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<概要>
 エネルギー省(DOE)と原子力産業は、原子力エネルギーの供給量拡大に向けての戦略的な共同研究開発計画を開始し、2004年2月に「軽水炉研究開発のための戦略計画(Strategic Plan)」を発表した。これによると、原子力産業はプラントの安全性向上、効率改善、設備利用率の向上、出力増強などに取り組んでおり、米国の原子力発電所の性能は1990年以後には大幅に改善した。これらの改善により、原子力発電のコストも低下してきており、他の電源と競合できるようになった。しかし、TMI事故以降は原子力発電所の新設がなく、原子力産業が新規発電プラントの建設を行うためには、連邦政府と産業界は共同で新規の認可プロセスの有効性を実証する必要がある。また、既存の、及び将来の原子力発電所の長期的な性能向上に必要な広範囲な技術開発を進める上で、政府の支援は必須である。こうした「戦略計画」の提言の下で、新規原子力発電所の建設を支援する連邦政府の取り組みも活発化し、これに呼応して原子力産業界から建設・運転一括認可の申請が多数NRCに提出されている。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
 米国では1979年のスリーマイルアイランド事故(TMI事故)によって規制が大幅に強化され、その後長期にわたって原子力発電所の新規発注がない状態が続いた。他方、気候変動問題への対応やエネルギー安全保障の確立が重要な政策課題となり、省エネルギーの進展とともに、エネルギー源の多様化による化石燃料依存度の低下が急務となった。
 この状況は21世紀に入ってさらに深刻化したため、エネルギー輸入依存度の上昇や石油・ガス価格高騰、大規模停電等の問題の解決策を検討するため、2001年5月には「国家エネルギー政策」を発表し、原子力エネルギーを含むエネルギー供給の拡大の目標が示された。この具体的な推進を行う計画として、エネルギー省(DOE)と原子力産業は、原子力エネルギーの供給量拡大に向けての戦略的な共同研究開発計画を開始し、2004年2月に「軽水炉研究開発のための戦略計画(Strategic Plan)」を発表した。これは、政府と産業間の強い協力関係に基づく、国家的事業として原子力の再生を図るという強い決意表明である。以下の1〜3章でこの戦略計画の概要をまとめるとともに、4章に新規原子力プラントの建設に向けた最近の動きを紹介する。
1.原子力利用の動向と課題
 TMI事故以降は1973年発注のプラントを除いて、新規プラント建設はない。しかし、原子力産業はプラントの安全性向上、効率改善、設備利用率の向上、並びに電力需要に対応するための既存発電所の出力増強などに取り組んでおり、米国の原子力発電所の性能は1990年以後には大幅に改善した。これによる電気出力の増加は、それ以降の9基のプラントの閉鎖による発電容量低減を補ったうえ、新規1000MW発電所13基分と同等の供給力を電力網に加えた。これらの改善により、原子力発電のコストも低下してきており、他の電源と競合できるようになった。
(1)原子力発電と米国のエネルギー政策
 電力需要は近年、経済成長を上回るペースで増加してきた(図1)。2001年の「国家エネルギー政策」の見通しによれば、今後の電力需要は長期にわたってGDPと同程度かそれ以上の伸びとなることが予想され、現状の供給計画のままでは深刻な電力不足に陥る可能性がある。具体的なシナリオとして、電力需要は年率1.8%で成長し、これを賄うために2020年頃までに約400GWeの設備容量の新設が必要(図2)とされる。しかし、この新規供給力を天然ガス火力のみに依存することには大きなリスクがあり、また、再生可能エネルギーによる供給量の急増も困難なため、電源のバランスを取りながら電力供給を増大させるために、「国家エネルギー政策」は原子力の役割を拡大することを要求している。
(2)原子力発電の拡大を巡る状況
 TMI事故以降の安全性と信頼性の優れた実績にもかかわらず、米国での原子力発電所の新規導入は行われていない。これは幾つかの複合的な要因によるものである。主なものとして、過剰気味の供給力、高金利、2〜3のプラントの極端に悪い運転性能、予測不可能な認可プロセス、原子力技術の安全性と使用済み燃料の処分に関する公衆の懸念などが挙げられる。加えて、原子力発電は大型のベースロード電源と位置づけられているが、初期投資が大きいこと、運転開始までのスケジュールに不確実性があることが、投資を難しくする要因であった。そこで、研究開発を通じてプラント設計の改善を図るとともに、NRCの新しい認可プロセスが建設コストとスケジュールの問題に対して有効であることを実証する必要がある。
 一方で、原子力発電の導入を促進するためには、既存のプラントを安全に、かつ効率的に稼働させなければならない。現在の原子力発電所が、高い性能を維持し寿命を延長する際の最も大きい障害として、以下のものがある。
・システム、構造と構成要素の経年劣化。
・性能への要求増大に対する核燃料の信頼性。
・プラントの安全維持に関連した高いコスト。
・装置の陳腐化、特に計測・制御系と他の動的構成要素−両者とも先進のデジタル及び通信技術の応用に従うべきもので、他の産業では既に開発済み。
 新技術を開発・適用することにより、既存の原子力プラントもクリーンで、安定的に電力を供給することができ、高水準の安全を維持しつつ、その信頼性、利用率と生産性を向上することができる。これまでの米国原子力産業の優れた安全、環境及び経済的進歩の上に立って、産業界とDOEは国民に、原子力発電の実績の政策的意味を明らかにし、国民の将来のエネルギー需要に対応する適応性を実証する責任がある。
2.政府の指導力の重要性
 連邦政府は、経済的で安全な信頼できる原子力発電技術が電力供給に利用できることを保証するという重要な役割を担っている。原子力発電容量の増大が国家的な重要課題であるという観点から、連邦政府の明確な指導力の発揮が必要である。例え政府の支持がなくとも将来的には原子力プラントの容量が増加する可能性はあるが、その進捗は遅れるであろう。原子力発電の導入が遅れれば、火力発電プラントが過剰に建設され、温室効果ガスやその他の大気汚染物質の排出の増加と電力コストの増大につながる。
 連邦政府と産業界によるこの共同研究開発計画の第1の目標は、新しいプラント認可プロセスを実証し、第3世代原子力プラントの設計と認可に関する研究開発活動に焦点を当てるとともに、プラント建設の時間枠を短縮するように技術を改善し、新プラントへの投資の経済的可能性を高めることによって、原子力発電所の新規建設の道程を明らかにすることにある。政府の支援は、認可のプロセスを速め、このプロセスを予測可能にするために必要である。また、新しい連邦による規制と認可プロセスの実証を容易にするよう、DOEの諸機関の連携及び標準設計の認可に必要な資金確保のために、初期コストの分担が必要である。設計と認可、及び建設プロセスを通じて得られるプラント標準化によって、新規プラントの建設が回収可能な投資となり、コストが低下することが予想できる。また、最初のエンジニアリングコストの分担は、電力会社の原子力発電所の新規建設への投資を可能にする上で重要である。
 この計画の第2の目標は、原子力安全基準を維持しつつ、既存の原子力発電所の性能、信頼性と安全性を最適化することである。既存の原子力発電所の運転は、米国に経済的で信頼できる電力供給システムを提供するのに重要である。「国家エネルギー政策」が提唱する安定した多様な、信頼できる電力供給システムという目標を達成するためには、既存の原子力プラントの長期稼働が保証されなければならない。電力会社は、民間企業としての経営責任があり、「限界利益を超えて」長期の研究開発に投資することができない。したがって、既存の、及び将来の原子力発電所の長期的な性能向上に必要な広範囲な技術開発を進める上で、政府の支援は必須である。DOEは原子力産業界と共同して、既存の原子力発電所の出力増強に必要な研究開発を実施し、原子力発電所の安全性をさらに向上させ、寿命期間を通じて原子力発電所の安全な運転継続を保証する。
3.共同研究開発計画の目標、目的と成果
 既に述べた各目標を達成するための研究開発の目的は以下のように規定される。
 第1目標:新規プラント認可プロセスの実証成功、競争力ある標準型第3世代原子力プラント設計開発、プラント建設期間を短縮する技術改善、及び事業環境と原子力インフラの強化。
 第2目標:発電出力増加のための先進技術の開発と応用、長期運転のための技術開発、原子力発電の安全性を低コストで効率的に向上させる技術の開発、及び燃料高燃焼度化の実施技術。
 焦点となる分野、期待される(計画された)成果を表1に示す。また、目的の「新規プラント認可プロセスの実証成功」について、里程を含めた要点を表2に例示した。
4.新規原子力プラント建設に向けた動き
 2002年2月にDOEが発表した「原子力発電2010計画」及び2005年8月に成立した「2005年エネルギー政策法」に基づき、2010年までに新規原子力プラントを建設する計画が進められ、2007年時点では多くの建設計画が提案された。しかし、天然ガス価格が低位で推移したこと等もあって、原子力プラントを建設するまでには至らず、原子力発電2010計画は2010年に一定の成果を収めて終了した(参考文献4)。
 新規原子力発電所の建設を支援する連邦債務保証枠は2005年エネルギー政策法により185億ドルが保証されているが、オバマ政権はこの枠を拡大した。2011年3月及び5月には、各々、連邦議会上院及び下院に原子力発電2021法が提出され、2012年1月現在、審議が進行中である。この法案は2005年エネルギー政策法を修正するもので、小型モジュール炉(SMR)の建設に関して、2018年1月までに二つの型のSMRの標準設計認証を得ること、2021年1月までに建設運転一括認可を原子力規制委員会から得ること等を定めている(参考文献5)。
 DOEは2012年1月にSMR開発に関わる公募計画を公表した。この計画では5年間に4億5200万ドルの支出を予定しており、2012年度分の67百万ドルについては、連邦議会の承認が得られている。SMRの開発は、Westinghouse社、Babcock&Wilcox社、Holtee International社、NuScale Power社などが実施している(参考文献6)。なお、既存炉の寿命延長等に関する軽水炉持続可能性研究開発計画が2009年から開始されており、2013年まで継続される予定である(参考文献7、8)。
 早期立地申請、設計認証等に関する、2012年1月現在のNRCの活動では、Economic Simplified Boiling Water Reactor(ESBWR)、USAPWR、EPRについて、設計認証の審査が行われている。また、クリントン発電所(エクセロン・ジェネレーション社)、ノースアンナ発電所(ドミニオン・エナジー社)、グランドガルフ発電所(システムエナージー・リソース社)及びヴォーグル発電所(サザンニュークリア・オペレーティング社)について早期立地許可が発給されている。また、ヴィクトリアカウンティ発電所(エクセロン・ニュークリア・テキサスホールディング社)及びPSEG発電所(PSEG発電社)について、早期立地許可申請が提出され、審査が行われている。表3に2011年12月現在の一括許認可申請一覧を示す。
(追記)本稿の作成後の2012年2月9日に、ヴォーグル原発(ジョージア州)の3号機、4号機(ともにAP1000)の新設申請に対し、NRCが建設・運転許可(COL)ライセンスを発給する決定をしたことが報じられた。ただ、国内シェールガス生産の本格化で天然ガスが低価格で安定供給されており、これを機に原子力発電所の新設が急速に進むか否かは不透明である。
(前回更新:2004年8月)
<図/表>
表1 戦略的計画の総括
表1  戦略的計画の総括
表2 新規プラント認可プロセスの実証成功の要点
表2  新規プラント認可プロセスの実証成功の要点
表3 新規原子炉の一括認可申請(2011年12月現在)
表3  新規原子炉の一括認可申請(2011年12月現在)
図1 発電量と経済成長(1950〜2000)
図1  発電量と経済成長(1950〜2000)
図2 電力需要予測と現在及び計画設備容量(最終消費)
図2  電力需要予測と現在及び計画設備容量(最終消費)

<関連タイトル>
アメリカの原子力政策および計画 (14-04-01-01)
アメリカの原子力発電開発 (14-04-01-02)
アメリカの原子力開発体制 (14-04-01-03)
アメリカの原子力安全規制体制 (14-04-01-04)
アメリカの電気事業および原子力産業 (14-04-01-06)
米国原子力規制委員会の許認可プロセスとその適用状況 (14-04-01-35)
原子力発電拡大を目指す米国の動き (14-04-01-36)
原子力発電の推進(DOE長官顧問会原子力タスクフォース最終報告) (14-04-01-42)

<参考文献>
(1)UDDOE/Nuclear Power Industry: Strategic Plan for Light Water Reactor R&D,

(2)Energy Information Administrationホームページ:
http://www.eia.gov/electricity/
(3)http://www.nrc.gov/reactors/operating/licensing/power-uprates/status-power-apps/approved-applications.html
(4)Nuclear Power 2010:
(5)連邦議会ホームページ:例えば
http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/z?c112:H.R.1808:
(6)エネルギー省ホームページ:

(7)Light Water Reactor Sustainability Research and Development Program Plan:

(8)P. Lyons, Delivering Innovative Solutions for America’s Energy Challenges:
(2011年)
(9)海外電力調査会:海外諸国の電気事業第1編追補版12011年、p.2-10(2011年)
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