<本文>
1.アメリカにおける低レベル廃棄物処分の許認可要件
アメリカには、かつて6箇所の「民間処分場」があった。その後、リッチランド(ワシントン州)、ベーティ(ネバダ州)、バーンウエル(サウス・カロライナ州)の3箇所のみが操業していたが、後述の1985年低レベル廃棄物政策修正法により、1992年末に商業用としては終止符がうたれた。陸地処分方式は、いずれもトレンチ方式(trench:素掘り)であった。
(1)1980年低レベル廃棄物政策法
アメリカでは、既に「1980年低レベル
放射性廃棄物政策法(LLW Act,Public Law No.96〜573:通称80年法)」が制定された。本法律の骨子は、
・各州はその州内で発生した低レベル廃棄物の管理処分を行うものとするが、州間協定(コンパクト)も認められる。
・1986年1月1日以後は州協定以外の廃棄物の持ち込みを拒否することができる。
(2)1985年低レベル廃棄物政策修正法
1985年末に、80年法は連邦議会で修正され、全国規模で信頼性のある低レベル放射性廃棄物管理システムを確立するため、エネルギー省(DOE)に特別な責任を与えた。
「1985年低レベル放射性廃棄物政策修正法(通称85年法)」として1986年1月15日に発効した。この修正法の内容は、
・80年法で1986年1月1日と決められていた目標期限が、85年法では1993年1月1日に延期された。
・85年法では、操業中の3処分場ごとに、1986年1月1日〜1992年12月31日の期間の受入れ容量(総量)が規定されている。
(3)陸地(浅地中)処分の許認可要件
1983年1月に発効した規則10CFR61による許認可要件の内容は以下のとおりである。
・浅地中とは地表から30mの深さまでをいい、処分サイトは処分施設(トレンチ構造物など)と周辺の緩衝区域より構成される。
・低レベル放射性廃棄物を含有
核種と性質によって、
表1[A]に示すように、「クラスA,B,C」の3領域に分類する。含有核種による分類には、
表1[B]に示したような「長寿命の核種」による分類基準と、
表1[C]に示したような「短寿命の核種」による分類基準をそれぞれ設けている。長短寿命核種が混在している廃棄物の場合には、「配分和」の結果でクラス分けを行う。
・処分施設の管理(操業から閉鎖後までの全期間)では、「公衆個人の年間被ばく線量が全身で25ミリレム(250μSv)、
甲状腺 で75ミリレム(750μSv)、及び他器官で25ミリレム(250μSv)を超えないこと。また、ALARAの指針を遵守すること」という要件が付されている。
2000年3月現在、低レベル
放射性廃棄物処分規則はNRCと各州の協定プログラムにしたがい、各州において執行されている。
2.フランスにおける放射性廃棄物処分の許認可要件
1979年の政令によりCEA傘下の独立した放射性廃棄物管理機関としてANDRAが設立され、ついでANDRAは1991年12月の放射性廃棄物法により産業省、環境省、教育研究技術省の監督下にある公営企業に改組された。
(1)中・
低レベル固体廃棄物の長期貯蔵に関する安全基本規則
1982年11月に、「短中寿命の低中レベル放射性廃棄物の長期地表貯蔵」についての「安全規則I.2」を制定し、1984年に修正した。本規則の概要を
表2に示す。
(2)ラマンシュ貯蔵センターと廃棄物受入れ基準
フランスでは、低レベル廃棄物の貯蔵(処分)は原則として「地表貯蔵」方式で行われる。その代表例がラマンシュ貯蔵センター(CSM:Centre Stockage de la Manche)におけるモノリス(monolith)およびチュムリ(tumuli)構築物である(
図1参照)。CSMはラアーグ再処理工場に隣接して、1969年に建設されている。
表3[A]は、CSMにおける廃棄体中主要核種の許容最高値(
放射能濃度)をベータ・ガンマ核種とアルファ核種別に定めたものである(それぞれの最高値の決定時期が、処分時点におけるものと300年経過後というように異なっていることに注意)。また、
表3[B]は、CSMにおける核種別の受入れ(処分)限度量を示したものである。
なお,これらの諸数値は、アメリカでの設定値とともに、わが国における「浅地中処分できる低レベル放射性廃棄物の放射能上限値」の決定に有力な参考値として採用されている(わが国の値はフランスの場合のほぼ1/10に設定されている)。
しかし、1994年6月にはCSMの処分容量(52万6000立方m)が限界に達した。こうした事態を予想して、1980年代半ばには、ローブ低レベル廃棄物処分センター(パリの東250km)が設計され、1992年1月から操業開始した。同処分センターの処分容量は、100万立方mに設計されており、2040年まで国内で発生する低・中レベル廃棄物を受け入れることができる。
3.イギリスにおける低レベル廃棄物処分への勧告
同国には低レベル廃棄物(LLW)の貯蔵(処分)を主対象として、カンブリア州にある英国原子燃料公社(BNFL)のDrigg 処分場(AEA Technolgy,CEGB,SSEB,Sellafieldからのもの)、ケースネスにある英国原子力公社(UKAEA)のDounreay埋設地(高速炉実験場からのもの)などが存在するが、主力はDriggである。なお、Sellafield再処理工場からの廃棄物は
減容処理し、将来はDrigg に搬入せず、新規サイトに処分することとしている。そのほか、中レベル廃棄物(ILW)は新サイトで処分することを計画しており、また、高レベル廃棄物(HLW)は現在、SellafieldとDounreayで貯蔵中である。
イギリスでの「中・低レベル放射性廃棄物」対策の推移と規制への提言は、
(1)議会(下院)環境委員会の勧告(1986年1月)
a)放射性廃棄物 の分類に対する修正の勧告
放射性廃棄物の分類については、放射性廃棄物管理諮問委員会(RWMAC)等によりすでに基準の提示がなされていたが、それに対して次の3項の修正が求められた。
・中レベル廃棄物(ILW)を短寿命と長寿命の2領域に区分するための境界値の設定
・低レベル廃棄物(LLW)がアルファ含有廃棄物を含まないための規制値
・低レベル及び短寿命中レベル廃棄物が有害核種を含まないための排除規定
b)Drigg処分場の操業に対するコメント
・短寿命、非アルファの低レベル廃棄物だけに限定、特定核種の処分の禁止。
・「将来の処分場」のモデルとしては、Drigg 処分場は不適切。
c)将来の処分方式への勧告
・近地表処分方式の場合には、短寿命低レベル廃棄物だけに限定。その上、十分な工学的措置(人工バリアー)により、完全な閉じ込めを図ること。
d)被ばく線量の制限への提言
・廃棄物管理の目標を、「
決定集団(クリティカル・グループ)に対する個人平均被ばく線量が年間100ミリレム(1mSv)を十分下回ること」に置くべきこと。
(2)制度的管理期間と無管理段階の設定
a)制度的管理期間を次のように2分する。
・閉鎖前段階での管理:大体数10年
・閉鎖後段階での管理:大体数100年(a few hundred years)
全期間を通じ、「公衆構成個人の平均被ばく線量は年間500ミリレム以内」。
b)制度的無管理段階
管理期間の場合と異なり、この段階では公衆個人の安全性を「
リスク」の面で規制する。すなわち、単一の処分場について、「個人の年間リスクを、一般社会に受入れられるリスク(確率)1E-6と同等」とする。
4.わが国における安全規制と事業の状況
原子力発電所の操業や解体等によって発生する放射性廃棄物(低レベル放射性廃棄物)の最終的な処分に関しては、
原子炉等規制法(第51条の2)によって、放射能濃度によって2種類に区分し処分するように定められている。すなわち、
炉内構造物など比較的放射能が高いものを埋設する場合には、一般的な地下利用から余裕を持たせた深さ50〜100m程度の地中に埋設する(余裕深度埋設)こととし、それ以外の比較的放射能濃度が低いものに対しては、地下数メートルに設けた
コンクリートピットや素堀りのトレンチ方式埋設が許されるようになっている。この放射能濃度による区分については、原子炉等規制法施行令(第31条)で
表4のように定められている。
具体的な埋設の事業としては、原子力発電所等から出る比較的低い放射能レベルのものに対して青森県六ヶ所村の日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センターでコンクリートピット方式による埋設事業が実施され(
図2)、また、研究所などで発生する極低レベルの放射性廃棄物に対し茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構にてトレンチ方式の埋設が実施されている。
また、炉内構造物等の放射能レベルの比較的高い廃棄物に対しては、現在、余裕深度埋設が検討されている。さらに、燃料加工工場や再処理工場等から出る
ウランや超ウラン元素等の放射能レベルは低いが
半減期が極めて長い元素に汚染された廃棄物については、放射能濃度により区分し適切な処分を行うよう検討が進められている。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
わが国における高レベル放射性廃棄物の処分についてのシナリオ (05-01-03-06)
わが国における低レベル放射性廃棄物の処分についての概要(制度化の観点から) (11-02-05-02)
処分を前提とする放射性廃棄物の区分(放射能基準) (11-03-04-01)
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の処分方針と基準 (11-03-04-03)
放射性廃棄物としての規制免除についての考え方 (11-03-04-04)
放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方 (11-03-04-06)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編・刊):放射性廃棄物管理ハンドブック1994年版、(1994年7月)
(2)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1995年版、電力新報社(1995年2月)
(3)OECD/NEA(編):原子力資料No.299、OECS/NEA加盟国の放射性廃棄物管理計画、日本原子力産業会議(1999年1月)
(4)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑2001/2002版(2001年11月)、p.202-205
(5)原子力規制関係法令研究会(編著)「原子力規制関係法令集」2008年版、大成出版社(2008年)