒートポンプ・エネルギー集積システムに用いられる高性能のヒートポンプ(スーパーヒートポンプと呼ぶ)として、超高性能圧縮式ヒートポンプの研究開発が行われた。超高性能圧縮式ヒートポンプの開発目標として、表1に示すように、出力温度が現状の冷暖房、給湯用と同程度でCOP値(成績係数)が現状の機器のおよそ2倍の6〜8を目標とした高効率型ヒートポンプ、およびCOP値は現状と同程度ではあるが、出力温度が現状よりはるかに高い150℃〜300℃の高温の熱出力を可能にする高温出力型ヒートポンプを開発した。なお最終の評価結果について表2に示した。
1.圧縮式ヒートポンプの原理
 ヒートポンプとは、低温の熱源から熱を汲み上げて高温の熱源にする機器の総称である(図1)。圧縮式ヒートポンプの原理は、フロン等の作動媒体の蒸発(吸熱)と凝縮(発熱)を圧縮機を用いてサイクルさせるもので、駆動源はモータ、エンジンを用いる(図2)。家庭、業務用の冷暖房機を中心として普及している現状の圧縮式ヒートポンプは、COP値(成績係数:得られたエネルギーの投入エネルギーに対する割合)が3〜4程度である。
2.高効率型圧縮式ヒートポンプ
 この型の圧縮式ヒートポンプには、地域暖房・給湯等民生用に適した温熱専用型と、ビルの空調等に適した冷温兼用他の2種類がある。COP値の目標値は、前者が8、後者では冷房用として7、暖房用として6である。この高効率化に最も重要な役割を果したのが、ヒートポンプ用作動媒体および熱交換器の高性能化である。
 作動媒体としては、フロンの規制に対応して、代替フロンからなる非共沸混合作動媒体を採用した。このことにより、蒸発器や凝縮機内において、作動媒体と向流で流れる熱交換壁反対側の熱媒体の流れ方向の温度勾配に対応し、非共沸混合作動媒体が、順次均一に蒸発あるいは凝縮することになり、従来の単一媒体を用いた場合に比べて熱交換の効率を大幅に高めることができた。さらに、高性能熱交換器として小温度差向流多段熱交換器等を開発するとともに、圧縮器、膨張器、システム等の高性能化、最適化をすることによりCOP値を、全体として現状の2倍にすることを可能とした。
3.高温出力型圧縮式ヒートポンプ
 COP値を3以上に維持し、50℃および150℃の熱源から、それぞれ150℃および300℃の出力温度を得ることができる2種類のヒートポンプを開発した。熱源温度が50℃、出力温度150℃の低温熱源用ヒートポンプには、作動媒体として高温下でも安定なトリフルオロエタノール/水の混合媒体を用いた。熱源温度150℃、出力温度300℃の高温熱源用ヒートポンプには、媒体として熱安定性に優れた水蒸気を用いた。COP値が3以上で、昇温幅が従来の3〜5倍にあたる100℃〜150℃を達成するには、高効率型ヒートポンプの場合と同様に、機器およびシステムの高性能化が必要である。
 このため最も重要な要素となるのが、圧縮器の多段化あるいは圧縮容積可変機構の高性能化であり、高温・高圧の作動媒体のもつエネルギーを高効率に回収・使用できる動力回収機構の開発が、高温出力型の場合には重要である。ここで開発されたヒートポンプは、高温の出力が可能であり、150℃〜300℃の熱を必要とする産業用プロセス加熱に適しているが、大規模な地域暖房、給湯用に適することも期待されている。
4.最近の動向
 新エネルギー利用等の促進に関する基本方針が改訂され(2002年12月 閣議決定)、河川水、海水、下水等の水を熱源として、その熱をヒートポンプ等で汲み上げることにより、給湯、暖房、冷房等の用途に利用する場合を温度差エネルギと定義し、導入目標を温度差エネルギー、雪氷熱利用をあわせて約58万Klと定めている。
 2001年6月の総合資源エネルギー調査会 新エネルギー部会報告書では、新たな市場拡大措置として、個々の導入補助や先進性の高いモデル的な事業への支援を通じた初期需要創出の推進などが有効であるとの見解を示している。
 最近の技術開発では、従来のフロン冷媒に代わる環境に優しい冷媒を利用したヒートポンプの開発、実用化が課題となっている。特に、自然冷媒と呼ばれる自然界に存在する物質を冷媒として使用する研究開発が活発化している。自然冷媒には可燃性、毒性、高圧などといった問題を抱えた物質も含まれており、高効率化に併せて安全に使用するための技術開発が重要となってくる。ヒートポンプの開発状況は以下の通り。
(1)圧縮式ヒートポンプ
 炭酸ガスはフロンが開発される以前に冷凍用に使用された冷媒であるが、安全性の高い冷媒として注目されている。この炭酸ガス冷媒を使用した住宅用給湯ヒートポンプ[90℃までの高温の温水供給が可能な給湯専用で年間平均COP(成績係数)3.0達成]が2000年わが国で世界に先駆けて開発された。これは、炭酸ガス冷媒の特性を生かした高温ヒートポンプであり、高圧の遷臨界サイクルを採用している。炭酸ガス冷媒は、大型のチラー用途でも試験的に採用されるなど適用領域を広げており、寒冷地用のヒートポンプなどにも適用が検討されている。炭化水素冷媒は可燃性であるため、わが国のような地震が多く火災に弱い建築構造では問題もあるが、一定の安全性を確保した条件下では使用が見込まれるため検討が進められている。その他、水や空気については、現在は主に冷凍、冷房の用途に開発が進められているが加熱目的のヒートポンプにも可能性を持っている。
(2)吸収式ヒートポンプ
 吸収式のヒートポンプは第1種(増熱型)ヒートポンプ、第2種(昇温型)ヒートポンプとして大型のものが開発実用化され、我が国は世界をリードする実績を有している。一方で今までに小型の住宅用あるいは業務用用途のガス焚き外気熱源ヒートポンプの開発も活発に進められてきたが、最適な冷媒と溶液の組み合わせの選定、高効率サイクル化などによる経済性の高いヒートポンプの開発が課題となっている。
(3)超高性能空冷小型ターボヒートポンプ
 三菱重工業と東京電力、中部電力、関西電力の4社は2002年2月2日、ビルや工場の空調等に使用する空冷ヒートポンプ分野において、業界最高のエネルギー消費効率(COP)5.0を持つ「超高性能空冷小型ターボヒートポンプ(冷房能力175kW/暖房能力200kW)」を共同開発したと発表した。「超高性能空冷小型ターボヒートポンプ」は三菱重工が開発した小型・高性能なターボ圧縮機を採用。さらに、外気で冷却した水を空気熱交換器に散布することにより高い冷却効果を発揮する「散水式空気熱交換器」を採用することで、冷房時COP5.0という業界最高効率を達成できたという。さらに、インバーターを標準装備することで、きめこまやかな運転制御も可能となり、大幅な省エネルギーとランニングコスト低減を実現した。冷媒にはオゾン層を破壊しないHFC-134aを採用している。
<図/表>
表1 開発目標
表1  開発目標
表2 超高性能圧縮式ヒートポンプ技術の最終評価結果
表2  超高性能圧縮式ヒートポンプ技術の最終評価結果
図1 熱機関とヒートポンプの作動原理
図1  熱機関とヒートポンプの作動原理
図2 圧縮式ヒートポンプの作動原理
図2  圧縮式ヒートポンプの作動原理

<関連タイトル>
ムーンライト計画 (01-05-02-06)
スーパーヒートポンプによるエネルギー集積システム (01-05-02-12)

<参考文献>
(1)日本工業新聞社(編):エネルギー総合便覧’88−89、日本工業新聞社(1989)
(2)石坂誠一(監修)、広野充士(編):技術が拓く新エネルギー 21世紀へのエネルギー、通商産業調査会(1985)
(3)資源エネルギー庁(監修):資源エネルギー年鑑、通商産業資料調査会(1985)
(4)通商産業省(編):21世紀エネルギービジョン 複合エネルギー時代の幕開け、通商産業調査会(1986)
(5)資源エネルギー庁(監修):1997/1998資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(1997年2月)、p.770-774
(6)新エネルギー・産業技術総合開発機構:平成14年度、温度差エネルギー、過去一年間の当該技術の動向
(7)Nikkei BP Network:BizTech、三菱重工と電力3社、業界最高COPの空冷ヒートポンプを共同開発
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