<概要>
長寿命のアルファ核種の集合である
超ウラン元素(
TRU)を含有するTRU固体廃棄物の処分対策では、人間環境からの長期隔離による放射線防護が究極の目標となる。平成12年3月、原子力委員会バックエンド対策専門部会は「超ウラン核種を含む
放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」の報告書を提出した。内容は、超ウラン核種を含む廃棄物のうち、
放射性核種の濃度が比較的低いものについて、
浅地中処分あるいは
余裕深度処分の適用可能なものが比較的多く存在することの見通しが得られたこと、一方、対象廃棄物のうちアルファ核種の濃度が高い等により上記の処分概念が適用できないものがあり、これらについては
地層処分を行う必要があるとの考えが示された。浅地中処分あるいは余裕深度処分に関し、管理期間内に十分な放射能の減衰が見込まれない長寿命の放射性物質を含む放射性固体廃棄物の埋設に関しては、「
低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方(中間報告)」(平成19年7月12日)及び「余裕深度処分の管理期間終了以後における安全評価に関する考え方」(平成22年4月1日)が
原子力安全委員会より示された。地層処分に関しては、高レベル廃棄物との併置処分の可能性を含めた
TRU廃棄物地層処分の制度化のあり方が検討され、平成19年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の改定で、TRU廃棄物などが処分対象に追加された。
(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として
原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている「TRU廃棄物処分の考え方と規制」については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2011年12月
<本文>
1.我が国におけるTRU廃棄物処分の考え方と規制の動向
超ウラン元素(TRU)廃棄物は長寿命のアルファ核種の集合である超ウラン元素を含有する放射性物質であり
(a)放射能レベルはそれ程高くなく、発熱も比較的少ないが半減期が長い。
(b)発生量は
高レベル放射性廃棄物に比べて多い。
(c)発生形態が多種多様である。
などの特徴によって、他のベータ・ガンマ核種を含む低レベル放射性廃棄物に対する処分法とは異なった措置が必要になる。
平成12年3月、原子力委員会バックエンド対策専門部会は「超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」の報告書を提出した。内容は、超ウラン核種を含む廃棄物のうち、放射性核種の濃度が比較的低いものについて、浅地中処分あるいは余裕深度処分の適用可能なものが比較的多く存在することの見通しが得られたこと、一方、対象廃棄物のうちアルファ核種の濃度が高い等により上記の処分概念が適用できないものがあり、これらについては地層処分を行う必要があるとの考えが示された。
具体的に、廃棄物に含まれる全アルファ核種濃度について区分のための推奨値を設定し、これより濃度の低いものと高いものに区分する。アルファ核種の
放射能濃度が区分値よりも低く、かつベータ・ガンマ核種の放射能濃度も比較的低いものについては、浅地中処分または余裕深度処分が可能と考えられることからその具体化を図る。アルファ核種の放射能濃度が区分値よりも高く、浅地中処分または余裕深度処分以外の地下埋設処分が適切と考えられるものについては、高レベル放射性廃棄物処分方策と整合を図り技術的検討を進めることとされた。その後、原子力安全委員会が低レベル放射性廃棄物の中でも長半減期のTRU廃棄物を有意に含む放射性廃棄物の埋設処分に関し、管理期間終了以後における安全評価が重要となる放射性廃棄物埋設に係る安全確保について検討を行い、「放射性廃棄物処分の安全規制における共通的な重要事項について」(平成16年6月10日)、「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成19年5月21日)及び「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方(中間報告)」(平成19年7月12日)を発表し、一般の地下利用に対し十分に余裕を持った深度への埋設(余裕深度処分)を含む低レベル固体廃棄物の埋設についての安全規制の基本的考え方を示した。
低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る浅地中処分及び余裕深度処分の放射能濃度上限値を
表1に示す。
TRU廃棄物の中でも、濃度の高いものについては地層処分することとされ、その実施のために平成19年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(最終処分法)の改定が行われた。その概要は以下のとおりである。高レベル放射性廃棄物処分の実施主体である原子力発電環境整備機構が最終処分を実施する廃棄物の対象として、使用済燃料の再処理や
MOX燃料加工において発生するTRU廃棄物及び海外への再処理委託において発生したTRU廃棄物との交換により我が国に返還される高レベル放射性廃棄物が追加された。そして、放射性廃棄物の最終処分に係る事業の費用に充てるため、発電用原子炉設置者及び再処理施設等設置者に対し義務づけられている原子力発電環境整備機構への拠出金にTRU廃棄物等に係る処分費用が追加された。
TRU廃棄物の処分に当っては、固化体からのTRU核種の浸出と環境中での拳動を評価することが重要である。コロイド化、凝集、沈殿、吸着等の各現象については高レベル廃棄物の処分の際の評価対象と共通する部分も多い。処分に係る基準値との比較を行うためには、TRU廃棄物中の“TRU核種の同定と濃度測定”が不可欠であり、非破壊的な方法により行うことが要求される。精度の高い測定法の開発は研究段階であり、日本原子力研究開発機構の燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)では、パルス状中性子をTRU廃棄物(固化体等)に照射して非破壊的にTRU核種の存在量を測定する技術開発が実施されている。
2.諸外国におけるTRU廃棄物の処理処分(管理)の方針と基準
表2-1、
表2-2、
表2-3、
表2-4に、日本におけるTRU廃棄物に相当する廃棄物(地層処分対象)の各国での取り扱いについて処分方針、管理状況、実施体制、法制度等について示す。
(1)米国における方針と基準
TRU廃棄物を一般のベータ・ガンマ廃棄物と区分する境界値として、1974年に米国連邦規則値10nCi/g(=10
−8Ci/g(370Bq/g))が示された。すなわち、原子番号が92より大きいネプツニウム、プルトニウムなどのTRUを10nCi/g以上含む廃棄物について地中埋設を禁止し、もし液体であればそれを固形化し、発生後5年以内に米政府へ引渡すことを原則とするものである。米政府は引受け後、責任をもってそれらの輸送、貯蔵、処分を実施することとし、そのために必要な費用を発生者から徴収することを取り決めている。国防活動、主として核兵器の研究開発及び製造時に発生したプルトニウムで汚染された廃棄物のうち100nCi/g超える濃度のものについては、ニューメキシコ州カールスバットの約42km西に位置する廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)の地下約660mの岩塩層に設けた埋設施設へ輸送され、1999年3月から
DOEにより処分が実施されている。
(2)ヨーロッパ各国における方針と基準
TRU廃棄物対策に明確な方針(基準も含む)を打ち出している国はフランスとイギリスであり、これにドイツ、スイス、ベルギーなどが続いている。たとえば、フランスでは
アルファ廃棄物の区分値として0.1Ci/t(=100nCi/g(3,700Ci/g)を、またイギリスでも同様な数値をそれぞれ勧告している。ドイツ以外の国ではまだ決められていないが、10〜100nCi/gの範囲内に落ちつく公算が大きい。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の発生源と安全対策 (05-01-01-09)
再処理プロセスにおける放射性廃棄物の発生源 (11-02-04-02)
処分を前提とする放射性廃棄物の区分(放射能基準) (11-03-04-01)
低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について (11-03-04-08)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編・刊):放射性廃棄物管理ハンドブック(1994年7月)
(2)高度化原子燃料サイクル技術研究専門委員会(編):21世紀に向けた原子燃料サイクルの課題と展望、日本原子力学会(1994年3月)
(3)資源エネルギ−庁公益事業部原子力発電課(編):原子力発電便覧1995版、電力新報社(1995年2月)
(4)原子力委員会 原子力バックエンド対策専門部会:「超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分の基本的考え方について」(平成12年3月23日)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2000/siryo20/siryo111.htm
(5)原子力安全委員会:「放射性廃棄物処分の安全規制における共通的な重要事項について」(平成16年6月10日)、
http://www.rwmc.or.jp/law/file/2-19.pdf
(6)原子力安全委員会:「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成19年5月21日)
(7)原子力安全委員会:「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方(中間報告)」(平成19年7月12日)、
(8)文部科学省 放射線審議会事務局:資料第24-3号「日本における放射性廃棄物の埋設処分の概要について」(平成21年1月13日)、
(9)原子力安全委員会:「余裕深度処分の管理期間終了以後における安全評価に関する考え方」(平成22年4月1日)、
(10)(公財)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物の処分について、TRU廃棄物の処分、
http://www.rwmc.or.jp/disposal/tru/