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<概要>
 RI・研究所等から発生する廃棄物、医療分野等において多量に発生する短寿命の放射線同位元素(ラジオアイソトープ:RI)に汚染された諸道具(例えば注射器)などの廃棄物に対して、適切な「規制免除」は放射性廃棄物の減量対応(処分)において重要である。 原子力安全委員会は、IAEA規制免除レベルの国内規制体系への取り入れの方針を平成15年3月に決定し、これに基づき、放射線同位元素による放射線障害の防止に関する法律(以下、「放射線障害防止法」という)は平成16年5月に改正され、同年6月に公布された。
 なお、原子炉の廃止措置等に伴って発生する固体廃棄物には、人工放射性物質誘導放射能を全く含まないか、含んでいるとしても極微量で、それに起因する被ばく線量が被ばく管理の観点から事実上無視できるものが多い。これらの廃棄物については、原子炉等規制法の2005年の改正により「放射性廃棄物として取り扱う必要がないもの」として「クリアランス」制度が設けられた。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている「放射性廃棄物としての規制免除の考え方」については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2012年01月   

<本文>
1.規制免除の意味
 IAEAでは、放射線防護に関し1984年末まで「De Minimis(デミニミス)」という用語を用いてきたが、1985年以降「Exemption(免除)」という用語に切り換えた。この段階では、「免除」は、放射線防護上の規制体系に組み込むことを免除すること(規制の入口で対象外とすること)と、放射線防護上の規制下にあったものの規制を解除すること(規制の外に出すこと)の両方の意味をもつ概念であった。その後、1995年頃から両者の概念を分離して検討する必要上から、前者を「規制免除」、後者を「クリアランス」という用語で区別するようになった。
 IAEAの文書によると、規制除外(Exclusion)は、本質的に規制になじまず規制システムの外に置かれる被ばくに関するもの、規制免除(Exemption)は行為や行為の中の些細な放射線量やリスクしか生じないため規制要求しないことの決定に関すること、クリアランス(Clearance)は被ばくやリスクが些細であることに基づいて規制管理から放出される物質に関するもの、と整理されている。規制除外、規制免除及びクリアランスの放射線的区分概念を図1に示す。
 特に、RI・研究所等から発生する廃棄物、医療分野等において多量に発生する短寿命の放射線同位元素(ラジオアイソトープ:RI)に汚染した諸道具(例えば注射器)は、一定時間経過すると普通の医療廃棄物と大差ないものになることから、これらの廃棄物に対して、適切な「規制免除」は放射性廃棄物の減量対応(処分)において重要である。
2.IAEAにおける規制免除に関する検討
 国際基本安全基準免除レベルの算定に用いられた個人被ばくの線量規準は、1988年のIAEA安全指針(SS-89)で述べられている「放射線による影響がとるに足らないほど小さい線量(trivial individual dose)」の考え方に基づいている。すなわち、その線量がもたらす個人のリスクがとるに足らない、あるいは無視できるほど小さいレベルであること及び自然放射線による被ばく線量の変動と比較して小さいことの2点を考慮している。
 SS-89において、免除のための個人被ばく線量の規準は、数10μSv/年のオーダーであると判断している。また、欧州委員会文書(RP-65)では、複数の免除された行為からの被ばくの重畳も勘案して、1つの行為に対する決定集団の被ばくに対する線量規準として10μSv/年を採用している。
 IAEAは、1996年に国連の食料農業機関(FAO)、国際労働機構(ILO)、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)、全米保険機関(PAHO)及び世界保健機関(WHO)等と共同で、「電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準」「Safety Series No.115」(通称、BSS)を出版した。中程度の量(トンオーダー)までの放射性物質に対する規制免除が適用できる放射能濃度(Bq/g)と放射能(Bq)(「BSSの規制免除レベル」という)を示した。この中では、約300核種の免除レベルが規定され、同時に使用する放射性核種の放射能濃度、またはその放射能(量)のいずれかが免除レベルを下回る場合には、規制から免除されること(事前の届出や許可等の手続きを必要としない)、規制当局の定める条件によっては条件付きの免除(特に、免除されないような放射性物質を含む機器について)を認めても良いこと等が示されている。
 なお、国際免除レベルの考え方では、線源の密封と非密封による数値を区分していない。これは廃棄処分されてからは、密封性がいつまでも担保されないからである。
3.我が国における免除レベルの基本的考え方
 放射線審議会基本部会の報告書によると、規制免除レベルの基本的考え方は次のとおりである。
 a.国際基本安全基準に示された免除レベルでは、通常時の実効線量を年間10μSv、事故時の実効線量を年間1mSvとする線量規準を定めた上で、核種毎の違いや一定の被ばくシナリオに基づく被ばく計算により、核種毎に規制を免除する放射能と放射能濃度を定めており、これは科学的、社会的により進んだ規制と考える。また、このような国際機関等で合意された免除レベルを各国が取り入れることは、放射性同位元素の貿易や輸送を円滑かつ安全に行ううえでも、適切であると判断される。
 b.我が国としては、国際機関等で合意された免除レベルの考え方等を踏まえ、免除レベルの算出方法の検討にあたっては、我が国独自に作成した被ばくシナリオ、パラメータ等に基づく免除レベルの算出も考えられるが、国際的な整合性を維持することも重要な要素であることから、基本的には国際基本安全基準に示された免除レベルを前提に被ばくシナリオ、パラメータの一部において、我が国の事情を考慮した免除レベルの試算を行うこととし、その結果を踏まえ、我が国の国内法令への取り入れ方を検討することが適切と判断される。
4.規制免除レベルの国内法令への取り入れ
 放射線審議会は、放射線審議会基本部会報告書「規制免除について」(平成14年10月3日、平成15年7月修正版、放射線審議会了承)に関し、我が国の法令にBSS規制免除レベルを取り入れた場合でも、免除した放射性同位元素からの被ばくに対する国民の安全性を担保する観点で問題は無いと判断し、同規制免除レベルを国内法令に取り入れることを適切と結論付けている。放射線審議会基本部会は、提示された免除レベルについて、基本的にBSSの295核種を取り入れ、さらにBSSに示されていない核種については英国放射線防護庁(NRPB-R306)の765核種から免除レベルを採用することが適当であるとしている。
 また、原子力安全委員会は、IAEAの規制免除レベルの国内規制体系への取り入れの方針を平成15年3月に決定し、これに基づき、放射線障害防止法が平成16年5月に改正、同年6月に公布された。放射線を放出する同位元素の数量等を定める件を平成17年6月1日付け(文部科学省告示第74号)で、規制免除レベルを第1条の別表第1に「放射線を放出する同位元素の数量(Bq)及び濃度(Bq/g)」として定めている。
 なお、原子炉の廃止措置等に伴って発生する固体廃棄物には、人工放射性物質や誘導放射能を全く含まないか、含んでいるとしても極微量で、それに起因する被ばく線量が被ばく管理の観点から事実上無視できるものが多い。これらの廃棄物については、原子炉等規制法の2005年の改正により「放射性廃棄物として取り扱う必要がないもの」として「クリアランス」制度が設けられている。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
図1 規制除外、規制免除及びクリアランスの放射線的区分概念
図1  規制除外、規制免除及びクリアランスの放射線的区分概念

<関連タイトル>
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
わが国の放射性廃棄物の種類と区分 (05-01-01-04)
放射性廃棄物の発生源・発生量と安全対策の概要 (11-02-05-01)
わが国における低レベル放射性廃棄物の処分についての概要(制度化の観点から) (11-02-05-02)
処分を前提とする放射性廃棄物の区分(放射能基準) (11-03-04-01)
各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)

<参考文献>
(1)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物管理ガイドブック、平成23年版
(2)International Atomic Energy Agency:International Basic Safety Standards for Protection against Ionizing Radiation and for the Safety of Radiation Sources, Safety Series No.115, IAEA, Vienna (1996),
(3)Principles for the Exemption of Radiation Sources and Practices from Regulatory Control, Safety Series No.89, IAEA OECD/NEA, Vienna (1988) , http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/3686/Principles-for-the-Exemption-of-Radiation-Sources-and-Practices-from-Regulatory-Control
(4)原子力安全委員会:「国際基本安全基準(BSS)の規制免除レベルの国内規制体系への取り入れ等に当たって」、平成15年3月
(5)放射線審議会基本部会報告書:「規制免除について」修正版、規制免除について 国際基本安全基準における規制免除レベルの国内法令への取り入れ検討結果(平成14年10月、平成15年7月修正版)
(6)放射線同位元素による放射線障害の防止に関する法律(平成16年6月)
(7)文部科学省:文部科学省告示第74号「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」平成17年6月1日、http://www.scn-net.ne.jp/~scout/tokubetu/HOUREI/kokuji.html
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