<概要>
原子炉施設に起因する一般公衆の
放射線被ばくは、1.原子炉施設から環境に放出される気体および液体廃棄物中の
放射性物質によるもの、2.原子炉施設から直接放出される放射線によるものに区分される。とくに前者は、放射性物質の種類、放出条件、気象等の自然条件、
食物連鎖の態様、被ばくする人体の条件などに影響される。そこで軽水炉施設の
安全審査時に行われる「安全審査における平常運転時の公衆に対する被ばく線量評価」に役立たせるため、「内規」として「評価に当っての基本的考え方」がまとめられている。ここでは線量評価の概要を示す。
(平成元年3月27日
原子力安全委員会了承、平成13年3月29日一部改訂 原子力安全委員会)
(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として
原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている「一般公衆の線量評価」については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年06月
<本文>
1.一般公衆の
被ばく経路
図1に、原子炉施設から平常運転時に放出される気体および液体廃棄物中の放射性物質によって一般公衆が受ける放射線被ばくの経路を示す。その主要経路は次のとおりである。
区 分 | 被ばくの経路 |
気体廃棄物 | 外部被ばく | (1) 放射性雲(プルーム)からのもの
(2) 地表沈着の放射性物質からのもの |
内部被ばく | (3) 呼吸により体内に取込んだ放射性物質からのもの
(4) 植物、牛乳など食物摂取により取込んだ放射性物 |
液体廃棄物 | 外部被ばく | (5) 海洋および海浜中に拡散した放射性物質からのもの |
内部被ばく | (6) 海産物の摂取により取込んだ放射性物質からのもの |
(直接線) | 原子炉施設から直接放出され、一般公衆に到達する放射線(ガンマ線)であるが、原子炉施設の遮蔽効果によりその量と人体への影響は無視できる。 |
(スカイシャイン線) | 原子炉施設から直接放出され、一般公衆に到達する放射原子炉施設から直接放出され、空気中で散乱されて同施設周辺に到達してくるもの(ガンマ線)であるが無視できる水準の量である。 |
原子炉施設から放出される「放射性物質の種類と量」は通常明らかであるので、各放射性物質の環境および人体内での挙動を安全側に推定して人体組織が受ける線量を推算することができる。この結果をもとに、さらに人体組織に着目すると、一般公衆の被ばくに対して最も重要な被ばく形態をいくつか選び出すとともに、それらを評価することができる。
2.「内規」で行われたケーススタディの結果
この「内規」では、電気出力110万kW級のBWRおよび80万kW級のPWRから放出されるそれぞれ1施設(ユニット)当りの放射性物質の量と、既存の全サイトの平均的なサイト条件および気象条件を用いて、一般公衆に及ぼす線量を推算(ケーススタディ)している。気体および液体廃棄物中の放射性物質による被ばく経路は前出の
表1(または
図1)によるものとし、人体組織については
生殖腺、乳房、赤色骨髄、
甲状腺、骨表面、大腸下部および肺に着目している。
表1は、気体および液体廃棄物中の放射性物質に起因する一般公衆の外部被ばくによる線量の推算結果を、
表2-1と
表2-2はそれぞれBWRとPWRにおける内部被ばくの等価線量の推算結果を示す。
3.国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の
線量限度との対比
ケーススタディによると、線量が、被ばくの形態、とくに外部被ばくか内部被ばくかによって大きく異なることがわかる。そして、一般公衆の被ばくに対して特に重視すべき被ばく形態を明らかにするため、この「内規」ではケーススタディの結果をもとに、線量とICRPが勧告している一般公衆の線量限度とを対比した表を示している。
表3に外部被ばくについて、
表4に内部被ばくについてBWRとBWRにおける一般公衆の線量限度と被ばく経路による線量を示す。
表5にはBWRとPWRにおける一般公衆の線量限度と線量を示す。これらの表から、原子炉施設周辺の一般公衆の被ばくは、(1)気体廃棄物においては、
放射性希ガスのガンマ線による「外部被ばく」、(2)液体廃棄物においては、海産物を介して摂取したよう素以外の放射性物質による「内部被ばく」、および(3)呼吸、葉藻および牛乳中の放射性よう素の摂取による「内部被ばく」が最も重要な被ばく形態であることがわかる。さらに注目すべきことは、(4)全ての被ばく形態による人体各組織の被ばく線量がICRP勧告の線量限度にくらべて100分の1以下(実際にはほぼ1,000分の1以下)であるという結果が得られているという事実である。
4.線量の基準
(1)わが国の法令によって決められた一般公衆の線量の基準は、ICRPの勧告に基づき、原子炉施設については、周辺監視区域外の人の線量限度として1年間につき
実効線量について1mSv、皮膚および眼の
水晶体の等価線量について、それぞれ50mSvおよび15mSvと定めている。
(2)空気中(呼吸)または水中(飲用)の放射性物質の許容濃度が
核種ごとに定められ、それぞれの核種に起因する線量の計算方法が与えられている。
(3)とくに注目すべきことは、わが国では行法令によって決められた線量の基準のほか、「発電用軽水型原子炉施設」については、原子力安全委員会が定めた「発電用軽水型原子炉施設周辺の
線量目標値に関する指針について」(以下「線量目標指針」という)と「同線量目標値に対する評価指針について」(以下「線量評価指針」という)の2つの指針があることである。「線量目標指針」で示された線量目標値は、施設周辺での公衆の線量を「合理的に達成可能な限りできる限り低く(as low as reasonably achievable)」保つための設計および運転管理に当っての努力目標を示したもので、実効線量で年間50μSvである。ただし線量の評価においては、気体廃棄物については放射性希ガスからのガンマ線による外部被ばくと、放射性よう素の体内摂取による内部被ばくを、液体廃棄物中の放射性物質については、海産物を摂取することによる内部被ばくを評価するものとする。(注:ICRP勧告では1mSv)なお、この線量目標値は、周辺監視区域外における線量限度に代わるものでない。また発電用軽水炉施設についてのものであり、他の
原子力施設の場合には、別途必要に応じて設定されるべきものである。
(4)原子力安全委員会設定の「線量目標値」と対比しても、ケーススタディで得られた被ばく推算結果が十分満足しうる範囲にはいっていることがわかる。
(前回更新1995年3月)
<図/表>
<関連タイトル>
放射線事故時の線量評価におけるバイオドジメトリーの適用例 (09-02-03-08)
ICRP勧告(1990年)による個人の線量限度の考え (09-04-01-08)
施設からの放射性物質放出による公衆の被ばく経路と評価法 (09-04-04-01)
<参考文献>
(1)内閣府原子力安全委員会事務局(監修):原子力安全委員会指針集、改訂11版、株式会社大成出版社(2003)
(2)日本アイソトープ協会:2002年度版 アイソトープ法令集、ICRP Publ.60