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<概要>
 原子炉等規制法は、「核原料物質核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の略称であり、原子炉だけでなく、核物質全般の取扱いを規制する法律である。最初の制定・公布は1957年であるが、原子力施設における事故の発生や規制体制の改革等を受けて、これまでに30回を超える改正が行われてきた。こうした中で、東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴い福島第一原子力発電所において未曾有の大事故が発生したことを契機に、発電用原子炉等の原子力施設の安全規制強化の一環として原子炉等規制法も大幅に見直された。規制組織としては原子力安全・保安院原子力安全委員会が廃止され、安全規制行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。そこで、新たな原子炉等規制法では、規制行政の責任機関を原子力規制委員会に一元化するとともに、発電用原子炉等に関して、重大事故対策の強化、最新の技術的知見を既存の施設・運用に反映する制度の導入、運転期間の制限等の規定を追加した。改正前の原子炉等規制法の概要はATOMICAデータ「原子炉等規制法(平成24年改正前)(10-07-01-04)」に解説されているので、ここでは未施行の部分も含めて平成24年(2012年)の改正内容についてまとめた。
<更新年月>
2012年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴い福島第一原子力発電所において未曾有の大事故が発生したことを契機に、原子力利用に係る安全規制体制の抜本的な見直しが行われ、安全規制行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会を設置するとともに、原子炉等規制法(正式には「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」)の大幅な改正が行われた。原子炉等規制法の改正点は原子力規制委員会設置法(以下、設置法という)附則第十五条〜第十八条に、また改正に伴う経過措置は附則第十九条〜第三十条において規定された。改正の目的は、福島第一原子力発電所事故の教訓や国内外からの指摘を踏まえて、重大事故対策の強化、最新の技術的知見を既存の施設・運用に反映する制度の導入、運転期間の制限等の規定を追加し、原子力規制の強化に必要な法制度を整備することにある。
 改正規定の施行日としては、緊急性と施行準備期間とに応じて設置法施行日(2012年9月19日)とするもの(設置法附則第十五条)、2013年4月1日とするもの(設置法附則第十六条等)、設置法施行日から10月以内で政令で定める日とするもの(設置法附則第十七条等)、設置法施行日から1年3月以内で政令で定める日とするもの(設置法附則第十八条等)がある。以下に、改正前の原子炉等規制法(以下、旧炉規法という)と改正後の原子炉等規制法(以下、新炉規法という)とを対比する形で、主要な改正内容(未施行令を含む)を解説する。

1.第一章(総則)
第一条(目的)
(1)旧炉規法における冒頭の「この法律は、(中略)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これらの利用が計画的に行われることを確保する」を、新炉規法では「この法律は、(中略)核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られることを確保する」とした。
(2)旧炉規法の「これらによる災害を防止し」を、新炉規法では「原子力施設において重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常な水準で当該原子力施設を設置する工場又は事業所の外へ放出されることその他の核原料物質、核燃料物質及び原子炉による災害を防止し」とした。
(3)旧炉規法の「製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制を行う」を、新炉規法では「製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関し、大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制を行う」とした。
(4)末尾の「を目的とする。」の前に「もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資すること」を挿入した。
第二条(定義)
 項目5として「この法律において「発電用原子炉」とは、発電の用に供する原子炉であって研究開発段階にあるものとして政令で定める原子炉以外の試験研究の用に供する原子炉及び船舶に設置する原子炉を除くものをいう。」を追加した。また、項目7として「原子力施設」を定義した。旧項目5は項目6に、旧項目7〜11は項目8〜13とした。

2.第二章(製錬の事業に関する規制)及び第三章(加工の事業に関する規制)
 第三条〜第十二条(製錬の事業に関する規制)と第十三条〜第二十二条(加工の事業に関する規制)に関して、以下の改正を行う。
(1)旧炉規法の「経済産業大臣」を「原子力規制委員会」に変更する。また、「経済産業省令」を「原子力規制委員会規則」に変更する。旧炉規法の「原子力安全委員会の意見を聴かなければならない」旨の規定を削除する。(設置法施行日から施行する。)
(2)加工事業の許可を受けるための申請書の記載事項に「核燃料物質が臨界状態(中略)になることその他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項」を追加し、また、許可の基準に「重大事故(中略)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力」があることを追記する。(設置法施行日から1年3月以内で政令で定める日から施行する。)

3.第四章(原子炉の設置、運転等に関する規制)
 旧炉規法の第二十三条から第四十三条の三の四までが原子炉の設置、運転等に関する規制に係る規定であったが、新炉規法では「原子炉」を「試験研究用等原子炉」と「発電用原子炉」に分類し、前者に関する規制を第一節に、また、後者に関する規制を第二節として規定した。
(1)旧炉規法では原子炉の区分に応じて主務大臣は設置の許可、変更の許可及び届出受理を行うこととしていたが、新炉規法では炉の区分によらず原子力規制委員会がこれらを行うこととなった。また、設計及び工事の方法の認可、使用前検査、溶接の方法及び検査、施設定期検査、運転計画等の提出は旧炉規法では「主務省令で定めるところによる」となっていたが、新炉規法では「原子力規制委員会規則で定めるところによる」と改訂された。規制の項目については旧炉規法をそのまま継承している。
(2)第四十三条の三の五以降を第二節とし、発電用原子炉の設置、運転等に関する規制について規定している。規制の項目は、試験研究用等原子炉の場合に比べて増加しており、かつ、規制内容も詳細化し、重大事故対策を義務づけるとともに、重大事故の未然防止に必要な措置の導入も明示している。追加された主要な規制内容を以下に列挙する。なお、これらの規制は特に注記したものを除いて設置法附則第十七条に定められており、設置法施行日から10月以内で政令で定める日から施行される。
a)設置許可の申請に際して、「発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項」を記載しなければならない。
b)許可の基準として、申請者に「重大事故(発電用原子炉の炉心の著しい損傷その他の原子力規制委員会規則で定める重大な事故をいう。中略)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること」及び「発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が(中略)災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会が定める基準に適合するものであること」が記載されている。
c)変更の許可及び届出等においては、発電用原子炉及びその附属設備の位置、構造及び設備等を変更しようとするときには原子力規制委員会の許可を受けなければならないが、災害の防止上支障がないことが明らかな変更のみをしようとするときは、その変更の内容について原子力規制委員会に届け出ることにより、変更を実施することができる。
d)新たな規制項目として「発電用原子炉施設の維持」が設けられ、「発電用原子炉設置者は、発電用原子炉施設を原子力規制委員会で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない」として、既に許可を得た施設に対しても新基準への適合(バックフィット)を義務づけている。
e)発電用原子炉施設の安全性の向上のための評価として、発電用原子炉設置者は発電用原子炉施設における安全性の向上を図るため、原子力規制委員会規則で定める時期ごとに、当該発電用原子炉施設の安全性について、自ら評価すること、及びこの評価を実施したときは、評価の結果、評価に係る調査及び分析並びに評定の方法等を原子力規制委員会に届け出ること、さらに当該届出をした評価の結果等を公表することを義務づけている。(設置法附則第十八条で規定されており、設置法施行日から1年3月以内で政令で定める日から施行される。)
f)許認可審査の重複を避け、許認可の迅速化を図る観点から、型式証明制度を導入し、「格納容器、非常用発電設備その他の発電用原子炉施設に係る機械又は器具のうち原子力規制委員会で定めるもの(特定機器という)の型式の設計について型式証明を行う」とし、こうした特定機器の設置は設置許可の基準(技術上の基準に限る)に適合しているものとみなすことが規定されている。
g)発電用原子炉設置者が発電用原子炉を運転できる期間は、使用前検査に合格した日から起算して40年とする。ただし、この運転期間はその満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けて、1回に限り、20年を超えない期間であって政令で定める期間を限度として延長することができる。延長を希望する発電用原子炉設置者は原子力規制委員会に認可の申請を行い、原子力規制委員会は、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、安全性を確保するための基準として原子力規制委員会で定める基準に適合しているときに限り、認可をすることができる。

4.第四章の二から第六章まで(バックエンド事業等に関する規制)
 燃料サイクル・バックエンド事業等に関する第四章の二(貯蔵の事業に関する規制)、第五章(再処理の事業に関する規制)、第五章の二(廃棄の事業に関する規制)、第五章の三(核燃料物質等の使用等に関する規制)、及び第六章(原子力事業者等に関する規制等)において、以下の改正を行う。
(1)主務大臣(経済産業大臣、文部科学大臣等)を原子力規制委員会に改め、主務省令(経済産業省令、文部科学省令等)を原子力規制委員会規則に改める。(設置法施行日から施行する。)なお、国際規制物資の使用等に関する規制(第六章の二等)に関して、文部科学大臣を原子力規制委員会に、文部科学省令を原子力規制委員会規則に改めることは設置法附則第十六条で規定されており、2013年4月1日から施行される。
(2)再処理事業の許可を受けるための申請書の記載事項に「核燃料物質が臨界状態(中略)になることその他の事故が発生した場合における当該事故に対処するために必要な施設及び体制の整備に関する事項」を追加し、また、許可の基準に「重大事故(中略)の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力」があることを追記する。(設置法施行日から1年3月以内で政令で定める日から施行する。)

5.第七章(雑則)
 第六十四条(危険時の措置)に第二項(特定原子力施設の指定)を新たに設け、地震、火災その他災害が起こった原子力施設に対して応急の措置を講じた後に、さらなる災害を防止するため、または特定核燃料物質(巻末の注を参照)を防護するため特に必要があると認めるときには、原子力規制委員会は当該施設を、保安又は特定核燃料物質の防護につき特別の措置を要する施設(特定原子力施設)として指定することができる。また当該原子力施設に係る原子力事業者に対して、保安又は特定核燃料物質の防護のための措置を実施する計画の提出を求め、その計画に沿った措置を命ずることができる旨の規定が追加された。これは設置法附則第十五条で規定されており、設置法の施行日から施行される。

(注)特定核燃料物質:原子炉等規制法では「プルトニウム(プルトニウム238の同位体濃度が80%を超えるものを除く)、ウラン233、ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率を超えるウラン、その他政令で定める核燃料物質をいう」と定義されている。
<関連タイトル>
原子炉等規制法(平成24年改正前) (10-07-01-04)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)
試験研究用および研究開発段階にある原子炉施設(発電用を除く)の安全規制の概要 (11-02-02-01)
原子力船の法体系 (11-02-02-04)
核燃料施設の安全規制の概要 (11-02-03-02)
放射線障害防止法 (10-07-01-06)
再処理施設の安全規制の概要 (11-02-04-05)

<参考文献>
(1)原子力規制関係法令研究会(編):原子力規制関係法令集 2008年版、大成出版社(2008年)
(2)原子力規制委員会ホームページ:原子力規制委員会について(原子力規制委員会設置法):(http://www.nsr.go.jp/nra/gaiyou/about.html
(3)電子政府(法令)、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年六月十日法律第百六十六号)

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