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<概要>
 一般人の管理基準の設定に当たっての基本的な考え方が国際放射線防護委員会の勧告などで示されている。その内容は、時の経過とともに時代背景を反映して変化してきた。最近では、放射線リスクの関係がかなり明確になったことから、一般人が生活する上で受け入れている放射線以外のリスクレベルを参考に、自然放射線レベルの変動を考慮して管理基準を設定しようとする考え方が有力となっている。
 日本の原子力発電施設では、昭和50年からALAP(現在はALARA)の考え方を取り入れて、法令の管理基準よりはるかに低い線量レベルに線量目標値放出管理目標値を定め、管理基準に準じた取扱いで管理している。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている線量目標値や線量限度については、福島第一原発事故における技術的知見を踏まえ、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。
<更新年月>
2007年06月   

<本文>
1.一般人に対する管理基準とその考え方の推移
 1895年にX線、1898年にラジウムが発見されて以来、人々は、医療、産業および研究などに放射線や放射性物質を積極的に利用してきたが、最初の4〜50年の間は、これらの利用がごく限られた場所で行われたため、一般の人々が放射線被ばくするということはほとんど問題にされなかった。しかしながら、1942年にシカゴ大学で初めて原子炉がつくられて以来、核開発の急速な展開とともに、放射性の気体廃棄物や液体廃棄物が大気中や河川、湖水といった水圏中にも放出され始めたため、多数の一般人の放射線被ばくの危険性が現実のものとなってきた。このため、米国放射線防護委員会(NCRP)は、公衆の個々の構成員に対して、超えてはならない放射線被ばくの上限値(線量限度または管理基準)を定めることの必要性を議論し、1948年に、「一般公衆の被ばく線量は、従事者の許容被ばく線量の10分の1以下にすべきである。」と勧告したことが一般人に対する管理基準の始まりである。ついで、国際放射線防護委員会(ICRP)が1954年勧告でNCRPの勧告をそのまま採用している。さらに、NCRPが1957年に、ICRPが1958年に、「一般公衆には小児が含まれるので、年間0.5レム(現単位:5ミリシーベルト)を適用すべきである。」と勧告した。以来、ICRPは、新たな基本勧告を出すたびに、一般人の線量限度の設定に関する考え方を模索してきた。その考え方の変遷をたどると、1962年改訂勧告では、「集団全般の中には、生殖腺および造血臓器に対し、さらに低い線量を適用すべきであると考えられる小児が含まれるので、集団の個人に対する線量限度は、生殖腺および造血臓器に対して年0.5レム(現単位:5ミリシーベルト)とする。」とした。
 その後、1965年の基本勧告において、(1)公衆の構成員の中には放射線による危険性(リスク)の大きい子供が含まれている。(2)公衆は被ばくするかしないかに関して選択の自由がなく、さらに、被ばくによって直接的利益を受けない、(3)公衆は放射線以外の自分の職業からの危険にもさらされているという理由から、公衆の線量限度を従事者の10分の1に決めることが適切であるとした。
 さらに、1977年基本勧告では、「放射線の危険性は、公衆がさらされているあらゆる環境の危険要因のうちのほんの一部にすぎない。したがって、一般公衆が日常生活で放射線以外の危険性をどのように容認しているかに照らして、公衆に容認されうる線量限度を考察することが合理的である。」としており、その容認されうる危険性とは、職業上の危険性の10分の1より小さいとしている。その結果、一般公衆の容認する危険性とは、一生涯を通じて年あたり1ミリシーベルトの全身被ばくに相当するとしている。また、公衆に被ばくをもたらすような行為は数が限られており、最も多く被ばくする人々の被ばくを5ミリシーベルトにおさえれば、公衆の平均被ばく線量は年0.5ミリシーベルトを超えそうもないので、「前の勧告に引き続き、年5ミリシーベルトの線量限度を公衆の個人に適用する。」としたが、1985年のICRPのパリ会議において、「公衆の構成員の主たる線量限度は年1ミリシーベルトとする。ただし、生涯の平均が年1ミリシーベルトを超えることがなければ、年5ミリシーベルトという補助的限度を数年の間使用してもよい。」という声明を出した。
 1990年の基本勧告では、公衆被ばくの線量限度の選択には、(1)放射線による危険性が公衆にとって容認されるレベルを選択すること、および(2)自然放射線源からの被ばく線量の変動、例えば、居住する場所による変動などで公衆がすでに容認しているレベルを選択する方法があるとしている。前者については、正確な判断は困難であるけれども、おおよそ1ミリシーベルトをあまり超えない年線量限度の値を示唆するものであるとした。後者については、変動の多いラドンによる被ばくを除いたとしても、自然放射線による平均的な年線量は約1ミリシーベルトであり、海抜の高い地域では少なくともその2倍の線量はある。したがって、これらのことを総合的に判断して、公衆の年線量限度として1ミリシーベルトを勧告するとしている。さらに、5年間の平均が年1ミリシーベルトを超えなければ、単一年にはこれより高い線量が許されるとしている。
2.日本における法令上の管理基準
 放射線障害防止法および原子炉等規制法における放射線被ばくに関する管理基準は、昭和32年の法制定以来ICRP勧告を適時取り入れてきている。一般人に対する平常時の管理基準として、放射線障害防止法では、「工場又は事業所の境界における放射線の線量に係る許容線量は、1週間につき10ミリレム(現単位:0.1ミリシーベルト)とする。」と規定しており、この線量は年0.5レム(現単位:5ミリシーベルト)に相当する。また、原子炉等規制法では、「周辺監視区域外の許容被ばく線量は、1年間につき0.5レム(現単位:5ミリシーベルト)とする。」と定めていた。その後、1977年ICRP勧告およびパリ会議の声明を国内法令に取り入れるための大幅な改正が昭和63年に実施され、両法令とも、事業所等の境界の外又は周辺監視区域外の線量当量限度(現:線量限度)は、実効線量当量(現:実効線量)で1年間につき1ミリシーベルトとすると規定した。ただし、国内法令ではICRPのいう補助的限度は採用していない。
 国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告に基づき、2000年10月に「放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」が改正され2001年4月から施行された。更に、国際基本安全基準(BSS)を受け入れ、2004年6月に放射性同位元素の放射能の定義数量が導入され、核種に対する下限数量が決められた。これらの改正で、放射線業務従事者の被ばくに伴う実効線量および等価線量は表1のように決められた。
3.日本における発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値と放出管理目標値
 平常時に原子力施設が一般人に与える放射線被ばくの源は、主に気体廃棄物と液体廃棄物である。このため原子力安全委員会は、放射線被ばくは、線量限度を超すことのないようにすることは勿論、容易に達成できる限り低く保つことが望ましいとする基本的考え方(ALAP:as low as practicable)に立って、発電用軽水炉施設からの通常運転時における環境への放射性物質の放出量の低減について、昭和50年(平成元年一部改訂(現在はALARA:as low as reasonably achievable))に「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」を制定した。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 この指針によると、「発電用軽水炉施設の通常運転時における環境への放射性物質の放出に伴う周辺公衆の受ける線量当量(現:線量)を低く保つための努力目標として、施設周辺の公衆の受ける線量当量(現:線量)についての目標値(線量目標値)を実効線量当量(現:実効線量)で年間0.05ミリシーベルトとする。」としており、この線量目標値の適用方法として次の2つを掲げている。
(1)発電用軽水炉施設の設計に当たっては、施設周辺の線量当量(現:線量)の評価結果が線量目標値を達成するように努めること。
(2)発電用軽水炉施設の通常運転時には、線量目標値に相当する放射性物質の放出量以下となる放出管理の目標値(管理目標値)を定め、この放出管理目標値をこえることのないように努めること。
 平成3年度の各発電用軽水炉施設からの放射性物質の放出実績では、これら放出管理目標値を超えた施設はなく、その数分の1から、多くの施設ではその数千分の1以下となっている。
<図/表>
表1 放射線業務従事者の線量限度および等価線量限度
表1  放射線業務従事者の線量限度および等価線量限度

<関連タイトル>
自然放射線による被ばく (09-01-05-04)
放射線被曝によるリスクとその他のリスクとの比較 (09-04-01-03)
放射線管理基準 (09-04-05-01)
事故時の線量等に関する基準 (10-07-02-04)

<参考文献>
(1)Recommendations of the International Commission on Radiological Protection(Revised December 1,1954),British Journal of Radiology (Supplement NO.6),1955.
(2)国際放射線防護委員会勧告(1958年9月採択):ICRP Publication 1
(3)国際放射線防護委員会勧告(1959年修正、1962年改訂):ICRP Publication 6
(4)国際放射線防護委員会勧告(1965年9月17日採択):ICRP Publication 9
(5)国際放射線防護委員会勧告(1977年1月17日採択):ICRP Publication 26
(6)国際放射線防護委員会勧告(1990年11月採択):ICRP Publication 60
(7)科学技術庁原子力安全調査室監修(1993):原子力安全委員会安全審査指針集、改訂7版
(8)原子力安全委員会編(1992):平成4年度版原子力安全白書
(9)科学技術庁原子力安全局監修(1993):アイソトープ法令集、1993年版
(10)科学技術庁原子力安全局監修(1992):原子炉規制関係法令集、1992年版
(11)(社)日本アイソトープ協会:放射線障害の防止に関する法令 概要と要点・改訂7版(2005年11月)
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