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<概要>
 使用者等が、核物質の防護措置を講ずる必要がある「防護対象特定核燃料物質」を工場等の外で運搬する場合は、主務大臣および国土交通大臣(輸送方法について)から当該運搬物が技術上の基準に適合していることの確認を受け、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受けなければならない。また、この「防護対象特定核燃料物質」が使用者等の工場等から外国の工場等に運搬され、または外国の工場等から使用者等の工場に運搬される場合は、運搬責任の移転時期等を発送人、運搬人および荷受人の間で取決め、当該取決めについて文部科学大臣の確認を受けなければならない。また、必要な防護措置を講じなければならない。
 特定核燃料物質を車両により運搬する場合は、積載方法等および線量当量率等の法令を順守するとともに、運搬中の火災等による放射線傷害の防止並びに核物質の防護に遺漏なきを期さなければならない。
<更新年月>
2006年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.工場等の外における特定核燃料物質の車両運搬の概要
 使用者(研究開発のための核燃料物質使用者)、製練事業者、加工事業者、原子炉設置者、外国原子力船運航者、再処理事業者および廃棄事業者並びにこれらの者から運搬を委託された者(以下「使用者等」という)および保管者が、特定核燃料物質であって核物質の防護措置を講ずる必要がある「防護対象特定核燃料物質」を工場または事業所(以下「工場等」という)の外で鉄道、軌道、無軌条電車の車両、索道の搬器、自動車および軽車両(以下「車両」という)により、運搬する場合は、主務大臣(核燃料物質の使用者および試験研究の用に供する原子炉設置者に係わるものは文部科学大臣または原子力安全基盤機構、製錬、加工、使用済燃料の貯蔵、再処理、廃棄事業者および発電の用に供する原子炉設置者に係わるものは経済産業大臣または原子力安全基盤機構、外国原子力船運航者および船舶に設置する原子炉に係わるものは国土交通省)および国土交通大臣(輸送方法について)から核物質の運搬に係る技術上の基準に適合していることの確認を受け、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受けることを義務付けられている。また、特定核燃料物質が使用者等の工場等から外国の工場等に運搬されまたは外国の工場等から使用者等の工場等に運搬される場合は、運搬の全行程を通じ発送人、運搬人および受取人の間で運搬責任の移転時期および場所等に関する取決めを締結し、文部科学大臣の確認を受けることが義務付けられている。原子炉等規正法にもとずき2004年に行われた核燃料物質の運搬に係わる責任の移転等に関する確認実績は176件であった。
 車両による核燃料物質の陸上輸送を図1、核燃料物質の輸送に係わる安全規制の流れを図2輸送容器の安全性を図3に示す。
2.特定核燃料物質の車両運搬の取扱い(要旨)
 特定核燃料物質を車両により、運搬する場合の取扱いについては、核燃料物質等車両運搬規則(昭和53年国土交通省令第72号)に、次のように定められている。(要旨)
(1)収納容器の構造と施錠等
 特定核燃料物質を収納する容器は、施錠および封印をしなければならない。ただし、容易に開封されない構造の容器を用いる等施錠および封印と同等以上の措置を講じた場合は、この限りではない。
(2)核燃料輸送物等の積込みおよび取卸し等
 核燃料輸送物等(核燃料輸送物、核燃料輸送物が収容されもしくは包装されているオーバーパック又は核燃料輸送物を収納したコンテナをいう)の積込みおよび取卸しをする場合は、安全な場所の確保と立入り制限措置、駐車時の見張人の配置、車両への同乗制限、交替運転手の確保、車両の標識等の措置を講ずること。
(3)核燃料輸送物の積載方法等
 積載方法および積載限度、運搬中の移動、転倒、転落等による安全性の損なわれることや臨界の防止、混載の制限等を順守すること。表面からの平均熱放出率が15ワット/平方メートルを超える核燃料輸送物の混載には、熱除去装置の設置等火薬類および高圧ガス等の運搬以上の安全性の確保が求められている。
(4)線量当量率等
 コンテナまたは包装されているオーバーパック(注)の表面の線量当量率の最大値は、2ミリシーベルト毎時、表面から1メートルの位置で100マイクロシーベルト毎時を超えないこと。L型、A型、BM型、BU型、IP-1型、IP-2型、IP-3型の核燃料輸送物および特定核燃料輸送物の運搬に係る措置等を順守すること。
 (注)2以上の核燃料輸送物が非開放型の構造を有する箱または袋に収納または包装されている物をいう。
(5)携行書類
 核燃料輸送物の種類、量および取扱方法、運搬経路、運搬または駐車中の見張り(道路輸送の場合に限る)および連絡通報に関する事項を記載した書類を運搬責任者が携行すること。
3.工場等の外における車両運搬に係る危険時の措置(概要)
 使用者等が工場等の外において核燃料物質の運搬中に、地震、火災およびその他の災害に起因して、核燃料物質等による災害が発生するおそれがある時または発生した場合の措置について「核燃料物質等の事業所外運搬に係る危険時における措置に関する規則」(昭和53年国土交通省令第68号)は、次のように定めている。
(1)核燃料物質に火災が発生した場合の措置
 核燃料物質に火災が発生し、または核燃料物質に延焼するおそれのある場合には、消火、延焼の防止等の活動を行うとともに、消防署に通報すること。
(2)核燃料物質等の安全確保の措置
 核燃料物質等を必要に応じて他の安全な場所へ移動させ、なわ張り、標識等を設置するとともに、見張人を配置すること。
(3)放射線傷害の発生の防止および放射線傷害の発生時の措置
 放射線傷害の発生が予想される場合には、必要に応じ周辺住民等に避難の警告を行うこと。また核燃料物質等による汚染が発生した時は、汚染の拡大を防止するとともに、汚染の除去、放射線傷害者の救出等を行うこと。
4.運搬中の「防護対象特定核燃料物質」の防護措置(概要)
(1)自動車により運搬する場合の防護措置
  1)他の運搬手段と一貫して輸送する場合は、特別の場合を除き、全体の輸送時間、積替回数および積替え時間が最小になるようにすること。
  2)運搬経路の選定は、特別な事情がある場合を除き、自然災害等による突発的な事態の生ずる可能性が少ない地域を通過するようにすること。また、道路輸送の場合は、あらかじめ緊急時の代替経路を考慮するとともに、輸送中の積替えは、行わないこと。
  3)定期的に反復継続する輸送は、避けるよう務めること。
  4)運搬する車両および伴走車両相互間の連絡通報のための通信設備を設けること。
  5)運搬統括責任者(運搬に関し総括責任を負う者)が電話等により、運搬責任者から運搬状況の連絡を受ける指定連絡場所および連絡の時間間隔並びに運搬経路上の場所を定めること。
  6)治安当局と緊急時の対応体制をあらかじめ定めて置くこと。
  7)運搬責任者および見張人は、運搬開始前に運搬車両を検査するとともに、伴走車両に添乗し、見張人は、運搬車両を連続的に監視すること。
  8)見張人は、運搬車両が駐車または停車した時には、輸送物を連続監視すること。
  9)見張人は、輸送物を他の輸送手段への積替えまたは他の積荷の積替えが行われる時には、輸送物の連続監視または施錠および封印を頻繁に点検すること。
(2)鉄道車両により運搬する場合の防護措置
  1)他の輸送手段と一貫して輸送する場合は、特別の場合を除き、全体の輸送時間、積替え回数および積替え時間が最小になるようにすること。
  2)運搬統括責任者が電話等により、運搬責任者から輸送状況の連絡を受ける予定連絡停車駅を定めること。
  3)治安当局と緊急時の対応体制をあらかじめ定めておくこと。
  4)運搬責任者および見張人は、運搬開始前に運搬車両を検査するとともに、輸送物を積載した車両の直前若しくは直後の車両に添乗し、見張人は、運搬車両を連続的に監視すること。
  5)見張人は、運搬中の車両が停車した時には、輸送物の施錠および封印を点検すること。
  6)見張人は、輸送物を他の輸送手段への積替えまたは他の積荷の積替えが行われる時には、輸送物の連続監視または施錠および封印を点検すること。
<図/表>
図1 核燃料物質の輸送風景
図1  核燃料物質の輸送風景
図2 核燃料物質の輸送に係わる安全規制の流れ
図2  核燃料物質の輸送に係わる安全規制の流れ
図3 輸送容器の安全性
図3  輸送容器の安全性

<関連タイトル>
核物質防護とは(世界と日本の現状) (13-05-03-01)
核物質の船舶運送 (13-05-03-08)
核物質の航空機輸送 (13-05-03-09)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局(監):核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号)、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.27-161
(2)科学技術庁原子力安全局(監):核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令(昭和32年政令第324号)、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.162-204
(3)科学技術庁原子力安全局(監):核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則(昭和53年総理府令第57号)、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.1096-1121
(4)科学技術庁原子力安全局(監):核燃料物質等車両運搬規則(昭和53年運輸省令第72号)、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.1151-1163
(5)科学技術庁原子力安全局(監):核燃料物質等の事業所外運搬に係る危険時における措置に関する規則(昭和53年運輸省令第68号)、原子力規制関係法令集2000年版、大成出版社(2000年6月)、p.1175-1176
(6)核燃料物質等車両運搬規則関係取扱要領(平成元年2月27日運輸省鉄道監督局長運輸省自動車局長 依命通達)
(7)(財)核物質管理センター:やさしい核物質管理読本、原子力の平和利用のために、2001年版(2001年9月)、p.42-59
(8)電気事業連合:原子力・エネルギー図面集、第7章「原子燃料サイクル」(2004-2005)
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