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<概要>
 原子力施設等から発生する放射性廃棄物は多種多様であるため、適切な区分管理と廃棄物区分に応じた合理的な処理処分が行われることが必要である。原子力委員会では2005年10月に原子力政策大綱を示し、放射性廃棄物は「発生者責任の原則」、「放射性廃棄物最小化の原則」、「合理的な処理・処分の原則」および「国民との相互理解に基づく実施の原則」のもとで、その影響が有意ではない水準にまで減少するには超長期を要するものも含まれるという特徴を踏まえて適切に区分を行い、それぞれの区分毎に安全に且つ合理的に処理処分することが必要であることを示し、放射性廃棄物は各事業者自らの責任において処理処分をすることを基本としている。また、国は、処分方策を総合的に策定し、また処分の安全性の確認を行うとともに、処分の責任を長期的に担保するために法制度等を整備するなど、最終的に安全が確保されるよう、所要の措置を講じることとされている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている放射性廃棄物処理処分のシナリオについても見直しが行われる可能性がある。また、上記事故の際に炉心溶融で生成した燃料デブリの処理処分の方策も新たな検討課題となっている。なお、福島第一原発事故の発生により、環境に放出された放射性物質(事故由来放射性物質)によって汚染された物質については、放射性物質汚染対処特措法 (2011年8月30日 法律第110号)が制定され、本データに述べる放射性廃棄物とは区別して取り扱われている。
<更新年月>
2007年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射性廃棄物処理処分に係る基本的考え方
 原子力施設等において発生する放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等、多種多様であり、それらの処理処分に当たっては、安全確保を大前提としつつ、廃棄物の性状や含まれる放射性物質の種類と濃度等に応じ、適切に区分管理を行い、その区分に応じた合理的な処理処分を行う。
 原子力施設等で発生する放射性廃棄物のうち、液体状のものの大部分および気体状のものは、法令で定められた基準を下回るよう管理しつつ環境中に放出処分されているが、放出前の処理を適切に行い放出量の低減化の努力がされている。一部の液体状のものおよび固体状のものは、発生量の低減に努めるとともに、適切に区分管理を行い、減容、固化等の処理を行い、各々の区分に応じた合理的な処分を行うことが重要である。なお、放射能レベルが極めて低い廃棄物については、資源の有効利用の観点から廃棄物とすることなく再利用すること(クリアランス制度)を含め、それぞれの特徴を考慮した合理的な管理方法や処分方法が検討されている。放射性廃棄物についての規制除外・規制免除に関しては、IAEA等を中心に検討が進められ、それらの結果を下に原子力安全委員会における再評価が行われ、国際的な動向を踏まえ、IAEAにより検討された国際的なクリアランスレベルは、わが国におけるクリアランスレベルとしても妥当であると評価され、2005年11月に法令が整備された。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
2.原子力施設等で発生する放射性廃棄物の処理処分
 原子力施設等で発生する放射性廃棄物の種類を図1、放射性廃棄物の種類と処分方法を表1、処分方法概念図を図2に示す。
2.1 発電所廃棄物の処理処分
 図3原子力発電所の廃棄物処理方法を示す。発電所廃棄物は、原子力発電所等原子炉の運転等に伴って発生する半減期が比較的短いベータ・ガンマ核種が主要核種であり、核種の組成が放射化計算コードにより計算されてある程度明らかであるなどの特徴を有しており、商業用発電所から発生したものについては、既に、浅地中処分が開始されている。発電所廃棄物については、電気事業者等原子炉設置者が、直接の廃棄物発生者として、当該廃棄物の処分を適切、かつ、確実に行う責任を有している。当該廃棄物は低レベル放射性廃棄物として区分されるが、そのうち、放射能レベルの比較的低いもの、放射能レベルの極めて低いものについては、浅地中処分(ピット型処分あるいはトレンチ型処分)が行われる。また、放射能レベルの比較的高いものの処分の進め方については、その発生の実態、関連研究開発の進展状況等を考慮しながら、以下に示すサイクル廃棄物などと同様に余裕深度処分などの検討が進められている。
2.2 サイクル廃棄物の処理処分
 図4に原子燃料サイクル(FBRを含む)における放射性廃棄物の流れを示す。サイクル廃棄物は、再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物、再処理施設やMOX燃料加工施設から発生する超ウラン(TRU)核種を含む放射性廃棄物、ウラン燃料加工施設やウラン濃縮施設から発生するウラン廃棄物に大別される。
(1)高レベル放射性廃棄物
 高レベル放射性廃棄物は再処理施設で使用済燃料から有用な資源であるウラン、プルトニウムを分離した後に残る放射能レベルの高い廃棄物を指し、安定な形態に固化(ガラス固化)した後、30〜50年程度冷却貯蔵した後、最終的には地下の深い(およそ300mより深い)安定した地層中に処分(地層処分)することを基本方針としている。なお、青森県六ヶ所村にある「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」ではガラス固化体の受け入れ貯蔵が進められている。また、高レベル放射性廃棄物に含まれる核種の特性、利用目的等に応じた分離(核種分離)を行い、有用核種の利用を図るとともに、長寿命核種の短寿命核種への核変換又は非放射性核種への核変換すなわち消滅処理を行うことを目的とした核種分離・消滅処理技術研究開発も進められている。
(2)超ウラン(TRU)核種を含む放射性廃棄物
 TRU核種を含む放射性廃棄物は、再処理やMOX燃料加工により発生し、半減期の比較的長いTRU核種を含んでいること、放射能濃度が比較的高いものから低いものまで広範囲に分布していることなどの特徴を有している。放射能レベルが比較的低い廃棄物については、浅地中ピット処分あるいは余裕深度処分が検討されている。放射能レベルが比較的高い廃棄物は、高レベル廃棄物と同様に地層処分が検討されている。また、放射能がほとんど含まれていない場合には、再利用あるいは産業廃棄物としての処分が検討されている。
 2000年3月、原子力委員会バックエンド対策専門部会は「超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」の報告書を出し、廃棄物の物理・化学的性状と放射性核種濃度に応じて適切に区分した上で浅地中のコンクリートピット処分、余裕深度処分および地層処分する基本的考え方が示され、また、原子力政策大綱においては事業者による地層処分が想定されるTRU廃棄物と高レベル放射性廃棄物を併置処分する場合の相互影響等の評価結果を踏まえて、その妥当性を検討し、諸外国の併置処分概念と同様に離間距離を確保することにより相互影響を回避することが可能であること、長半減期低発熱放射性廃棄物処分技術検討会(2005年11月)では、実際の処分サイトにおいては、多様な地質環境条件に応じて、高レベル廃棄物の場合と同様、処分施設の配置、工学的対策など有効な措置を組み合わせることが可能であることなどが示されている。
(3)ウラン廃棄物
 ウラン廃棄物は、ウランの転換・成型加工、濃縮等に伴って発生する半減期が極めて長いウランおよびその娘核種を含んでおり、放射能レベルが極めて低い廃棄物が大部分を占めること、また、ウランは地殻中に広く分布する元素である等の特徴を有しており、これらの特徴を考慮した合理的処分対策が講じられるべきである。つまり、処分においては超長期にわたる管理の継続など、管理のあり方について十分な検討が必要であることから2000年12月、原子力委員会バックエンド対策専門部会は「ウラン廃棄物処理処分の基本的考え方について」の報告書が出され、含まれるウラン核種の濃度に応じて、簡易埋設、コンクリートピット埋設、余裕深度処分を行うべきことが示された。各処分方式における濃度区分(濃度上限値)は原子力安全委員会(放射性廃棄物・廃止措置専門部会)で「低レベル放射性固化体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(2007年3月)報告書案が示され現在、関係機関において埋設処分に係る関係法令整備に向けた対応が進められている。
2.3 RI・研究所等廃棄物の処理処分
 RI・研究所等廃棄物は「RI廃棄物」(障害防止法、医療法、薬事法、臨床検査技師、衛星検査技師に関する法律の規制を受ける機関から発生する廃棄物)と「研究所等廃棄物」(核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の規制を受ける試験研究用原子炉施設、核燃料物質の使用施設等から発生する廃棄物)を併せた総称であり、この廃棄物は、多種の放射性核種を含み、また、放射能レベルも多様である。1998年5月、原子力委員会バックエンド対策専門部会は「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について」の報告書を出し、含まれるβγ核種の濃度に応じて、浅地中処分(簡易埋設(トレンチ処分)、コンクリートピット処分)を行うべきことが示され、各処分方式の濃度上限値については原子力安全委員会で検討が進められている。また、文部科学省においてRI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会が設置され、国としても必要な取り組みを行っていくことが示され、廃棄物発生者は発生者責任を全うし、自らの廃棄物の処分のために主体的に取り組むことなどが示され(「RI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会」報告書(2004年3月29日))、現在、埋設処分事業に関する資金制度化検討が進められている。
2.4 返還廃棄物への対応
 海外委託再処理に伴い返還される高レベル放射性廃棄物や低レベル放射性廃棄物は、円滑に返還が行われるよう、電気事業者が中心となって所要の措置を講じている。これらの返還廃棄物は、管理施設において適切な期間貯蔵した後、処分地として適当な場所に最終処分(高レベル放射性廃棄物については地層処分)される。返還廃棄物の種類は、それぞれの国の放射性廃棄物管理政策に従い、英国では、廃棄物をすべて高レベルガラス固化体という単一の形態で、また、仏国では、廃棄物のカテゴリーごと(高レベル廃棄物、低レベル廃棄物[ハル・エンドピース、低レベル廃液、雑固体廃棄物])の形態で返還が行われる。返還廃棄物の国際輸送については国際的な理解と協力を得る必要があり、輸送の安全性等に係る情報の提供や広報活動を適切に実施している。
2.5 解体廃棄物の処理処分
 原子力施設等の廃止措置により発生する解体放射性廃棄物については、当該施設設置者が、直接の廃棄物発生者として、処理処分を適切、かつ、確実に行う責任を有している。当該廃棄物は、その対象施設により、発電所廃棄物、サイクル廃棄物、RI・研究所等廃棄物に分類され、それぞれの処理処分方策に従って処分される。放射能レベルの比較的高いものから低いものまで幅広く分布しており、比較的短期間に極低レベルの廃棄物等が大量に発生する等の特徴を有している。これらの処理処分については、2005年11月にクリアランス制度並びに原子力施設の廃止措置に関する法令も整備され、クリアランス(「放射性廃棄物して取り扱う必要のないもの」)、「放射性廃棄物でない廃棄物」の考え方の適用などにより適切に且つ合理的な処理処分が図られることとなった。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
表1 放射性廃棄物の種類と処分方法
表1  放射性廃棄物の種類と処分方法
図1 放射性廃棄物の種類
図1  放射性廃棄物の種類
図2 処分方法概念図
図2  処分方法概念図
図3 原子力発電所の廃棄物処理方法
図3  原子力発電所の廃棄物処理方法
図4 原子燃料サイクル(FBRを含む)における放射性廃棄物の流れ
図4  原子燃料サイクル(FBRを含む)における放射性廃棄物の流れ

<関連タイトル>
放射性廃棄物の処分の基本的考え方 (05-01-03-01)
再処理プロセスと安全性についての基本的考え方 (11-02-04-01)
高レベル放射性廃棄物の処理対策の概要 (11-02-04-03)
放射性廃棄物の発生源・発生量と安全対策の概要 (11-02-05-01)
わが国における低レベル放射性廃棄物の処分についての概要(制度化の観点から) (11-02-05-02)
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の処分方針と基準 (11-03-04-03)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成元年版(1989)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成元年版(1989)
(3)原子力安全局(監修):原子力安全委員会安全審査指針集 改訂 5版(1989)
(4)下川純一:日本原子力事業NAIG特報、1987年9月および11月号
(5)原子力委員会バックエンド対策専門部会:「超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」報告書(2000年3月)
(6)原子力委員会バックエンド対策専門部会:「ウラン廃棄物処理処分の基本的考え方について」報告書(2000年12月)
(7)原子力委員会:原子力政策大綱(2005年10月)
(8)原子力委員会バックエンド対策専門部会:「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について」(1998年5月)
(9)文部科学省RI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会:「RI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会」報告書(2004年3月29日)
(10)原子力安全・保安院ホームページ:原子力の安全、廃棄事業の安全規制、放射性廃棄物の種類とその処分方法
(11)電気事業連合会HP:特集 放射性廃棄物の処分を安全に進めます(原子力発電四季報37号)
(12)(財)日本原子力文化振興財団:「原子力・エネルギー」図面集 2007(2007年2月)、電気事業連合会HP:
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