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<概要>
 米国NRCは、1990年代より原子炉許認可に関して、それまでの建設許可と運転認可を別々に審査する方法とは異なる新たな審査方法を導入している。その方法は、早期立地許可(Early Site Permit)、標準設計認証(Standard Design Certification)、建設と条件付運転の一括許認可(Combined Construction Permit and Conditional Operating License)で構成され、設計標準化の推進と、許認可手続きにおける複雑さと不確実性の低減を目的にしている。早期立地許可は建設するプラントの詳細が定まっていない段階で立地予定地の適否を審査するものであり、設計認証はサイトを決定することなく標準設計を審査するものである。一括許認可は、基本的に従来の建設許可と同様であるが、運転が条件付で一括して許可される。これらより、早期立地許可取得済みサイトに設計認証取得済みの原子炉を建設・運転するための許認可手続きは、従来の方法と比べて簡素で、かつ予測しやすいものになっている。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
 従来、米国の原子力発電所の許認可では、合衆国連邦規制基準第10部50項(10CFR Part 50)に基づき、建設許可と運転認可を個々に取得することが要求されていた。しかし、1990年台に、NRCは規制効率の改善や許認可取得の不確実性の低減等を目的とし、新たな審査方法10CFR Part 52を制定した。この方法は、早期立地許可(Early Site Permit:ESP)、標準設計認証(Standard Design Certification:DC)、建設と条件付運転の一括許認可(Combined Construction Permit and Conditional Operating License:COL)で構成される。図1に審査手続きの概要を示す。以下に、これらの許認可の内容、及び、新型原子炉の標準設計認証に関して重要な申請前審査(Pre-application Review)について要約する。
1.早期立地許可
 早期立地許可は、設置する原子力プラントの詳細が定まっていない段階で、立地予定地がプラントの建設に適しているかどうかを審査するものである。審査では、安全性、防災計画の準備状況、環境防護についての検討がなされる。検討結果は安全評価レポート(Safety Evaluation Report)と環境影響声明(Environmental Impact Statements)にまとめられる。審査においては、設置するプラントの詳細を提出する必要はないものの、1)施設の形式、数、熱出力、2)設置位置の概略、3)事故時に生じる可能性のある最大の放射線災害の程度、4)冷却系の形式、最終除熱冷媒の取込み及び排出方法等、について明示する必要がある。
 安全性の評価では、放射線災害評価に重大な影響を与える主要な構造、システム、機器や、サイトの特性に関する検討を行う。防災計画の準備状況に関しては、防災計画の実施に重大な障害となり得るサイトの特徴を抽出し検討することが必要である。これに関しては二つのオプションがあり、総合的な防災計画を提案する場合と、提案しない場合の方法が選択できる。後者の場合は、防災計画地帯の概略的範囲等、防災計画に関する主要な特性のみを明示すればよい。オプションに応じて、地方、州、連邦政府機関との協議内容を示す書類の準備や公聴会の開催方法等に違いが生じる。環境防護の面では、申請者はサイトを選定した理由等について説明を行う必要がある。
 早期立地許可取得後、安全性に影響しない内容については、そのサイトで工事を実施することが可能になる。ただし、例えば、原子炉が建設される以前に許可の有効期間が終わってしまうような場合には復旧を行うことが工事を行うための前提条件である。NRCスタッフ及び原子炉安全諮問委員会(ACRS)による審査を完了した後は、公聴会を開催し、公衆の意見を聴取することが必要である。早期立地許可は、10年以上20年までの有効期限を有し、10から20年間の延長が可能である。
 2012年1月現在、クリントン発電所(エクセロン・ジェネレーション社)、ノースアンナ発電所(ドミニオン・エナジー社)グランドガルフ発電所(システムエナージー・リソース社)及びボーグル発電所(サザンニュークリア・オペレーティング社)について早期立地許可が発給されている。また、ヴィクトリアカウンティ発電所(エクセロン・ニュークリア・テキサスホールディング社)及びPSEG発電所(PSEG発電社)について、早期立地許可申請が提出され、審査が行われている。
2.標準設計認証
 この審査は、立地審査とは独立して標準的なプラント設計を審査し認証するものである。設計認証の審査過程で解決された問題は、従来の規制方法に基づく場合より、設備変更要求(バックフィット)が限定されるという利点がある。すなわち、設計認証された炉のバックフィットは、設計認証が発給された時に有効な規則を満足させるためか、または、公衆の健康と安全を十分に保証するため以外には、強制できない。
 申請書には、基本的に、従来の建設許可及び運転認可で要求される情報のうち、サイト特有の部分を除く、技術情報を含めなければならない。又、リスク評価やTMI事故後に提起された事項の評価(例えば炉心冷却手法の信頼性を向上させるための確率論的検討)等を実施する必要がある。サイト特有の条件については、適切な仮定を施し、それを明示する必要がある。例えば、AP600の設計認証の場合、米国における標準的なサイト周辺人口分布データを用いてリスク解析が実施されている。さらに、プラントが認証された設計に従って建設され、運転されることを保証するために、必要かつ十分な試験、検査、解析、許容基準(Inspections,Tests,Analyses and Acceptance Criteria:ITAAC)を提案する必要がある。プラントが実際に運転される前には、ITAACで規定される試験、検査、解析を実施し、許容基準が満足されること、及び、設計認証発給の際に、仮の値として定めた条件と実際のサイト条件を比較し、安全上の問題がないこと等を確認する必要がある。
 現在の軽水炉設計と多くの部分が異なり、固有の、または受動的なメカニズムを使用する単純化された新型安全系を有する先進的原子炉の場合には、さらに下記の条件を満足する必要がある。
(1)安全系の機能が、解析と適切な実験により確証されていること。
(2)安全系の相互干渉効果が安全性に大きく影響するものでないことが、解析と適切な実験により確証されていること。
(3)解析手法の有効性が、運転、過渡、事故の各条件を含む十分に広い条件で実験により確証されていること。
(4)サイト特有の部分を除き設計が完了していること。
 上記4項目を満足させる以外の方法として、建設されたフルサイズの原子炉で試験を行うことにより安全機能を実証することも可能である。もし上記項目(4)が完了していない場合、設計の中で認証されていない部分がプラントの安全な運転に重大に影響しないことを示さなければならない。
 モジュラー型システムの設計認証を申請する場合、プラントの数やサイトの特徴により生じる様々な条件において、システム間の相互干渉効果等について、検討しなければならない。最終安全解析書や確率論的安全評価では、すでに運転しているモジュールの安全な運転を保証するため、後に建設するモジュールの運転及び立ち上げ時に必要となる制限条件などを示す必要がある。
 これまで、NRCは、ABWR(1997年8月)、System80+(1998年6月)、AP600(2000年3月)及びAP1000(2006年1月)の四つの設計に対して、標準設計認証を発給している。また、2007年5月に設計認証申請が行われたAP1000修正については、2011年12月に設計が認証された。2012年1月現在、NRCはESBWR(Economic Simplified Boiling Water Reactor)、USAPWR、EPRについて、設計認証の審査を行っている。
3.建設と条件付運転の一括許認可
 一括許認可は、基本的に10CFR Part 50に基づく従来の建設許可と同様な内容を有する「建設許可」と、建設後ある条件が満足された場合に運転を認めるという「条件付の運転認可」を一括して発給するものである。その条件とは、建設後の検査、試験、解析の内容、及び、合格基準(ITAAC)で示されるもので、審査の段階で定めるものである。ITAACの内容及び合格基準は、それが満足される場合、プラントが一括許認可に従って建設され、運転されることを保証するのに十分なものでなければならず、設計認証で検討された事項や防災計画に関連する事項を含む必要がある。また、財務状況、新規電力の必要性、反トラスト法の観点からの検討も含まれる。
 一括許認可の申請では、標準設計認証と早期立地許可を先だって取得することが義務付けられるものではないが、それらを取得しておくことにより新手法の最大の効果が得られる。この場合、標準設計認証及び事前立地許可の審査過程において解決された問題は、再度審査されることはない。検討の中心となるのは、これらの審査の段階ではサイト特有の条件(例えば、取水口や最終除熱方法など)のために仮定した条件と実際の条件の比較検討である。NRCは、2011年12月に設計認証されたAP1000修正について、6件の一括許認可申請を審査している。
4.申請前審査
 NRCは1986年に発行された先進的原子力プラントに関する政策声明において、新たな指針制定の必要性を検討すること、及び、規制方法と推奨する安全特性の周知を図ることを目的とし、NRCと原子炉設計者の間で標準設計認証を申請する前の早い段階で議論を行うことを奨励している。
 これに基づき、新型炉に対して申請前審査が実施されている。その狙いは、(1)新たな指針作成を要求するような安全問題、(2)現行の規制によりスタッフが解決可能な技術課題、(3)技術課題を解決するために必要とされる研究、を抽出することにある。
 2012年1月現在、NRCは、幾つかの原子炉やサイトについて申請前審査を行っている。設計認証については、NGNP炉(エネルギー省)、NuScale炉(NuScale Powers社)、B&W mPower炉(バブコック&ウィルコックス社)等について審査を進めている。立地については、クリンチリバー(TVA社)の立地許可に向けた事前審査が行われている。なお、TVA社は二段階許認可システムを視座に入れた、6基のmPower炉を計画している。
 NRCは上記以外の炉、4S炉(Super Safe Small and Simple、東芝)、PRISM(Power Reactor Innovative Small Module、GE−日立)、HPM(Hyperion Power Module、Hyperionn Power Generation社)等についても申請前審査を実施している。
(前回更新:2003年11月)
<図/表>
図1 NRCによる原子炉許認可手続きの概要
図1  NRCによる原子炉許認可手続きの概要

<関連タイトル>
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
アメリカの原子力開発体制 (14-04-01-03)
アメリカの原子力安全規制体制 (14-04-01-04)
原子力許認可プロセスの改革と1992年エネルギー政策法の成立 (14-04-01-16)
米国原子力規制委員会の許認可プロセスとその適用状況 (14-04-01-35)
米国エネルギー省と原子力産業界の軽水炉開発共同計画 (14-04-01-39)

<参考文献>
(1)T.E. Murley,Z.R. Rosztoczy and G.D. McPherson: The Evolution of the Structure and Application of U.S. NRC Regulations and Standards, Nuclear Engineering and Design 127(2), pp. 219-224, (1991).
(2)NRC:Future Licensing And Inspectin Readiness Assessment, SECY-01-0188, Attachment, pp.II-4-II-12, (2001),
http://www.nrc.gov/docs/ML0121/ML012140585.pdf (Sept., 2001).
(3)NRC:Fact Sheet on Nuclear Power Plant Licensing Process, (2003), http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/fact-sheets/licensing-process-fs.html, (Feb., 2011).
(4)NRC:Fact Sheet on Next-Generation Reactors, (2003), , (Jan.,2004).
(5)NRC:Semiannual Update of the Status of New Reactor Licensing Activities, SECY-03-0005, (2003),
http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/commission/secys/2003/secy2003-0005/2003-0005scy.pdf, (Jan.,2003)
(6)NRC:Final Safety Evaluation Report Related to Certification of the AP600 Standard Design, NUREG-1512, (1998), http://www.nrc.gov/docs/ML0810/ML081080310.pdf
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