<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 核燃料物質使用者等の原子力事業者が、核燃料物質等を工場又は事業所の外、若しくは工場又は事業所内(原子力船を含む)で運搬する場合は、運搬容器その他の条件が主務省令で定める技術上の基準に適合しなければならない。核燃料物質等を工場又は事業所の外において運搬する場合で、核燃料物質が「特定核燃料物質」である場合は、保安及び特定核燃料物質の防護のため及び災害を防止するため、技術上の基準に適合することについて主務大臣の確認を受けなければならない。運搬の確認を受けた使用者等は、都道府県公安委員会に運搬日時、運搬経路等を届け出て運搬証明書の交付を受けなければならない。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.核燃料物質等を工場又は事業所の外で運搬する場合の技術上の基準
 使用者(研究開発のための核燃料物質使用者)、製錬事業者、加工事業者、原子炉設置者、外国原子力船運航者、再処理事業者及び廃棄事業者並びにこれらの者から運搬を委託された者(以下「使用者等」)が、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物(以下「核燃料物質等」)を工場等の外で運搬する場合は、主務省令で定める技術上の基準(以下「技術基準」)に従って保安のために必要な措置を講じなければならない。この場合、運搬する核燃料物質に「特定核燃料物質」を含む場合は、保安及び特定核燃料物質の防護のために必要な措置を講じなければならない。 なお、「特定核燃料物質」は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法と略称)」で定義され、プルトニウム(プルトニウム238の同位体濃度が80%を超えるものを除く)、ウラン233、ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率を超えるウランその他の政令で定める核燃料物質を指している。特定核燃料物質については、「特定核燃料物質の運搬の取決めに関する規則」(最終改正:平成20年4月15日文部科学省令第15号)において、その区分と運搬に係る事項が定められている。
(1)核燃料輸送物の区分
 核燃料輸送物とは、核燃料物質等が容器に収納されている物をいう。核燃料物質等は、以下の区分に応じた運搬容器に収納し、核燃料輸送物として運搬しなければならない。
(a)主務大臣(以下「大臣」)が定める危険性が極めて少ない核燃料物質等輸送物を「L型輸送物」(例:機械等に装填されている天然ウラン、劣化ウラン及びトリウム)とする。
(b)大臣が定める量を超えない量の放射能を有する核燃料物質等輸送物を「A型輸送物」(例:発電用新燃料)とする。
(c)大臣が定める量を超える量の放射能を有する核燃料物質等輸送物を「B型輸送物」とする。このうち、国際輸送にあたって、設計国、通過国、使用国などの許可を必要とするものを「BM型輸送物」(例:使用済燃料)、設計国の許可をとれば、通過国、使用国は国際的に自動承認することとなっているものを「BU型輸送物」(例:プルトニウム新燃料)と呼び、BU型輸送物ではより厳しい技術基準を満たすことが求められている。
(d)臨界安全性の確保が必要な輸送物は「核分裂性輸送物」として区分する。
(e)天然ウラン等の国際間輸送や将来の低レベル放射性廃棄物の輸送を考慮し、比放射能の極めて低いもの又は表面が汚染した物質を収納したものを「IP型輸送物」と区分し、その比放射能及び汚染の少ない順に「IP−1型輸送物」、「IP−2型輸送物」及び「IP−3型輸送物」に分けられている。
 以上の各区分の輸送物についてそれぞれ技術基準が定められているが、特に、収納される放射能量が多いB型輸送物及び臨界安全性の確保が必要な核分裂性輸送物については、国際原子力機関(IAEA)輸送規則に基づき、過酷な事故を想定した落下試験、耐火試験、浸漬試験等の特別の試験条件が課されている。
(2)核燃料輸送物の核的安全性の観点からの技術基準
 ウラン233、ウラン235、プルトニウム239、プルトニウム241及びこれらの化合物並びにこれらの1又は2以上を含む核分裂性物質を核燃料輸送物として輸送する場合は、輸送中に臨界に達しないようにすることとしている。さらに、大臣の定める核分裂性輸送物の一般の試験条件の下において10センチメートル立方以上のくぼみが生じないこと、浸水、漏水がないこと、収納される核燃料物質等の形状及び密封装置に中性子増倍率を増加させるような変化、放射性物質の漏洩がなく、大臣の定める配列条件で輸送制限個数の5倍でも臨界に達しないこと、また、大臣の定める特別の試験条件下で輸送制限個数の2倍でも臨界に達しないこととしている。
 さらに、核燃料物質等を収納する容器は、温度及び内圧の変化、振動等によりき裂、破損しない強固な構造、核燃料輸送物の表面及び表面から1メートルの距離で文部科学大臣の定める線量率を超えないようにすること、核燃料輸送物の運搬機器への積付けに際しては、移動、転倒、転落を防止できるようにすること、他の危険物との混載禁止、核燃料輸送物及び車両に対する標識の取付け、見張人の配置、運搬経路への他の車両の立入制限、運搬車輌の徐行、保安のための伴送車の随走、核燃料物質の取扱いに相当の知識、経験のある者による指揮監督などが義務づけられている。
2.核燃料物質の工場又は事業所内(原子力船を含む)運搬における技術基準
 核燃料物質を工場又は事業所内で運搬する場合は、主務省令で定める技術基準に従って、保安のために必要な次の措置を講じなければならない。
(a)核燃料物質がいかなる場合にも臨界に達しないようにすること。
(b)核燃料物質によって汚染された物の放射性濃度が大臣の定める濃度を超えないものは、直方体の各辺が10センチメートル以上で、温度、振動に耐える強固な容器に封入すること。
(c)運搬物の表面及び表面から1メートルの距離で大臣の定める線量率を超えないようにすること。
(d)運搬物を運搬機器へ積付けする際は、運搬中において移動転倒、転落を防止すること。また他の危険物と混載しないこと。
(e)運搬経路への、標識設置、見張人の配置によって、運送経路への他の車両の立入を制限し、運搬車輌は徐行させ、運搬工程が長い場合伴送車に随送させる。また、核燃料物質等の取扱いに相当の知識、経験のある者に指揮監督をさせること。
(f)運搬物及び車両に大臣の定める標識を取り付けること。
(g)管理区域内の運搬には、上記(a)、(d)以外を適用しない。
3.特定核燃料物質の運搬に関する手続き
(1)確認申請と確認書の交付
 使用者等は、運搬する核燃料物質に特定核燃料物質を含む場合は、運搬の技術上の基準に適合することについて、内閣総理大臣又は国土交通大臣の確認と確認書の交付を受けなければならない。
 この運搬の確認申請及び確認書の交付を受けるためには、特定核燃料物質を収納する容器(輸送容器)に関する防護の措置の説明書に、次の書類を添えなければならない。
(a)運搬する特定核燃料物質等に関する説明書
(b)既に承認された輸送容器以外の輸送容器を使用する場合は、構造、材質及び製作方法、特定核燃料物質を収納した輸送物の安全性に関する説明書及び輸送容器が設計基準に従って製作及び維持されていることの説明書
(2)届出と運搬証明書の交付
 特定核燃料物質の運搬の届けは、運搬経路の区域を管轄する都道府県公安委員会に運搬開始の日の1週間前に届け出て運搬証明書の交付を受けなければならない。この場合、運搬経路が2以上の公安委員会の管轄区域にわたるときは、運搬開始の日の2週間前に発送地の公安委員会に届け出なければならない。
(前回更新:2003年9月)
<関連タイトル>
核物質防護とは(世界と日本の現状) (13-05-03-01)
移転に伴う核物質管理責任の引継ぎ (13-05-03-06)
核物質の車両運搬時の防護措置 (13-05-03-07)
核物質の船舶運送 (13-05-03-08)
核物質の航空機輸送 (13-05-03-09)

<参考文献>
(1)原子力規制関係法令研究会(編):原子力規制関係法令集(2008年)、大成出版社、(2008年9月)
(2)電子政府総合窓口・法令データ提供システム:核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
(3)電子政府総合窓口・法令データ提供システム:特定核燃料物質の運搬の取決めに関する規則
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ