<本文>
核燃料物質または核燃料物質によって汚染された物(核燃料物質等)は、
図1に示すように
核燃料サイクルの大きな流れに従って輸送されている。
核燃料物質の船舶運送の代表的な例として六フッ化ウランと使用済燃料の輸送がある。これらの輸送は、多くの場合、いずれも陸上輸送と海上輸送とが一貫して行われている。
1.
安全規制の概要
核燃料物質等の輸送については、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)で国際基準となる「放射性物質安全輸送規則」(IAEA輸送規則)が定められている。そのため、各国は、このIAEA輸送規則(2005年版)に従って安全規制を実施している。
わが国においても、このIAEA輸送規則(2005年版)に準じて輸送の安全規制が行われており、
図2の「工場又は事業所の外」に示すとおり、陸上、船舶および航空の輸送規制区分ごとに、経済産業省、文部科学省、国土交通省および都道府県公安委員会により実施されている。
このうち核燃料物質等の海上輸送に係る安全規制は、「船舶安全法(昭和8年3月15日法律第11号)」に基づき国土交通省および海上保安庁が実施している。特に、陸上輸送と海上輸送が一貫して実施される場合、
核原料物質、核燃料物質および
原子炉の規制に関する法律(「
原子炉等規制法」と略す)に基づき主務大臣の確認を受けた時には、「船舶安全法」に基づく国土交通大臣の確認も受けたものとみなされることになっている。
2.輸送物の安全基準
核燃料輸送物は、収納する放射能の総量により「L型輸送物」、「A型輸送物」および「B型輸送物」に区分され、また、これらの区分の他に、
放射能濃度が低いものや表面のみが汚染されたものの「IP型輸送物」の4つに区分される。ここで、「核燃料輸送物」とは、核燃料物質等が容器に収納されているものをいう(「事業所外運搬規則」第1条)。さらに、核燃料物質のうちでもウラン235、
プルトニウム239およびこれらの化合物等の核分裂性物質は、ある条件を満たすと
臨界になる性質をもっているため、上記の区分とは別に「核分裂性輸送物」として分類されている。これらの核燃料物質を輸送する場合には、いずれも区分ごとに定められた技術基準を満足することが必要である。核燃料輸送物の基準を
表1-1、
表1-2に示す。この表の中で「一般の試験条件」とは、通常の取扱いで生じうる状況を想定した試験条件であり、「特別の試験条件」とは、万一、思いがけない事故に遭遇した場合を想定した試験条件である。この技術基準を満足しているかどうかの試験条件を
表2に、試験条件の概念を
図3に示す。
3.輸送船の安全基準
「船舶安全法」および「危険物船舶運送および貯蔵規則」などを満たし、IAEA輸送規則の船舶輸送に関する追加要件を満足していれば、原則として核燃料物質の海上輸送は可能である。
使用済燃料の運搬に関しては、昭和49年の舶査第610号(船舶検査に関する運輸省船舶局長通達)によって輸送船の設計基準が定められていたが、
国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)が、わが国の基準を参考にして、使用済燃料、プルトニウム(MOX燃料を含む)および
高レベル放射性廃棄物(以下「照射済核燃料等」という)を運搬する輸送船の構造および設備等について「照射済核燃料等の国際海上安全輸送規則(INFコード)」を1993年4月に制定した。わが国ではこのINFコードの制定を受けてこれを採り入れ、これまでの基準を統合した新基準を平成7年の海査第520号(運輸省通達:照射済核燃料等運搬船構造及び設備に関する特別基準)で制定している。
新基準では、運搬する照射済核燃料等の総放射能量が4,000TBq未満を「A種船」、4,000TBq以上を「B種船」と区別し、輸送船の構造及び設備等の設計基準を定めている。
使用済燃料の運搬は、一般に専用船で実施している。この専用船は、運輸省が定めた耐衝突耐座礁構造、二重船殻構造等を採用しており、極めて安全性の高いものである。さらに、
輸送容器の移動、転倒を防ぐ固縛装置や、船倉の遮へい設備、冷却設備、放射線監視設備、消火設備、
非常用電源、高性能通信設備等を設けており、その安全性は運輸省および海上保安庁の承認を受けたものである。
このほか、核燃料物質の海上輸送に際しては、陸上での車両運搬と同様に
核物質防護のための必要な措置を講じておく必要がある。
4.輸送物の概要
核燃料物質等の海上輸送に当たっては、輸送容器は陸上輸送の許可を受けた容器が用いられる(「核燃料物質の車両運搬」参照)。しかし、輸送船には上記のように非常に厳しい設計基準が課せられるため、専用船で実施されている。
わが国で承認を受けた使用済燃料輸送の専用船の代表例を
図4に示す。これらの他、パシフィック・スワン号、パシフィック・クレーン号、パシフィック・ティール号、パシフィック・サンドパイパー号、パシフィック・ピンテール号など外国の専用船も使われている。
運搬に当たっては、輸送物について、発送前検査、積付検査、積卸検査、受入検査等を実施し、安全確保に配慮がなされている。
<図/表>
<関連タイトル>
核燃料物質の車両運搬 (11-02-06-13)
核燃料物質の輸送に関する技術上の基準 (11-03-05-01)
核物質の車両運搬時の防護措置 (13-05-03-07)
核物質の船舶運送 (13-05-03-08)
国際海事機関(IMO)の活動 (13-01-01-16)
<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成18年版、佐伯印刷(2007年)
(2)麻岡秀行:高レベル放射性廃棄物輸送物の安全性について、原子力工業、41巻第10号、日刊工業新聞社(1995年10月)p.24−30
(3)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課核燃料物質輸送対策室(監修):パンフレット「核燃料サイクルと輸送−安全輸送をめざして−」、(財)原子力安全技術センター(1999年1月)
(4)科学技術庁原子力安全局核燃料規制課(監修):パンフレット「核燃料輸送の安全性−使用済燃料輸送容器信頼性実証試験−」、(財)電力中央研究所
(5)(財)電力中央研究所バックエンド研究会(編):核燃料輸送工学、日刊工業新聞社(1998年3月)
(6)Regulation for Safe Transport of Radioactive Material,2007 Edition,IAEA Safety Standards Series No.TS−R−1,2005
(7)(社)日本電気協会新聞部(編集発行):原子力ポケットブック2007年版(2007年9月)